20三銃士

みまちよしお小説課

1.はじめましてこんにちは

第1話

大学三年生、二十歳はたちのまきは、入学してからずっと東京で一人暮らしをしていました。実家は埼玉にありました。実家は先祖代々お金持ちで、大きな平屋建てでした。

「た、ただいまー……」

 まきは実家のはずなのに、コソコソとしながら門扉を開けて、中に入っていきました。靴を脱いで抜き足差し足忍び足で廊下を進み、台所に来ました。

「ここだな……」

 あたりを見渡してから、床扉を開けました。

 そこには、下へ続く階段がありました。まきは、階段に足を入れました。

「わっ!」

 階段に足を滑らして、下まで落ちていってしまいました。

「あたた……」

 おしりをさすって、立ち上がりました。

「ほんとだ! 伝説は、ほんとだったんだ!」

 まきの実家に先祖代々から伝わってきた伝説……。それは、光の剣というものでした。

「おばあちゃんが言ってた通りだ。幸せを願って、先祖が作った光の剣。地下に保存してあったんだ。神様が取り憑いたおかげか、これまで大きな災難もなく、平和に子孫繁栄できたと言うけれど……」

 まきは、黄金色に包まれた光の剣に見惚れました。

「こんな金色だらけのぶつ、お金にならないわけないじゃないか!」

 目をお金にしました。

「さて、問題はどうやってバレずに運ぶかだけど……」

 と言って、大きな白い布を出しました。

「とりあえずこれに包んで、台所で食べれそうなものあさって、下宿先に帰ればいいか」

 光の剣に触れました。


 空を、ほうきで魔法使いが飛んでいました。

「おーほっほっほ! 魔法があれば大学に行かずに、毎日杖一つでやりたいことやりたい放題ですのー!」

 この一人で高らかに笑っている魔法使いは、みき。まきと同じ二十歳です。住みは東京。実家はお金持ちで、りっぱな洋館のような佇まいでした。まきとは違い、先祖代々魔法使いなのです。しかし、両親からは魔法は世のため人のために使うものだと言われ続け、みきは小学校中学校高校はお嬢様学校に通わされました。家でも学校でも礼儀作法やなんやらのお稽古。

「でも! そーんな縛りに縛られた生活とはおさらばですの。わたくしは先祖代々魔法使いというレッテルを利用して、好きなことを好きなだけして生きていくのですわ! おーほっほっほっほ! おーほっほっほっ!」

 高笑いしていると。

 空に渦を巻いた黒雲が現れて、稲妻が落ちてきました。

「ぎゃああああ!!」

 みきは稲妻を浴びてしまいました。

「へ?」

 光の剣を握っているまきは、上を見ました。

「うわああああ!!」

 まきのところにも、みきが浴びた稲妻が降ってきました。まきは稲妻の光に飲み込まれてしまいました。


 白い光しかない世界で、まきは目を閉じ、横になっていました。

「ったく。近頃の人間はどうしてこうも欲深いのかしら?」

 呆れているのは、白いワンピースを着て、白い天使の羽と頭に天使の輪っかを付けた、神様でした。

「下宿で一人暮らしして大学にも通ってるのに、親の仕送りとお小遣いだけで生活してるからそうなるのよ? わかった、まきちゃん?」

 目を閉じて横になっているまきに説教をする神様。

「はあ……。でもまあ、まだ二十歳だしね。二十年で天国にってのはかわいそうだわ」

 天使は言いました。

「まきちゃん! あなたを特別に生き返らせてあげます。ただし、あなたはこれから光の剣使いとなり、世のため人のため悪に立ち向かうのです。わかったら早く生き返りなさい」

