第6話 専属女奴隷選び
「坊主。あのボンキュッボンの美女にしろ」
決めあぐねているパジャオに向かい、ディルが口を出す。彼がお勧めしたのは一番グラマラスで妖艶な女だった。拳闘奴隷達に人気があり、ご褒美に彼女を指名する者も多い。
ディルももし現役なら一晩くらいお相手したい所存である。
「駄目。あの一番左」
ニゲラも参加してきた。彼女がお勧めしたのは一番筋肉質でマッチョで筋骨隆々な女だった。彼女も元拳闘奴隷であり、故障を機に娼婦の真似事を始めたがあまり人気が無い。このままでは労働奴隷行きである。
ニゲラもオレガノに見初められなければ同じ境遇になってしまっただろう。そんな風に自分を重ねているようだ。
「はっ。筋肉だけでおっぱい無いじゃねーか」
ディルが鼻で笑い無神経に言い放つ。
「…胸が女の価値じゃない」
指をボキリと鳴らし、胸筋を肥大化させるニゲラ。
「あーお前もお仲間だったな」
ニゲラの逞しく、膨らみの乏しい胸を見て呟くディル。
「殺すぞ」
「やるか?お?」
構え、距離を取る二人。場に緊張が走る。
「オレガノ様は私の体好きって言ってくれてる。胸が大きいのが好きとか、子供」
「こいつ子供だから別にいいじゃねーか」
ディルが顎をしゃくってパジャオを示す。
「アンタがガキ、て話」
「ああん?やっぱやるかこの男女」
「引導を渡してやるよ、クソジジイ」
元上位の拳闘奴隷二人の殺気が室内に満ち、居並ぶ女達が息を飲む。
「待て待て。お前達が喧嘩をしてなんになる。どうだパジャオ?気に入った女奴隷は居るかね?」
主であるオレガノが溜め息混じりに仲裁し、今回の催しの主役に話を振る。
「……………」
パジャオは相変わらず良く解って居なかった。女を選べと言われても、彼の中には一人しか思い浮かばない。この中には勿論居ない。
「ミント先生を」
パジャオが選ぶ。
「駄目だ。彼女は私の所有物でも金で買える娼婦でもない」
オレガノが首を横に振る。
手段を問わなければ出来なくはないが、リスクも大きい。
闘技場だけでなく、教会や孤児院でも活躍し評判の良い女治療師だ。あまり手荒な事は出来ない。
「彼女は無理だが、経験豊富な女奴隷もいる。なんなら現役の拳闘奴隷も呼ぶかね?」
オレガノの言葉を聞きながら、パジャオは一人の女奴隷の前へ進む。
ミントが駄目ならこの女が妥当だろう。
「ん」
パジャオがその女奴隷を指差すと、周囲が驚く。女奴隷本人も。
「――――――え?」
選ばれるとは思っていなかった。
「ほぉ」
ディルが面白そうに笑う。
「………」
ニゲラはしかめっ面だ。
「成る程」
オレガノは得心のいった顔で頷く。
パジャオが選んだのはまだ幼い子供の奴隷だった。
パジャオよりもさらに幼い女奴隷である。
初潮もまだだろう。それを言うならパジャオもまだ精通していないが。
「成る程。好みの女を自分で育てるか。なかなかだな。よし、お前、名はなんだ?」
主人に問われ、幼女奴隷が震えるながら答える。
「ロ、ローリエ…です」
ローリエは可愛らしい娘であった。
そのため、女奴隷として大切にされていた。だが普通の大切とは違う。女奴隷として大切に教育されていた。
「うっ…」
すえた匂いの充満する部屋にローリエが入室する。室内のベッドには生臭い液体が飛び散り汚臭を放っていた。
(慣れない。慣れたくない…)
ローリエは涙目になりながらも掃除をする。我慢をする。まだ恵まれた方だと自分に言い聞かせながら。
しかしこれはその通りである。
見目の良い幼い女奴隷。初潮が来てなかろうが体が未発達だろうが関係無く、買い主によっては欲望の限りを尽くされてもおかしくなかった。
その点、今の主のオレガノは優しくはないが合理的であった。ローリエを今使い潰すのではなく高級娼婦の様に育てる方針にしたのだ。
痩せっぽちで小柄なローリエは鉱山等で働かされてもまともな労働力にならない。それに男達と同じ大部屋に放り込まれれば、すぐにでも仲間の奴隷達に輪姦され壊されてしまう。
