2.スクープをねらえ!おもしろアプリ君

第2話

小学校。休み時間を知らせるチャイムが鳴りました。

 生徒たちが、校庭でボール遊びや鬼ごっこをして遊んでいます。

「ふっふっふ。おもしろスクープ探して三千里。記者を目指して六年目のまなみとは、この"まなみ"のことよ!」

 まなみと名乗る女子が、首にかけたカメラをかまえていました。彼女は廊下をうろうろして、なにかを探している様子でした。

「スクープ、スクープ! おもしろスクープどーこだ?」

 と言いながらスクープを探しているようです。

「あっ! 見ーつけた!」

 二組の教室の入口で、男女が話をしていました。その二人を、まなみは陰からこっそりと覗いていました。

「あの二人、におう! 間違いないわ、あの二人、"これ"よ!」

 小指を立てました。

 パシャリ。シャッター音がして、驚く男女。

「へいそこのカップル! 付き合って何年目ですかー?」

 写真を撮りながら聞くまなみ。唖然とする男女。

「手は握った? ハグした? もしかして……。キスしたー!? きゃー!!」

 一人で盛り上がるまなみ。唖然とする男女。

「あの、なんなの君?」

 男子が聞きました。

「整った!」

「えっ?」

「まなみは見た! 二組のこの二人の秘密の関係! どこまで済ませたのか? 手を握るまでか、ハグか、それともキスか! まさか……将来まで見据えているのか!」

 新聞の見出しを叫ぶまなみ。なにがなんだかわからず、その場を離れようとする男女。

「みなさーん! この二人付き合ってますよー! それ今度新聞にしまーす!」

 他の生徒たちがまなみに注目しました。

「はあ!?」

 目を丸くする男女。

「マジで?」

「さすが学級委員!」

「キスしたの?」

 生徒たちが群がってきました。男女は困っていましたが、やがて堪忍袋の緒が切れて、

「付き合ってるわけないでしょ!!」

 怒りました。

「僕たちはただの学級委員同士ってだけだよ!」

「そうよ! 今も先生のお手伝いで、宿題のプリント整理してただけよ!」

 男女は、まなみをにらんで怒りました。

「え? あ、ええ?」

 困るまなみ。

「それをあんたが勝手に付き合ってるとかなんとかほざいたんじゃない! 勝手なうわさ流さないでよ!」

「そうだよ! 新聞作るとか言ったな? ほんとにしたら先生言うかんな!」

「ご、ごめんなさい……」

 生徒たちも、

「なーんだ、付き合ってないのか」

「チェッ」

 呆れてその場を離れていきました。まなみは一人むなしく、廊下に佇んでいました。


 一組。まなみはどんよりとして、机に伏せていました。

「どうしたのまなみちゃん? なんだか元気ないね」

 ゆうきが声をかけました。

「ゆうちゃん……」

 涙目を見せるまなみ。

「うわーん!! まなみはどうしたらりっぱな記者になれるんだろう〜!」

 ゆうきの膝元で、顔を伏せて泣きました。

「え? な、なんかあったの?」

 まなみは顔を伏せたまま答えました。

「さっきの休み時間に、恋人ぽい人たちがいて、思わずスクープだと思って取材したの。そしたら、相手方に怒られた……」

「あらら。そりゃ、まなみちゃんの早とちりが悪いよ」

「でもまなみはおもしろい記事をみんなに見せようとして……」

「うーん。それもそうだけど……」

「ゆうちゃんだったら、どんな記事が見たい?」

「え? えっと……」

 ゆうきは考えました。

「あ、私お菓子大好きだから、お菓子特集の記事とか見たいな」

「ありきたりすぎるよ」

 顔を伏せたまま答えるまなみ。

「そっか……。え!?」

 驚くゆうき。

「まなみはもっとユーモアあふれる、他とは違うことを書きたい。そう、誰も書かない、誰も思いつかない記事を!」

「だ、誰も?」

「誰も!」

 まなみが顔を上げると、鼻水がびよーんと膝にくっついて伸びました。

「きゃあああ!!」

 ゆうきの悲鳴がこだましました。


 下校時間になりました。ゆうきとまなみはいっしょに帰りました。

「ごめんね鼻水なんかつけちゃって」

「いいよ。体操服のズボンあってよかったし」

「そういえば、まなみ、気になってるところがあるんだ」

「気になってるところ?」

 ゆうきが首を傾げる。

「ここちょっと行ったところにさ、"科学の娘りか"って名前の家みたいな建物があるんだ。知ってる?」

「……」

 ゆうきはうなずきました。

「え、知ってるの? じゃあさ、二人で行ってみない?」

「!」

 あわてて首を横に振るゆうき。

「なんでそんな勢いよくふるの?」

「あっ、やっ、その! な、なんかただの家だったら申しわけないじゃん?」

「えーでも看板立ててドーンと見せてるよ?家みたいな見た目だけど、なんかあるじゃん絶対」

「いやいやいや! 看板立ててるだけかもよ? ほ、ほら私前に黄金の表札立ててるおうち見たことあるし……」

「なにそれ! めちゃくちゃスクープじゃん! どこどこ? 取材したい!」

 目をキラキラさせるまなみ。

「え? いや、そこは本当に知らない人の家ぽかったけど?」

「とにかく! お店みたいにデカデカとした看板なんだってそこ。行こうよ」

 ゆうきの手を引きました。

「やだやだ!」

 まなみの手を引くゆうき。

「なんでよ? そこまでいやがるゆうちゃん?」

「だって! だって〜!」

 手を引いてくるまなみの手を引くゆうき。

「恥ずかしがり屋さんね〜!」

