2.はじめての戦い

第2話

今じゃ当たり前となった車社会。そんな中、問題視されていることもありました。煽り運転、交通事故、ひき逃げ事故など。車は便利なものでもあり、時に凶器にもなりかねない発明なのです。

 今日も都心道路で、とある車が暴走をしていました。

「オラオラーっ! どかんかーい!」

 三車線目の車に割り込みをされた女が、渋滞している車とぶつかりながら、間をぬっていきました。まわりでクラクションが鳴り響いています。

「おいぶつかんなよ!」

 サラリーマンが怒りました。

「あーん?」

 女はにらむ。そして。

「文句があんなら仕返してみろよ!」

 女の車は、タイヤを足みたいに伸ばしました。呆然とするサラリーマン。

「ロービーム!」

 女の車が、ライトから下向きのビームを放ちました。サラリーマンの車は大破しました。

「邪魔な車どもめ! 全員乗れなくしてやる!」

 足が生えたようになった女の車は、ロービームを放ちながら、都心道路をかけ抜けていきました。

「ウソでしょ……」

 ビルの屋上で、りこががく然としていました。

「悪玉菌エネルギー……。なかなかやるじゃない」

 双眼鏡から様子を伺っていたダイヤは感心した。

「で、でも街がむちゃくちゃだし! こんなの私が発明した悪玉菌エネルギーのせいでしたなんて公表したら、国外追放かも……」

「じゃあどうして悪玉菌エネルギーなんて作ったのよ?」

「し、しかたないじゃないのよ! 私、便秘気味で、なんとかすっきりさせようとして、思いついたんじゃない! 悪玉菌エネルギーで、あんな悪いことするようになるなんて、思ってもみなかったわよ……」

「当たり前じゃない。あたいさ、今むちゃくちゃに悪いことしたい気分だもん」

 と言って、ハミングをするダイヤに呆然とするりこでした。


 都内のある喫茶店。

「僕さ、免許取ろうと思ってて」

 いちごミルクを飲むまき。

「どうして? 剣士であるあなたなら、免許などなくても、馬に乗ればいいじゃありませんの」

 アイスコーヒー(ブラック)を飲むみき。

「あっ。あたし一応オートマ限定持ってますよ?」

 オレンジジュースを飲むゆき。

「まっ。わたくしはそんなものなくたって、魔法のほうきがありますからね」

 胸を張りました。

「でもさ、車あると便利でしょ? 遠出できるし、荷物とかいっぱい持っていけるし」

「まあ。でもあたし、自家用車は持っていないので、ほんとたまにしか乗らないんですよ」

「どういう時に乗るの?」

「親の買い物に付き合う時くらいです」

 まきとゆきは、免許を持ってもその程度にしか使われないのだなと、じゃっかんしらけてしまいました。なんせ、免許を持つことは、ドラマみたいに、かっこがつくものだと思っていたからです。