 神様は光の剣をネックレスにして、まきに付けてあげました。


 まきは目を覚ました。

「あれ?」

 体を起こして、あたりを見渡しました。

「なんか、真っ白なところにいて、天使みたいな人に怒られてたような……」

 と、目を丸くしました。

「光の剣が……ない!?」

 目の前に祀られていた光の剣がなくなっていました。

「ええ!? って、なにこの首の?」

 首に、剣の付いたネックレスが付いていることに気づきました。取ろうとしましたが、取れません。まるで、体の一部にでもなったような感じです。

「ゲフッ……」

 まきは、後ろを見ました。そこに、真っ黒になって横たわっている、魔法使いがいました。

「うわあああ!! あんた誰だー!!」

 驚きました。

「そんなことより!」

 と、体を起こすみき。

「お風呂に入りたいんですけど?」

「え? あ、うん……」


「ふふーん♪」

 なにやら楽しそうにハミングをして歩いているのは、ゆき。大学三年生で二十歳。

「はっ! あの子たちは元高校の同級生……。なんでこんなところで見かけるのよ!?」

 あたふたとするゆき。次の瞬間、彼女はサッとジャンプをして、木の上に身を隠した。

 元高校の同級生たちは、わいわいおしゃべりをして、ゆきに気づかないまま、歩いていきました。

 ゆきは木の上から飛び降りました。

「やれやれ。忍者でよかった……」

 ゆきの家は、先祖代々忍者でした。今は東京で下宿生活をしていて、実家は三重県にありました。


 東京の多摩川の近くに、研究所がありました。誰が見ても研究所だとわかりました。だって、入口に大きく"研究所"と表札が掲げられているからです。表札がなければ、ただの戸建て住宅でした。

