6.ライバル登場?魔術師るな

第6話

りかやゆうきたちの住む街の一角に、"魔術師るな"という館がありました。小さな戸建て住宅でした。

 しかし、中はカーテンで閉め切って暗く、まるであやしい占い館みたいでした。そこに、一人のサラリーマンが、正座していました。

「で、部長はかわいい女の子には仕事を渡さないし、ひいきするくせに、我々かわいくもないし色気もない連中には、毎日残業やらせるし、いじわるく接してくるんです!」

 泣きながら訴えていました。

「確かに。あなたは色気もないし、かわいくもない人ですね」

 まるでクレオパトラのような格好をした、小麦色の肌をした、きれいな女の人が答えました。

「うう〜っ!」

 顔を伏せて泣くサラリーマン。

「で、その憎ったらしい部長に、なにか仕返しをしたいんですね?」

 顔を上げたサラリーマン。

「そ、そうなんです!」

「なぜわたくしなのですか?」

「いや、その! ま、まあ魔術師ってぐらいだから、なんかすごいことしてくれるかなあと思って……」

「はい、もちろんですよ。わたくしは、魔術師ですから、得意の念力を使い、なんでもあやつることができるのです」

「ほ、ほんとですか?」

「ええ。実際にやってみましょうか」

 女の人は、手のひらを掲げると、目の前にあった座卓を、宙に浮かしました。サラリーマンはギョッとして、震えました。

「こんな感じです。部長さんの写真をお見せできませんか? そうすれば、頭の中で彼を想像し、その姿で、あなたが仕返したい方法を念力で実行できます」

 サラリーマンは気が狂ったように笑いました。

「撮ります! 明日、部長の写真を撮ってきます!」

「わかりました。では、メアドを交換しましょう。送ってください。あ、あとこれわたくしの名刺です」

 渡された名刺には、"魔術師るな支配人 るな"と、記されてありました。


 翌朝、るなの元にメールが送られてきました。憎っくき部長の写真が送られてきたのです。

「ずいぶんと早いわね」

 いくらなんでも、一日も経たないうちに、部長を撮影するなんて無理な話だろうと思ったのです。

「まあいいわ。こいつに仕返しすればいいのね」

 るなは、手のひらを前に掲げると、部長の顔を想像し、頭の中で、スーツを脱がせ、阿波踊りをさせました。全裸の部長が、阿波踊りなんかして、今頃会社では、OLたちの悲鳴の嵐です。

