8.20三銃士 研究所 対面

第8話

ダイヤは、これまで悪トルを照射してきた人たちと、20三銃士の戦いをパソコンで観ていました。悪トルの光線にはモニターに映るカメラ機能が備わっていて、その場に来なくても、様子を伺うことができるわけです。なので、これまでほとんど現場に居合わせていませんでした。

「ダイヤちゃんは、モニターでこれまでの戦いを振り返ることが可能っと」

 りこがメモしました。その分、りこがダイヤのようなアンドロイドをいつか世に知らしめるために、研究をしているわけです。

「ねえ、一つだけ不思議なことがあるんだけどさ」

 ダイヤが聞きました。

「なあに?」

「どうして、鬼サラリーマンとの戦いの時に、三人の力が一つになったような必殺技を出したのかしら?」

 その映像を見せました。

「ほんとだ」

「そもそも、彼女たちはなぜ科学の力もなにも照射されていないのに、剣やら魔法やら忍法やらを使えるの? それがおかしいのよ」

「確かに」

「あたいの悪玉菌エネルギーを木っ端微塵にしてくれる三人娘め! こうなったら、あんたたちにも悪玉菌エネルギーを照射してやるわよ!」

 悪トルを掲げました。

「そしてこれがこうなって……」

 話を聞いていなさそうなりこ。ダイヤはムッとしました。

「あたいの話聞いてんの!?」

 悪トルを床に撃ち込みました。床が燃えました。りこは驚きました。

「ダイヤちゃんなにするの!」

「あんたがあたいの話聞かないからでしょ!」

「聞いてたわよ! どうしてあの三人娘が剣やら魔法やら忍法やらが使えるのか、むしゃくしゃしてたってことをね」

「じゃあなんでさっきから得体の知れない液体をフラスコで入れたり混ぜたりしてるのさ……」

「これは新しいアンドロイドを作ろうと思ってさ」

「え?」

「ダイヤちゃん一人じゃなんだしね。どうせなら、仲間がほしいでしょ? ダイヤちゃんは、人間と等しい能力を持っている。だから、同じような仲間を作ろうかなって」

「それで、どうするの?」

「アンドロイド同士のコミュニティを図るのよ」

「そんなことよりも。まずは三人娘のことでしょ?」

「そうね。確かに、なぜあの子たちがあれほど非科学的な力を出せるのか、気になるわね」

 りこは、手のひらに拳をポンと乗せて、

「いっちょ調べに行きますか!」

 と、言いました。

「おー!」

 ダイヤが拳を上げました。


 研究所を出たのはよかったのですが、肝心の三人娘たちがどこにいるかがわからなくては意味がありません。りことダイヤは、ゆく宛てもなく、新宿まで来ました。

「新宿は、お金持ちの集う街。三人娘は、お金持ちなのよ」

「だから、新宿にいるってこと?」

 ダイヤは呆れていました。

「あ、すいませーん! ここ新宿に、20三銃士と名の付く者たちいませんか?」

 りこは、通りすがりのマダム三人に聞きました。

「まさにあたしたちのことね!」

 マダム三人はポーズをしました。

「赤いバラ、よね子!」

「青いバラちさ子!」

「そして白いバラがとみ子!」

「三人合わせて、マダム三銃士!」

 三人同時にポーズを決めました。

「違うみたいね」

「他を当たりましょ」

 りことダイヤはマダム三銃士を放って、そそくさを立ち去っていきました。

 次に、秋葉原へ来ました。

「三人娘はアニメオタクなのよ! だから、あんな装備なんかしてるんだわ」

「それほんと?」

 ダイヤは呆れていました。

「あ、すいません! この辺に、20三銃士って名の付く人たちいませんかね?」

 りこは、通りすがりのオタク女子三人に聞きました。

「それはあっしたちのことでやんすね?」

 メガネをかけたオタク女子がメガネを光らせる。

「あっしは刀剣オタク!」

「拙者は腐女子!」

「小生はアイドルオタク!」

「三人合わせて、オタク三銃士!」

 三人同時にポーズを決めました。