「はっはっは! ついにできたわよ。悪玉菌を利用してできた、アンドロイドがね!」

 実験台の上で、赤い着物を着たアンドロイドの女の子が瞳を閉じて座っていました。

「この東大出身の天才科学者、りこの名が世界に広められる時が来たのよ!」

 と言って、アンドロイドの前髪をかき分け、おでこを出しました。

「発明品一号! 目覚ーめよ!」

 おでこを指で押しました。アンドロイドはゆっくりと、瞳を開けました。

「わかる? りこのことがわかるかしら?」

 ニコニコしながら手を振るりこ。

「ガキじゃないだから手振るんじゃないわよ……」

 蔑まれました。りこは呆然としました。

「あたいは悪玉菌を利用し、発明されたアンドロイド! だったら、そのエネルギーをもっとすごいことに使ってみたいと思わない?」

「す、すごい……。起動してわずかでそんなにしゃべれるなんて……」

 りこは感動で涙を流した。アンドロイドは唖然とした。

「めそめそしてんじゃないわよ!」

 アンドロイドは、りこをハリセンで叩いた。

「あたいの悪玉菌だらけのエネルギーを、有効活用しなさいよってからに!」

「そ、そうね。ていうかまず、あなたの名前を決めなくちゃ」

「名前? そんなのいらないわよ」

「そんなこと言わないでよ。名前なかったら、呼ぶ時困るし」

「ふん。だったら悪玉菌からできたんだし、女の子なんだから、う○こでいいじゃないのよ」

「いや、女の子ならなんでも"こ"を付ければいいものじゃないと思う……」

「ねえ、それなに? 指に付けてるやつ」

 アンドロイドは、りこが左の薬指に付けているものを指差しました。

「これは結婚指輪よ。こう見えて、私結婚してるのよ」

「へえー」

「でも、今はもう……」

 りこは、パソコンの隣に置いてある写真立てを見つめました。

「輪っかに付いているものがきれいね」

「ダイヤモンドよ」

「じゃあ、あたいの名前は今日からダイヤね!」

「え、いいのそれで?」

「名前なんかなんでもいいのよ! それより、あたいにある悪玉菌エネルギーを有効活用できる方法を考えなくちゃね!」

 名前改めて、ダイヤはウインクをしました。


 偶然の出会いをしたまきとみきは、歩いていました。

「つまり、あんたはその魔法のほうきで空を飛んでいたところ、稲妻にやられたってことか?」

「そういうことですわ」

「あっはっは!」

「なにがおかしいんですの!」

「あんた僕と同じ歳なのに、子どもみたいなこと言わないでちょうだいよ」

 バカにするまき。

「なっ! じゃなどうしてわたくしはあなたの家の地下なんかに落ちてきましのよ?」

 怒るみき。

「そ、それもそうだよね? まさか! 光の剣を狙って、忍び込んできたな?」

「光の剣? もしかして、その首にしているもの?」

 首にしているネックレスを指差すみき。

「そこから、なにやら神秘的なオーラを感じますわ。で、光の剣ってなんですの?」

「いや、まあ言い伝えみたいなものっていうか、先祖が平和を祈願して、光の剣というのを作ったんだ。その後神様が乗り移ったとかいうのが言い伝えなんだけど……」

「その光の剣が、ずっと地下にありましたのね」

「そう。まさかそれがいつの間になくなっているなんて……。やっぱり君盗んだんじゃないの?」

「わたくしは盗みなどしなくても、この魔法の杖がありますから」

 みきは袖から、魔法の杖を出しました。

「またまたあ」

 ニヤリとするまき。みきは、杖を一振りしました。すると、近くの電柱が大蛇に変わりました。

「うわあ!! ヘビだあ!!」

 驚くまき。

「これでわかったかしら?」

「ひい〜っ!」

「このままこの子を丸飲みしてしまいなさい!」

 大蛇が襲ってきました。

「危ない!」

 瞳をぎゅっと閉じた時でした。

 まきのネックレスが光って、その光が剣の形と化し、地下で祀られていた、光の剣になりました。

「え、え?」

「すばらしい! そのネックレスこそ、光の剣なのよ!」

 みきは感激した。

「え?」

「光の剣に神様が取り憑いているのは本当ですわよ? わたくし、魔法使いだから、霊感もいっちょ前にありますの。あなた、ネックレスになる前に、なにか光の剣にした?」

「え? えーっと、ま、まあいろいろあって、光の剣がほしくて、触ったらなんか光に包まれて、夢の中で天使みたいな人に怒られて……」

「とにかく! その光の剣には、神の力が宿り、戦うことができるのですわ。さあ、試しに大蛇と戦ってみなさいな!」

「えー!?」

 大蛇が迫ってきました。

「ぼ、僕こう見えてビビリなんだあ!」

 逃げました。

「こら逃げるな!」

 みきは魔法の杖を使って、逃げようとするまきを引き戻した。

「その剣は世界を守るための証! さあ、まずはこの大蛇を切り裂くのですわ!」

「勘弁してくれ〜!」

 叫んだ時でした。

 光の剣から光線が放たれて、大蛇に撃たれました。大蛇は苦しみ、元の電柱に戻りました。

「はあ……。怖かったあ……」

 ホッと胸を撫で下ろすまき。同時に、光の剣はネックレスに戻り、まきの首に付きました。

「なるほど……。その光の剣は、神の力と、あなた自身の力によって、発動するようですわね」

「なにを言ってるんだあんたは! もうなんなんだよこれ! 状況もなにもかもわからない!」

 戸惑うまき。

「戸惑うことなくてよ? つまり、稲妻はあなたが光の剣に触れたことで、戦士として選ばれた証なんだわ。わたくしは魔法しか使えないけれど、諸々のサポートは致しますわよ?」

