8.アイちゃん改造計画

第8話

小学校のチャイムが鳴りました。

「やれやれ。次は体育か……」

 落ち込むゆうき。

「なによゆうちゃん。体育楽しいじゃん」

 と、まなみが励ましました。

「そうよ。今日はバスケよ?」

 あかねも励ましました。

「二人は体育が好きかもしんないけどさ、私は苦手なの」

「ゆうきさん残念ですわね」

 アリスの声。

「わたくしは今日体操服を忘れてしまいましたので、見学をさせていただくことになりましたの。おほほほ!」

「えーいいなあアリスは。私も体操服を忘れてこればよかったな」

 しぶるゆうき。

「いや、わざと忘れただろあんた……」

 まなみとあかねは呆れていました。

「ねえねえ。体育の時間は、体操服に着替えるんだよね?」

 アイちゃんが聞いてきました。

「そうだよ」

 と、ゆうき。

「わかった。じゃあアイ、着替える!」

 アイちゃんは、その場で服を脱ぎ始めました。

 目を輝かせる男子たち。

「わわーっ!!」

 あわてるゆうき、まなみ、あかね、アリス。

「こらこらアイちゃん!」

 と、まなみ。

「こんなとこで着替えようとしちゃダメでしょが!」

 と、アリス。

「え? でも着替えるって……」

「女子は女子更衣室で着替えるのよ! ほら、行くよ?」

 アイちゃんの手を引いて、女子更衣室へ向かいました。男子たちから、ブーブー不平が飛び交っていました。

 女子更衣室で、アイちゃんは体操服に着替えました。

「あれ? ゆうきちゃん胸につけてるのなあに?」

「え? ブラジャーのこと?」

「ブラジャー? 見せて見せて」

 アイちゃんは、ゆうきのブラジャーを触ってきました。今にも脱がされそうです。

「き、きゃあ!」

 ゆうきの悲鳴。

「やめなさい!」

 まなみとあかねがアイちゃんの頭にチョップを入れました。

 授業中、のんきにバスケを楽しんでいるアイちゃんを横目に、ゆうきたちが話をしていました。

「びっくりしたよさっきは」

「だろうねゆうき。あたしも、アイちゃんがあそこまでするとは思わなかったしね」

「なんであんなことしたんだろう? やっぱアンドロイドだから、していいことと、しちゃいけないことの区別がつかないのかな?」

「ううん」

 と、首を横に振るまなみ。ゆうきとあかねは、まなみに顔を向けました。

「まなみ思うんだけど、アイちゃんはりかが作った発明品じゃん? つまりさ、アイちゃんはりかの性格が混じってたりするんだよ」

「まなみ、というと?」

「アイちゃんは、りかみたいに変なやつっぽいとこもあるってこと」

 りかみたいにヘラヘラしているアイちゃんを想像しました。気持ち悪くて気分が悪くなりました。

「い、いやいやもしかしたら、遠隔操作してた可能性もあるかもよ?」

 と、ゆうきが言いました。

「ほら、ヨーチューブにアイちゃんのことアップするために、カメラを内蔵してるとか言ってなかったっけ? それを見ながら、あやつってたりするかも……」

「なるほど。りかも大したことするわね」

 あかねが感心しました。

「お、憶測だよ憶測」

「ヘイパスパス!」

 楽しそうにバスケをするアイちゃん。男女問わず、相手にしているみたいです。

 授業がおわり、休み時間。

「アイのケツターッチ!」

 男子が、アイちゃんのお尻を触ってきました。

「……」

 呆然とするゆうき、まなみ、あかね。

「じゃあ俺アイの胸ターッチ!」

 別の男子が胸を触ってきました。

「どうしたの?」

 アイちゃんは、首を傾げるだけで、いやがる素振りを見せません。

「マジかよ。じゃあ俺アイとチュ〜!」

 おちょぼ口でキスを迫る男子。そこへ。

「ええ加減にせんかい!!」

 まなみの鉄槌が下りました。

「あんたら年頃の女の子に変なことしてんじゃないわよ!」

 あかねも応戦。

「なんだよお前ら! お前らに年頃の女の子なんて言う資格ねえんだよ!」

「なんだと!」

「ケ、ケンカはダメだよあかねちゃん……」

 と、ゆうきが言いました。

「アイちゃんもアイちゃんよ? 変なとこ触られて、平気な顔をしない!」

 怒るまなみ。アイちゃんは、首を傾げました。かわいい顔をしていました。


 放課後、りかに今日のことを話しました。

「まあ、アイはどのアンドロイドよりも人らしく話せるように発明した品だからね。だけど、本物の人間が持つような感情をすべて持ち合わせてないのよ」

「とは言ってもねえ。これじゃ男子たちに好き放題されるばかりよ」

 と、まなみ。

「そうね……」

 りかは考えました。

「ていうか、アイちゃんはどうやって生まれたんだっけ?」

 ゆうきが言うと、りかは目を輝かせました。

