第27話リムノス再び
オロチは広間の優雅な調度品の中で、ゆったりとした動作でお茶を啜りながら、龍妃の言葉を真剣に受け止めていた。
「まさか私を里に入れるとはね…」オロチは微笑みながらも、内心の疑問を隠せなかった。
「前のあなたと違って、なんか最近は敵に思えないんですよね〜」と、龍妃はお茶を優雅に飲みながら言った。
オロチは頷きながら返す。「確かに私も少し前まで龍族全滅させようと思ってたのに、今はこうして一緒にお茶飲んでるよ。」「本当、門番とその仲間も仕留めといてとは思いますけど。」
「その時はその時、割り切って行こう」とオロチは笑顔を浮かべたが、その裏には複雑な感情が隠されていた。
「正直、ガルムを龍那として騙してた時から強いとは思ってたけど、まさか継承の儀を済ませてたとは。」オロチは考え込むように続けた。「私もまさか血を与えるとは思いませんでした。」
「正直、戦ってどう感じたんですか?」と、龍妃が尋ねる。
「まだまだだったよ。それで気づいたんだ。内部で何かあるなって力が分散されて本来の力が出てない。あれじゃあもったいないと思った。」
「龍妃は本当の融合って言ってたけど、それより分離させる方が現実的だと思う。」オロチは言った。
「そうでしょうか?二人はあの肉体だと窮屈でしょうし、本気も出すにしても、ギーガにすら勝てなかった。」と龍妃は考えてた。「龍とオロチが混ざっているのに。」オロチは疑問に思っていた。
「本当そうですね。でも、センスはありますよ。龍撃拳と龍撃砲を見ただけで覚えましたし。」
「教えてないんだ?じゃあ本質はわかってないね?もったいない。」オロチは楽しそうに笑った。「型だけであの威力なら充分ですよ。」
「それで、ガルムは?」オロチが尋ねると、龍妃は少し考えて笑って誤魔化す。「個室で女の子たちと寝てますよ。」
「へぇ〜、龍妃は余裕だね。若い男女を同じ部屋で寝かせるなんて。」彼女は軽く驚いた。
「え?ガルム以外は起きてますよ。」
「ふーん、ちょっと見てこよう。」オロチはそう言って、個室に向かうと決めた。オロチが広間の襖を開け、「お邪魔するわよ」と入ると、ガルム以外のメンバーはすでに目を覚まし、それぞれくつろいでいた。アイリスとララは仲が良さそうに会話し、笑い合っている。ヴィスティーとルリは会話こそないものの、隣にいるだけでお互い落ち着いた様子だった。龍菜はガルムの様子を見守っていたが、ララが癒しの波動を放っていたため、特に手を出さずに様子を見ることにしていた。
オロチが入ってくると、ルリがナイフを構え、アイリスもそれに釣られて魔法の準備をした。ヴィスティーは「まあまあ〜」と言いながらその様子を見守る。
「そんなに邪魔かしら?」オロチが少しおかしそうに言うと、ルリが「なんか…殺気を感じるのよね」と疑いの目を向けた。
「私にその気があれば、とっくに仕留めてるわよ。忘れたの?ギーガと戦ったんだから。」オロチは軽く笑った。
「あ…まあ、そうか。」ルリはナイフを懐にしまい、「ごめん」と素直に謝った。
「センスがありそうね。鍛えてもいいけど?」と、オロチがルリに向けて軽く笑った。
「どうも…でもあんたの実力がまだわからないし…」
「じゃあ、今度遊びましょう。」とオロチが軽く言うと、ララが「遊ぶ〜!」と元気よく反応する。
「そういう意味じゃないのよ」と、オロチはララをなだめた。
オロチはふとヴィスティーの方を見て、「…何か用?」と尋ねる。
「いいえ、別に〜。お互い色々と大変ですね〜」ヴィスティーはあっけらかんと答える。
オロチは少し得体の知れない雰囲気を感じつつも、「そうね…」と軽く返して流した。
その時、ガルムが目を覚まし、部屋の状況を見て驚いた。「…なんでこんなにいるんだ?」
ヴィスティーが「ほら〜、ルリさん!やっぱりアイリスさんと二人が良かったのよ。色々できるし〜」とニヤニヤしながら言うと、アイリスは顔を真っ赤にして「な、何もしません!」と照れた様子で反論する。