「僕は正義のために戦うことはできない!」

「でもそんなの付けてるんだから、しかたありませんの!」

「だったら外してやる〜! ぐぬぬ〜!」

 踏ん張っても外れないネックレス。

「はあ……」

 落ち込むまき。

「やれやれ」

 みきは肩をすくめました。

 と、そこへ。突然近くの塀の壁がめくれました。まきとみきは抱き合って驚きました。

「あ、ども……」

 壁に変化へんげしていたゆきは、そのままそそくさと立ち去ろうとしました。

「待てよお前! なにしてたんだよこんなところで!」

 まきとみきにつかまりました。


 研究所では、アンドロイドダイヤの悪玉菌エネルギーをいかに活用するかについて、考えていました。

「私はアンドロイド以外にも、家電など電化製品も作っていきたいので、エネルギー源にするのがいいと思います」

「うーん……。そんな普通の使い方でいいの? あたいはもっと、誰も思いつかないようなのがいいと思うけどな」

「えーそうなの?」

 もう一つ考えました。

「じゃあさ、化学者に頼んで、悪玉菌エネルギーで薬を作ってもらう?」

「それじゃあ、あんたの手柄にならないでしょうが」

「じゃあダイヤちゃんはなにがいいと思う?」

「ふふーん」

 ダイヤはフッと微笑みました。

「あたいは悪玉菌でできたアンドロイド。悪玉菌は悪い、つまり、悪いことをすればいいのよ!」

「そ、そんなのダメよ! 私だって一応社会人なんだからね?」

「え? あんたここで研究者として悪いことしてるんじゃないの?」

「ここはコツコツと貯めて買った、売り物件だったの。研究者というのは仮の姿で……」

 りこは白衣を脱ぎ捨て、

「ただのOLでーす!」

 スーツになりました。

「なによ? あんたは悪いことしてやろうとか、普段できないことしてまわりの人をあっと言わせてやろうとか思わないわけ?」

「まあ、そう思ってる人は、たくさんいるだろうね。でもそういうのは、どこかでストレス発散して、すっきりさせてるのよ?」

「ストレス発散?」

「そう。だから、普段できないけどやりたいことを我慢していても、ストレス発散しちゃえば、自然とどうでもよくなってたりしちゃうんだよねえ」

「それよ!」

 ダイヤは声を上げました。

「普段できないけどやりたいことをできるようにしてあげる。そういうことを、悪玉菌エネルギーに活用してやんのよ」

「は、はあ……」

「わかったら準備に取りかかりなさい!」

「は、はい!」

 りこはわけもわからないまま、準備に取りかかりました。


 公園に連れて来られたゆきは、当惑していました。

「なんなんですかあなたたちは! お金なら持っていません!」

「あ、いやそういうつもりじゃ……」

 と、まき。

「ウソです! 百円なら……」

 震えながら百円を差し出すゆき。

「いや百円なんていりませんわ!」

 と、みき。

「あなた、忍者みたいなことをしてましたけど、忍者ですの?」

「ひっ! え、ええまあ忍者ですけど? 先祖代々、家族は忍者で、学校以外は修行をするのは日常茶飯時でしたけど?」

「あ、その僕たちはいろいろあって、出会ったんだけど、その……悪い人じゃないから!大学生だから!」

 まきはあわてて両手を振りました。

「あ、あたしも大学生です」

「ほんと!?」

「わたくしは魔法使い!」

 にこやかに名乗るみきに、まきとゆきは、しらけた目を見せました。

「なんですのその目は!」

「早い話、これを見せたほうがいいですわね」

 みきは、魔法の杖を出しました。

「こ、これ?」

 当惑するゆき。

 みきは、すべり台を巨大なにわとりに変えました。

「あ、あれと戦えと?」

 唖然とするまき。

「さあ、やっておしまい!」

 巨大にわとりが、ゆきを襲いに行きました。

「あわわ……」

 腰が抜けて動けなくなったゆき。

「ゆきちゃん!」

 まきが叫んだその時、ネックレスが光り、光の剣になりました。

「たあーっ!」

 まきは勢いよく飛び上がり、光の剣を巨大にわとりに振りかざしました。気絶した巨大にわとり。ポンと音を立てて、フライドチキンになりました。

「どうかしら?」

 ゆきは呆然としました。

「あなたもわたくしたちといっしょに! 剣士、魔法使い、忍者が揃えば、いっちょ前のヒロインになれること間違いなし……ですわ!」

 ゆきは、呆然としていました。


 都心道路。渋滞にハマった女がイライラしていました。

「ったくせっかく早帰りだってえのに……。都心はどうしてこうも混むのかしら?」

 前が進んで、やっとこさ進めるとアクセルを踏もうとした時でした。

 隣の三車線目から、車が割り込んできました。急ブレーキを踏んだので、ぶつけずに済みました。

 後ろからけたたましいクラクションを放たれました。

「おいふざけんじゃねえぞ! いきなり止めてんじゃねえ! 死にてえのか!」

 急ブレーキにムカついた後続車に、怒鳴られました。女はよりいっそうイライラを募らせました。

「りこ、あの女に悪玉菌エネルギーを放つのよ!」

 一車線目にいるりこが、運転席から光線銃を放ちました。光線は、女に当たりました。女は紫色の光に包まれました。

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