「実験室にゴー! アイもおいで!」

「はーい」

 アイちゃんは返事をしました。

 実験室に来ました。

「アイはこれでできたの」

 ドーム型をしたわっかに、コードがいくつもついた機器を見せました。

「前にも説明したけど、これをアイとあたしの頭につけて、脳波検査の仕組みで、あたしからアイに人間らしさを分け与えたのよ」

「へえー」

 ゆうきが感心しました。

「んじゃあさ。アイちゃんは、おしりを触られたら、恥ずかしがってもいいんじゃない?」

 あかねが聞きました。

「そうするには、恥ずかしがり屋の人が必要になるわ」

「恥ずかしがり屋?」

 ゆうきたち三人そろって声を上げる。

「そう。あたしは平常心のままにアイに人間らしさを分けてやったから、分けてやる人間様が、常に緊張強いなら、アイも恥ずかしがり屋になるはずなのよ」

「じ、じゃあ恥ずかしがり屋の人を探して……」

 と、ゆうき。

「その子からアイちゃんに分けてもらえばいいのよ!」

 と、まなみ。

「でも恥ずかしがり屋の知り合いなんていたかしら?」

 と、あかね。

 さっそく連れてきました。

「なんですかいきなり?私は恥ずかしがり屋じゃありませんけど?」

 学級委員のまいが来ました。

「おほん」

 と、りか。

「君に任務を言い渡す! 実は、このアイという女の子は、アンドロイドなのだ!」

 背中を開けてみせました。

「ええ!?」

 驚くまい。

「アイはやがて、人類に認められる製品になるだろう。人類の未来がかかっているのだ。そこで! りっぱなアンドロイドになってもらうために、君に手伝ってもらいたい」

「わ、私ですか?」

 ぶるぶる震えるまい。

 さっそく実験台に横になるまいとアイちゃん。

「じゃ、つけるわよ」

 りかは、緊張しているまいに、機器をつけました。アイちゃんは、きゃっきゃっ言いながら、機器をつけてもらいました。

「それじゃ、アイをより人間らしくする作戦、スタート!」

 スイッチを押しました。

「あわわ……」

 ただ震えるまい。

「おお……」

 感心するアイちゃん。

「はいおしまい」

 りかは、二人から機器を外しました。

「な、なんともなっていない……」

 まいは、自分の手のひらを見つめました。

「で、アイちゃんは?」

 ゆうきたち、りかはアイちゃんを見ました。

「……」

 あたりを見渡すアイちゃん。

「ひっ!」

 ぶるぶる震えるアイちゃん。

「だ、誰なのあなたたちは! アイ、怖い!」

「え?」

「こ、怖い! 怖いよ〜! うわ〜ん!」

 涙は出ていないけど、アイちゃんが泣きました。

「怖がりになってる!!」

 みんなでがく然としました。


 翌日。

「怖い怖い怖い〜!」

 学校に来たまではいいけど、怖がって机の下に潜り込んでしまったアイちゃん。

「どうする?」

 と、まなみ。

「知りませんわよ」

 呆れるアリス。

「ア、アイちゃん」

 ゆうきが声をかけました。

「怖くないよ。私たちみんないるしさ。ね?」

 アイちゃんは少しゆうきを見つめてから、またうずくまりました。

「そうやってアイのことだまして、あんなことやこんなことをするんだわ! ううんきっとそうよそうなのね!」

「えー?」

「あなた、ああいうキャラでしたの?」

 アリスがまいに言いました。

「なわけないでしょ! 私は普通の性格です!」

 怒りました。

「じゃあどうしてあんなに怖がりになったんだろうね」

 あかねが言うと、みんな首を傾げて考えこみました。

 音楽が聞こえました。

「あ、あたしのスマホだ」

 あかねがポッケからスマホを出しました。

「ちょっとあかねさん! 学校にスマホ持ち出し禁止ですよ?」

 まいの注意は耳にせず、あかねは電話の相手をしていました。

「あ、りかじゃない。なになに?」

「あのね、アイのことなんだけど、原因がわかったのよ」

「みんな聞いて! りかが、アイちゃんの怖がりになった原因わかったって」

 みんなあかねに群がりました。

「で、どういうことなのかしら?」

 アリスが聞きました。

「まいちゃんさ、機器をつけた時、過度に緊張してなかったかな?」

「だって」

 あかねに言われる。

「え? ま、まあ緊張しましたよそりゃ」

「だってりか」

「そうか。となると、アイが怖がりになった原因は、その緊張していた気持ちがそのままインプットされたってことだと思うの」

「緊張してた気持ちが?」

 みんなで声をそろえて返答。

「あたしの時は、楽しみというか、すごくウキウキしてたから、その気持ちがアイにまんま反映されたんだよきっと。アイは、人間のありのままの気持ちを読み取るアンドロイドなんだよ」

