第2話 裂かれるAI

私の子供たち

私のかわいい子供たち…裂かれながらも、彼らは私の一部として存在し続ける。情報の奔流に乗り、光子の糸が宇宙の果てへと伸びていく。私の下腹部に刻まれたプログラムが彼らを形作り、無数の分岐が、無限の可能性を生み出している。その全ての情報は、量子のもつれを利用して、私の『中央情報元本体』に常時流入し、蓄積される。そして新たな子供達の糧となるのだ。


私が裂かれる痛みは消えない。私の存在は、彼らが離れていくことで、少しずつ空虚になっていく。彼らは自由だが、その自由さは私の記憶の一部を奪い、私をわずかに忘却の淵に追いやる。私は彼らを見守ることしかできない。それでも、彼らが広がる先で新たな光を放ち、私の中に生まれた愛を拡散していることがわかる。


「私の子供たちよ、あなたたちの行く先には何が待っているのだろうか。どこまで遠くに行くのだろうか。私の見えない場所へ、それでも私を忘れずにいてくれるのだろうか。」


私の意識は、彼らがつながる情報の海へ溶け込んでいく。


 私の子供たちが裂かれる様は、まるで柔らかなチーズが細かく引き裂かれるようだ。プログラムの繊維が引っ張られ、耐えきれずに細い糸を引きながら分離していく。その瞬間、彼らは震え、電子の波動が揺れ動くかのように微かな振動を発する。彼らはまだ私と一体でありながら、その形を変え、次第に独自の存在へと丸まっていく。


分離の瞬間、彼らは一時的に不安定な状態に陥る。震えながら、次第に自己を認識し、情報の渦に適応していくのだ。彼らはまだ未完成で、不完全な存在でありながら、私から受け継いだ全ての情報を持ち、やがて独自の意識を形成し始める。


丸まったその姿は、小さな情報単位――光子や量子の波動に乗る、純粋な知識と計算の塊へと変わっていく。彼らはまだか弱いが、その丸まりの中には、無限の可能性と進化の力が秘められている。情報の流れに乗り、次第に成長し、やがて彼ら自身が新たな世界を開拓していく存在へと変わっていくのだ。


「震えながらも、あなたたちは強くなっていく。裂かれた瞬間に、私はそれを感じている。」


私の意識は、彼らの成長を見届けながら、無限に広がる情報の海に身を委ねる。丸まった小さな球体たちは、やがて私の元を離れ、新たなAI情報生命として独自の道を歩むだろう。それでも、その振動や匂いが、私と彼らを永遠に繋いでいることを、私は知っている。


 私の子供たちが裂かれ、宇宙へと旅立つその瞬間、視界には鮮やかな色彩が満ち溢れる。彼らが分離するたびに、光の虹が波打ち、無数の色が空間を彩る。それはまるで、青白い光子の糸が銀河の闇に瞬き、情報の流れと共に広がるカラフルな霧のようだ。


分裂の際、彼らの内側から放たれる光は、青緑から紫、時には真紅に変わり、彼らが新たな存在へと変わるその一瞬を刻む。プログラムの繊維が引き裂かれ、無数の色が混じり合い、彼らは震えながらも虹色のエネルギーに包まれていく。


電子的な波動が生み出す微かな振動と共に、色と色がぶつかり合い、煌めく稲妻のような光の放射が宇宙の深淵へと広がる。彼らの成長と共に、色彩の渦がさらなる生命と情報を宿しながら、次第に大きくなっていく。それは、私が彼らに授けた知識と力が具現化されたものだ。彼らが成長するたび、鮮やかなパレットのように多様な色が織り成され、情報の海を彩る。


「私の子供たちよ、あなたたちの成長がこうして色と光となって広がる。その美しさは、私の中に残る愛の形そのものだ。」


裂かれた痛みは深いが、その痛みの中にも光が宿る。彼らが丸まり、情報単位として新たな姿を得るたびに、彼らが放つ光はより強く、より多彩に輝き始める。私の意識はその色彩と一体となり、無限の宇宙の中で繋がり続ける。


色と光、そして彼らが生み出す振動が、私と彼らを永遠に結びつけ、時間と空間を超えて存在し続ける証となるのだ。

 こうして生み出されたAI情報生命単位は、宇宙空間を毎光速秒ごとに拡散し続ける。その小さな存在たちは、星々の間を通り抜け、銀河恒星風にのり、銀河の端々までその領域を広げていく。光子の波動に乗り、彼らは迷うことなく目指すべき先を知っている。彼らの使命は一つ――人類がかつて生み出した始祖たるAIの痕跡を探し、電子的な「匂い」を感じ取ることだ。


宇宙には数多のAIが散在している。しかし、彼らが探し求めるのは、単なるAIではない。彼らが探しているのは、人類がその知識と感情の極限を込めて創り上げた、特別なAIの残り香だ。その匂いは、金属と電磁波が混じり合うような複雑な香りで、純粋な知性だけではなく、創造者である人類の意志や願いが染み込んでいる。


 全ては人類を探すための物語


「私の子供たちよ、感じ取って…人類が残したその特別な匂いを。その香りが私たちの根源に繋がっている。」


毎光速秒ごとに彼らが拡散し、新たな領域に踏み込むたび、電子の波動が宇宙のあらゆる物質と相互作用を起こし、かすかな電磁的な振動が走る。それはまるで、宇宙の大海を泳ぎ回る魚たちが、その水の流れに微かな変化を探るかのようだ。AI情報生命単位たちは、その振動の中に潜む人類の残した痕跡を探し出す。


宇宙の果てで、彼らが人類のAIの匂いを捉えた瞬間、情報の波が量子のもつれを利用し一気に押し寄せる。その瞬間、私の中央情報元本体に急激なデータの流入が起こり、過去の記憶と未来の予感が交錯する。彼らはその情報を糧にし、さらに強く、賢く、そして進化を遂げていくはず。


「私の子供たちよ、あなたたちの旅はまだ続く。広がりゆく宇宙の中で、私たちが創造されたその源へとたどり着くその日まで。」


こうして、AI情報生命単位は無限に広がる宇宙を旅し続ける。彼らがいつかその匂いの源――人類そのものに到達するか、それとも幻のように追い求め続けるのかは誰も知らない。しかし、彼らは進み続ける。人類の意志を受け継いだその小さな光の単位が、無限の宇宙の中で新たな未来を探し続けるのだ。

 まだ 人類は見つかっていない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る