 夕方、サラリーマンが魔術師るなに来ました。

「いやいやありがとうございます!清々しましたよ」

「それはよかったです」

「で、お代はいくらでしたっけ?」

 サイフを出すサラリーマン。

「五万になります」

「結構高いんですね……」

 苦笑いしながら、五万円を渡しました。

「ところで、ずいぶんと早かったですね撮影するの」

「ああ。実は、自分で直に撮影するのは怖かったので、ある人に頼んで隠しカメラを開発してもらったんですよ」

「ある人?」

「科学の娘のりかさんです」

「!」

 るなの表情が、きつくなりました。

「その名も擬態カメラ。とりあえずネクタイピンに擬態したカメラを作ってもらって、その写真をスマホに転送したんです。ここよりもお代はかかりましたけどね」

「十五万円……」

「へ?」

「すみませんが、うちのお代、五万ではなく、十五万にさせていただきます……」

 怖い顔でにらんでいます。

「え、ええ!?いや、でもさっき五万円って……」

「払わないと訴えるわよ!!」

「ひい〜っ!」

 払うと、そそくさと逃げていきました。

「チッ。科学の娘りかめ……」

 親指のツメをかじって、怒りをあらわにするのでした。


 日曜日。科学の娘りかの居間で。

「お絵かきしようよ!」

「外に出て、撮影会するのよ!」

「ピアノをするのよ!」

「わーい遊ぼ遊ぼ!」

 上からゆうき、まなみ、あかねが言い合っていました。一番下のアイちゃんは、ただ笑っているだけでした。

「いいえみなさん!」

 四人とも顔を向けました。

「お姫様ごっこをしますのよ?」

 髪をかき分けて、アリスが言いました。

「お絵かきだよ!」

「撮影会よ!」

「ピアノ!」

「まあなによみなさん! わたくしの言うことが聞けないっての!?」

「遊ぼ遊ぼー!」

 五人ともわーわー騒ぎました。

「なんだなんだ?」

 実験室から戻ってきたりかが来ました。

「わーわー!!」

 わーわーさ騒ぐ五人。彼らを見下ろすりか。

「はいストーップ!」

 手をパンと叩いて、ケンカを止めるりか。

「ストラーップ!」

「……」

 りかのダジャレはウケませんでした。

「サランラーップ!」

「……」

「ミニス……」

「シャラーップ!!」

 怒るゆうき、まなみ、あかね、アリスの四人。

 と、インターホンが鳴りました。

「はーい!」

 アイちゃんが向かいました。

「えらいじゃない」

 と、あかね。

「家の手伝いを率先してやれるようにプログラミングしてるのさ」

 と、自慢するりか。

「今行きますですよー」

 アイちゃんは、ドアを開けました。

「……」

 クレオパトラの格好をした女の人がいました。

「わーっ!!」

 驚くゆうきたちとりか。

「人を見て驚くなんて、ひどい連中ですね」

 と、女の人が言いました。

「すみません。てっきりクレオパトラかと思っちゃったものですから」

 と、りかがペコペコしてよってきました。

「あなたのことは知っています。少し、話したいのだけど、上がらせてもらえますか?」

「へ?」

 りかはキョトンとしましたが、

「どうぞどうぞ!」

 ゆうきたち四人が呆れてコケました。

「ちょっといいの?」

 ゆうきが耳打ちしました。

「だって。もしかしたら、あたしのヨーチューブ見てくれたファンかもしんないじゃん?」

「え? ヨーチューブ?」

「ジャジャーン! アイちゃん他、あたしが発明した品すべてを紹介するチャンネル、開設したよ。登録してね〜」

 スマホを掲げて、チャンネルを見せました。登録者数が数人しかいないのに、唖然としました。

 居間のソファーで向かい合って座るりかと女の人。

「わたくし、こういうものです」

 名刺を渡しました。

「魔術師るなのるな。るなさんというのですね?」

「はい」

「いやあ。今日はどういった事情で来られましたかな? 発明してほしいものがありますか? ファン第一号ですか? 弟子志望ですかー?」

 目をキラキラさせて、前のめりになるりか。それでも、顔色一つ変えないるな。

「宣戦布告に来ました」

 手のひらを掲げて、りかをソファーごとひっくり返しました。

「ち、ちょっとりか!?」

「大丈夫?」

 呆然とするまなみとゆうき。

「いくらなんでもオーバーよ反応が」

 呆れるあかね。

「い、いや……。なんか、勝手にひっくり返って……」

 起き上がるりか。

「ママ大丈夫? うわっ!」

 アイちゃんが、宙に浮きました。

「アイちゃん!」

 ゆうきが叫びました。

「わたくしは名刺に記されているとおり、魔術師です。念力を使い、なんでも自由にあやつることができます。たとえば、こんなことだって」

「わわっ!」

 アイちゃんが、宙に浮いたまま、側転みたいにくるくる回りました。

「あはは! 楽しい!」

「ふん」

「わーっ!!」

 高速回転しました。

「アイ! ちょっとあんた! さすがにやりすぎよ!」

 りかが怒りました。

「悔しかったら、わたくしと勝負を受けてみませんか?」

 アイちゃんを、ソファーへ叩きつけました。

「アイちゃん!」

 四人がかけつけました。

「勝負?」

「わたくしも、そのヨーチューブを開設します。どちらがチャンネル登録者を得ることができるかを、競おうじゃありませんか」

「望むところだ!」

「科学なんかに負けたりしない」

 ほくそ笑むるな。

「ふんっ。科学の娘をなめるなよ?」

 腕を組み、にらむりか。

「あんなりかさん初めてかも……」

 感心するゆうきたち四人でした。


 "科学の娘りかチャンネル"。それが、りかのヨーチューブのチャンネルでした。

「はいみなさんこんにちは。おはようの人もこんばんはの人もこんにちは〜。今日ご紹介する発明品は、ジャジャジャジャーン!」

 発明品に、サーチライトが照らされました。

「擬態カメラ! ネクタイピンはもちろん、みかんや画びょう、靴、その他ありとあらゆるものに変化へんげしてしまうカメラちゃんでーす!」

 カメラの前に来て、説明しました。

「このネクタイピンカメラちゃんは、ぱっと見ただのネクタイピンですが、よく見ると、小さなレンズがついているのです!」

 レンズを拡大した画像を、撮影している映像に貼付しました。

「主な用途としては、浮気調査、防犯くらいです。お求めは、科学の娘りかまでよろしくお願いしまーす!」

 撮影している画面には、メアドが表記していました。電番もありました。

「アイもね、こないだ動画映ったんだよ?」

 アイちゃんは、四人に自慢しました。

「けど、どれも視聴者は今一つよ?」

 と、まなみ。

「宣伝が足りないんじゃないかしら?」

 アリスも言いました。

 一方で、るなも自分の館でヨーチューブを撮っていました。

「どうも。えっと、これから魔術をお見せします」

(なんだかカメラの前に立つのって、恥ずかしいわね……)

 照れました。

 動画の画面は、ライブになっていました。

「まずは、台所にある食器を、すべてプカプカ浮かせます」

 手のひらを掲げて、意識を集中しました。

 すると、台所の棚が開き、食器がカチャカチャ音を立てて、プカプカと浮きました。まるで、魚が泳いでいるみたいです。

"え!?"

"ウソでしょ……"

"マジかよ!!"

