第17話 孤児院の実情

 美雨たちは教会の中に入る。

 すると神官の男性が美雨たちをある部屋へと案内した。


 そこは広い部屋で中には10人ほどの子供たちがいた。

 一番幼い子供は5歳くらいで大きい子供でも12歳ぐらいの男女入り混じった子供たちだ。


 特徴からしてほとんどが光族の子供のようだが二人だけ別の部族の子供がいる。

 美雨たちが部屋に入ると子供たちの視線が美雨たちに集中した。


「皆さん。今夜はお客様がお泊りになられます。皆で歓迎いたしましょう」


『はーい!』


 神官が子供たちに美雨たちを「歓迎しましょう」と言うと子供たちは素直に大きな声で返事をした。


(この子たちが孤児院の子供たちね。元気があるのはいいことだけど…)


 元気よく返事をした子供たちだがその身体は痩せている。

 ガリガリという訳ではないが同じ年齢の普通の家庭の子供たちと比べると明らかに発育が悪そうだ。


 それに着ている服も粗末なものばかり。

 孤児院の経営はどの部族も厳しいと聞いてはいたが実際に瘦せ細った子供たちを目の当たりにすると美雨の心が痛む。


(この子供たちも同じ華天国の民なのに…)


 孤児院を経営する者が国からの支援金を自分の懐に入れてしまう場合もあるがこの神官の着ている服もよく見ると薄汚れた部分があるのでこの神官がお金を着服しているとは考えにくい。

 おそらく支援金が孤児院を経営するのに足りていないのだろう。


「これから子供たちと夕食の時間になるのですが皆さんも一緒に食べますか? パンと野菜のスープしかありませんが」


「えっと…」

 

 問いかけられた当麻が一瞬、美雨の方を見た。

 宿屋は満室だったが食堂はまだやっている時間だ。


 美雨たちはお金がない訳ではないので食事を外の食堂で取ることはできる。

 当麻が言葉に詰まったのはパンと野菜のスープという粗末な食事を王女の美雨に食べさせるべきか悩んだからだろう。


 当麻の思いを汲み取った美雨は自分から進んで神官に答えた。


「もし私たちの分もあるなら子供たちと同じ物を食べたいです。それに私たちは旅の非常食用に干し肉を持っています。今夜の食事をいただくお礼にその干し肉を野菜のスープに足して子供たちと食べたいのですがダメでしょうか?」


 先日、野宿した時に当麻たちが非常食用の干し肉を持っていたことは美雨の記憶にある。

 こんなことをしても焼け石に水かもしれないが少しだけでも子供たちに栄養のある物を食べさせたい。


「え! お肉食べれるの?」


「私、お肉食べたい!」


「僕も!」


 子供たちは「お肉」と聞いて騒ぎ出す。


「これこれ、静かにしなさい。分かりました。美雨さんのご厚意に甘えてその干し肉をいただきます。そして皆さんも一緒に夕食を食べてください」


「はい、ありがとうございます」


「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方です。では夕食の準備はこちらがしますので美雨さんたちは部屋に荷物を運んでください。部屋に案内しますので」


「はい」


 神官に案内されて美雨は今夜泊まる部屋に行く。


「こちらは女性二人で。男性二人は奥の部屋を使ってください。では私は夕食の準備がありますので荷物を片付けたら先程の広い部屋に来てください」


「分かりました」


 美雨と野乃が部屋に入ると簡易なベッドが二つある。

 普段は使わない部屋なのか少し埃っぽい。


「美雨様。我々は馬から荷物を部屋に運びます。美雨様は少し休憩してください」


「ええ。あと干し肉を神官様に渡してね、当麻」


「承知いたしました」


 当麻と高志乃が荷物を運び入れるために再び教会の外へ向かう。

 とりあえず美雨はベッドに腰掛けて座った。


「ふう、なんとか今夜の宿を確保できたわね」


「美雨様が神官様に頭を下げるだけでなく干し肉まで分けてあげるとは思いませんでしたわ。正直驚きました」


「あら、それは当然よ、野乃。だって泊まらせてくれるだけでもありがたいのに夕食も分けてくれるんだもの。この孤児院にとっては貴重な食糧だと思うのに」


「そうですね。町の食堂で食事することもできるのにあえて孤児院の子供たちと同じ食事をすることを選ぶのは美雨様らしいですわ」


「でも…野乃はこの孤児院をどう思う?」


「どう思うとは?」


「華天国の他の孤児院でも子供たちはこんなに厳しい環境で生活をしているのかと気になってしまって…」


(もし私が女王になったら孤児院の子供たちがもっと良い生活ができるようにしたいわ)


 そんな美雨の思いを野乃は正確に読み取ったようだ。


「美雨様。全ての国民が貧富の差なく生活することはとても難しいことです。美雨様が女王陛下になった時に美雨様がこの孤児院の実情を知っているだけでも救われる民はいるはずです。その民のためにまずは美雨様は女王陛下になることを目指してください。美雨様が女王陛下になれなければ美雨様が民を助けたいと思ってもそれはこの国では難しいと思います」


「そうね。私自身が女王になることがはじめの一歩ってことね」


 この国の政治は女王と族長が行う。

 女王になれなければ美雨自身が民を救うことはできない。


 美雨は自分が女王になる決意を新たにする。


(私の王配には私の気持ちを理解してくれる男性がいいわ。そしてもちろん私を愛してくれる男性が理想ね)


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