 手を引いてくるゆうきの手を引くまなみ。

「ふんぬ〜!」

 と、そこへ。

「あれ〜! ゆうきちゃん? 久しぶり!」

「へ?」

 声の主に顔を向けるゆうきとまなみ。

「やっほー!」

 手を振っているのは、りかでした。

「ゆうちゃん知り合い?」

「ううん!」

 首を横に振るゆうき。

「でも久しぶりって言ってるよ?」

「ううん! ううん!」

「紅茶とクッキー用意してあるんだ。よってってよ」

 りかがさそいました。

「まなみちゃん逃げよ?」

「え? でも知り合いなんでしょ?」

「まなみちゃん逃げよ!」

 二度も言うので、なにも言わず了解するまなみ。

 二人はりかから逃げました。

「え?」

 りかは、逃げる二人を見て首を傾げました。

「ねえ! なんで逃げるのよさ!」

 ゆうきとまなみは振り向きました。

「わあーっ!!」

 驚きました。モーターシューズで、全速力で追いかけてくるからです。

 りかは、二人と並走しました。

「ゆうきちゃん! その子友達? いっしょさせてあげるよ!」

「来ないでえ!!」

「それなんですかー!」

 ゆうきとまなみ、りかは並走バトルをしました。そのうちに疲れてきて、三人で背中を合わせ、バテました。

「はあはあ……。あっ、科学の娘りか!」

 と、息を切らしながら見上げるまなみ。目の前は、科学の娘りかの建物がありました。

「ようこそ、我がアジトへ!」

 りかが両手を広げました。ゆうきはそーっと逃げようとしました。

「ついに来たのね! まなみ、がんばって取材しちゃうぞー!」

 まなみが起き上がると反動でお尻が当たって、コケたゆうきでした。

「逃げ損ねた……」

 涙するゆうき。


三人はリビングで、りかが用意した紅茶とクッキーをたしなみながら、話をしました。

「ではでは。まずは自己紹介からお願いします」

 まなみが、マイクを掲げました。

「あたしの名前はりか、十九才。十五の頃に発明家に憧れて、中卒後は工業高校に通って、今ここでアジトをかまえて、科学の娘りかを営んでいるのよ」

「なるほど。十九才でアジトをかまえるなんてすばらしいですね。で、普段はなにをしてるんですか?」

 メモを取ったあと、マイクをりかに掲げました。

「それはもちろん、発明家よ」

「てことは! SFに出てくるようなのをたくさん作ってるんですか!?」

「家電とか電化製品よ」

「おーっと!」

 思わずコケました。

「でも、SFみたいな発明品を作っているのも事実よ? ただ、そういうのは世間じゃみんな認めてくれないの。みんな生活に必要なエアコンとか、パソコンを求めてるわ」

「りかさんのオリジナル発明品のせいで、大変な目にあった人がここに……」

 挙手するゆうき。

「おお! ここにりかさんの発明品を使用した人がいた! ではでは実際に感想を聞いてみましょう」

 ゆうきにマイクを掲げました。

「あ、あれはモーターシューズと言って、全然止めれないし、何ヶ月間ずーっと走らされたし、もうこりごりだわ!」

「さっき使ってみたけど、あれ停止ボタンを別途で作ったの。これよ」

 停止ボタンを見せました。

「そんなの見せられても乗りませんから!」

 怒るゆうき。

「いやあ実際にりかさんの発明品を使った人の感想を聞けてよかった」

 メモを取るまなみ。

「いいのこれで!? 私、りかさんのこと全否定したような気がするけど!」

「ではでは、そのりかさんの発明品をまなみも見てみたいなあと思うのですが、よろしいでしょうか?」

 りかはグッドサインを見せて、

「オフコース! 地下室においで」

 と、言いました。

「やったー!」

 喜ぶまなみ。りかについていきました。

「はあ……」

 ため息をつくゆうきでした。

「わあ!」

 地下の実験室に来て、感激するまなみ。つながれている複数のコードと、複数のパソコンしかない部屋に、あっけに取られたのでした。

「ここで、いろいろな発明したり、商品を作るのよ」

「すごいすごい!」

 カメラでパシャパシャ撮影するまなみ。

「りかさん。まなみ、あなたのこと記事にして新聞にしたいのですが、よろしいですか?」

「いいわよ」

「やったー!」

「ただし、条件があるわ」

「へ?」

「条件?」

 ゆうきも目を丸くしました。

「まなみちゃんにも、あたしの作った発明品試してほしいの。あたしのこと新聞にしたいなら、実際に発明品を試してみないとじゃない? そのほうが、より魅力を知ることができるかもしれないよ?」

「うーんと。確かにそうかもしれない……」

 まなみは考えました。

「いや、りかさんの発明品なんて使ったらダメだよ……」

 唖然としているゆうき。

「わかった、まなみ試してみます! りかさん、なにがいいでしょうか?」

「試すの!?」

 驚くゆうき。

「なにを試してみたい? そうだ、なんなら今君がリクエストしたものを作ることもできるわよ?」

「ま、まなみが?」

「そう。まあ一日あれば、できるからさ。あ、でもさすがにタイムスリップする系のはやめてね」

 まなみは考えました。まるで、願いをなんでも叶えてあげると言われているような気持ちでした。スクープのネタにもなるし、なによりもりかの発明品の腕がいかなものかも試してみたい。

 まなみは、よーく考えているうちに、今朝、自分の勘違いでスクープがむちゃくちゃになってしまったことを思い出しました。

(みんなに認められるような記者になりたい……。りかさんなら、やれるかな?)

