科学の娘・りか
みまちよしお小説課
1.超瞬足!モーターシューズ
第1話
とある小学校の校庭で、体育の授業が行われていました。六年一組が、五十メートル走をしているみたいです。
一組のゆうきは、スタート地点に立って、ドキドキしていました。彼女は、運動が苦手だからです。
(もし他の子より最下位になったら、バカにされるんだ……)
最下位になって、バカにされる想像をしました。そしたら、さらに怖くなって、顔が青くなりました。
「それではよーい!」
先生が笛を鳴らしました。
「えっ? わわっ!」
ゆうきは走ろうとしました。あわてたのが惜しかったのか、コケてしまいました。
「大丈夫ですか?」
と、先生。
「あはは! ばっかでい!」
男子たちに笑われました。いても立ってもいられなくて、ゆうきは「うわーん!」と泣き叫びながら、校内へかけ込んでいきました。
放課後になりました。下校中、ゆうきは石ころ蹴りながら、トボトボ歩いていました。
「足、速くならないかなあ……」
思いっきり石ころを蹴飛ばしました。
「いてっ!」
河原の下に落ちたと思ったら、声がしました。
「ええ!? 大丈夫ですかっ?」
あわててかけつけると。
「誰だよ人様に石ころぶつけてきた不届き者は!!」
相当怒っている様子の、桃髪の女の人がいました。
「ひい! ご、ごめんなさい!」
頭を両手で押さえるゆうき。
「んー?」
彼女を覗き込む女の人。
「誰だ! 人様に石ころぶつけたやつは! 誰だ!」
あたりを見渡しながら叫ぶ女の人。ゆうきは呆然としました。
(も、もしかして、私がしたって気づいてないのかな?)
「ったくもう。物騒な世の中になったものね。君も気をつけなさいよ?」
「あ、えっと。それ実は……」
「とーこーろーで」
「は、はい!」
気をつけをするゆうき。
「お近づきの印に、これ、あたしの名刺。なにかあったら、連絡してね〜。ばいば~い!」
と言って、女の人は去っていきました。しばらくその場で佇む、ゆうきでした。
家に帰ってすぐ、ゆうきは渡された名刺を見ました。
「
名刺には、
"科学の娘りか
メール・RikaRika@GoMail.com
電話・080-4649-4946"
と、記されてありました。
「いや、電番覚えやすいな」
思わず口にしてしまうゆうき。
「いや、ツッコミどころそこじゃなくて」
なぜ名刺をくれたのか、そして、科学の娘りかとは一体なんなのかが、疑問でした。
「科学ってつくくらいだから、発明家の人なのかな? それとも、薬を作ってる人かな?」
ゆうきは、あの女の人が、あやしい笑いを浮かべて、あやしい薬を作っている想像をしました。
『へっへっへ!』
ゆうきの想像の中の女の人が、ぐつぐつ煮えている得体の知れない鍋をかき混ぜている。
「あわわわ……」
震えるゆうき。名刺を捨てようかと思いました。
「でも、もしいい人だったら……」
と、思いかけた瞬間。
「ゆうちゃん! ご飯よ!」
ドア越しで、お母さんの声がしました。びっくりしましたが、すぐに「はーい!」と返事をしました。名刺は、机にポイと置いておきました。
翌朝。まだぐっすりと眠っているゆうき。
「うーん……」
目を覚ましました。すぐに、時計に目を見やりました。
「八時か……」
と言って、また布団にもぐりました。
「八時か!?」
バッと布団から出ました。
「遅刻だあああ!!」
急いで支度をして、家を出たゆうき。住宅街の中を、疾走する。
「はあはあ……」
しかし、五分とその疾走は続きませんでした。
「ああ、こんな時足が速くなる靴でもあれば……」
「ありますよそんな靴」
声がしたほうに向くと、昨日会った女の人がいました。
「その名もモーターシューズ! スイッチ一つ押せばあら不思議。まるではやぶさのように足が速くなること間違いなしよ!」
熱弁したけど。
「あれ?」
