第18話 守護結界の役割
荷物を運び終えた美雨たちは先程の広い部屋に向かう。
部屋に入ると神官が子供たちに夕食を配っていた。
「ちょうど良いところにいらっしゃいましたね。夕食ができたので皆に配っているところです。美雨さんたちもそこにあるお皿を持ってパンとスープを受け取ってください」
神官が示す所には空のお皿が置いてある。
子供たちは自分でお皿を手にして神官からパンとスープを貰っているようだ。
美雨がその空のお皿を取ろうとするとそれより先に空のお皿を手にした女の子が美雨にお皿を差し出す。
「お姉ちゃん。このお皿使っていいよ。お姉ちゃんはお客様だから」
女の子は光族の子供で年齢は6歳前後だろう。
幼いながらお客様である美雨を精一杯もてなそうという気持ちが顔に現れている。
「ありがとう。私は美雨って名前なの。貴女の名前は?」
「私は
「光瑠ちゃんね。お姉ちゃんはお客様ではなくて光瑠ちゃんのお友達になりたいんだけどなってくれるかな?」
「うん! いいよ! 光瑠も美雨お姉ちゃんとお友達になりたい!」
光瑠という女の子は元気よく返事をしてくれた。
けして恵まれていると言えない生活を送っていても光瑠の心は荒んでいるようには見えない。
それが美雨には救いだ。
光瑠から空のお皿を受け取り神官からパンとスープをもらう。
スープには美雨たちが提供した干し肉が入っていた。
部屋には長いテーブルがあり夕食を受け取った子供たちは次々に席に座っていく。
美雨がテーブルの端に座ろうとすると先程の光瑠が美雨に声をかけてくる。
「美雨お姉ちゃん! 光瑠の横に座って!」
「ええ、いいわよ」
光瑠の横の席に座ると配膳の終わった神官が最後に自分の夕食を手にして席に着いた。
「では皆さん。太陽神様へのお祈りをします。この食べ物は太陽神様の恵みです。感謝していただきましょう」
そう言うと神官は太陽神への祈りを捧げ始めた。
お腹が空いているだろう子供たちも目を瞑って神官の祈りが終わるのを待っているようだ。
(食事の前には太陽神への祈りを捧げるのね。これもきっと光族での常識なのだわ)
各部族には各部族の常識があるから美雨の王女としての常識がそのまま通用する訳ではないと教えてくれたのは亡くなった闇のお父様だ。
美雨も子供たちと同じく目を瞑り神官の祈りに耳を傾ける。
しばらくすると神官の祈りが終わった。
「では皆さん。夕食を食べましょう」
『いただきまーす!』
子供たちは一斉に夕食を食べ出した。
美雨もパンとスープを食べてみる。
パンは美雨が王宮で食べていたものよりも硬い。
スープは干し肉からうま味が出ているのかそれなりに美味しかった。
(今回は干し肉が入っているからまだマシなのよね。野菜のスープだけだと成長途中の子供たちには物足りないかも)
ここにいる子供たちが毎日お肉を食べれるような国にしたいと美雨は強く願う。
すると隣りに座っていた光瑠の声が聞こえた。
「美雨お姉ちゃんはどこから来たの?」
「王都よ」
「王都って女王様がいるところ?」
「そうよ。女王様が住んでいるところよ」
「じゃあ、美雨お姉ちゃんは女王様と会ったことある?」
「…っ!」
一瞬、美雨は言葉が詰まる。
王都の民であっても女王の姿が見れる機会は稀だ。
ここには神官もいる。
迂闊に女王に会ったことがあると発言すれば不審に思われるかもしれない。
「女王様と直接会ったことはないわ。女王様は王宮にいらっしゃるから」
子供に嘘を吐くのは心苦しいが美雨の身分を明かすことはできない。
「そうなのね。私は大きくなったら女王様に会いに王都に行きたいの」
「女王様に会いに行きたいの? 何か女王様に用事でもあるの?」
美雨が尋ねると光瑠は笑顔で答える。
「女王様にお礼を言いたいの」
「お礼?」
「うん。神官様がね、光瑠たちがご飯を食べられるのも危ないことに合わないのも女王様が光瑠たちを護ってくれているからなんだって教えてくれたの。だから女王様に護ってくれてありがとうっていつか言いに行きたいの」
無邪気な光瑠の言葉に美雨はハッとする。
神官は子供たちに女王を敬うようにそういう教え方をしているのかもしれないが女王と六人の王配がこの国に守護結界を張って他国の侵略からこの国を護っているのは事実だ。
もしその守護結界が消えれば他国が攻め入ってきて戦争になる可能性は否定できない。
そうなれば最初に犠牲になるのは自分の身を護れない子供たちだ。
(女王と六人の王配が張っているという守護結界の役割も重要ね。でも守護結界については女王教育でも詳しく教えてもらえなかったのよね)
華天国の全土を覆っている守護結界については女王と王配にしかその詳細は代々伝えられていないという。
(もしかして王配選びが終わった後に課せられる女王候補者と王配候補者への試練ってその守護結界に関係することなのかしら)
そんな考えが脳裏に浮かぶが光瑠の笑顔を見ていると美雨は自分が女王になってもこの笑顔を子供たちから消してはいけないと強く思う。
「そう。きっと女王様は光瑠ちゃんが来るのを楽しみに待っているわよ」
「そうだと光瑠も嬉しいな!」
この光瑠が大人になる時には女王は代替わりしていることだろう。
(もし私が女王になっていたら光瑠ちゃんは驚くかもね。そんな日が来たら私も嬉しいわ)
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