第5話 王配選びの旅の目的
「ねえ、次代の女王陛下はやはり美雨王女様かしら?」
「私は美雨王女様になって欲しいわ。霊力も高いし性格も優しい方でメイドにも丁寧にお言葉をかけてくださるのよ」
「でも霊力だけなら王弟殿下の御息女の
「それは知ってるけど照奈様は我儘なところがあるし女王様になるには性格も重要なんじゃない?」
ここ最近、王宮に勤める者の話題は女王候補者たちの誰が次代の女王になるかということがほとんどだ。
それというのも年頃になった女王候補者たちが数日後に自分たちの王配を決める旅に出発するからだ。
誰が次代の女王になるかはこの
この国が女王と六人の王配失くして成り立たないことを子供でも知っているのだから。
「そこの者たち! おしゃべりする暇があったら自分の仕事を早く終わらせなさい!」
「す、すみません!」
女王候補の話をしていたメイドたちは上司に怒られて慌てて仕事に戻る。
その様子を廊下を歩いていた美雨が目撃していた。
(皆の関心が次代の女王に誰がなるかに向くのは仕方ないわよね。この国では最も重要なことだもん)
仕事をサボっておしゃべりすることは感心できないが民の興味が自分たち女王候補に向いていることは嫌でも自覚できる。
美雨は先日18歳の誕生日を迎えた。
この国では18歳を成人としている。
先程メイドたちが話をしていた次代の女王候補に名前を連ねているのは美雨も含めて四人。
美雨はその四人の中では最後に成人を迎えた。
そして最年少の美雨が成人したことで次代の女王に欠かせない「王配選びの旅」が行われることが正式に決定したのだ。
王配選びの旅に行くことが決まってからはその準備に美雨は忙しい。
旅は一年間という長い期間を使って行われる。
女王候補者たちが華天国を形成する六部族の元に出向いて族長が予め「選定」した王配候補者たちの中から自分の王配に相応しい相手を選び婚約を交わす。
だが全てが女王候補者の自由になる訳ではない。王配候補者にも「拒否権」なるものが存在する。
美雨が気に入った王配候補者に婚約を申し込んでもその王配候補者が美雨を気に入らない場合は「拒否権」を使用して婚約を断ることができる。
なぜかと言うと王配候補者は次代の女王にその女王候補者が相応しい女性なのかを判断する役割が与えられているからだ。
女王と同じく王配もこの国の要となる者たち。
女王と王配の間に信頼関係や愛情はもちろんのこと国を治めるに相応しい能力が無くてはこの国の女王や王配として失格なのだ。
女王は王配を王配は女王を選ぶのがこの旅の真の目的だ。
旅の準備も忙しいが直前まで女王候補者たちには女王候補者としての心得やこの国の歴史や女王と王配の関係についての授業が毎日行われる。
美雨も今からこの華天国の歴史についてのおさらいの授業の為に教師がいる部屋に向かっているところだった。
「えっと、今日はこの部屋だったわね」
本日、授業が行われる部屋に辿り着いた美雨は扉をノックする。教師はまだ時間前だからいないと思うが先に女王候補者の誰かがいるかもしれないからだ。
中から入室許可の声が聞こえたので美雨は扉を開けて部屋の中に入った。
部屋には四つの小さな机と椅子が並べられている。
四人の女王候補者は基本的に同じ部屋で同じ時間授業を受けるはずだが四つの席の内、既に席に着いている女王候補者は一人だけだった。
「
その人物は美雨の一番上の姉で美雨より三歳年上の21歳の第一王女だ。
美雨の銀髪とは違い清和は黒髪だ。しかし瞳の色は美雨と同じ青い瞳。
六部族は各部族がそれぞれ特徴的な姿をしているが王族だけは別。
長い歴史で六部族の血が混ざりに混ざった王族だけはいろんな姿の者が存在する。
美雨の銀髪に青い瞳は水族の特徴だがだからといって美雨が水の王配と氷雨の間の子供かどうかは分からない。
ちなみに清和のような黒髪は闇族の特徴だが闇族は瞳も黒いのが普通。清和のように黒髪に青い瞳の者は闇族にはいない。
だから美雨もたまたま水族の特徴が身体に現れただけの話だ。
しかしこの女王と六人の王配の誰の間の子供か分からないというのがこの国では重要な意味を持つ。
この国の歴史において女王が知っておかなければならない知識のおさらいが今日の授業の内容だ。
「美雨。貴女は本当に昔から真面目ね。授業に遅れたこともないしサボったこともないし」
「あら、それは当たり前よ。だって次代の女王に必要なことだもの」
「……そうね。次代の女王に必要なことよね。……この王配選びの旅も……」
元々性格的に大人しく控えめで静かな清和だがなんとなく元気がないように美雨は感じた。
「どうしたの? 体調が悪いの? 清和お姉様」
「いいえ、大丈夫よ。それより後の二人は今日は来るかしら。もうすぐ教師の方が来るのに……」
美雨は自分の席に座りながら空席の二つの机を見る。
この勉強は今まで受けた女王教育の復習のようなものだ。
それでも王配選びの旅の前には受けるべく授業であるはずなのに「復習など面倒くさい」と欠席している女王候補が二名いる。
一人は美雨の二番目の姉で第二王女の
(あの二人は今日も絶対来ないでしょうね)
美雨は普段の順菜と照奈の様子を思い出す。
順菜も照奈も一言でいえば我儘な人物だ。
さらにこの二人は共に派手好きで贅沢することが好きの困った性格の持ち主。
二人の違いは持っている霊力の強さだろうか。
順菜よりも圧倒的に照奈の方が霊力が高いことは美雨も知っている。
霊力の高さだけを言うなら四人の女王候補者の中では美雨と照奈が秀でている。
照奈は何かにつけて自分の霊力の高さを自慢するが女王は霊力の高さだけで決まる訳ではない。
それを照奈が理解しているのかは美雨も分からない。
そんなことを考えていると教師が部屋にやって来た。
どうやら授業の時間になったようだ。だが空席はそのまま。
(やっぱり順菜お姉様と照奈はサボりか。まあ、今はあの二人のことより自分のことよね)
美雨が内心溜息を吐くと教師が授業の開始を告げる。
教本を開き美雨は教師の方を向いた。
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