「これも違うわね」

「ていうか見た目でわかるでしょ? 早く見つけなさいよ」

 そそくさと去っていきました。

 それから板橋区、港区、品川区、多摩区を回りましたが、どこにもいませんでした。

「いないぞ!」

 りこは、東京駅の構内で叫びました。

「東京駅来たんだし、東京ばな奈買って、山手線一周して帰りましょ?」

 ダイヤが言いました。すると、りこは呆然としました。

「どうしたの?」

「いたわよ……」

 遠くを指さしました。東京駅を歩いている、20三銃士を見つけました。

「いたわ三銃士め! 覚悟!」

 ダイヤがかけ出そうとして、りこに止められました。

「なにすんのよ!」

「待って! いきなり声をかけたら、私たちがこれまで悪事の発端だったとバレてしまうわ。だから、変装するわよ?」

「変装?」

 呆れました。


 まき、みき、ゆきの三人娘は、なぜ東京駅なんて歩いているのでしょうか。

「あたし、一度東京駅の東京ばな奈を食べてみたかったんです!」

 ゆきが目をキラキラさせていました。

「だからって、わざわざ東京駅に来ることはないでしょうに……」

 みきが呆れました。

「ま、まあでも。本場の味を楽しみたい気持ちもわからなくはないかもね……」

 まきが苦笑い。三人は、ゆきが東京駅にある東京ばな奈を食べてみたいという願望のために、東京駅に来たのでした。

「しかし、東京駅って広いところですね。初めて来た時、迷路かと思いましたよ」

「確かに。大宮駅よりも広いよね」

 と、まき。

「これだから都民じゃないお方は。わたくしにとって、東京駅は庭のようなものですわ!」

 胸を張るみき。

「え、じゃあ東京ばな奈が売ってるところはどこにあるんですか?」

 ゆきが聞きました。みきはドキッとしました。

「えっと……」

「庭のようなものなんでしょ? だったら、秒で答えられるよね?」

 まきが焦らす。みきはしどろもどろして、答えました。

「えんぴつを立てて、倒れた方向に……」

 地面にえんぴつを立てる。

「いや、占わなくてもわかるでしょ?」

「どーこーにしーよーうかーな? てーんーのかーみーさーまーのいーうとーおーり!」

「柿の種しなくてもわかるでしょ?」

「こっちだ!」

「決断力で決めなくても!」

 ムッとするまき。

「もしかして、わからないんじゃ……」

 察するゆきに、

「と、東京ばな奈なんてその辺のコンビニに売ってるでしょ! 自分で見てご覧なさいよ!」

 怒りました。

「ついに投げやりになった!」

 まきがツッコむ。

「ああ! あそこからモデルのスカウトみたいな人たちが、わたくしたちの元へ向かってきてますわよ?」

「はあ?」

 みきが指さすほうへ顔を向けると、確かに、白色のスーツを着た金髪のおかっぱに、黒のスーツに白髪のロングヘアの女二人がやってきていました。その風変わりな二人は、みきの言うとおり、彼女たちの前にやってきたのです。

「ハローこんにちはお三方! あたくしこういうものデース!」

 金髪のおかっぱが名刺を渡してきました。

「スゴ技モデル事務所、りこ? なんですかそれ?」

 まきが聞きました。

「アナタたち、近頃不可解な事件が起きていることご存知デスね? つまりハ、さまざまなところデ、さまざまな人たちガ姿を変ぼうし、大暴れしたりするみたいな事件……」

 首を傾げる三人娘。りこは、大っぴらにSNSを拡散したイアのことや、おやじっぽくなったマドンナのありさ、歌舞伎モンスターになったせいじのことを走馬灯のように表しました。

「え、知ってるんですか? あ、あれあまり、公になってないと思ってたんですけど……」

「ノーノー! モンスターと化した人たちの被害に遭われた方たちの投稿したSNSを通して知ることができマシタ! アタクシはスゴ技モデルを探すために、日々SNSのチェックも欠かせないのデース!」