 そして、決めました。

「りかさん!」

「うん」

「まなみ、おもしろいスクープができるようになる発明品がほしい!」

 りかは少し間を置いてから、言いました。

「オッケー」

 ゆうきは不安になりました。

「一体どんなのができるんだろう……」


 翌日、公園に集まれとりかが言ったので、ゆうきとまなみは来ました。

「まずさ、まなみちゃんのそのカメラのデータ、一つくれる?」

「え? あ、はい」

 まなみは、カメラの中にあるSDカードを渡しました。りかは、SDカードをタブレットみたいなのに差し込むと、画面に映った二組の男女の写真を、編集し始めました。

「これをこうしてこうやって……」

「わあ!」

 声を上げるゆうきとまなみ。二組の男女が、顔だけ切り抜かれ、ウェディング姿になっていました。まるで、写真屋で撮ったような写真になっています。

「これはおもしろアプリ君。写真を合成したり、とにかくいじったりして、編集できる発明品なの」

「へえー!」

 感心するゆうきとまなみ。

「つまり、なんでもいいから写真を撮って、このおもしろアプリ君で編集すれば、なんでもスクープになるのよ」

「なるほど!」

 目をキラキラさせるまなみ。

「ありがとうりかさん! まなみ、りっぱな記者になるために、がんばりまーす!」

 そそくさと行ってしまいました。

「さーてと。どんなスクープ撮ろうかなあ?」

 あちこち探しました。

「あっ。あれどうかな?」

 まなみは、カメラのシャッターを切りました。通りすがりのサラリーマンと、彼とすれ違う主婦の写真です。

「で、これを編集して……」

 おもしろアプリ君にSDカードを入れて、編集を始めました。

「まなみは見た! サラリーマンが主婦で、主婦がサラリーマン!?」

 単純に、サラリーマンの顔が主婦、主婦の顔がサラリーマンになっただけです。

「あははは! いひひひ! うふふふ! えへへへ! おほほほ!」

 爆笑するまなみ。

「この調子この調子! でもこれ、おもしろアプリ君で写真撮れないかな?」

 カメラ機能がないか探しました。

「あった! じゃあカメラなんていらないわね。これで、大大大スクープをねらうのよ!」

 まなみはスクープをねらうため、街中をさまよいました。

「まなみは見た! 大人なのに園児の子どものアメをペロペロなめている親!」

「まなみは見た! ヤンキーなのに三輪車に乗るおかしなやつ!」

「まなみは見た! 腰が曲がってるくせに大型バイクでブンブンふかしているおばあさん!」

 という編集をしたスクープを、新聞にしていって、学校に掲示していきました。

「あははは! これでまなみもりっぱな記者ね!」

 ゆうきは腰を低くして言いました。

「あのう……まなみちゃん」

「あ、ゆうちゃん! ありがとねいい知り合い紹介してくれて。りかさんのおかげで、まなみ今すごく幸せだよ? まなみは間違いなく記者として活躍している。まなみは今、ウハウハよ!」

「なわけねえだろ!!」

 後ろから、女子がライダーキックをしてきました。

「ま、まなみちゃん!? なな、なんてことを!」

「うっせえ! あんたのせいでこっちはいい迷惑してんだよああんっ?」

 ヤンキーみたいににらんでくる女子。とても小学生とは思えないゆうきでした。

「いたた……。なにすんのよあんた!!」

 まなみがにらみました。

