7.科学なんかだいきらい!からくりロボット

第7話

りか、ゆうきたちの住む街の一角に、商店街がありました。しかし、近くに大型ショッピングモールができた影響で、一店舗一店舗ずつ、シャッターが降ろされていきました。残った店舗は、実に十店舗。全員老人の方々が営んでいました。

 ある日魚屋の居間にその老人たち全員で集まって、会議をしていました。

「どいつもこいつも、世の中が発展してきたせいだ」

 と、魚屋の主人。

「若い子はおろか、中年の人たちまで手に電子機器を持って、指でスイスイいじくってるよ」

 と、魚屋の奥さん。

「他の商店街でやってた連中は、みーんな新しくできた大型ショッピングモールのが稼ぎがいいからって、そっちに逃げていった!」

 と、和菓子屋の主人とうなずく奥さん。

 あーだこーだと意見を述べる残った商店街の人たち。肉屋に八百屋、骨とう品屋に瀬戸物屋、着付け屋、古本屋、お茶屋、うどん屋。

「科学の発展のせいだ! みんな科学の発展が悪いんだ!」

 肉屋の主人が声を上げました。すると、他の商店街の人たちも、「そーだそーだ!」と声を上げました。

「あ、そうだ。科学といったら、とっておきの情報があるんだけど」

 古本屋の主人が言いました。

「なんだい?」

 と、和菓子屋の奥さん。

「あんたらは科学の娘を知っとるかい。ほら、この街の一角にあるあの科学の娘りかって看板掲げとるさ」

「あー確かになんかあったような気がするな」

 肉屋の主人が思い出しました。

「この商店街にわしらだけ残し、大型ショッピングモールへ行ったやつらも、きっとわしらがなんかしらの手を打てば、戻ってくるかもしれんぞ?」

「どういうことですか古本屋さん?」

 上品な着付け屋の奥さんが聞きました。

「ふふっ」

 笑って、

「わしの店に来ればわかる!」

 と、言いました。


 ゆうきたちは、大型ショッピングモールに来ていました。まだ来たことがなかったので、見に行ってみたいと、まなみが提案したのです。

「広ーい!」

 感激しました。

「なんでこのわたくしが君たちを大型ショッピングモールに連れて行かなくちゃならないの?」

 ムスッとしている魔導師のるな。

「りかが仕事だからって、わたくしたちについてきてくれないし、そこで、あなたをお供させていただくことにしました。ただそれだけのことですわよ」

 と、アリスが言いました。

「わたくしだって、暇じゃないのよ!」

 怒りました。

「アイ、こんな広いとこ来るの初めて!」

「私も!」

 アイちゃんとゆうきは、目をキラキラさせていました。


 科学の娘りかでは、実験室でりかがなにやら発明をしていました。

「できた!」

 エアコンを作っていました。

「あ、もしもしりかですけど。頼まれた品が本日できあがりましたので、来てもらって結構ですよ。了解でーす」

 スマホを切りました。

「はあ……。毎日毎日家電ばかり作る生活。でも、いつかはスメールバスターズとか、モーターシューズとか、おもしろアプリ君を世に知らしめてやるんだ! うふふふ!」

 はめていた手袋を取ると、

「コーヒーでも飲もうっと」

 居間へ向かいました。

 向かうと、インターホンが鳴りました。

「なに? もう業者さん来たの? おかしいな、相手は北海道の人だから、すぐ来るはずないんだけどな」

 ドアを開けました。

 すると、目の前で、ロボットみたいな手が襲いかかってきました。