すでにゆうきの姿がありませんでした。
「こらーっ!」
学校へ急いでるゆうき、後ろを振り向いてみました。
「きゃあああ!!」
全力疾走で追いかけてくる女の人が見えました。
「やめてえええ!! 来ないでえええ!!」
「君のためにモーターシューズを紹介しようって言ってるでしょー!!」
西へ、東へ、北へ、南へ追いかけてくる女の人。さんざん追いかけ回されたゆうきは、疲れてしまいました。
「はあはあ……。ちょっと休憩……」
すぐそこに見えた横イスに腰掛けました。
「つっかまえたー!」
前から、女の人が肩に手を置いてきました。
「きゃあ!」
「残念! ここはあたしの家よ。もう逃げられないわ」
「な、なんなんですかあなた! わ、私は今からが、学校に行くんですよ? あなたのせいで遅刻してしまうし、それに、小学生の私を追い回して、なんなんですかなんなんですか!!」
「まあまあ。落ち着いて。名刺もらったでしょ昨日」
「あんなの机に置きっぱなしです! うわーん!!」
ついに泣き出しました。頭をポリポリかいて困り果てる女の人。
「小学生だもんな。あたしのこと、知る由もないか……」
「わーん!! なんなんですかあ! 有名人なんですかあ?」
泣きながら聞くゆうき。
「とりあえず中に入ろうよ。ココア用意したげるからさ」
泣き止んだゆうきは、リビングにいました。どうせ遅刻なんだし、ふん切りがついたのです。それに、一応名刺をもらったんだから、完全たる不審者じゃないという気持ちもありました。
「はいココア。熱々だよ」
テーブルに置きました。
「いただきます……」
フーフー冷ましてから、飲みました。
「おいしい?」
「はい……」
「改めて紹介するよ。あたしはりか。ここ科学の娘りかは、あたしの研究所なんだ」
「研究所……ですか?」
「そう。とは言っても、だいたい家電とか電化製品とかばっか作ってんだけど」
「へ?」
「あたしはパソコン、携帯、洗濯機に掃除機、その他もろもろを一人で作って生活しているのだ!」
「も、もしかして前テレビでやってた人!?」
りかは、テレビに出演したことがありました。一人で研究所を立てて、家電など電化製品を一人で作っている。しかも、承った業務すべての納期は絶対守るので、天才発明家として取り上げられていたのです。
「わ、私そんなすごい人に石ころをぶつけ……」
へなへなと座りこむゆうき。
「いやいや、テレビといっても地方局だよ?」
「でもでも! うちで使ってる掃除機、あなたが作ったのなんです!」
目を輝かせているゆうき。
「そうなの!? ありがとう! ローマ字で"RikaRika"ってあるでしょ? 使い心地どう?」
「あ、えっと。私じゃなくて、ママがよく使います」
「そっか」
りかは、本題に行くことにしました。
「でまあ、本題に入るわけですけど」
「へ?」
「モーターシューズよ。あれを、君に試作してほしいんだ」
「し、試作ですか?」
「そっ。まだ試作段階でねそのモーターシューズ。だから、成功したら高値で売りたいんだよね」
「で、そ、そのモーターシューズって?」
りかは、ほほ笑みました。
「それは、地下にある実験室で」
地下にある実験室に来ました。
「わあ……」
ゆうきは感心しました。実験室の中は、複数のコードがつながっているパソコンでいっぱいでした。中は薄暗く、画面の光だけが中を照らしていました。
「これよ、モーターシューズ」
実験テーブルの前に来ました。そこには、ただの黒い運動靴がありました。
「ただの運動靴に見えるけど?」
「でしょ? でも、このかかと付近にあるボタンを押すとね」
かかと付近にあるボタンを押しました。すると、キュイーンと音を立てて、振動を鳴らしました。
「あとは、このつま先付近のつまみを回して、速度を指定するの」
つま先付近のつまみには、〇から百六十までありました。
