第12話 王弟の陰謀と旅立ち

 清和たちの部屋から離れ美雨は自分の部屋に向かう。

 あの二人の今後が気になるが今は自分も王配選びの旅に集中しなくてはならない。


 そんな美雨の姿をある人物が遠くから見ていた。


「まったく忌々しい娘だ。氷雨の娘など女王にしてたまるか」


 その人物は女王の氷雨の弟である砕波さいはだ。

 美雨の姿が見えなくなると砕波も自分の部屋へと戻る。


 ある理由から砕波は自分の姉の氷雨が大嫌いだった。

 当然氷雨の娘の王女たちのことも嫌悪している。


 砕波が氷雨を嫌う理由は子供の時に氷雨に言われた一言が原因だ。

 この国では王位は代々女性が継ぐ。


 しかし砕波は先代の女王の息子として生まれた。

 王族に生まれたのに王になれないことに幼い砕波は疑問に思う。


 勉学や剣術に優れていてもこの国の王族の男は王になることはない。

 それは男が王位に就くと国が争いに巻き込まれたり災害が起こるなどして国が荒れるからだと言われている。


 実際に男が王位に就いた過去があるがそれは悲惨な状態だったらしい。

 だがその男の王が王族の女性に王位を譲り六部族から王配を選ぶとその災厄は収まったとされている。


 その過去の歴史もあり今では女性にしか王位継承権がない。

 幼い砕波はそれが不満だった。


 だからある日、自分の姉の氷雨に訊いてみたのだ。

 なぜ自分は王になれないかを。


 氷雨の答えは簡単だった。


「それは砕波が男だからよ。王族の男は王家に必要ないの。だってこの国に必要なのは「女王」だから」


 その時は氷雨もまだ子供だったからそんな残酷な言葉が言えたのかもしれない。

 砕波は「王族の男は王家に必要ない」という言葉に傷付いた。


 そして氷雨を憎むようになるがそんな氷雨はあろうことか女王になってしまった。

 そのことが砕波の憎しみを増幅させる。


 女しか王になれないなら自分の娘を女王にして氷雨に悔しい思いをさせたい。

 砕波はそう決意した。


 砕波の執念が実ったのか砕波には娘が生まれた。

 それが女王候補者の一人である照奈だ。しかも照奈は霊力の高い娘。


 今回の王配選びで照奈を王配候補者たちの誰かと婚約させて無事に六人の王配を持つ女王にすることが砕波の目標だ。

 そのためには卑怯な手でも何でも使うつもりでいる。


 まずは一番の邪魔者である美雨を消してしまいたい。

 あとの二人の王女は照奈より霊力も低いし無視してもかまわないだろう。


 だが美雨だけは違う。

 あの娘は霊力も高く周囲の評判も良い。このまま美雨が王配選びの旅で無事に六人の王配候補者と婚約できたら厄介なことになる。


 砕波は自分の部屋に控えていた男に声をかけた。


「分かってると思うが美雨を一年後にこの王宮に帰って来れないようにしろ。旅の途中で事故や事件に巻き込まれることは珍しいことではない。うまくやれ」


「承知しました」


「絶対に私の仕業だとバレないようにしろよ。では行け」


 命令を受けた男は一礼をして部屋を出て行く。


「最有力候補の娘が死んだ時の氷雨の顔を見るのが楽しみだ」


 その時の氷雨の姿を想像すると砕波は楽しくて仕方ない。

 自分を傷付けた姉を今度は自分が傷付けてやるのだ。


 すると扉がノックされた。

 砕波が入室許可を与えると娘の照奈が入って来る。


「どうした? 照奈」


「お父様。私は厳しい旅をするのは嫌だわ。女王にはなりたいけど旅を快適にすることはできないの?」


「そうか。なら、出発の時だけ規則通りに護衛騎士二人と侍女一人を連れて行けばいい。王都から離れたら馬車が使えるような道は馬車での移動にさせてあげよう」


「やった! それなら頑張って王配選びをしてくるわ。美雨には負けたくないもの!」


 濃い化粧をした照奈は悪女のような笑みを浮かべて喜ぶ。

 照奈も美雨のことが嫌いなのだ。


 美雨は王女として敬われるのに照奈はただの王族の娘の扱いを受ける。照奈はそのことが不満だ。


 だがそれも照奈が女王になれば変わる。

 みんなが照奈に跪くだろう。


「私は絶対に女王になるわ、お父様」


 野心溢れる娘の様子を砕波は満足そうに見ていた。





 一方、そんな陰謀に巻き込まれていることを知らない美雨は自分の部屋で野乃と話しをしていた。


「美雨様。今日中には準備は整います。当麻様たちからもいつでも出発できるという連絡がありましたわ」


「そう。出発は早い方がいいわよね。当麻と高志乃に明日出発することを伝えてちょうだい」


「承知しました」


(とうとう王配選びの旅に出発か。まずは光族の都を目指すのよね。光族の王配候補者たちはどんな人たちかしら)


 不安と期待が入り混じり興奮する自分を落ち着けるように美雨はお茶を飲む。


 そして次の日。

 美雨は王配選びの旅に出発した。

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