「その、スゴ技モデルってなんなんですの?なぜ、わたくしたちですの?」

 りこは答えました。

「あなたたち、剣を使ったり魔法を使ったり、忍術を使ったりできるデショ?」

 三人はギクッとしました。

「スゴ技モデルは、スゴ技と美しさ、かわいさを披露すること。だから、あなたたちはまさに匹敵するのデス! わかったら早く事務所へ向かいましょう?」

「ちょちょ、ちょっと待ってよ!」

 と、まき。

「いきなりモデルになれなんて言われてもね、僕たちは大学生なんだよ? それに、僕たちがその剣やら魔法やら忍術やらできる人たちとは限らないじゃないか!」

「あれ、見せてやって」

 りこは、白髪の女……ダイヤに促しました。

 ダイヤは、目を光らせて、立体映像を見せました。そこには、今までの三人の活躍ぶりが映し出されていました。三人は呆然としました。もうなにも言い訳が付きません。

「わかったら早く車に乗りましょう?」

 というわけで、りこの車に乗せられて、モデル事務所という名の科学研究所へ連れて行かれたのでした。


 モデル事務所という名の科学研究所。

「ここは?」

 ゆきが聞く。

「実験……じゃなくてレッスン室デース!」

 りこが答えました。

「実験室みたいですね」

「あたくし科学にも興味がありますので、レッスン室を実験室みたいにしたのデース!」

「なんじゃそれ……」

 まきが唖然。

「そんなことよりも! さっそく、レッスン開始しますよ? いいデスか?」

 りこが意気込みました。

「とりあえず。そこの三つ編みの子、剣の使い手さんからね」

「な、なにをすれば?」

「いつもみたいに、剣を出して。で、必殺技出して」

 りこは、パソコンの前に座りました。まきは少し疑問に思いながらも、いつものように、光の剣を出しました。

 りこのパソコンには、サーモグラフィの映像で、まきが映っていました。

「はい、必殺技」

「え、えーっと……」

 りこに言われて、どうしようか迷うまき。

「あ、あの今から出すやつ、ここ吹っ飛ぶかも……」

「かまわないわ。やっちゃって」

 と、言うので、まきはしかたなく、上に向かって、光の剣から稲妻を発射しました。りこはパソコンに目を向けていました。

「あとさ。なんか光を放つやつあるよね。そのあと、モンスターと化した人は、ぐっすりねむってるんだよね」

 りこに言われて、光を放つまき。

「ありがと。さ、次はロングヘアの君、魔法使いの子ね」

 みきは、魔法ビームと、魔法で石をりんごに変えたりをしました。

「最後に、ショートヘアの、忍者の君」

「は、はい!」

 ゆきは元気よく返事をしました。

 とりあえず、手裏剣やその他忍術をくり出しました。

「うむ……」

 りこは、パソコンを見つめ考えました。

「ねえりこ」

 耳打ちするダイヤ。

「忍者の子だけ、サーモグラフィ普通に映ってるわよ。でも、あとの二人は、ビームとか稲妻とか、光まで反応してるわ」

「そうね」

 りこは、三人に近づきました。

「ねえ君たち。それは、どうやって身に付けたの?」

「み、身に付けた?」

「どうやってもなにも……。わたくしたち、生まれてから持ち続けている才能ですわ!」

「さ、才能?」

 みきは言いました。

「あなたにだけ教えますわ。わたくしの家はね、先祖代々魔法使いですの。そして、まきさんは、先祖代々からこの光の剣をご自宅の地下に保存しており、お金に変えようと引き抜いた途端、神様の怒りに触れ、なぜか我が身のものになってしまったわけです」