「か、変わった業者さんだこと……」

 うまく交わしたりかは、外に出ました。

「あの、業者さんなら業者らしく、もっとちゃんと家に……」

 見上げました。

 そこにいるのは、木でできたロボットじゃありませんか。

「ふははは! 現れたな科学の娘りか! きさまに復讐を果たす時が来た!」

「果たす時が来た!」

 ロボットに乗っている古本屋の主人に続いて、その他の商店街の人たちがやってきました。

「なな、なんですかあなたたちは!」

 あわてるりか。


 ゆうきたちは、ゲームセンターに来ていました。

「アイちゃん、ユーフォーキャッチャーしよっか」

 ゆうきが誘いました。

「ユーフォーキャッチャー?」

「そう。百円入れて、操作するだけ。取るのがむずかしいけど」

 アームを動かして、ぬいぐるみを掴みました。しかし、ゴール手前で落ちてしまいました。

「あちゃー! アイちゃんもやってみる?」

「うん!」

 アイちゃんも、百円を入れて始めました。

「うーんとえーっと」

 アームを動かす時の感覚がいまいち掴めないようです。なので、左右前後にアームを動かしているだけで、商品を掴むことができません。隣で見ているゆうきは、唖然としました。

 まなみとあかねは、車のゲームをするそうです。今、お互いが決めた車が、スタート地点にいるところです。

「まなみ、あかねには負けねい……ないから」

 と、かんだけどクールに。

「あたしこそ。走り屋の意地を見せてやるわよ」

 と、クールに。

 三つカウントダウンで、始まりました。

「うおおお!!」

 まなみとあかねは、フルアクセルで、コースを走りました。しかし、車がガードレールにぶつかり放題でした。

「あんなこと、現実でしたら免停よ」

 るなが呆れました。

「るなさん。わたくしたちは、プリクラをしましょ?」

「プリクラ?」

 手を引かれ、プリクラ機に連れて行かれました。

『もっとくっついて! はい、ポーズ!』

 プリクラ機の案内に従い、アリスがるなに肩を寄せて、ピースしました。るなは恥ずかしがりながらも、カメラに顔を向けました。

 写真が出てきました。

「ほら、これができあがりですわよ」

 写真を見せました。

「うわ……」

 引きました。だって、プリクラで撮れた自分とアリスの目が、でかくなっているからです。


「そのロボットすごいね!木でできてるの?」

 りかは、古本屋の主人が乗っているロボットに触れました。

「触れるな!」

 ロボットの腕が、りかをはじき飛ばしました。

「いったあ……なにすんの!」

「わしのからくりロボに手を触れるなんざ、お前さんには十年、いや百年、いや一万光年早いわ!」

「か、からくりロボ?」

 頭をさすりながら起き上がるりか。

「そうだよ。この人の発明品、からくりロボット。からくり人形を知っているかいお嬢さん? それと同じ仕組みで動くロボットなんだよ」

 和菓子屋の奥さんが説明しました。

「俺たちは、お前をどうしても成敗しなければならない!」

 肉屋の主人。

「なぜなら、最近できた大型ショッピングモールに!」

 八百屋の主人。

「私たちの商店街で働いていた他の人たちが、みーんな行っちまってね……」

 涙する魚屋の奥さん。

「そこで、街で一際騒がれているあんたを倒し、わしらのすごさを思い知らせてやりたいのだ。そうすれば、大型ショッピングモールに行ってしまった連中がもどってくるという魂胆だ!」

