第一章

犠牲


 この土地に引っ越してきて何年になるだろう。



 あれは確かわたしがまだ小学生の時だった。



 小学生だった事は覚えてるけど、何年生だったのか覚えてない。



 その理由は同じような毎日を過ごし特別印象強いものがないからで、覚えてるのは引っ越してきたばかりの頃、駅前の大規模な都市開発が始まった事くらいだったりする。



 クリーンな政治とクリーンな街作り。



 そんな公約の元に始められた都市開発は、秩序の悪さから“黒夜こくやの街”と言われていたこの街の駅前を華やかに変えた。



 建て替えられた駅の前には新しいビルがいくつも建てられる。



 銀行やアミューズメントビル、映画館やショッピングモールが黒夜の街に明るさを与えた。



 わずか数年ですっかり景色の変わった街並みは――…



 …――僅か数ヶ月ではっきりとした明暗を分け作った。



 政権交代での都市開発の中断。



 詳しい事は分からないけど、政治家の不祥事が相次いだ所為で政権交代してしまい、新政権が“クリーン”から“節約”へと新しい公約にかかげ、税金の無駄遣いを理由にこの街の都市開発は中途半端なまま終わりを迎えた。



 その所為せいで出来てしまった街の明暗の差は酷い。



 駅前の南側は、都市開発の数年の年月を経て華やかな街並みに姿を変えたけど、その反面、元からそこにあった暗い部分が追いやられるように北側へと移動し、更には建ち並んだビルが北側へと射し込んでいた太陽の光すらをも遮断した。



 後々北側も……駅の周辺全てが輝かしい場所になるはずだったのに、今では駅の北側だけはとても陰気臭い場所になっている。



 同じ駅周辺なのに北側だけは別世界のようで、いつしかそこに集まる人達も“そういう”人達になっていた。



 そこで生活する誰もが皆、暗く黒く重い。



 まるでどこかのスラム街のような陰気な雰囲気をかもし出す街と人間。



“黒夜の街”と言われていたそこは、いつしか北側だけが“underworld暗黒街”と言われるようになった。



 決して街は外見的に特別暗い訳じゃない。



 昼も夜もキラキラと輝いてはいる。



 一日中何らかの光を放つ街だけど――…雰囲気が暗い。



 街を取り囲む全てが、街そのものが暗く黒い。

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