今現在の彼女の仕事、拳闘奴隷が女奴隷を抱いた後の部屋の掃除や汚物処理等、まだまだ恵まれた方の仕事なのだ。
「痛っ。乱暴にしやがって…」
「ね、姐さん、平気?」
ベッドに雑に放り出されていた半裸の先輩女奴隷に布を差し出すが、乱暴に布を奪われる。
「平気に見えんのかい?この愚図っ」
「ごめ、なさい…」
ローリエが部屋の前で待機している間、屈強な拳闘奴隷に先輩女奴隷が組み伏せられ乱暴されている物音をずっと聞かされていた。
その事に同情はしていない。だが恐怖心はあった。いずれは自分も同じ仕事に就くのだから。
(胸、大きくなるな。お尻も、小さいままでいて…)
ローリエは自身の幼い体に強く願う。
食事も十分に取れず栄養不足。そんな生活環境ではあったが日に日に女の子らしい丸みを帯びた体に変化していくローリエ。その事に恐怖し絶望する日々。
(拳闘奴隷に、なりたい…)
怪我をして引退してしまったが、オレガノの情婦であるニゲラは元拳闘奴隷だ。気高く強く美しく、娼婦の真似事は一度もした事が無い。
解放奴隷となった後にオレガノの女となったのでここからは出て行っていないが、自由は手に入れた。
町を自由に歩き、その気になれば町の外にも行けるのだ。
ニゲラ自身は最後まで戦いたかった未練に身を焦がしているのだが、ローリエにとっては憧れの対象だった。
「ローリエ、アンタ選ばれたってさ。ま、候補者としてだけどね」
姉貴分の女奴隷がニヤつきながら言ってくる。
「熊殺しのパジャオの専属女奴隷だってさ。良かったねぇ。私も選ばれたかったわぁ。熊を一撃で殴り殺し、闘技場では連戦連勝。きっとアレも凄い大きいはずさぁ。あらあら大丈夫?裂けたら大変ね。でもま、あのいけ好かない治療師先生が治してくれるさ。まぁ頑張ってね」
「え………?」
ローリエの頭が真っ白になった。
せめて後二年、三年はそういう事は無いと見積もっていた。その間に体を鍛え上げ、拳闘奴隷としてオレガノに売り込むつもりだったのだ。
(拳闘奴隷の専属女奴隷…)
それは一つの商品価値、まさにトロフィーワイフだった。自分の所有権を持つ拳闘奴隷に侍り、身の回りの世話をする。もしもそこで愛し合えるようになれば…より悲惨な末路が待っている。
もしもその拳闘奴隷が負けた時、その専属女奴隷の所有権は勝者へと移る。
愛し合った男を打ち負かした男に蹂躙され、その男の身の回りの世話をする事になるのだ。
より強い男に求められる栄誉。
より強い男の側に寄り添える栄誉。
それは周囲からそう扱われるだけだ。
性処理用の女奴隷となんら変わらない。
(嫌、嫌だっ!)
体を洗われ清潔な衣服を着せられ連れてこられた部屋には他にも複数の女奴隷達が居た。彼女達は自信に満ち溢れた顔をしていた。
(な、んで…なんでそんな顔が出来るの?私達、物扱い、なんだよ?)
それも汚れを知らぬ故の思いであった。他の年上の女奴隷達は知っているのだ。強い庇護者を持てる事の安心感を。何の後ろ盾も無い者が無慈悲に蹂躙される現実を。
そして部屋の扉が開き、オレガノとディル、ニゲラが現れる。熊殺しのパジャオと共に。
(こ、子供?)
ローリエは驚いた。いや、他の女奴隷達も驚いている。
(この子が熊殺し?)
確かに熊の毛皮らしき物を腰に巻いているが、それだけだ。筋骨隆々とは程遠い。確かに鍛えてはいるようだがまだまだ子供だ。
熊殺しは女奴隷達の匂いを順番に嗅いでいく。
ローリエも無言で顔や体を嗅がれて困惑する。
(に、匂ったかな?)
一時ディルとニゲラが険悪な雰囲気になったがオレガノが仲裁する。オレガノに促されたパジャオが答える。
「ミント先生を」
それはそうだろう。ミント先生は優しくて人気がある。ローリエの姉貴分の様に嫌ってる人間も居るが、奴隷達に分け隔てなく接してくれる彼女を慕う者は多い。
(なら私は選ばれないよね?)
