4.人見知り⇔凶暴?
第4話
まき、大学三年生二十歳。彼女は幼い頃から男勝りな性格で、小学生の頃はよく男子を泣かせるくらいの乱暴者でした。中学、高校になると、勇ましい見た目故か、女子からの人気が高く、ラブレターまでもらっていたりしました。
「はあ……。僕は言うて、かっこいいキャラじゃないのに。ほんとは……」
家に帰れば、お母さんにお小遣いをせびり、困らせていました。
「頼むよ母さん! みんなやってるんだよこのゲームは」
「とかなんとか言って、どうせあきたとかかんとかでほったらかしにするんでしょ? お小遣いはあげません!」
「そこをなんとか!」
手を合わせるまき。皿洗いをしながら無視をするお母さん。
「豚……」
コソッと悪口を言うまき。すると、
「うにゃっ!」
洗いたての皿が飛んできました。
大学生になり、一人暮らしをする時だって、一ヶ月間もねだり、それでも心配するお母さんは断り続けるも、娘には甘いお父さんが一人暮らしを了解してしまったのです。しかし、一人暮らしを始めたはいいが、バイトもせず、仕送りだけ当てにするまきに呆れたお母さんは、三ヶ月に一回しか送ってこなくなってしまいました。外身はよくても中身はダメダメなまき。
みき、大学三年生二十歳。彼女の家は先祖代々魔法使いで、これまで世のため人のため魔法を使って、生活をしてきました。おかげで今の両親は六本木に会社を立てて、お父さんが社長、お母さんが秘書として活躍しています。
「魔法は好きなことを好きなだけに使うものですわ!」
娘みきが、魔法の味をしめ、毎日遊んでばかりいるので、困り果てていました。園児の時から上品さを学ばせて、小学校中学校高校と、お嬢様学校に通わせていました。
しかし、魔法使いという傍ら、上品さを学ぶことにあきが来たのでしょう。
「もうたくさんですわ! わたくしはわたくしのやりたいように生きてやりますわ!」
こうして、彼女は大学に行かずに、魔法使いとして、自由の翼……いや自由にほうきを飛ばしたのです。元はお嬢様、今は魔法使いみき。
そして三人目、ゆき大学三年生二十歳。先祖代々忍者。学校以外はおじいちゃんの下、忍者修行をしていました。修行以外は、小学生中学生高校生ともに普通に過ごし、大学も普通に合格して、今も普通に生活していました。
ある朝、悪いエネルギーにより、都内を暴れ回る人が出現。
「うおーっ! 会社なんてやめてやるーっ!」
鬼のような角と牙を生やしたサラリーマンが巨大化して暴れていました。
「だったらやめちゃえばいいじゃないの!」
まきは、ジャンプして、光の剣をサラリーマン鬼に振りかざしました。
「その恐ろしい角は、猫耳にして差し上げますわ」
みきはほうきの上から魔法をかけて、サラリーマン鬼の角を猫耳にしました。
「あ、あたしはあたしは……」
ゆきが考えていると、
「きゃあああ!」
サラリーマン鬼が襲いかかってきました。
「うおおお!!」
光の剣の放つ電撃で、倒れるサラリーマン鬼。
「とどめだ!」
まきは念じて、光の剣で浄化に当たりました。無事に、サラリーマンは元の姿に戻りました。
「これで一件落着ですわね」
ゆきは、二人のことを呆然として見つめていました。
ゆきは下宿先に帰って、部屋で手裏剣の的当てをしていました。
「はあ……」
ため息をつきました。
「あたしだけ、まきちゃんやみきちゃんみたいな武器がない……」
なぜ、ゆきは忍者になろうと思ったのでしょうか。単に先祖代々というわけではありませんでした。人見知りが激しく、逃げ足を早めたいからでした。今でも、時折高校時代の同級生と顔を合わせることがあり、その時瞬時に隠れたり逃げたりできるので、修行をしてよかったと思っていました。幼い頃も、お出かけ中にクラスメイトを見つけると、パッと電柱に隠れたり、塀の上に飛び上がったものです。
「ていうか、同級生に会いたくないから三重から東京にはるばる来たのに……。大学、恐るべし!」
と言って、ゆきは呆れてしまいました。
「じゃなくて、あたしも三銃士の仲間入りしてくれたんだから、それなりのことをしないと……」
自分も二人みたいに戦わないと。そう思うのでした。
「強く、ならなくちゃ!」
翌日。
「お、おはようございます!」
後ろから、ゆきの声がしました。
「おはよう」
と、振り向くまき。
「おはよう!?」
驚くまき。
「な、なんでしょうか?」
「あ、いや、その……。どうしたのその格好?」
「こ、これはその……。強くなるためにと思って!」
ゆきは、忍者の格好をしていました。
「つ、強くなるため?」
「はい! あたしも三銃士の仲間として、もっと強くなりたいんです! だから、その第一歩として……」
息を飲むゆき。
「人見知りを直そうと思いまーす!」
走って大学の校舎へと一目散に向かいました。まきは、首を傾げました。
講義が始まりました。学生たちは、忍者服のゆきに釘付けです。
(恥ずかしい! でも、強くならなくちゃ。これも、定め!)
