第7話 美雨の理想の王配との関係

 王配選びでの美雨の不安は自分が果たして六人の王配候補者を愛せるだろうかということだ。

 この国は女王と同じく六人の王配を必要としている。


 国民にとっては女王も王配も同じような存在かもしれないが女王にとって王配は国を治める為の協力者であると共に夫になる者たちだ。

 次の女王候補をこの世に誕生させる為にも王配との夫婦の交わりは避けられない。


 しかも六部族の公平性を保つために女王は特定の王配だけと交わるのではなく平等に六人の王配と交わる責務が発生する。

 そのおかげで産まれてくる子供の父親がどの王配か特定ができないのが普通。


 だがそれがこの国には重要なことなのだ。

 次代の女王の父親が特定されてしまえばその女王の父親の出身部族が権力を握る可能性がある。


 子供の父親が分からなければその危険性はない。

 六部族を公平に扱うことがこの国の初代女王と当時の各部族長たちが決めたことなのだから。


 美雨は今まで恋というモノをしたことがない。

 書庫で借りた本の中で恋愛に関する本を読んだことがあるがそれは大抵二人の男女の恋愛話だ。


 恋人や夫が六人もいる恋愛の本など読んだことはない。

 それもそのはずこの国は女王だけが複数の夫を持つことができるからだ。後は族長のみ複数の妻を持つことが例外的に認められている。


 なので多くの国民は一夫一妻制だ。

 だから恋愛の本に出てくる恋人たちも二人の男女なのだろう。


 女王は特別。

 言葉で言ってしまえば簡単だが女王だって一人の人間である。


 自分の夫に愛情を持てなかったらその後の人生は暗く悲しいモノになるに違いない。

 しかも美雨が女王になれば夫は六人もいることになる。


 六人の王配を全員好きになれれば問題はない。

 だが果たしてそううまく六人の男性を愛せるものなのだろうか。


 ふと、美雨は自分の母と父たちのことを思い出す。

 女王の母と王配の父たちは仲が良い。


 それが上辺だけでないことは幼い頃から母と父たちのことを身近に見ているので疑いようがない。

 亡くなった二人の王配のことも母は未だに愛していて時間があればよく墓参りをしているぐらいだ。


 自分が子供の時はそのことを不思議に思わなかったが成長して恋や愛についての知識がついてくるとやはり母と父たちの関係は特殊なことに気付いた。

 複数の者を同時に愛せることは稀であるということに。


 そうは思っても母が六人の父たちを平等に愛していることに間違いはない。

 そして父たちは母を巡って争うことがない。


 まさに女王と王配としては理想そのものだ。

 美雨はそんな母と父たちのような関係をこれから会うであろうまだ顔も知らない王配候補者と築けるかが疑問である。


 各部族の王配候補者は族長が選定した者たちでその者たちの中から自分の婚約者を決めなければならない。

 その部族の者だからと選定した者以外の者を婚約者に迎えることは禁じられている。


 果たしてその限られた王配候補者の中に美雨と恋する相手が見つかるのか。

 それに期間は最大でも一部族で一月である。


(確かに婚約者として選んでから王配たちに時間をかけて愛情を持つのも選択肢にはあるけど)


 相手への好意を無視して次代の王配の能力があるかどうかだけを見て婚約を交わすことはできなくはない。

 だが美雨はできるなら自分が愛し相手も愛してくれるような人物を王配に選びたい。


 美雨の理想は母と父たちのような女王と王配なのだから。


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると反対側から男性が歩いてきた。

 その人物は氷雨の光の王配の空也くうやだ。


「光のお父様!」


「おや、美雨じゃないか。女王候補者の授業は終わったのかい?」


 空也は光族の特徴の金の瞳で優し気に美雨を見る。


「はい。終わって今から自分の部屋へ戻るところです。王配選びの旅の準備もあるので」


「そうか。もうすぐ王配選びの旅に出発か。美雨と一年も会えなくなるのは寂しいよ」


 美雨も大好きなお父様たちとしばらく会えなくなるのは寂しい。

 だが別にこれが今生の別れという訳ではない。


 闇のお父様や水のお父様と違って光のお父様の空也は生きているのだから。

 だから美雨は努めて明るく返事をする。


「一年なんか、あっという間よ、光のお父様。一年後に無事に自分の王配候補者と婚約して元気に戻って来るわ」


「そうだな。美雨は昔から女王になると頑張っていたものな。美雨、少しだけ話があるんだ。中庭を散歩しないか?」


「え? ええ、いいですけど」


 美雨から中庭の散歩に誘うことは昔から多かったが空也の方から散歩に誘われるのは珍しい。

 ちょうど二人がいる場所は中庭に通じる入り口の近くだ。少しだけなら空也と散歩してもかまわないだろう。


「では行こうか」


「はい」


 二人はそのまま近くにあった中庭への入り口から中庭へと入った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る