「あの、僕の説明そんな感じ?」

「ゆきさんの家は先祖代々忍者ですわ。おじい様に教わったそうよ?」

「なるほど……。つまり、あなたたちは三人とも、ご先祖様から受け継がれている伝統を武器にしているわけね」

 りこが納得しました。

「そういうあんたは何者だ! 僕たち、あんたがただのモデルのスカウトじゃないことくらい、とっくにわかってるんだぞ?」

「そ、そうです! だいたい、渋谷とか原宿でもないのに、モデルのスカウトをすること自体おかしいんですよ!」

「え、そうなんですの?」

 みきを見つめるまきとゆき。

「なによ? まさか、お二人ともわたくしが実はほんとにモデルのスカウトだって思っていたなんて、考えていませんわよね?」

 首を横に振るまきとゆき。唖然とするみき。

「うふふ! あははは!」

 ダイヤが笑いました。

「りこ、もういいでしょ? どうせ目の前にいるんだもん」

 白髪のカツラを取りました。

「今までのモンスター化は、あたいたちのしわざだったのよ!」

「なーんだ……」

 なぜかがっかりした様子の三銃士たち。

「え、な、なにが?」

「いや、髪の毛ずらしたから、僕はてっきりハゲになるかと思ってさ」

「わたくしは、前髪を切りすぎておでこがつるピカになっているのかと……」

「あたしは、男の子かなあって」

「あたいは女だよ! ハゲでもつるピカでも男の子でもないわ!」

 ダイヤが怒りました。

「そして私は! モデル事務所……いやここ科学研究所の設立者、りこ!」

 金髪のカツラを取りました。ショートの茶髪があらわになりました。

「今までの活躍、モニター越しで見せてもらっていたわ」

「あたいが放ったこの悪トルで人間をモンスター化して、暴れさせていたのよ!」

「この悪トルには、悪玉菌で作った悪玉菌エネルギーが入っていて、照射されるとたちまち悪者になってしまう恐ろしいエネルギーなのです」

 りこが説明しました。ゆきはハッとしました。

「もしかして、あたしが撃たれたのも……」

 前に、凶暴化した時のことを思い出しました。

「なにが目的だ!」

 まきが聞いた。

「私はね、画期的なアイデアを求めているの。それだけさ」

「だからって、人様に迷惑かけていいとは限らないだろう! みき、ゆき!」

 みきとゆきはうなずきました。

「悪玉菌なんたらなんて、使えなくしてやる!」

 それぞれ武器を掲げました。

「えーい!」

 ダイヤが悪トルを放ちました。まきは光の剣で放たれた悪玉菌エネルギーを弾き返しました。

 みきも、魔法ビームで悪玉菌エネルギーを打ち消しました。

「たあ!」

 ゆきは忍者らしい身のこなしでエネルギーを交わし続け、天井に張り付くと、ダイヤに飛びかかって、悪トルを奪い取りました。

「しまった! 返せバカ!」

「ゆき! それを投げて? 投げた瞬間に稲妻を照射してやるから!」

「はい!」

 投げました。光の剣から稲妻を放ちました。悪トルが、大破しました。

「そんな……」

 ダイヤががく然としました。

「さすが! 君たちすごいよ!」

 りこが拍手をしました。

「どういう原理かはわからないけど、それほどまでの力を持っているなんて、科学じゃ解明できない謎もあるわけだね」

「いや、これは科学じゃないんですけどね」

 まきは言いました。

「僕たちはなにも悪いことはしていない! あんたたちも悪いことをしないで、まじめに研究に勤しむんだな?」

「待って待って! あのさ、私悪玉菌エネルギーはやめて、次は善玉菌エネルギーを活用しようと思ってるんだけど」

「あらそう。わたくしたちはもう関係ありませんから」

 立ち去ろうとする三人娘の前に立ちはだかるりこ。

「今度はいいことばかりしたくなるエネルギーなんだけど、君たちも正義のためにその力を使っていたわけでしょ? 一つさ、協力をしてほしいんだけど。もちろん、私の画期的なアイデアを世に知らしめるね?」

 ウインクしました。

 善玉菌エネルギーでできたアンドロイドを紹介。

「ユー!」

「リン!」

「チー!」

「三人合わせて、中華三人娘!」

 ポーズを決めました。まき、みき、ゆきの三人は呆然としました。

「さあ、世に羽ばたくわよ! あーはっはっは!」

 りこは高笑いしました。ダイヤは、中華三人娘を見つめて、呆然とし、佇んでいました。

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