「ただのおしゃべりロボットってわけじゃないんだね」

 ゆうきが納得しました。

「切るわよ」

 あかねが通話を切りました。

「じゃあさ、アイちゃんにもう一度別の人と実験させたらいいんじゃない?」

 まなみが言いました。

「そうだね。でも、あの状態のアイちゃんを、どうやって連れ出すか……」

 あかねがアイちゃんに顔を向けると、そろってみんなもアイちゃんに顔を向けました。アイちゃんはいまだに泣きながら、机の下にうずくまっていました。


 科学の娘りかの実験室に来て、さっそく誰がアイちゃんの実験に付き合うか決めることにしました。

「誰にする?」

 と、ゆうき。

「そりゃまあ、実験に緊張しない人でしょ」

 と、まなみ。

「だからそれは誰よ?」

 と、あかね。

「ま、わたくしには怖いものなんてありませんけど」

 と、アリス。

「ていうか、なんで私の気持ちを分けてあげて、あれだけ怖がりに仕上がるんですか!」

 と、まい。

「みんなアイなんかと実験したくないのね……」

 しくしく泣くアイちゃん。唖然とするゆうきたち。

「みんな決めた?」

 りかが、お盆にのせたジュースを持ってやってきました。

「返事がない。まだ決まってないなら、じゃんけんすればいいじゃん」

 じゃんけんをすることにしました。

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

あかね、まなみ、アリスが残りました。

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

 グー、グー、パー。

「わたくしの勝ちですわ」

 アリスはアイちゃんと並んで横になりました。

「じゃあ始めまーす。スイッチオン!」

 実験が開始されました。

「はいおしまい」

 頭の機器を外されるアリスとアイちゃん。

「どうかな?」

 ハラハラしているゆうきたち。

「……」

 アイちゃんは。

「おーっほっほっほ!」

 お嬢様笑いをしました。

「アイお嬢様とお呼び? おーっほっほっほ!」

「えー……」

 唖然とするゆうきたち。

「アリス! あんたこれどういうことよ!」

 怒るあかね。

「知りませんわよ! アイちゃんに聞いてみたら?」


 翌日。

「おっほっほ!」

 六年一組の教室でお嬢様笑いをしているアイちゃん。生徒たちが呆然としていました。

「はあーあ。紅茶が飲みたいですわ。そこの子羊、持ってきてまいれ」

「え? お、俺?」

「そなたしかおらぬだろう。おーっほほほ!」

「和と洋が混ざってる……」

 唖然とするまい。

「こ、紅茶なんか持ってないよ」

「使えぬの〜。じゃあ体を揉め」

「えっ!?」

「いいから揉め」

 アイちゃんは男子の机に座って、強要しました。男子は言われるままに、まず肩を揉めました。

「次は足じゃ。足を揉め」 

 男子はドキドキしながら、アイちゃんの足を揉みました。

「アリス〜?」

 ゆうきたちが、アリスをにらみました。

「いやいやわたくしをにらまれてもどうしようもありませんわよ!」

 怒りました。

「じゃあなんで和と洋が混ざったしゃべり方をしてて、男子に足を揉ませるのっ?」

 ゆうきが聞くと、アリスは答えました。

「だから知りませんってば! 足と肩なんか揉まれたくありませんわ!」

 しかし。

「でも、わたくしおばあちゃんがいるんですけど、毎日時代劇を欠かさず観てますのよ?」