「そうそう! 車といえば、近頃妙なうわさをお聞きになりませんこと?」

 みきがはりきって聞いた。

「妙なうわさ?」

 と、まき。

「都心で、暴走車両が出現するうわさですわよ。しかも、その暴走車両は、ロボットみたいに変形したり、ビームを出したりできるみたいですのよ?」

「……」

 三人の間に、沈黙が走る。

「あの……。なにか?」

「いや、みき。魔法使いなのはわかるよ? けどさ、そんなファンタジーみたいなことがさ、現実にありえると思う?」

「いやこれファンタジーなんですけど? 現実的なことを述べられると世界観ぶち壊しになりますわよ!」

「あたしも、まきちゃんに賛成です。もっとこう、現実的な話を……」

「あなたもなにしれっと現実求めてるんですか!」

「ほんとにほんとの本当なんだから!」

「あ、でも! 僕前にタイムスリップする空飛ぶ車の映画観たよ?」

「あー知ってます! あたしも好きですその映画」

「いや何年前の映画の話してるんですの!?てか映画の話じゃなくてほんとにあった話だっちゅーの!」

「じゃあ証拠を見せろよ!」

 まきがテーブルをバンと叩いた。みきとゆきはびっくりしました。

「は、はい。見せます……」

 怖気づいたみきは、スマホを取り出しました。

 見せてくれた動画には、確かに、都心でロボットみたいに歩いている車が、ビームを上に下に出して暴走している映像が流れていました。

「編集でもなんでもございません」

「あ、なんか中に女の人がいます」

「ほんとゆきちゃん? あ、ほんとだ!」

「どうやら、この方が事の発端かしらね……」

 みきはスマホを閉じました。

「お二人とも。わたくしたち、正式にヒロインになったのよね? てことは、すべきことは、言われなくてもわかりますわよねえ」

 まきとゆきは唖然とした。みきは、かっこよく戦いに行きたいのでしょう。しかし、自分たちがそんなことできるはずがないと思いました。ゆきなんてただの忍者なので、相手がわけもわからないロボットじゃ、敵いっこありません。

「ああ、わかってるよみき……」

 と、まき。

「ですわね! じゃあさっそく向かいま……」

 はりきったみきに割り込み、

「その前に! 僕たちのチーム名を決めようじゃないか!」

 ハッとするみき、ゆき。ヒロイン三人組には、名前が必要です。


 一方で研究所では、りこが悪玉菌エネルギーを使って、ネズミに実験していました。ネズミに悪玉菌エネルギーが入った光線銃を撃つと、ネズミは巨大な怪物になりました。

「なるほど。悪玉菌は悪い菌だから、このエネルギー受けると、悪になるのね」

「どうよ? お金になりそうでしょ? あんたが望んでいた、自分の発明品で食べていくのも夢じゃないわ」

「うーん……。でも、これは使い方次第ってとこね」

 りこは立ち上がり、言いました。

「でもまあ、いろいろ模索していくしかないかもな。と、その前に……」

 巨大ネズミを見て、

「これをどうにかしないと!」

 ダイヤを抱えて逃げました。巨大ネズミが追いかけてきました。


 都心道路を爆走している車。割り込みをされた女のものです。

「あの割り込み野郎……。どこだ?」

 爆走しながら、前に割り込みをしてきた車を探していました。

 すると、サイレンが聞こえてきました。パトカーです。居所を突き止められたのです。数台追いかけてきます。

「チッ……」

 舌打ちをして、さらにスピードを上げる女。パトカーも、スピードを上げました。

「そこの車そこの車止まりなさい!」

 呼びかけるパトカー。

「しゃあねえな……」

 女はライトスイッチを一段階回す。すると、ブレーキ灯から、赤いビームが放たれました。パトカーは走行したまますべての車両が炎上しました。道路はあたり一面、火の海と化しました。

「はっはっは! 今のあたいは無敵だよ!」

 不敵な笑いを浮かべて、女は超スピードで都心をかけ抜けていきました。


 夜。

「しまった……。昼間の喫茶店で財布がミジンコの涙だ……」

 まきは、すっからかんになった財布に唖然としました。

「今から実家に……って、交通費もないし、冷蔵庫の中もすっからかんだし……」

 食べるものがなにもありませんでした。

「はあーあ……。元はと言えば、実家にある光の剣を売りつけて、お金にしようと思ったんだよな。なのに急に稲妻が降ってきて、夢で神様に怒られて、稲妻の巻き添えをくらったみきと出会って、ネックレスになってしまった光の剣を所持しているだけで、正義のヒロインにされてしまった……」

