第14話 帰還命令

「光主様は意外と純愛を好みますよね。女王候補者にだって素敵な女性がいるかもしれないじゃないですか。噂では美人揃いとも聞いていますよ」


「意外ととはお前も失礼な奴だな。好きな女と結婚したいと思うことの何が悪い。それに外見が美人でも性格が悪ければ最悪だろう」


「まあ、性格は確かに重要な要素ですが。でもそれなら女王候補者に美人で性格も良い自分の好みの女性がいたら王配になってもいいとは考えていらっしゃるのですか?」


「……っ!」


 明山の言葉に思わず光主は言葉が詰まる。

 確かに明山の言う通りに女王候補者の中に自分の理想の女性がいないとは限らない。


 もしそんな女性がいたら自分はその女王候補者に自分を王配に選んで欲しいと願うだろうか。


 自問自答をしてみるが答えはでない。

 なぜなら今までの人生で理想の女性に出会ってないので光主は本気の恋をしたことがないのだ。


(そんな女性が女王候補者の中にいたら王配になるのもやぶさかではないが…)


 この国に王配が必要なことは光主も理解している。

 次代の女王が誰になるかは分からないがそれは王配も同じこと。


 女王候補者と婚約してもその女王候補者が最終的に女王になれなければ婚約は無効となりその王配候補者が次代の王配になることはない。

 なので女王候補者と婚約しても王配になることが確定する訳ではない。


 しかしそれは仮に女王候補者の中に理想の女性を見つけて婚約してもその女性が女王になれなければ自分と最終的に結婚できない可能性があるということだ。

 それを阻止するためには自分と婚約した女性を絶対に女王にする必要が生じる。


 だがこの国の女王は各部族から王配を一人ずつ選ぶ存在だ。

 自分の選んだ女性と結婚するためその女性が女王になることに手を貸すことはもちろん光主だって不満はない。


 問題は自分の愛する女性を他の王配たちと共有できるかということだ。


(やはり王配にはなるべきではないな。他の男と好きな女を共有するなんて冗談じゃない)


「俺は王配になりたくはない。王配にはなりたい奴がなればいいだろ?」


「それってもしかして月天げってん様のことを言ってませんよね? あの方が光の王配になったら光族の恥ですよ」


 明山は月天への嫌悪感を隠そうともしない。

 月天は光主のいとこに当たる男で霊力も強い。霊力だけなら王配になってもおかしくない男だ。


(だけどあいつの性格の悪さは死んでも治らんだろうな)


 明山が月天を嫌う気持ちが痛いほど分かる。

 自分も子供の頃からあのいとこには散々な目に合わされてきたのだから。


 その上、野心家で自分こそ次代の王配に相応しいと周囲に言いふらしているような奴だ。

 光族の代表たる光の王配に相応しい男だとは光主も思えない。


「別に奴以外にも王配候補者はいるだろ。奴の弟の空月くうげつは性格のいい男だぞ」


「空月様は確かに兄の月天様に似ず性格の良い方ですが。お世辞にも王配候補者の中では霊力が強いとは言えませんね」


 明山が肩を竦めながらそう空月を評価する。

 そんな話をしているうちに光主と明山は砦に着いた。


 すると兵士の一人が慌ただしく光主のもとに走ってくる。

 そして光主に白い封筒を差し出した。


「族長の澄光すこう様より早馬で手紙が来ました」


「父上から?」


 兵士から封筒を受け取り差出人を確認すると確かに族長の澄光からの手紙のようだ。

 早馬で届けたということは何か重要なことかもしれない。


 光主はその場で封筒を開封し手紙を読む。

 しかし手紙の内容を読んだ光主は思わず溜息を漏らす。


「いかがなさいましたか? 光主様」


「噂をすれば影だな。女王候補者が光の都に来るから急いで戻るようにとの父上からの帰還命令だ」


「おや、さっそく女王候補者様のご到着ですか。それなら急いで光主様は都に戻らないとですね」


 王配になるのが嫌でも女王候補者が一族に来たならば王配候補者として挨拶をしない訳にはいかない。

 女王候補者たちはみんな王族だ。失礼があっては光族の責任が問われる。


「気は乗らないが王配候補者として挨拶ぐらいしないと女王陛下のお怒りに触れる可能性があるからな。明山はもうしばらくここで盗賊の捜索をしろ。数日経っても盗賊が見つからないなら兵士を連れて光の都へ戻って来てくれ」


「承知しました。ちなみに今回はどの女王候補者がいらっしゃるのですか?」


「手紙には第三王女の美雨様と書かれていたが」


「美雨王女殿下は有力候補と噂の高い方でしたね。光主様のご健闘を祈ります」


「そんなもん、祈らなくていい」


 明山にそう言い放ち光主は砦の自分の部屋に戻り都へ帰る準備を始めた。


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