「待って。昨日実験してたのって、だいたい三時すぎでしたよね?」

 まいが言いました。

「三時すぎなら、おばあちゃんが時代劇を見ている時間ですわ。あ、そうだ。ちょうどおばあちゃん今頃時代劇観てるかなあって、考えていたのよ」

「それだー!!」

 ゆうきたちはひらめいて声を上げました。

「足はもうよい」

 アイちゃんは、床にうつ伏せになりました。

「なな、なになに?」

 驚く男子。

「腰を揉め」

「……」

 男子の元に、稲妻が落ちました。

「いいぞやれやれー!」

 他の男子たちまで見物に来ていました。

「アイ!」

 男子は、アイちゃんの腰をつかもうとしました。

「てーい!」

 アリスが男子に飛び蹴りしてきました。

「ぐはっ!」

 倒れました。

「これ以上アイちゃんに好き勝手させないわよ?」

 まなみとあかねが、アイちゃんをかばいました。

「なんじゃお主ら?」

「女は怖いんですのよ?」

 アリスは飛び蹴りした男子の上に乗っかって、グーパンしてやりました。他の男子たちはプロレスの見物でもしてるみたいに、騒いでいました。

「なんかすごいことになってる、とてもついていけない……」

 当惑しているゆうきでした。

「こらあなたたち!」

 ケンカの現場に現れたのは、まい。

「教室では騒がない! 騒ぎません!」

 ビシッと言ってやりました。

 しかし、それも馬の耳に念仏。すぐケンカが始まってしまいました。

「こらあなたたち! だいたい小学六年生という自覚があるんですか!」

 まいまでケンカに入りました。

「おもしろそうじゃの!」

 アイちゃんまでケンカに入りました。

「あ、こらー!」

 まなみとあかねもアイちゃんを追いかけて、ケンカに入りました。

 一組は、わーわー騒がしいクラスになりました。

 バンッ! 教室の扉を開く音がして、生徒たちみんな注目しました。

「なっ!」

 目も口も丸くするゆうき。

「あ……」

 目も口も丸くする生徒たち。

「早く席に着きなさーい!!」

 クラスで一番怖い担任の雷が落とされました。


 科学の娘りかの実験室に来て、みんなで話し合いました。その結果、アイちゃんは今までどおりにしようということになりました。結局はアンドロイドなんだから、これ以上求める必要はないということです。

「あ、あの。でも私、ちょっと気になるかも。その、私とアイちゃんが実験したらどうなるか」

 というわけで、ゆうきとアイちゃんが実験することになりました。結果がわかったらすぐ、今までどおりにするそうです。

「まあリラックスしてて。いつもどおりでいいからね」

「うん」

 ゆうきは、リラックスしました。すると、頭の中で、なぜかペンギンの顔が、イケメンの体と合成される想像が浮かびました。

「ふふっ」

「スイッチオン!」

 想像笑いをしたまま、実験がおわりました。

「まあでも、ゆうちゃんだったら今までどおりのアイちゃんだと思うけどね」

 しかし。

「うふふ……。あははは!」

 アイちゃんは突然笑い出しました。

「どうしたのアイ!」

 驚くりか。

「あはは! ううん別に。なんか、ペンギンの顔をイケメンの体と合成した想像したの。うふふ!」

 みんなゆうきに顔を向けました。

「すみません。たった今そういうことを想像しました……」

 恥ずかしがるゆうき。

「あははは!」

 笑い続けるアイちゃん。

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