 まきは、もう一度ネックレスを外そうと試みました。しかし、どうしても外れません。体の一部となっているかのように、首にこびり付いているのです。

「困ったなあ。お風呂に入る時も、面接の時も、証明写真を撮る時もこいつを付けてなくちゃいけないなんて……。みじめだ!」

 がっかりしました。

「もうお腹空いてしょうがない! 寝る!」

 寝る前にお風呂に入ろうと、洗面所へ向かいました。

「え?」

 鏡を見て気づきました。ネックレスが、映っていないのです。でも、ちゃんと首には付いています。

「鏡には映ってない……。まさか!」

 まきは、部屋に戻り、スマホで自撮りをしました。

「写真にも映らないなんて……。やっぱりこれは、みきの言うとおり、神秘的なものなのかもしれない……」

 ようやく、光の剣は本物だと認識し始めました。

「てことは、僕はあの車ロボットと戦わなくちゃいけないってこと?」

 スマホを机に置き、

「でもその前に! チーム名考えなくちゃね」

 みきが言っていたチーム名を考えました。


 そして翌日。まき、みき、ゆきの三人は、同じ喫茶店に集まって、チーム名について案を出し合いました。

「わたくしは、ヒロインたるもの美しくエレガントにあるべきだと思いますの」

 チーム名を書いた紙を出す。

「本日改め、わたくしたちをビューティーズと命名致しますわ!」

「だっせー……」

 しらけるまきとゆき。

「なんなのその反応〜っ!」

 怒るみき。

「だったらあなたたちはわたくしよりとーってもいい名前を思いついたんでしょうね?」

 怒りを募らせながら聞く。

「あ、えっと。あたしはまあこうヒロイントリオなんてどうかなって……」

「ふん。適当に考えたの見え見えだっちゅーの!」

「えー!?」

 みきにどストライクに言われ、ショックを受けるゆき。

「さあまきさん。あなたはどうかしら?」

「それよりさ、みき」

「はあ?」

「僕、ようやくこのネックレスが光の剣だと思い始めてきたんだよ。昨日、このネックレスだけが鏡とスマホのカメラに映らなかったんだ。やっぱり、神様が宿った、剣なのかな?」

「当たり前でしょ? 魔法使いであり霊感のあるこのわたくしが言うんですから、間違いなしですわ」

「え? どういうことなのまきちゃん……」

 ゆきが聞く。まきはゆきに、スマホのカメラを起動し、ネックレスが映らないところを見せました。

「ウ、ウソー……」

 これには驚きを隠せないゆき。

「そこでさ、僕たちであの車ロボットを退治しようよ」

「え!? で、でもまきちゃん。あたしたちは人間だよ? 無理だよ」

「でも、僕これの力を試してみたいんだ」

 みきはフッと微笑みました。

「昨日までわたくしの言うことをバカにしていたはずなのに、本気になるなんて。変なものでも口にしましたの?」

「そ、そういうことじゃ……。だって、鏡に映らないし」

「わかりましたわ。でも、相手がどれだけのものか、計り知れないですわよ?」

 みきはまじめな顔をしました。まきもまじめな顔をして、うなずきました。

「あわわ……」

 ゆきは、当惑していました。


 女は、都心高速を走っていました。百四十キロで走っていました。

「ん?」

 ギロッとにらむその先に、三車線目から割り込んできた車がいました。

「見つけた……」

 不敵な笑みを浮かべる女。

 女は割り込み車に近づくと、思いっきりぶつかりました。

「な、なんだ!?」

 運転手は驚いて、ミラーを見ました。

「うわあ!」

 そこには、後ろからべったりとくっついてくる車が。相手は鬼のような形相をした女。怖くてたまりません。

「死ねえ!!」

 女は叫ぶと、ライトからハイビーム(上向きのビーム)を放ちました。車は大破しました。

「こんなんで済むと思ってんのかちくしょう!」

 女の車は後ろタイヤを足に変えて、前タイヤを腕にして立ち上がる。そして、割り込み車を持ち上げて、空を飛びました。

「上空で空飛ぶ謎の飛行物体が出現!」

 街ではテレビカメラが来るほど、騒いでいました。車が車を持ち上げて空を飛んでいるわけですから、もちろん騒ぎになるでしょう。試験勉強中の中学生も、講義中の大学生も。仕事中のサラリーマンもみーんな空に目を向けていました。

