寝る前に思いついたSF

@kimo_ota3

ナルコレプシー

 深夜4時。いや、早朝の4時か。

いつものように寝る前のルーティンでYoutubeを見ながら睡魔に襲われるのを待っている。

 なんにも考えず、動画から流れ出る音と眠気眼の瞼裏に映る映像をシンクさせて自分の世界に入り浸る。

 あー、眠れそうだなぁ。

そう思うと嬉しくて堪らなくなり、ベッドの前に飾っている絵の中の少女にアイコンタクトし、この嬉しさを共有する。

 ここにポッキーでもあればなぁ。シェアハピだなぁ。

そんな事を考えてから眼鏡を外して眠りの世界に落ちる。

 眠りは結局のところ眠りだ。

今日が昨日に、明日が今日になるという、頭の切り替えを行う作業だ。

何も楽しくないし、眠りに入るのは大変な上、覚める時はしんどい。

 しかし、そんなことを思う私に目の前の絵の少女は優しく微笑み、この何の面白みもない作業を私がベッドに入り、ベッドから身を起こし部屋を出て行くまでの時間見守ってくれる。

 ありがたいなぁ。夢の中で会えないものか。


と、考え続け数年がたった。


 時は満ちたのである。


 ここ数年間で技術は発展し、掛けるだけで見たいものを表示してくれるメガネの登場と、素人でも少しいじれば人のように振る舞えるようプログラムすることのできる人工知能の登場により、人々の生活は一変した。


 もちろん私の生活も一変した。


 一変したが、今も変わらずYoutubeを見ながら睡魔を待つ。ルーティンだから。

 眠気眼の瞼裏に映像を映しながら、ふと睡魔の手にかかる前に私は絵の中の少女を見る。

そこには絵が飾ってあった事がわかる日焼けのあとだけがある。


 そうだそうだ、外したんだ。


 君が外に出てきてくれるようになって、微笑む以外の表情も見せてくれて、眠りに落ちる間ずっと横にいてくれる生活が始まったから。

 ずっと一緒にいてくれる君を見ていると、なんだか絵の中の君は似ても似つかないモノに見えてくるんだ。

 本物の君だけを見て過ごしたい。

そう思って絵を外したんだった。


 私が見ている君は果たして本物なのか分からないけど、毎晩見せてくれていたその微笑みだけは本当にそっくりだ。

 私の中にいる絵の中の少女への解像度が一方的に上がって行く。

それは良いことなのか悪いことなのか。


 「まーそんなこと分かんないけど、また今夜も一緒にポッキー食べようね。」


そう言いながら私はしんどさに負けぬよう伸びをした後、眼鏡をかけて部屋から出るのであった。

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