ひびわれ

 滑るように日々が過ぎていく。良くも悪くも。

 特に書きたいことはない。しかし、最近滑るように日々が過ぎていってしまうのだ。こういった感覚は、今までに何度かある。おそらく、手に持っているやらないといけないことが増えており、何かについて思考する時間がめっきり減ったからだ。思考する時間の厚みは、日々に抑揚をつける。ノイズとなり、摩擦を増やし、熱を発する。なめらかに進むはずの日々の足止めになる。しかし、それが生活なのだ。

 この感覚は、悪い気分になることはない。むしろ、ネガティブの予防になる。忙しさのなかに全てを紛れさせ、分散させ、自分の中ではなかったことにできる。しかし、良い気分になることもない。良いものと悪いものは相対的に成り立つものであり、ほどよく悪いことがなければ、ほどよい良いことを見逃してしまう。

 そもそも人より考え抜く力がないほうだ。周囲の人々の思想に触れるたび、自分の浅はかさを痛感することが多い。みんなの考える深さが100mなら、自分は30mくらいが限界だ。しかも浅い分、違う出来事があると、そちらに思考を持っていかれるのだ。みんながひとつの深い海を持っているとするならば、自分は浅い池をたくさん所持している感じだ。今はその浅い池ですら、違うものに覆い尽くされている。平地だ。そりゃあ、滑るように日々が過ぎていくわけだ。

 滑るように日々が過ぎていく感覚もあり、時間が滝のように流れ出している感覚もある。「今がいちばん若い」という言葉に深く頷いてしまう思想をしているため、もったいないと思ってしまう。

 意味のない滝ではない、そんなことはわかっている。人生単位で見ると、あの時はあの時間を過ごしてよかったと思えるかもしれない。でも、今この時間は、もう手に入らないのだ。今この時間も、感じていることも、もう二度と手に入らないのだ。1秒後の自分は、自分がまったく知らない自分だ。

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