 コメントが増えていき、視聴者は、百万、いや一億人を越えました。ヨーチューブサイトの動画再生数一位は、るなの動画になりました。


 翌日、りかは、がく然としていました。るなは、そんな彼女を見下ろして、ほくそ笑んでいました。

「やっぱり、念力に敵うものはないのよ」

 そう言って、帰っていきました。

「ママ?」

 アイちゃんが心配して、よってきました。

「ダメだ……。総再生数六十五回、るなは一億回以上! こんなの手に負えないわ……」

 落ち込みました。ゆうき、まなみ、あかね、アリスもお手上げ状態でした。

「で、でもりかさんだって、稼いでるでしょ? エアコンやパソコンといった生活家電を作ってさ」

 ゆうきが励ましました。

「そうね。稼いでるだけマシね」

 と、まなみ。

「うんうんそうそう!」

 と、あかね。

「手に職を持っていてよかったですわね」

 と、アリスも。

 しかし、さらに落ち込むりか。

「ママの元気がなくなっちゃった……。アイも元気なくなっちゃうよ……」

 アイちゃんも落ち込みました。

 みんな呆然としているところに、しびれを切らしたように、アリスがりかのところへ向かいました。

「ああもういつまでそうしているつもりですのっ? 顔を上げなさいな!」

 髪をつかんで、無理やり顔を上げてやりました。

「あなたらしくありませんわね。わたくし思いますわ。あなたは、どんな困難が立ちはだかろうと、直向きに進もうとする人だと!」

「……」

「念力がなんですの? たかが念力でしょ?どうせ、科学の力にゃ到底敵いっこありませんわよ。根拠はありませんけど、きっとあなたは勝ちますわよ!」

「……」

「アイちゃんを作ったのは誰!!」

「!」

 りかは、アイちゃんを見ました。悲しい顔をしていました。自分が落ち込んだり、悲しんだりしたら、いっしょに悲しんでくれるようプログラミングしたのですから。

「そうよ。あたしはアイを作ったんだ……」

 立ち上がりました。

「あたしだって、世に認められし科学者なんだぞ? オリジナル発明品は認められないけど」

 立ち直りました。その様子を見て、安心する四人とアイちゃんでした。

「アリス、あんたもたまにはいいこと言うじゃない」

 あかねがほめました。

「たまにとはなんだたまにとは!」

 怒りました。


 あくる日、りかはるなを河原へ呼びました。

「わたくしはもう百億人もの登録者をゲットしました。あなたのチャンネルを見てみたら、たった六十五人じゃありませんか」

「好きなだけバカにしたら? 今日は、科学の娘りか、魔術師るなと勝負してみたって題名で、アップすんだからさ」

「はあ……」

 空返事するるな。

「そんなものアップしてなんになるんですか?」

「さあね。ただ、新発明したものがあるから、そのレビューをするだけよ!」

 りかは右手を上げました。すると、向かいにある布がけを、ゆうきたちが取りました。すると、荷車に大きなロボットのようなメカがありました。

「さあさあ視聴者のみなさーん。こちら、新発明しました、さくら一号です!」

「さくら一号?」

 顔をしかめるるな。

「今日は、この子とるなが勝負をします。はい、レディーファイト!」

 さくら一号が迫ってきました。るなは、いきなり勝負が始まったので、当惑しましたが、カメラが向かい側にあるとわかると、手のひらを掲げました。

「メカだろうがなんだろうが、わたくしに敵なしです!」

 さくら一号が、突風に襲われたように止まりました。しかし、すぐに体制を立て直して、迫ってきました。

「ウソ!」

 驚くるな。

「諸説あるけど、念力は地球に流れている空気を利用して発動しているんでしょ? つまり、その空気の流れに歯向かえるようになっているのよさくら一号はね!」

「そんな! 来るな、来るなあ!」

 何度念じても、さくら一号は迫ってくるばかりです。

「きゃあ!」

 ついぞ念力が効かなかったるな。押し倒されてしまいました。

「いやーん! エッチ〜!」

 上に乗っかられているだけなのに、そう叫ぶるなでした。

「かーっかっかっかっ! 見たか知ったか科学の偉大さを。かーっかっかっか!」

 りかは、腰に手を当てて大笑いしました。ゆうき、アリス、まなみ、あかねの四人は、唖然としていました。

「かーっかっかっか!」

 アイちゃんもりかみたいに大笑いしました。


 さくら一号を出演させたコラボ動画は、大きな反響を呼びました。まず、魔術師るなのファンが、男性ばかりになったことです。元々ではありましたが、さらにということです。お客さんも、男性ばかり来るようになりました。念力が目的の人もいれば、ただるなに会いに来たという人もいました。握手を求めてきたり、写真を求めて来る人もいましたがるなはそんな人全員に、

「帰れ……」

 念力で追い返しました。

 そして、科学の娘りかは、相変わらずでした。発明品よりも、るなのほうが反響が強かったみたいです。いまだに登録者百人越えを果たせません。

「ぐぬぬ〜! なんでるなばっか登録者が増えるのよーっ!」

 パソコンの前で、コップをガンガン机に叩きつけるりか。

「どんまいママ!」

 アイちゃんが、励ましました。

「アイ……。ぐすん……」

 涙を拭きました。

「いいわ。るな、いつかまた、君を超越するような、すばらしい発明品を作ってやるから。それまで首を洗って待ってなさい!」

 パソコンに指をさしました。

「首を洗う?」

 アイちゃんは、首をタオルでごしごし拭きました。

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