第24話 雷神降ろしの儀式の失敗
ドシーン!!
「うわあ!」
目の前に雷が落ちた光主は思わず目を瞑って声を上げた。
雷が落ちた地響きが収まると同時に光主は物凄い圧迫感を感じる。
自分の周囲の空気が一気に重たくなった気がした。
それは父親の澄光が霊力を解放した時に感じた圧迫感に似ていたが感じる強さはその比ではない。
(いったい何が起こったんだ…?)
光主は恐る恐る瞳を開くと目の前の光景に息を呑む。
そこには一頭の白く輝く虎のような獣がいた。
その虎が普通の虎ではないことは一目瞭然だ。
全身に雷を帯電しているかのようにバチバチと音を立てた光に虎は包まれている。
虎の眼光は鋭く光主たちを睨みつけていた。
『雷神の我を呼び出したのは小僧たちか』
白い虎が雷鳴のような声を発した。
「雷神!?」
光主は白い虎の言葉を聞き耳を疑う。
白い虎が人語を話すのにも驚いたが心底驚いたのはその白い虎が自分のことを「雷神」と言ったからだ。
だが子供の頃から賢い光主はそこで全てを理解する。
無謀にも自分のいとこは「雷神降ろしの儀式」を行ったようだ。
同じ魔法陣の中にいる月天は恐怖のあまり声も出せず震えながら現れた雷神を凝視している。
とてもこの状況を月天がどうにかできるようには思えない。
(確か父上は魔法陣を使う術の場合は魔法陣の中に居れば魔法陣が術者を護ってくれるって言ってたはず)
雷神からはとてつもない霊力を感じる。
魔法陣など吹き飛ばしてしまえそうな霊力の強大さだ。
しかし父親の話が本当ならこの魔法陣の中に居れば雷神から身を護れるはずだ。
ここは光の都の近くの森だ。
「雷神降ろしの儀式」で空も厚い雲に覆われ辺りは闇夜のように暗い。
自分の父親のように霊力の高い者がこの異変に気付かないわけはない。
光主たちにできることは魔法陣から出ないで異変に気付いた父親たちが助けに来るのを待つことだけだ。
『貴様らのような小僧が我を宿せると思うたか。八つ裂きにしてくれるわ!』
雷神は未熟者に呼び出された怒りを光主たちにぶつけるように吠えた。
そして魔法陣目掛けて襲いかかってくる。
「ひいいっ! 喰うならこいつを喰え!」
恐怖に耐えきれなくなった月天が光主の身体を強く突き飛ばした。
「何するんだ!? 月天!」
光主の身体は魔法陣の外に転がり出てしまう。
そうなればもう雷神から身を護る術はない。
『グオオオオーッ!!』
恐ろしい唸り声を上げて雷神が光主に襲いかかる。
必死に逃げようと雷神に背を向けた瞬間、光主の背中に激痛が走った。
「ぐわああぁーっ!!」
光主はあまりの痛みに声を上げる。
雷神の爪が光主の背中を切り裂いたのだ。
引き裂かれた傷から鮮血が飛び散り激しい痛みと共に背中が燃えるように熱くなった。
その場で光主は地面に倒れる。
(痛い……このまま…死ぬのかな……)
意識が薄れていくのが自分でも分かる。
その時、再び雷神の声が響く。
『ほお。我の一撃を受けて即死しないとは小僧はなかなか霊力が高いとみえる。まだまだ我の加護を受けるには不十分だが小僧に免じてこの場は退いてやろう』
雷神はそのまま姿を消した。
その後は光主も気を失ってしまったので詳しいことは分からない。
次に光主が目覚めたのは太陽神殿の自分の部屋だった。
父親の澄光からは異変に気付いて澄光たちが森に駆け付けた時に光主と月天が気を失って倒れていたのを発見したと説明された。
月天にケガはなかったが光主は一週間も生死の境を彷徨っていたらしい。
何があったのかは月天が書いた魔法陣を見て澄光は理解したとのこと。
光主は順調に回復したが雷神の爪痕は背中に傷として残った。
しかも傷と同時に火傷も負ったのでその傷跡は醜いものだ。
普段は衣服を着ていれば背中の傷跡を隠せるので気にしない光主だが時々その傷跡が疼く時があるので鬱陶しく感じる時もある。
ちなみに月天への処罰は二年間の太陽神殿への出入り禁止だった。
処罰を受けて少しは反省したかと思っていたが二年後太陽神殿への出入りが許されるようになって再び光主の目の前に現れた月天の性格は変わっていなかった。
光主をライバル視する心も次代の光の王配になる野望も月天は持ち続けている。
「フン! その月神の加護も受けていないのはどこの誰だ?」
負け惜しみのように月天は光主に噛みつく。
昔のことを思い出していた光主は意識を現在に戻した。
今の光主の霊力なら月神の加護を受ける術を成功させることは容易い。
だが雷神の件があってからどんな神の加護を受けるのも光主の中に拒否感があるのだ。
(俺がやろうと思えばすぐに月神の加護を受けられるなんて言ったらこいつはまたうるさく吠えるだろうしな)
光主が無言でいると月天は光主が悔しがっていると勘違いしたようだ。
「まあ、月神の加護を受けられなくて悔しい気持ちは分かるが己の力量を知っていることは大事なことだぞ、光主。美雨王女の婚約者は私がなるからな。私の邪魔をするなよ」
言いたいことだけ言って月天は光主の前からいなくなる。
(自分が光の王配になる気はないが美雨王女には月天だけは選ばない方がいいと助言ぐらいはするべきか)
そんなことを考えながら光主は自分の部屋に戻った。
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