震えながらも耐えました。
講義がおわりました。ろうかへ出るゆき。
「はっ!」
ゆきは、突然バク転をしました。学生たちが驚きました。バク転をしたまま、いなくなりました。
「ゆ、ゆきちゃんどうしちゃったの?」
まきは、ゆきが置いていった教材を拾いました。
その後もゆきは、忍者らしいことを大学内で見せつけていきました。煙玉を出して消えてみたり、壁に化けて現れてみたり、かぎ縄を使って二階まで登ってみたり。あっという間に、学生たちの人気者になりました。
「なあなあ! 俺、こないだあの忍者が落とし穴掘ってるのみたぜ?」
「私はドブネズミ投げてるの見たよ?」
「おいどんは忍者食なのか、虫とカエル食ってたの見たでごわす!」
学生たちの中でうわさはますます広がっていって、会ってみたいと言う人まで出てきましたが、相手は忍者、手を触れようとしたらば、瞬時にどこかへ身を伏してしまうのでした。
「うーん……」
大学の中庭で、まきが額に手を当てて考え込んでいました。
「頭痛に効く薬がありますわよ?」
みきが薬を渡しました。
「そうじゃなくて、ゆきのことで悩んでるんだよ」
「ゆきさんがどうしましたの?」
「最近、忍者服着てさ、大学中で変なことしてるんだ。変に目立ったりして、どうしちゃったんだろ?」
「実家が忍者ですもの。忍者としての血がよみがえっただけですの」
「いや、でもあの子は人見知りがある子だよ? 忍者だけど、あそこまで目立つようなことはしないよ!」
「と、言われましても。わたくし大学に行っていないのでどうなっているか知りませんわ」
「とにかく。やめさせてあげないと」
「なにか理由があるんじゃありませんの?」
「さあ?」
「一言でも、そのようなこと口にしていませんでしたか?」
「あ、なんか強くなるためとか言ってたような……」
「ふーん……」
研究所。ダイヤは、悪玉菌エネルギーを浴びせてきた二人のことを考えていました。
「ダイヤ。充電の時間よ?」
ダイヤ専用の充電器を担いできたりこ。
「ねえりこ。これまで悪玉菌エネルギーを浴びせてきた子たちってさ、今どうしてると思う?」
「ええ? さあ、どうだろうね」
「つい最近までSNSを通して悪玉菌エネルギー浴びせた子のことがニュースで流れていたのに、もう流れていない。車ロボットの子についても流れていない……」
りこはダイヤのおでこにあるコンセントを開けて、充電器のプラグを差し込みました。
「誰かが、あたいたちの計画を邪魔しているのよ!」
「それか、失敗してるか?」
「なに言っちゃってんのよ! 失敗してたら、あんな怪物できっこないでしょ?」
大きな声を上げるダイヤに驚くりこ。
「そんなのんきでいいの? このままじゃ、あんたの発明品でご飯を食べてく夢、一生叶わないわよ?」
「ま、まあ……」
「そうと決まれば! 邪魔者を探しに行く必要があるわね。ほら、まず宛てを調べたいから、調べる調べる」
りこはあわてて、パソコンを開き、ダイヤの言う邪魔者を探し出しました。
「見つけたら探しに行くわよ!」
「その前に充電二時間おわったらね」
ダイヤはムスッとしました。
日曜日。大学は休みでした。休みでも、ゆきは、忍者服を着て、公園で
「いたいた」
まきとみきが来ました。
「ま、ままま、まきちゃ!」
赤面すると、バランスを崩し、倒れました。
「大丈夫ですの?」
「いたた……」
起き上がりました。
「ゆき。最近いつも忍者みたいになって、どうしちゃったの?」
「つ、強くなりたい……」
「どうして強くなりたいんですの? あなたは忍者なんだし、十分力がおありじゃない」
「それじゃダメなの……」
「へ?」
