第25話 光の都到着

「ここが光の都なのね」


 美雨たちは夕方近くに光の都に到着した。

 初めて見た光の都は一言でいえば「白い街」だった。


 建物は屋根も壁もほとんどが白いものばかり。

 今は夕暮れなので夕焼けの太陽の光がその白い建物に当たり街全体が朱色に染まって見える。


「ねえ、高志乃。なんで光の都の建物は白い建物が多いの?」


「それはここが太陽神への信仰を表す都でもあるからです。建物が白いとこのように太陽の光の色により都全体が朝焼けと夕焼けの時に朱色に染まります。これは太陽の光を尊重しその色に染まることで光族は太陽神に逆らう意思はないことを示しているのですよ、美雨様」


(なるほど。太陽神への信仰の証のようなものなのね)


 教会に泊まった時にも感じたが太陽神というのは光族の生活の中心にあるといってもよさそうだ。


(初代女王の各部族の神は各部族の存在そのものを誇示していると言った言葉を実感するわね)


 美雨も王女として王家が中心になって崇めているラーマ神への信仰を持っている。

 しかしだからといって他の部族の神を軽んじているわけではない。


「美雨様。これから太陽神殿に向かいます。光族の族長に美雨様が光族を訪問することは事前に報せてありますから我々の到着を待っていると思いますので少し急ぎましょう」


「分かったわ。光の族長は太陽神殿に住んでいるの?」


「はい。光の族長は太陽神殿の大神官長も兼ねていますので族長の身内は太陽神殿にお住まいです。美雨様、あそこに見えるのが太陽神殿です」


 高志乃が示す方向を見ると巨大な白い建物が見えた。

 美雨たちは光の都に入ったばかりだがその場所から見てもかなりの大きさだ。


「すごい大きな建物のようね」


「はい。太陽神殿で働く神官たちも基本的に太陽神殿内に住んでいるのでかなり広いですよ」


(つまり神殿と言っても実際に祭事を行う場所だけではなく神官たちの住居も兼ねているから広いってことね)


 美雨が住んでいた王宮も広いが王宮に勤める者の多くは王宮内に住んでいるわけではない。

 太陽神殿で働く神官たちの住居も兼ねているなら太陽神殿が大きく広いのも頷ける。


 太陽神殿に向かいながら美雨は光の都の様子を見てみる。

 当たり前と言えば当たり前だが街を歩く人々のほとんどが光族の人間だ。


 光族の特徴は金髪に金の瞳。

 だが共通の特徴はあってもよく見ると人によってその特徴にも違いがあるのが分かる。


 金髪であっても色の淡い金髪の者もいれば蜂蜜色の金髪の者もいるようだ。

 瞳も同じように色合いに違いがある。


(光族と一言で言ってしまいがちだけど外見だけでも皆それぞれ違うのね。今までこんなに多くの光族の人を一度に見たことなかったから気が付かなかったけど)


 失礼にならない程度に光族の人々を観察しながら美雨が馬を歩かせているといつの間にか太陽神殿の前まで来ていたらしい。

 夕焼けに染まる白い巨大な神殿はとても美しい姿で美雨を迎えてくれる。


「美雨様。神官に美雨様のことを話してきますのでしばしお待ちください」


「分かったわ」


 高志乃が太陽神殿の入り口にいた神官に話に行く。

 しばらく待っていると数人の神官が高志乃と一緒に美雨のところにやって来た。


「大神官長様からお話は聞いております。美雨王女殿下がご到着されたら滞在するお部屋へ案内するように言われておりますのでご案内します」


「ありがとうございます。第三王女の美雨です。お世話になります」


 久しぶりに王女殿下と呼ばれたがここは光族の目的地でもあった場所だ。

 太陽神殿が族長の住居と言うなら太陽神殿内で身分を隠す必要もないだろうと美雨は自分の素性を素直に伝えた。


「では馬と荷物はこちらで預かりますのでどうぞ」


 美雨たちは馬と荷物を神官たちに任せて太陽神殿の中に足を踏み入れる。

 中はいろんな建物に別れているようだ。


 神官は太陽神殿の奥の建物まで進み今度は階段でその三階に上がる。

 そして三階の一室に美雨たちを通した。


「この部屋をご自由にお使いください。従者の方々はこの部屋の隣りの部屋をお使いください。一時間ほどしましたら大神官長がご挨拶にお見えになりますのでそれまでご自由にお過ごしください」


 部屋まで案内してくれた神官は一礼して部屋を出て行く。


「美雨様。我々は隣りの部屋に控えていますので御用の時はお呼びください」


「分かったわ。当麻と高志乃もゆっくり休んでね」


 当麻と高志乃が部屋を出て行くと入れ替わりに美雨たちの荷物を運んで来た神官たちが部屋に荷物を運び入れた。

 その神官たちがいなくなるとようやく美雨も息をつく。


「ふう、なんとか光の都までは来れたわね」


「はい。美雨様が初めての旅でも文句を言わず頑張っていただけたので同行する者としてはありがたいことでした」


「野乃も疲れたでしょ。休んでいいわよ」


「とんでもありません! 先ほどの神官様が族長様がご挨拶に来ると言っていたではありませんか。その準備をしませんと。旅姿のまま族長様に挨拶などできませんからね」


(そうだったわ。ここに到着して終わりじゃないのよね。むしろこれからが光の王配選びの始まりだもんね。えっと、光の族長の名前は澄光様だったわね)


 各族長の名前は女王教育の時に頭に叩き込まれているので忘れない。

 族長は女王と一緒にこの国の政治を行っている者だ。

 美雨が王女で女王候補だったとしても族長に対して失礼な態度を取るわけにはいかない。


「良かった。この部屋にはお風呂もあるようです。まずは湯あみして身体を綺麗にしてください、美雨様」


 美雨が通された部屋はリビングの奥に寝室があるようだ。

 その他にも扉があったので野乃が確認していたのだが今野乃が扉を開けたところにお風呂場があったらしい。


「お風呂に入れるのは嬉しいわね。ありがたく入らせてもらうわ」


「私もお手伝いしますので。さあ、族長様が来るまで時間がありませんからお早く」


 野乃に急かされて美雨はお風呂に入る。

 旅で埃塗れだった美雨の身体は野乃の手によってピカピカに磨き上げられていった。


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