 からくりロボットに乗っている本屋の主人がしめました。

「ふーん」

 りかは空返事しました。

「ふーんとはなんだふーんとは!」

 うどん屋の主人が怒りました。

「いや、まあね」

「まあいい。科学にほんろうされているお前には、わしらの気持ちなどわかるまい。からくりロボットのすごさを、思い知るがいい!」

 ロボットの腕が、りかに襲いかかってきました。りかは、あわててけました。

「腕の操作は、まず左右のレバーを動かせばちょちょいのちょいだ」

 続いて、りかを蹴ろうとするからくりロボット。りかは、その足をあわててジャンプし避けました。

「足は、腕のレバーの下のレバーを動かせばよし」

 りかに容赦なく降り注ぐからくりロボットのパンチにキック。

「はあはあ……」

 息を切らすりか。

「おやおやもう疲れたのかい?」

 と、魚屋の奥さんの声。商店街の人たちが、佇んでいました。

「……」

 息を切らしながら、呆然とするりか。


 るな、ゆうきたちは、服を見ていました。

「ゆうちゃん、あんたこういうの似合うんじゃない?」

 まなみが革ジャンを見せてきました。

「ええ!? そ、そんなハデなの無理だよ……」

「なにためらってんのよ? 女の子は、何色でもなれるって言うでしょ?」

「で、でも……」

 ゆうきも、まなみに服を探しました。

「ま、まなみちゃんなんか、こんなの似合うんじゃない?」

 へそ出しシャツを見せました。

「……」

 まなみが照れました。ゆうきも恥ずかしくなってきました。

「るな、これ着てみてよ」

「これもですわ!」

 あかねとアリスが、るなに試着をすすめてきました。

「あのねあなたたち。わたくしはファッションで着飾るなんてことはしないの」

 腕を組んでそっぽを向きました。

「えーじゃ、なんでクレオパトラの格好してるの?」

「そうですわ。ただでさえ着飾ってるのに」

「別にこれはクレオパトラじゃなくて、魔術師にふさわしい格好だなと思って着ているのよ!」

「ふーん」

 ジトーっと見つめてくるまなみとアリス。

「そんな目してきても、着ないものは着ないからね?」

「ふーん」

「……」

 結局、目線に負けて、試着室に入ったるな。ハイタッチするあかねとアリス。


「こうなったら! あたしも発明品で対向するよ! うわあ!」

 からくりロボットがパンチしてきました。

「お前を倒すんだ。科学の力など出ないようにしてやる!」

 と、古本屋の主人。

「困ったなあ……」

 頭をかくりか。

「でも、そっちだって発明品で対向してきてるよね?」

「なに?」

「だったらこっちだって、おのれの発明品をお見舞いするまでだ!」

 りかは、実験室へ向かいました。

「ま、待て!」

 古本屋の主人は追いかけようとしましたが、ロボットに乗っているので、どうしようもありません。

「私たちにまかせて!」

 魚屋の奥さんが言うと、商店街の人たちが一斉に実験室に向かいました。

「かたじけない」

 と、古本屋の主人。

 しかし、科学の娘りかに初めて来る商店街の人たちですから、どこに実験室があるかわかりませんでした。なので、台所に居間、トイレにお風呂と、行き当たりばったりでした。

「はっはっは! 実験室は地下にあるのだ!」

 りかの声がしました。商店街の人たちは、キョロキョロあたりを見渡しました。

「うお! こ、これは……」

 古本屋の主人が呆然としました。

 科学の娘りかの庭が、真っ二つに分かれました。そしてそこからゆっくりと、スポーツカーが上がってきたのです。

「免許は持ってまーす!」

 スポーツカーで空ぶかししました。

「車でどう対向しようというのかね?」

 ほくそ笑む古本屋の主人。

「ノープロブレム。これはただの車じゃないからね。スイッチオン!」

 エンジンスイッチ横のボタンを押しました。

 すると、四輪すべてのタイヤが、足みたいに伸びました。

「りかちゃん号対戦モード!」

「なんだと!?」

 商店街の人たちも、びっくり仰天。


 るなが、試着室から出てきました。白のワンピースに、白の麦わら帽子をかぶっていました。

「おお!」

 ゆうき、まなみ、あかね、アリスが感激しました。

「その格好で、プリクラ撮りましょうよ!」

 と、アリス。

「撮らない!」

「えープリクラ撮ったの? いいなあ」

 と、まなみ。

「みんなで撮りましょ!」

 と、あかね。

「いいよ!」

 と、ゆうき。

「だから撮らないって言ってるでしょ! だいたいあんな目が宇宙人みたいになるのなにがおもしろいのよ?」

 呆れるるな。