「まきちゃんとみきちゃんは剣と魔法の杖があるから強いじゃないですか! あたしにはなにもない……。だから、まず人見知りをなくして、人柄を強くしてみようかと、試みたんです……」
「そんな……。僕だって、ほんとは光の剣なんて実家の地下にあったもので、それをお金にしようとして偶然武器になってしまっただけなんだよ?」
「そうそう。わたくしだって、魔法はただの欲望を満たす道具としか思っていませんわ」
「でも! お二人は戦いの時に一番活躍してる。あたしだって、足を引っ張らないようにしたいんです!」
呆然とするまきとみき。
「とりあえず、帰ります……」
ゆきは、その場をあとにしました。
「はあ……」
住宅街の中、ゆきはため息をつきました。
「でも、まきちゃんやみきちゃんみたいに武器もなにもないあたしに、もっと強くなるなんてこと、できっこないのかもしれない……」
「そんなことないわよ」
「へ?」
声がして、前を見ると、着物姿の女の子と、白衣の女性が立っていました。
「あなたね、こないだ車ロボットやメデューサみたいな頭のやつと戦っていたのは」
「え、え?」
「あ、えっと……。私たち、別にあやしいものじゃないよ」
と、りこ。
「あともう二人どこにいるのかしら? 剣を持った子と、ほうきで空を飛んでる子」
ダイヤは、キョロキョロあたりを見渡しました。
「え、えっと! あなたたち、どうしてあたしとその、二人のことを知っているんですか?」
おそるおそる聞いてみました。
「それはね。あたいたちがあんたらのファンだからよ!」
と言ったスキに、ダイヤは悪玉菌エネルギーを撃ちました。エネルギーは、ゆきの胸元に命中しました。
翌日。
「おはようゆき!」
まきがあいさつしました。
「ああん? 気安く話しかけてんじゃねえよ!」
後ろを振り向くなり、にらんでくるゆき。まきはビクッとしました。
「あっ。き、今日は忍者服じゃないんだね……」
と言って、
「はあ? なんで今の時代忍者服で大学に来ないといけねえんだよバーカ!」
ゆきに罵られてしまいました。まきはがく然としました。
講義が始まりました。
「おいこのクソハゲ!」
講師に向かって悪口を叫びました。
「てめえこないだ見たぞ? 夜の繁華街でな、キャバ嬢とぶらぶらしてんのをよ! 女遊びも大概にしやがれってんだ!」
講師は指し棒を落とし、呆然としました。
「でさ!」
講義中にかかわらず、通話をしている男子学生。
「おい……」
ゆきはスマホを奪い取って、
「あーっ!」
真っ二つに割ってしまいました。男子学生は悲鳴を上げました。
ゆきは、一日中大学で暴れまくりました。
「おいてめえら化粧くせえんだよあっち行きやがれ!」
「てめえ今あたしの胸見てただろ! タマキン蹴ってやらあ!」
「んがーっ!!」
火を吹く怪獣のように暴れました。
「すごいどうなってんのー!」
まきは頭を抱えました。
研究所では、ダイヤとりこがパソコンを覗いていました。
「すごいわ! あの忍者、性格が変わってヤンキーみたいになってる」
「ていうか、いつの間に様子が見れるように?」
「悪玉菌エネルギーに、監視できる仕様を取り込んでおいたの」
「この子、できる! すばらしき我が発明!」
感動するりこ。
ゆきは、一日中ヤンキーみたいにしていました。帰りまでドカドカと、怒りながら歩いていました。
「なについてきてんだよ?」
ゆきが後ろを向く。
「ほ、ほんとにゆきどうしちゃったの? なんか今日は一段と変だよ?」
「うるせえ! どうなろうとあたしの勝手だろうがよ!」
「そんな言い方ないんじゃないのっ?」
二人はにらみ合いました。
「お二人さーん! 元気ー?」
ほうきに乗って、みきがやってきました。
「おみやげ持ってきましたの。はい、まきさんには紅白まんじゅう。ゆきさんには、大阪名物のダーティーな恋人を差し上げますわ!」
それぞれに渡しました。
「ち・な・み・に。魔法で出したものだからら、ね?」
「ぐぬぬ〜!」
にらみ合うまきとゆき。
「ほへ?」
首を傾げるみき。
「あらやだゆきさん! どうして悪いエネルギーが取り憑かれてますの?」
「え、悪いエネルギー? てことは、今のゆきは浄化しないと元に戻らないってこと!?」
まきは、ようやく状況を把握しました。
「なら、光の剣を召喚しなくちゃ!」
ネックレスを光らせて、光の剣を召喚。
「おろかな悪いエネルギーめ! ゆきから離れなさい!」
「んだよ……。てめえら、あたしにケンカを売るつもりか!」
ゆきは、両手から手裏剣を投げました。まきとみきは、ジャンプで避けました。
「はあーっ!」
剣を振りかざすまき。くないで剣を受け止めるゆき。
「ほっ!」
魔法の杖からビームを撃つみき。しかし、交わされる。
「あたしの攻撃を受けてみな!」
ゆきは、走るポーズをすると、すぐ分身の術をしました。まきとみきは、分身したゆきに囲まれました。
「目回りそう!」
と、嘆くまき。みきは意識を集中しました。
「わかった!」
と、みき。そして、魔法の杖をかざし、
「そこですわね!」
ビームを放ちました。見事、本物のゆきに命中しました。
「すごーい! あんたにそんな能力があったなんて!」
感心するまき。
「魔法の力ですわ!」
「だよね!」
「てめえら! こんなことしてただで済むと思うなよ?」
と言って、不敵な笑みを浮かべるゆき。
「実はな。大学の昼休み中に、中庭すべてに地雷を埋めた! 今頃、中庭は火の海だろうな。はっはっは!」
笑いながらバク転で去っていきました。
「もしそれがほんとだとしたら……」
まきは剣に乗って、みきはほうきに乗って大学に急ぎました。
大学の中庭では、用務員が草取りをしていました。
「おや? なにかふくらんでいるようですな」
そのふくらみに足を踏み入れようとする用務員。
「待ったー!!」
まきとみきは超速で着陸し、用務員をふくらみから離しました。間一髪、大学は救われました。
「よかったあ……」
まきが安心していると。
「かかったなアホが! 地雷はまだあっちにもこっちにもそっちにもあんだよ!」
あかんべーしているゆきが。このまま地雷が爆発してしまうのか……。
「地雷を、すべてモグラに変わりなさい!」
みきが魔法をかけました。すると、地雷が埋まっているふくらみから、すべてモグラが出てきました。
「ウソだろ……」
呆然とするゆき。
「さあここまでだ!」
まきが、ゆきを後ろから羽交い締めにしました。
「しまった! 離せちくしょう!」
「ゆき! あんたは強くなんかならなくていい!」
「ああ!?」
「正義の味方はね、なにかを守ろうとする気持ちがあれば、誰でもなれるんだよ! 強ければいいってもんじゃないの。だからゆきは、りっぱな正義の味方だ!」
「……」
「そうですわ。普通、三銃士になろうなんて、思いませんもの」
「強くならなくても……」
ゆきの中から悪玉菌エネルギーがすうっと抜けていきました。ゆきは力が抜けたように気絶してしまいました。
一方研究所にて。
「ウソでしょ……。自分から悪玉菌エネルギーを抜き出すなんて……」
「よほど、あの子には強い正義の心があるということよ」
ダイヤががく然とし、りこが感心していました。
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