「なにすんだじゃねえよタコ! これを見ろ!」

 新聞を見せました。

「まなみは見た! ヤンキーなのに三輪車に乗るおかしなやつ! じゃない。それがなにか?」

「あたいの兄貴だよこいつは。これのせいで、兄貴がいろいろな輩からバカにされて、ケンカざんまいなんだよ! うちまでやってきて、もう毎日さんざんだ!」

 新聞を投げつけました。

「別に、こんなのほんとのことじゃないわ。ただおもしろくなるだろうなと思って……」

 まなみの言葉をさえぎるようにして、女子はビンタしました。

「出任せなんか公表してんじゃねえよ! こっちはいい迷惑してんだよ!!」

 怒鳴られて、まなみは呆然としました。

 他にも、新聞を掲げられて、迷惑と思っている人がいました。

「誰だ俺の顔を通りすがりの主婦と合成したのは! おかげで街を歩くたび鼻で笑われる始末だ!」

「誰よこんなおっさんと顔合成したの! 息子が毎日のようにバカにしてくるじゃない!」

「あたしこの子のアメなんかなめてないわ!」

 いろいろな不満がこぼれていました。新聞はくしゃくしゃに丸めて、その辺に捨てられてしまいました。

「……」

 その辺にくしゃくしゃに捨てられている新聞を見て、呆然とするまなみ。

「まなみちゃん……」

 なんとも言えない気持ちのゆうき。

 そこへ、りかが来ました。

「あ、ゆうきちゃんまなみちゃんやっほー!どうまなみちゃん? 発明品の心地は」

「こんなもの、なんの役にも立たないじゃない!!」

 おもしろアプリ君を、りかに投げつけました。受け止めることができなかったりかは、おもしろアプリ君を、落としてしまいました。

「記者なんか……。記者なんか!」

 くしゃくしゃになった自作の新聞をふみつけるまなみ。

「ねえ、まなみちゃん」

「なによ!」

 涙目で、りかをにらむまなみ。

「あたしだけにさ、新聞作ってくれないかな?」

 まなみは鼻をすするとそっぽを向きました。

「おもしろアプリ君を使うんじゃなくて、君自身の力で、科学の娘りかの記事を書いてほしいな」

 まなみは、まだそっぽを向いたままです。

「記者になりたいんでしょ? なれるよ絶対に」

「なれないよ。だって、このざまじゃ……」

「あたしだって、発明家になれたんだから」

「……」

 まなみは、ゆっくりとりかに顔を向けました。

「私も見たい。まなみちゃん自身が作った記事!」

 ゆうきがほほ笑みました。


 科学の娘りかに戻って、まなみは手書きで新聞を書きました。

「まなみは見た! 科学の娘りかの発明家が作ったおもしろアプリ君とは?」

 りかは、新聞にコクリコクリとうなずきながら、感心していました。

「あたしの腕っぷしが、世に知れ渡るチャンスができたってわけだね」

 しかし、新聞にはこう書かれていました。

「おもしろアプリ君を使って見た感想。あれは人をダメにする発明品です。以上」

「あら?」

 ガクッとするりか。

「というわけなので、この新聞は誰にも公開せず、この日のことを忘れないように、まなみのお部屋で永久保存させてもらいまーす」

 新聞を筒状に丸めると、まなみは科学の娘りかを出ていってしまいました。

「おもしろアプリ君も失敗作ね」

 肩をすくめるりかとゆうきでした。

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