「そういえばアイちゃんは?」

 と、ゆうき。みんなキョロキョロあたりを見渡しました。

「みんなー!」

 アイちゃんの声がしました。

「見てみて! いろいろ試着してみたの。似合う?」

 帽子はかぶりたいだけかぶり、服は着たいだけ着て、アクセサリーもつけたいだけつけていました。ゆうきたちは唖然としました。

「戻してきなさい……」

 るなも呆れました。


「ちなみにりかちゃん号は二足歩行で、自由自在。踊ることも可能!」

 りかちゃん号を操作して、踊りました。

「からくりロボットだってそんくらい!」

 古本屋の主人は、からくりロボットで踊ろうとしました。しかし、こっちは手動で動かすため、なかなか自由にできません。

「どうしたどうした? へいへーい!」

 りかちゃん号で阿波踊りなんか始めちゃう。イライラを募らせた古本屋の主人は、思いっきりりかちゃん号に突進しました。

「こうなったら全面対決だ!」

「我々も応戦だ!」

 骨とう品屋の主人の一声で、商店街の人たちが応戦にかかりました。

 商店街の人たちは、石を投げたり、棒で叩きつけたり、蹴ったりしました。からくりロボットも、パンチやキックをしました。

「しょうがない。あれを使うか」

 りかは、ライトスイッチを奥に引きました。

「うわあ! まぶしい!」

 りかちゃん号についたライトにげん惑される商店街の人たちと古本屋の主人。

「秘技、ハイライト!」

「ぐぬぬ!これしきのこと、なんだってんだ!」

 からくりロボットを、前進させました。

「はあーっ!!」

 古本屋の主人は、足を動かすアームを両方とも上に動かしました。両足キックを決めるつもりです。

「とりゃ!」

 りかも、アクセルとハンドルを動かして、後輪を両方とも浮かしました。両足キックをするつもりです。

「……」

 見事、りかちゃん号は着地。からくりロボットは、ひっくり返って、バラバラになってしまいました。

「主人!」

 商店街の人たちが、かけつけました。古本屋の主人は、頭にたんこぶをつけているだけで、なんともありませんでした。

「大丈夫ですか?」

 りかがやってきました。りかちゃん号は、元のスポーツカーに戻っていました。

「わしの負けだ。この勝負、お前さんに勝利をやるよ」

 古本屋の主人は静かに言いました。

「ていうか、なんで急にこんなことしてきたの? それが気になるんだけど。こっちもね、年中無休で仕事してるからさ、遊びに付き合ってられないのよね」

「ごめんねりかさん。私たち、ただなくなっていく商店街を、見てられなかったのよ」

 魚屋の奥さんが言いました。

「商店街?」

「そうだ。俺たちが今まで働いてきた商店街のほとんどが、大型ショッピングモールができたせいで、なくなってきちまった。残ったのは、俺たちだけだ」

 と、肉屋の主人。

「そこで、わしが密かに発明していたこのからくりロボットで、って……。なんてことだ! からくりロボットがバラバラじゃないか!」

 ショックを受ける古本屋の主人。

「あたしが直そうか?」

 と、りか。

「いいのか? わしらは、お前さんを倒し、自分たちのすごさを知ってもらえば、大型ショッピングモールに行ってしまった連中が、また商店街に戻ってきてくれると思っていたんだぞ?」

「あたしは科学者、発明家だぞ? からくりロボットだって、おちゃのこさいさいさ!」

 ウインクしました。ほほ笑む古本屋の主人と、商店街の人たちでした。


 その日の夕食時、アイちゃんはりかにゆうきたちと大型ショッピングモールに行ったことを話しました。

「いろいろな服見たりね、ゲームしたりね、映画あったりね、おもしろいものがたくさんあったんだよ? ママも今度行こうね!」

「うん」

 と、うなずいてから言いました。

「アイ、大型ショッピングモールもいいけど、今度商店街にも足を運んでみよっか」

「商店街? なあにそれ?」

 興味津々で聞いてくるアイちゃん。

「商店街っていうのはね……」

 説明をするりか、説明を聞くアイちゃん。科学の娘りかを見下ろす夜空には、星がたくさん輝いていました。


 一方で、直してもらったからくりロボットですが。

「見た目はからくりロボットそのものだが……」

 からくりロボットは本来木だけでできていますが。

「誰が空を飛べるようにしろと言った! 科学なんか大っきらいだーっ!!」

 声を上げる古本屋の主人。からくりロボットはエンジンをうならせて、星の彼方へと飛んでいったのでした。

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