 そんな中、まきはネックレスを光らせて、光の剣を発動。長年地下に保存されていた剣を手に、かっこよくポーズ。

 元々魔法使いのみきも、エレガントにポーズ。

 忍者で人見知りなゆきも、とりあえずポーズ。

「三人合わせて! 20三銃士!」

 三人でかけ声を合わせました。

「20三銃士ねえ。"20"をトゥエンティって言っただけですわ」

 と、みき。

「でも、あたし気に入りました。だって、あたしたち全員二十歳だし、ネーミングセンスありですよ!」

「そんな……。照れるなあ……」

 まきが照れる。

「まあいいわ。とにかく、あの空飛ぶ車を退治しますわよ!」

「おー!」

 と、一声を上げるがゆきは、

「あたしどうやって戦うの?」

 首を傾げました。

 空飛ぶ車ロボットは、割り込み車を抱えて、グワングワンと揺らしていました。中にいる運転手が、目を回しています。

 と、そこへ。ビームが放たれました。割り込み車が離れて落ちました。落ちた割り込み車は、魔法によって、ゆっくりと、地面に着くことができました。

「こら! そこの車ロボット! 自分勝手な運転して、さらに他の車をこんなところで好き勝手するなんて……。この20三銃士が許さないぞ!」

 剣の上に乗っているまきとゆき。

「わたくしたちがお相手しますわ!」

 ほうきに乗ったみき。

「んだよ! てめえらまとめて事故死させてやる!」

 車ロボットは、勢いよく向かってきました。まきとみきはすぐ避けました。

 避けても避けても襲いかかってくる車ロボット。手の出しようがありません。

「わあああっ!!」

 叫ぶ女。

「一旦落ち着きなさいな!」

「目が回る〜!」

 目を回すゆき。

「どうしたらいいんだ!」

 当惑するまき。 

「ロービーム!」

 車ロボットが、ロービームを放ってきました。

「ぼ、僕だって!」

 まきも、剣からビームを撃ちました。ビームとビームがぶつかり合いました。

「お任せなさい!」

 みきも、魔法の杖から電流光線を放ちました。

 二人の光線にやられそうになる車ロボット。しかし、勢力を上げて、車ロボットが勝ちそうになる。

「ぐぬぬ……」

 力むまきとみき。オロオロとしているゆき。しかし思いついて、

「これでもくらえ!」

 手裏剣を投げました。投げた手裏剣が前タイヤに刺さり、空気が抜けました。すると、ロービームの勢力が抜けて、まきとみきが勝ちました。車ロボットは下へ落ちていきました。

「やるじゃん!」

 まきが、ゆきにグッジョブと合図しました。ゆきは照れました。

 下へ降りて、大破した車から出てくる女。立ち上がろうとするのを、まきの剣に止められました。

「ここまでだ!」

「なぜこんなことをする……。ただ、割り込みしてきた車に仕返しがしたかっただけなのに!」

「割り込み?」

「お前らガキにはわかんねえだろうがな! 都心の運転は渋滞は多いし理不尽にクラクション鳴らされたり怒鳴られたりするし、車線も多くて割り込み多いし! だから! そんな車社会に因縁をふっかけようと、車ロボットになったのさ!」

 呆然とする三銃士。

「なのにどうしてマイカーがこんなことになんだよ〜!」

 泣き崩れました。

「はっ! この人……」

 みきは、女の中に、悪いオーラのする、よくないものがあることを認知しました。

「よくはわからないけれど、この方悪いものに取り憑かれているみたいですわ」

「ええ?」

「じ、じゃあどうすればいいんですか?」

「まきさん。あなた、その光の剣は神様が取り憑かれてらっしゃるでしょ? てことは、悪い心を浄化することも可能なはず」

「で、でもどうすれば……」

「いいからやってご覧なさいな!」

 まきは、言われるとおりにすることにしました。

 瞳を閉じて、集中する。すると、光の剣の鍔にある赤い宝石が光り、まきの夢にも出た、神様が出てきました。

『カッとなる前に、安全運転を心がけること!』

 透き通るような声をした神様は、キラキラとしたまばゆい光を女に与えました。すると、女に取り込まれた悪玉菌エネルギーが浄化されていきました。浄化されると、神様は消えて、光の剣も、元のネックレスに戻りました。

「ねえ、この人どうする?」

 横たわっている女を見て聞くまき。

「どうせ逮捕されるんだから、ほっときましょうよ」

 と、みき。

「え、そんな! 正義の味方がそんなこと言っていいんですか?」

 呆れるゆき。

「正義の味方は、時に手厳しいことも大事ですわよ」

「えー?」

 呆れるまきとゆきでした。

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