「このモーターシューズは、靴の中にモーターの動力を忍ばせて、むちゃくちゃスピードが出るようにしてみたんだ。まあ、実際出せる速度だと、十キロくらいだと思うけど」
「な、なんでこんなの作ったの?」
「よくぞ聞いてくれた!」
待ってましたと言わんばかりの反応をしました。
「あたしさ、掃除機やパソコン作ってもうけてるけどね、ほんとはこういうおもしろいことしたいんだよね」
「おもしろいこと……」
「そっ。あたしが想像した発明品が世に渡れば、きっと世の中変わるよ? 革命だよ! うふふふ!」
「はあ……」
唖然とするゆうき。
(でも、もしモーターシューズで足が速くなるんなら、ちょっとほしいかも)
「あ、あのりかさん!」
「じゃあさっそくだけど、このモーターシューズ試作しといて」
渡してきました。
「え、え?」
「あとはいこれ報告書。試作して、思ったことなんでもいいから書いてあたしに提出して。期限は一週間後。じゃあ、よろしく〜!」
りかはゆうきの背中を押して、無理やり実験室、リビング、玄関の順に追い出しました。
「え、ちょっと! うわ!」
外に閉め出されてしまいました。
「あ、忘れ物だよ」
りかが、ドアを開けて、ランドセルを置いていきました。
ゆうきは、モーターシューズを見つめて、困り果てました。そして、学校があったことを思い出して、さらに困り果てたのでした。
翌日。六年一組が、体育の授業を行なっていました。五十メートル走をしていました。
「よーし!」
ゆうきは意気込みました。なぜなら、モーターシューズを履いているからです。いつもより速くなるのか、それとも壊れて失敗してしまうのか。ドキドキしながら、モーターシューズのエンジンをつけました。
「わあすごーいゆうきちゃんの靴かっこいい!」
女子が一人、感心しました。
「えっ? あ、あーうん!」
「えーどれ?」
「見して見して!」
そのうちに、他の女子たちがわらわらとよってきました。ゆうきは、なんと答えたらいいかわからなくなりました。モーターシューズなんて口がさけても言えない気がしました。
(言っても信じてくれなさそう……)
「どこのメーカー? どこのお店? いくらしたの?」
目を輝かせて聞いてくる女子たち。
(RikaRikaメーカー、まだ試作品でーす……)
涙するゆうき。
「それではよーい!」
先生が声を上げました。ゆうきは急いで、速度を調節するつまみを回しました。
先生が笛を鳴らしました。
「そういえば、モーターシューズって、止める時どうす……きゃあああ!!」
ものすごいスピードで、スタートダッシュをするゆうき。クラスの生徒たちは、呆然としました。
ゆうきは、住宅街をかけ抜けました。
「きゃあああ!!」
近くを通りすぎたネコが、驚いて逃げました。
続いて、街に来ました。大通りを走る車の横を通りすぎるゆうき。ドライバーたちが車を停めて、目を丸くして見ました。
港では、漁船が出港しているところでした。
「うわ、なんだあれは!?」
漁師が驚きました。ゆうきがもうスピードで海に降りて、かけ抜けえいきました。
「誰か止めてえええ!!」
驚いている漁師を尻目に、走り去っていくゆうき。
「いやあああ!!」
海の上を走っていると。
目の前に、くじらが現れました。
「いやあああ!!」
くじらが、口を開けました。
「いやあああ!!」
くじらの中に入っていきました。
「ぶはあ!」
海の中から出てくるゆうき。どうやら、そのままくじらの体内を突き抜けて、お尻から出てきたようです。
ゆうきは足を止めることなく、海面に映る太陽の上を、走っていくのでした。
一方で、りかはというと。
「ふう。仕事おわりのコーヒーはおいしい……」
一息ついていました。
「さあて。早ければ今日中に例の報告書来ると思うんだけどなあ。ん? 例の報告書?」