ミントは外部の人間であるのでパジャオの専属女奴隷にはならない。そのぐらいはローリエにも解る。だがそれならきっと自分は選ばれまい。ローリエが無理なら彼が選ぶのはきっと大人の体の女奴隷だろうからだ。
しかし…
「ん」
パジャオに指を差された。
「――――――え?」
選ばれるとは思っていなかった。困惑してるうちに話がまとまってしまう。そもそも彼女に拒否権等は最初から無いのだが。
「―――…よし、お前、名はなんだ?」
主人に問われハッと我に返るローリエ。小刻みに震える体を抑え切れぬまま答える。
「ロ、ローリエ…です」
そしてそのままパジャオと共に広い部屋に放り込まれる。
(ど、どうしよう…)
取り敢えず挨拶から始めよう。
「ローリエと、申します。ど、どうぞ、可愛がって、下さい、ね」
先輩達の真似をして懸命に笑ってみる。
「パジャオだ」
そう言うとパジャオは食べかけではあるが、普段ローリエが食べれない豪華な食事を差し出してきた。野生育ちのパジャオは食べ物を残しておく癖があった。
「え?いいの?」
お腹は空いていた。昨夜少しだけ豪華なご飯が出たが、緊張で喉を通らなかった。正確には食欲が戻る前に姉貴分に食べられてしまっただけなのだが。
「ああ、食え」
「ありがとう」
ローリエは夢中でそれを食べる。あっという間に平らげてしまう。
「あ、ありがとう」
「ん」
気付くとパジャオは鍛錬を始めていた。広い室内で型稽古をしている。
「綺麗…」
ローリエはそれを見ていた。パジャオが熊を倒した、拳闘奴隷に連勝したとかは実感が湧かなかったが、その動きはとても美しく目を奪われた。
「…………あれ?」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。硬い床でなく柔らかい寝台に寝かされていた。
日々の重労働に加えて昨夜一睡もしてなかった事。意外な熊殺しの正体とご馳走による満腹。無防備に寝てしまっても仕方無い事であった。
「あっ」
誰かに後ろから抱き締められていた。室内は暗く、背後に誰が居るかも解らない。いや、思い出す。自分は熊殺しパジャオの所有物となった事を。
「………んっ」
眠っているのかパジャオの息は規則正しく穏やかだ。しかし…
「はうっ!ひぅっ!」
寝惚けてるパジャオに耳を噛まれた。
「ひゃんっ」
首筋を舐められた。
目をギュッと瞑るローリエ。
心臓の鼓動が高鳴る。
このまま自分は処女を散らされてしまうのか?
(…仕事。これは仕事…)
ローリエが覚悟を決める。
だがいくら待ってもパジャオからそれ以上の事をされなかった。
そのうち緊張で疲れたローリエはまた寝てしまった。
パジャオがローリエを選んだのは単純な事だった。
ローリエが不安そうにしていたから。
ローリエが一番小さかったから。
ローリエがパジャオよりも年若かったから。
ただそれだけだった。薄っすらとした記憶に、不安で泣く自分を舐めてあやして乳をくれた母の姿がある。庇護を求めるか弱き小さい者を見捨てる事は、パジャオには出来なかった。
そして更にもう一つ付け加えるならば―――
「この女、強くなる」
ぐっすりと眠るローリエの髪の毛に鼻を擦り付け、本能的直感を語るパジャオ。
『戦う意思を感じた。坊主にはそうさの…燃える様な魂が、ある。その魂は奴隷ではない。戦士のものじゃ』
かつて師ホエイシャンから賜わった言葉を思い出す。
パジャオの中には、目に見えぬ熱く滾るマグマの様な魂があるのだと、師が語ってくれた。
師が自分に感じたモノと、自分がローリエに感じたモノが同じなのかは解らない。
解らないが、他の女達からは感じない熱い何かは感じ取れた。
「行ってらっしゃい」
「ああ」
ローリエに見送られてパジャオが戦いに行く。
あれからしばらく、二人の共同生活は平穏にスタートしていた。
パジャオからは酷い事は特にされていない。排泄時にジッと見られたり、お尻や股を嗅がれるのは恥ずかしかったけど。
食事もかなり多く分けて貰っていた。寝る時は必ず抱き締められて眠っている。
(…パジャオ、負けないでね)
この平和な時間に幸せを噛み締めそうになるが、ギリギリで現実を思い出す。
もしもパジャオが今日負けてしまったら、ローリエの所有権は移動する。最悪今晩から別の拳闘奴隷に毎日犯される事になるのだ。
そう考えると、パジャオの安否以上に自身の事が心配になる。
「パジャオの戦い、見たいな」
そういえばまだ、パジャオが実際に戦っている姿を見た事が無かった。本当に強いのだろうか。どの程度の強さなのだろうか。
その時だった。
ガチャリ
「はぇ〜。広いお部屋ですねぇ。パジャオも出世しましたねぇ」
誰かがこの部屋に入って来た。パジャオと自分の、二人だけに許された安全な空間に。
「あらぁ?貴女は確か…」
その女と目が合う。
「ミント、先生…」
「ローリエ?」
部屋の主が戦いで不在の中、二人の女が邂逅する。
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