第6話 華天国の始まり
「では本日の授業はこの国の歴史の始まりについてです。美雨王女様。この国の始まりについてお答えください」
教師に指名された美雨はこれまでに習った歴史の記憶を頼りに答える。
「はい。華天国は建国前には六部族が争っていました。そこへ華天国の初代女王となるとても霊力の高い女性が現れて六部族の族長に争いを止め華天国の建国を提案したのです」
「そうですね。ではその提案内容とは何ですか?」
「提案内容は自分が女王となり各部族から王配を一人ずつ選び夫とすること。また王配には政治的権限は与えられず政治は女王と各部族の族長が行うことです」
淀みなく答える美雨に教師は満足そうに頷く。
「ではなぜ各部族より王配を一人ずつ選ぶことにしたのでしょうか? 清和王女様、お答えください」
「はい。王配が一人の場合は六部族のどの部族から王配を迎えてもそれが新しい争いの火種になるからです」
「その理由は何ですか?」
「初代女王とその王配の子供が次の王になればそれ以外の部族が冷遇されると当時の族長たちが考えたからです」
「その通りです。建国当時はまず六部族の争いを止めることが大事なことでした。しかしどの部族から王が立っても建国は難しかったでしょう。初代女王の出身部族は不明とされていますがその霊力は飛び抜けていて時空に影響を及ぼす能力を持っていたとされています。族長たちは初代女王を女王とすることに賛成しても自分たちの部族が冷遇されることを恐れた。その解決策が代々王は女性が継ぎその王配は六部族の各部族から一人ずつ選ぶというものでした」
教師の説明は美雨が今まで散々聞いてきた話だ。
女王と六人の王配との関係は建国当時の事情が深く絡んでいる。
「各部族を均等に扱う象徴として王配は選ばれました。それ故に王配は政治的権限を持ちません。しかし王配にはそれよりも大事な役割があります。その役割とは何ですか? 美雨王女様」
「はい。王配の役割は女王を支えて護ることと女王と協力してこの華天国を護る守護結界を張ることです。ただこの守護結界については平民の多くは知らない事実です」
そう、華天国は国全体を覆う女王と王配による守護結界が張られている。
民の多くはその事実を知らないがこの守護結界のおかげで他国からの侵略を防いでいるのだ。
しかしその守護結界は女王と六人の王配が全て揃って初めて完璧な守護結界が作れるらしい。
現在、この国は闇の王配と水の王配が亡くなっている状態だ。そのため守護結界が弱まっているとも言われている。
闇の王配は美雨のお忍びの時に襲撃されたことが原因だが水の王配は病死だった。
美雨は水のお父様である
(あの時私が「癒しの力」を完璧に扱えたら水のお父様を助けられたかしら)
授業を受けながらも美雨は亡くなった水のお父様のことが脳裏に浮かぶ。
美雨たちが持つ「霊力」には強さもあるが「属性」というモノがある。
同じ「霊力」と言ってもイトコの照奈は攻撃性の強い属性を持ち「霊力玉」で相手を攻撃することを得意としている。
今がどこかの国と戦争中だったら照奈の霊力は国民からも高い支持を得ていただろう。
そして美雨の霊力の属性は「癒し」だ。
人々のケガや病気を癒すことができる。だが全てのケガや病気を治せる訳ではない。
それにこの霊力というモノは修行しなければ自分の自由には使えない。
闇の王配が倒れた時も水の王配が病気になった時もまだ美雨は自分の「癒し」の霊力を完全に使える状態ではなかった。
幼かったのだから仕方ないとはいえそのことが美雨の後悔の念を増幅させる。
自分がもっと早く癒しの霊力を制御できていたら闇のお父様も水のお父様も死なずに済んだのではないか。
その思いは美雨の中で消えることはない。
しかしくよくよ考えていても前には進めない。
美雨は自分の首にあるネックレスを触る。
闇のお父様との最後の想い出と約束の証の桃色の花のネックレスだ。
(闇のお父様との約束を必ず果たさないと。それには王配選びの旅を成功させなければならないわ)
「では次は王配選びについてのおさらいです。王配選びの決まりについての説明をお願いします。美雨王女様」
教師の声で我に返った美雨は慌てて授業に頭を戻す。
「はい。王配選びの期間は一年間です。これは華天国の六部族を回るのに時間がかかることと各部族での最大の滞在期間を一月までと決めているからです。そして無事に王配候補者たちと婚約できた場合は最終試練を女王候補と王配候補は受けなければなりません」
「そうです。王配選びは婚約して終わりではありません。六人の婚約者を決めた後で女王への最終試練が課せられます。最終試練の内容については私も存じ上げません。一年後、条件を満たし王宮に戻って来た女王候補にのみ女王陛下から内容が告げられます。本日の授業を持って王配選びの旅の前に行う授業は終了です。王女殿下たちに祝福がありますように」
そう言って頭を下げた教師は部屋を出て行く。
(ふう。とりあえずこれで後は旅の準備に集中できるわね)
美雨は自分の教本を片付ける。
すると清和が美雨に声をかけてきた。
「美雨は女王になりたいんでしょ?」
「ええ、そうよ。でも女王はなりたくてなれるモノじゃないもの。まずは王配選びを成功させなきゃ意味ないわ、清和お姉様」
「……そうよね。王配選びは女王候補者としての責務よね……」
清和の表情は暗く瞳はどこか遠くを見ている感じだ。
「清和お姉様。どうかしたの?」
「い、いえ、何でもないわよ。お互いに頑張りましょうね」
慌てるように清和は部屋を出て行った。
(体調でも悪いのかしら。これから長旅に出るのに清和お姉様が体調悪くされてたら心配だわ)
もし本当に体調が悪いなら自分の「癒し」の力で回復させてあげてもいいかもしれない。
後で時間を見て清和にもう一度体調について訊いてみようと美雨は考えた。
そして教本を持って美雨も自室へと向かう。
廊下を歩きながら美雨は王配選びについて考えていた。
(王配選びか。女王には王配が必要なのは分かるけど不安はあるのよね)
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