りかは、少し考えてから、コーヒーカップを落としました。
「モーターシューズの止め方教えんの忘れてた!!」
がく然としました。
「まずい! このままではエンジン尽きるまで永遠に走らされることになってしまう。どうするどうする? どうするどうする!」
ぐるぐる歩き回りながら、考えました。
「そうだ。今こそあれを試す時だ!」
放課後、小学校では、先生たちが警察に頼んで、行方不明になったゆうきを探してもらうよう話をしていました。そのスキに、りかは、こっそりと下駄箱に行き、ゆうきの上靴を持ち出しました。
「今こそ、このスメールバスターズが役に立つのだ!」
まるで特撮に出てくるような戦闘機に乗りこみ、そこにある箱に、上靴を入れました。
「これぞスメールバスターズ! 人のものを専用の箱に入れると、そのにおいを検知し、同じにおいを発見してくれる。行方不明になった彼女を見つけられる!」
エンジンを作動しました。
「発車ーっ!!」
スメールバスターズが、ゆっくりと、上空へ飛び立ちました。
「昔特撮に憧れてたの思い出して、作ったんだよなあ」
と言っても、においを検知するだけなので、こうげきは出ません。
「さーてと。検知されるまで映画でも観るか」
りかはビデオをつけました。検知されると、大きくアラート音が鳴るのです。しかも、操縦に関しては、自動運転システム搭載ため、のんびりしていられるのです。
ゆうきは、アメリカ、中国、インド、南極、北極を走りました。これだけの距離走り続けたのだから、モーターシューズの速度は、六十キロまでしか出せなくなっていました。ゆうきは、枯れていました。走り続けだったので、魂の抜けたような感じになっていました。
そしてまた、日本に戻ってきました。
「あなたたち! わたくしにこんなことして、ただで済むと思わなくてよ?」
ロープで縛られて、助手席に乗せられているお姫様が怒りました。
「おーっと。あまり大口叩くと怖いぞ?」
サングラスをかけた男が、運転しながらお姫様に銃を向けました。お姫様は悲鳴を上げました。
「こうでもしなけりゃ、お前の親、金よこしてくんねえからな」
と、目を丸くするサングラスの男。
「な、なんだありゃ!?」
「へ?」
ドアミラーに、人の姿が映りました。ゆうきです。もうスピードで、サングラスの男の車に、追いつきました。
「助けて!! わたくしを助けて!!」
お姫様は、車の窓を開けて、ゆうきに叫びました。
「今あなたの元へ飛び移りますわ。しっかり受け止めてくださいよ?」
お姫様は、ドアを開けました。
「おい!! 死にてえのか!!」
「いきますわよ?」
「おとなしくしやがれ!!」
サングラスの男は、お姫様の頭に銃口をつけました。
「やかましい!!」
サングラスの男の腕をひねってやりました。
「あたたた!!」
銃を落としました。
「いち、にの、さーん!」
お姫様は、ゆうきに飛び移りました。
「ひゃっ!」
間一髪。ゆうきは、お姫様を見事キャッチしました。
「ありがとうございますわ!」
「は?」
お姫様をお姫様抱っこしながら、キョトンとしているゆうき。そこへ、
「いたー!!」
スメールバスターズに乗った、りかがやってきました。
りかの研究所、科学の娘りかに戻りました。
「てことで、はい報告書」
「へ?」
「モーターシューズのこと、書いてほしいの」
「あんなの書かなくても、十分わかりましたよ」
ムッとした感じで言いました。
「というと?」
ゆうきは、りかをにらんで答えました。
「モーターシューズなんてものはいりません! 車とバイクがあれば十分です! 以上!」
それだけ言い放つと、ゆうきは帰っていきました。
「モーターシューズは、失敗ね」
肩をすくめるりかでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます