第22話

ライヴハウスのドアを再び開けると、

背の高い男が立っていた。



「ビックリした……まだ客がいたのか」




そう言う、あまりに美しい男性の顔に見とれて、金縛りにあったみたいに動けなくなった。




白い長袖シャツに黒の革パン。



アクセサリーはつけない首元。



肩までの金髪ロン毛、日本人離れした妖艶な顔……。





……【blue-black】のボーカリストだった。





「……あ、あの」



そのNATSUと呼ばれたミュージシャンを見上げると、


澄んだ吸い込まれそうな大きな瞳が私を見ていて、少し声が震えた。




「忘れ物取りにきたら、まだいた。どのメンバーのファン?」




NATSUはちょっと迷惑そうな顔で……でも優しさを隠し切れてない話し方をし、




「早く帰らないと補導されちゃうよ」



スッとビルの入り口を指差した。




「……」




……あそこを出ても、帰れない。




暗闇中にぽっかり白くみえる階段上の入り口が、

タイムスリップの入り口ならいいのにって思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る