3.SNSはほどほどに
第3話
この頃、大学三年生であるイアは、講義中も欠かさないほどSNSに夢中でした。ずっとスマホを見続けています。
「うふふ! またいいねが上がってる」
スマホを見ながら笑いました。
お昼時、20三銃士は食堂に集まって、いっしょに食べていました。
「ご覧なさい! わたくし、昨日スマホを買いましたの」
「え? 今まで持ってなかったの?」
と、まき。
「魔法があれば大概のことは叶うので」
「そりゃあ、二十歳にもなれば、スマホはほしいですよね」
と、みき。
「みきはさ、いつスマホ持ち始めた?」
「大学に入ってからです」
「へえー。僕は高校入ってからだな。やっぱ、高校卒業してからが多いんだな」
怪訝な顔をするみき。
「ねえ。なんでみきちゃんはあんな顔を?」
コソッと聞くゆき。
「プライドが高いから、今さらスマホを持ち始めたなんて思われてるのが納得いかないんだ」
コソッと答えるまき。
「でも。僕のおじいちゃんなんて、六十歳でスマホデビューだからね」
「あっ、あたしのおばあちゃんなんか、七十で今さらガラケーデビューです」
「
にらんでくるみき。唖然とするまきとゆき。
「あ、でも! 僕のおじいちゃんスマホデビューしてもう三ヶ月経つのに、未だに通話とメールの方法知らなくてさ」
あわてて話を持っていこうとするまき。
「あ、あたしもおばあちゃんガラケーをポッケに忍ばせてるくせに、出前取るために固定電話使ったりして……」
ゆきも。
「みきは若いから、スマホデビューして三日で使いこなせるよねえ」
「で、ですね! お年寄りじゃないんだから」
みきは怒って、
「当たり前でしょうっ? わたくしは魔法使いなんだから!」
怒鳴りました。
「いやそれとこれとは関係ないでしょ!」
ツッコむまき。
「あ、見て」
指をさすゆき。
「あの人、また自撮りしてますね」
「イアだよ。あの子さ、この大学で一番SNSやりまくってて有名なんだよね」
「じ、地鶏? エス……エ……」
当惑しているみき。
「SMプレイ!」
叫ぶみき。食堂にいる他の学生たちが目を向けました。
「なに突然!?」
驚くまき。イアは、自撮りに夢中でした。
「みきさん、イアさんのSNSです」
ゆきは、SNSを見せました。
「だから、そのエスなんとかってなんですの?」
「つまりさ、ネットを使って、自分のことを発信することだよ」
まきが教えました。
「イアさんは、昨日の夕食から、休みの日お出かけした場所、メイクした時の姿まで、なんでも投稿しているんです。おしゃれだし、写真写りがいいから、評価は高いんですよ?」
「ふーん」
うなずくみき。
「ずいぶんとくわしいね」
感心するまき。
「あっ! いや、まあその……。大学生になったんだから、まわりの流行りとかに乗らないとなと思いつつ……ね?」
照れるゆき。
「いいんじゃない? SNSのことは言うて知らないけど、イアって男にも女にもやさしいから、人気はあるらしいね」
イアは、おしゃれな男たちに話しかけられていました。笑顔で対応していました。
夜になりました。都内の酒場は、ネオンの輝きと、客のにぎわいを見せています。
ある酒場で、イアを誘った学生たちが、にぎわっていました。
「SNSのとおりだ。かわいいねイアちゃん」
金髪の男がほめました。
「うふふ!」
イアは笑いました。
「今度デートしようよ」
「お前抜けがけすんなよ。僕とデートしよ?」
桃髪の男が誘う。
「いいやおらとだ!」
青髪のなまった男が誘う。
たくさんの男たちに誘われても、イアは笑うだけ。
「はいはいみんな! イアはまだそういうの早いかなーって思ってるから。また今度ね」
「その茶色のふわふわの髪、毎日セットしてるの?」
金髪の男が聞く。
「当然よ」
「えーじゃあそのワンピは?」
「マニキュアも?」
「毎日サラダだけ食べてるってほんと?」
SNSで知ったことを聞いてくる男たち。イアは笑顔で答えていました。
(ふん。バカなやつら……)
心の中では、そう思っていました。
家に帰ったイア。アパートで一人、下宿していました。
「あいつらマジバカじゃないの? 毎日サラダ? イアは野菜がきらいだって~の。男ってマジキモい。女がきれいなのは、てめえらに色気づくためじゃねえんだよ。すべてこいつのためなんだよ!」
スマホを掲げました。
「さーてと。とりあえず明日は講義休みだし、朝までバカどもをだまくらかすか……」
SNSを開きました。
「ん?」
SNSに、一通返事が届いていました。
「はあ!?」
返事を見て顔をしかめました。
"いつまでウソを投稿し続けるの?"
「なんなのこいつ? ウソだと思うのは勝手だけどさ」
一通の返事をした相手を、ブロックしました。
りことダイヤのいる研究所。りこは、パソコン作業をしていました。
「なにしてんのよ?」
ダイヤが覗いてきました。
「ホームページを作ってるのよ。この研究所のことを世に知らしめてやるためにね」
「ふーん。それ、ただのカチャカチャやる機械じゃなかったのね」
「インターネットはね、いろいろな人とつながることもできる有能なものなのよ? 例えば、ホームページ作る以外にも、SNSといって、世界中の人たちとコミュニティを図ることができるシステムもあるわ」
イアのSNSを開きました。
「この子は大学生で、おしゃれが好きみたいね。大学時代、デビューしようと思ってメイクを始めたけど、三日坊主でやめた私とは大違い……」
「ねえ、りこ」
「なあに?」
「このインターネット経由でもさ、悪玉菌エネルギー撃てるかしら?」
悪玉菌エネルギーが入った銃を掲げるダイヤ。
「え? いや、そりゃ無理でしょ。だって、世界中の人たちとコミュニティ図れても、しょせん画面越しだし」
「それができちゃうかもじゃん!」
ためらうことなく、銃を放ちました。悪玉菌エネルギーは、パソコンの画面を粉々にすることなく、突き抜けていきました。
「うわあああ!!」
放たれた悪玉菌エネルギーは、イアに撃たれていきました。
「うふふ! もっと、もっとイアを評価しなさい!」
イアは、髪型がふわふわではなくヘビになり、まるでメデューサのようになってしまいました。
翌日、大学では大騒ぎになっていました。
「さあ、みんなでこのイアをいいねなさい!」
メデューサのようになったイアのおかげで、大学のパソコンは学生たちの含め、彼女のSNSしか映らなくなり、講義室のスクリーン、事務室のパソコン、スマホ、テレビなどが、イアのSNSしかアクセス不能になっていました。
「な、なによこれ!」
女学生たちが怖気づいている。
「ほらほらあなたたちも、イアをいいねなさい!」
イアがスキップで立ち去ると、なぜか触れてもいないのに、いいねされました。
「もっともっとイアのこと見てほしい……。大学だけじゃなくて、東京全域に広めなくちゃ!」
イアは、大学の屋上へ向かいました。
「さあ東京都のみなさーん! イアのこと、見てー!」
メデューサのような髪型がヘビのようにうなり、そこから光を放つ。すると、東京都中のテレビ、スマホ、ビルのモニター、車のテレビ、宣伝カーが、イアのSNSまみれになりました。街中パニックに陥りました。
「大変だ!」
まきは走っていました。
「まきさーん!」
ゆきがバス停で手を振っていました。
「ゆき! ねえこれ見てよ。イアのやつしか映らなくなってんだけどっ?」
「あたしもです! 朝起きたらこんなになってて……。あ、バスが来ました」
バスが来ました。
「わあ……」
まきとゆきは目を丸くしました。バスの行き先表示が、"イアのこともっと見て♡"だったからです。
乗り込むと、車内アナウンスまでもがイアの声になっていました。
『イアのこと、よろしくねー! SNSを見て? 見てみてー!』
アナウンスは、自分のSNSのことばかり口にしていました。客も、運転手もうんざりしていました。
「これ、おかしいね」
と、まき。
「ですね。バスの車内放送といったら、行き先を説明するのが当たり前なのに……」
と、ゆき。
「そうじゃなくてイアのことだよ! これは、前の車ロボットみたいに、なにかよからぬものが取り憑いているに違いない!」
大学に着くと、さっそくみきが自慢げにイアのことを説明しました。
「イアはね、ずばり悪いエネルギーを取り込まれていますわ!」
「それより、その超巨大な端末機はなんですか?」
ゆきが指をさす。みきは、超巨大な端末機を壁に寄せていました。
「魔法でスマホを巨大にしましたの」
「なんのために?」
まきが呆れる。
「スマホって、ゲームがあるでしょ? よりビックにしたら、もっと楽しくなるんじゃないかと思って……」
目をキラキラと輝かせました。まきとゆきは唖然としました。
「でも、その翌日にイアしか映らなくなるっていうね」
「ふざけんじゃないわよこのクソアマ!」
みきは超巨大スマホを蹴りました。
「まあいいわ。さあお二人さん、このイアさんを、どうしたらよいか、考えましょう」
「どうしたらよいかって……」
「ま、まあどうにかしないといけませんけど……」
「立ち話もなんなので」
みきの誘いで、大学の中庭に来ました。
「わたくしが察するに、彼女は承認欲求が強いんですわ」
「承認欲求ねえ」
まきが腕を組む。
「じゃあそれを満たしてあげますか?」
「どうやって?」
「ど、どうやって……」
ゆきは当惑しました。
「わたくし、案がありますの」
自信ありげな顔をするみき。
「ここはあえて、あんたは美しくない、あんたはブサイクって言えばいいんですの!」
「いや、それまずいんじゃ……」
まきとゆきが唖然としました。
「だって、それぐらいお灸を据えてやりませんと。よーし!」
みきは、イアのSNSにあんたはブサイク、あんたはブタ、あんたはただのデブなど悪口を書きまくりました。
「まあ! こいつイアの悪口書いて、ただで済むと思わないでよ?」
イアは、悪玉菌エネルギーで得た、ターゲットを瞬時に特定する力で、みきを見つけました。
「イアちゃんビーム!」
目からビームを放ちました。ビームはスマホ越しのみきに当たりました。
「びょえええ!!」
みきは、超巨大スマホの画面から撃たれるビームにやられました。真っ黒になって、倒れました。
「あ、文字が打たれてます!」
"悪口を書いた人は特定してイアちゃんビームをお見舞いよ!"
「なんてやつだ……。とりあえず、僕たちでイアの居所を掴まないと!」
まきは目を閉じ、ネックレスから光を放って、光の剣を出しました。
「さあ、後ろ乗って!」
光の剣の上に立つまき。
「まきさんの剣って便利ですね。空も飛べるんだから」
「空も飛べ〜るはず〜♪」
まきが歌うと、剣が宙を舞いました。みきは地面に横たわったままカクカク震えていました。
研究所でも、パソコンがイアのSNSしか映らなくなっていました。
「ダイヤちゃーん。どうやってもイアちゃんしか映らないよ?」
「すごいわ! なんとなくで撃ってみたけど、ここまでとはね」
「いや、感心しないでよ。これじゃ、仕事できないじゃない」
「この分だと、どこもイアしか映らなくて、四苦八苦してるわよ」
「いや、あのね……」
りこはため息をつきました。
「でもまあ。この悪玉菌エネルギー、画面越しの人にも効くみたいね。オンライン対応ってか」
自分の発明ながらに、感心しました。
さて、一方でまきはゆきを乗せて、剣で空を飛びイアを探していました。
「大学の上を飛ぶのは初めて……」
と、下を見ると。
「あ、あれか?」
屋上に誰かが。降下してみると、メデューサのような頭の女がいました。イアです。
「イアーっ!」
まきとゆきは、剣から飛び降りました。
「自分がちやほやされたいからって、東京中に自分ばかり映すなんて、許さないぞ!」
まきは、イアを指さしました。
「イアのこと指さすなんてひどい! あんたなんて、石にしてやる!」
「石?」
イアは、目をギッとさせて、赤く光らせる。そして、パッとフラッシュをたいて、あっという間にまきを石化してしまいました。
「ま、まきさん!」
叫ぶみき。
「あっはっは! イアのことバカにするからよ」
「なんてひどいことをするんですか!」
「さっきのやつもイアのこと、ブスとかバカにしてたよね? あんた、あいつの仲間?」
「イアさんは、自分がちやほやされたいだけにSNSをしていたんですか? あたし、あなたのことすごいと思ってたのに!」
「別に、そんなこと思って見てもらってたわけじゃないし。あのね、イアは誰かにきれいとか、かわいいとか思われたいの。だから、ウソでもなんでも投稿して、人気になろうとしたの!」
「そんな……」
「女の子はね、目立ってなんぼなのよ。あんたみたいに地味でひそひそしてるのなんて論外なのよ!」
うつむくゆき。
「うっ、まただわ」
SNSに返事が来ました。
「こいついつもイアの投稿バカにして。いいわ、みんなイアのことしか見ていられないようにしてあげる!」
イアは、メデューサのような髪型を赤く光り放ちました。すると、東京中の人たちが溶け込まれるようにして、イアのことを崇拝していきました。投稿に対するコメントも、イア美しい、イアかわいい、イア最高しか打ち込まれなくなりました。
「あはは! ほら、あんたも崇めなさいよ!」
ゆきも、溶け込まれるようにして、イアを崇拝するコメントを打ち込もうとしました。その瞬間でした。
"イア、あんたは今のままでも十分かわいいだろ?"
一通のコメントが打たれました。イアは当惑しました。
「はっ!」
ゆきが目を覚ましました。石化していたまきが、体中の石を砕いて、元に戻りました。
「イアさん! もうここまでにしなさいな!」
みきがほうきで急降下してくる。
「うるさい! イアはこれからももっと美しくなって、みんなに崇められるんだ!」
手から光球を放ちました。
「たあ!」
みきも、魔法の杖からビームを放ちました。両者の攻撃が、空中でぶつかり合い、爆破。
「はあーっ!」
まきが、光の剣を向け、走る。
「おのれ!」
イアは爪を剣のように伸ばし、まきと勝負を始める。両者の刃がぶつかり合う音が響き渡る。
「えい!」
ゆきが煙玉を投げて、まわりが白い煙で覆われる。そのスキを狙い、ゆきはイアのスマホを奪い取りました。
「今ですわ、まきさん!」
まきはイアの首元に刃を向け、動きを制止。そのスキに、念じ、彼女の中にある悪いエネルギーの浄化に取りかかりました。
イアは、真っ白な光しかない世界に佇んでいました。
「きゃっ! 誰っ?」
目の前に、天使の羽を付けた神様がいました。
「あなたのこと、コメントで唯一咎めていたのは、あなたの元彼よ。高校の頃フッたでしょ? 本当のあなたを知っていたからこそ、承認欲求を満たすだけのSNSなんて、やめてほしかったんだわ」
「そんな……。イアはただ……」
「ただも有料もないわ。SNSはほどほどにね!」
神様が言うと、まぶしい光を放ち、消えました。
元の世界に戻ったイアは、屋上の床で横になり、目を閉じていました。ゆきが、スマホをそっと隣に置いてあげました。
「で、みき。あんたそのスマホ、でかいままにしておく気?」
「もちろんですわ」
「持ち運びはどうするんですか?」
「魔法がありますし、使いたい時に出すまでですわよ」
と言って、巨大スマホを担ぐみき。
「もう。あんたアホなのかそうじゃないのかわかんない子だね」
まきとゆきは、苦笑しながら担ぐのを手伝うのでした。
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