「そう?今がチャンスなのに、ローブもないし〜」とルリがからかい気味に言うと、アイリスは「関係ないですよ!」と下を向き、ガルムも少し照れくさそうにしていた。
オロチはその空気を無視して、「それで、ガルムはこれからどうするの?」と尋ねる。
ガルムは少し考えた後、「とりあえず三年の猶予があるし、異世界に行ってみようと思う」と返す。
「異世界?まあ、強くなるなら大事かもね」とオロチは頷いた。
ガルムは話を続けた。「多分、知ってると思うから言うけど、俺はアエリオンなんだ。今、スレイアが分離のことしか考えてなくて…だから、分離することに決めた。でもやり方がわからないから、一度ガルムの故郷に戻ってみる。あそこは未来都市で、超文明があるからな。」
それに対し、アイリスは「私も行きます!」と即座に賛同したが、ララとヴィスティーは「私たちはちょっと違うところに行きますね」と別れを示唆した。
その時、ルリが「ごめん、みんな。あたしはもう少しここに残って鍛えようと思う。あたしだけ修行してないし」と申し訳なさそうに言った。
ヴィスティーは寂しそうに微笑み、「そうですか。パーティ登録してればいつでも合流できますし…」と呟いた。
「皆さん、食事にしますか?」と龍菜が食事を取りに行った。
「俺、最近食べたら倒されて寝ての繰り返しだ…」とガルムがぼやくと、ヴィスティーは「相手が悪いだけで、他の場所だとかなりの強さだと思いますよ」とフォローした。
オロチも「あなたには稽古をつけてもいいと思ってたけど、別の場所に行くならアドバイスしておくわね。血を消費すると、その量に応じて技が強化されるわ」とアドバイスした。
「あー、大丈夫。血は失ってもすぐに回復するから。それが呪われた血の力だからね…」とオロチは少し寂しげに笑った。
「ちゃんとここに戻ってきたら改めて教えてよ。参考にして、自己流でやってみるから。」とガルムが答えた。
「はい、お食事ですよ〜」と龍菜が豪勢な食事を運んできた。
皆が美味しそうに食べ始めたが、ララは魚を咥えてそのまま少し離れたところへ移動した。
ルリが「ララ、なんか猫に戻ろうとしてない?」と心配そうに聞くと、ヴィスティーは微笑んで「なんか、自由で気ままに生きた方がいいって言われたみたいよ〜」と答えた。
「自由っていうか…野生じゃん」と、ルリは苦笑いを浮かべた。失礼しました。
食事の後、オロチ、ガルム、アイリスは先に部屋を出て、龍妃の元に向かった。広間に入ると、オロチが軽く挨拶をして、「龍妃、もう旅立つって」と切り出す。
龍妃は少し寂しげに頷き、「そうですか。ギーガ戦で剣が折れていましたが、新しいのを用意しましょうか?」と尋ねる。
「悪いけど、そういうのじゃないんだ」とガルムは断ったが、ふと考えて「でも、もし両刃槍があれば貰えないか?スレイアは武器がないとダメだから」と頼んだ。
龍妃は少し考えた後、部屋の片隅から長く美しい槍を取り出し、ガルムに差し出した。「ちょうどいいものがあるわ。龍刃槍よ、なかなかの品よ。」
ガルムは礼儀正しく頭を下げて、「ありがとうございました。また三年後までに戻ってくるよ」と感謝を伝え、ゆっくりと歩き出した。
アイリスも続いて龍妃に向き直り、「今までありがとうございました」とお礼を言う。すると龍妃は微笑み、「アイリスさん、よかったら私のローブを着ます?」と差し出した。
「なんか良さそうな物ですけど、いいんですか?」とアイリスが少し躊躇しながら尋ねる。
「別にその格好でも良いけど、恥ずかしいんでしょ?」と龍妃が微笑む。
アイリスは少し頬を赤らめ、「実は恥ずかしいんです。ありがとうございます」とローブをさっそく羽織った。
龍妃は満足げに笑みを浮かべ、「あら、似合ってますね」と嬉しそうに言った。
アイリスは緑色のローブに包まれて少し誇らしげに、「緑色のローブって珍しいですね。ありがとうございます。失礼しますね」とお礼を言い、ガルムの後を追った。
それを見たガルムは「あれ、アイリス、露出が減ったな…」と少し残念そうにぼやいた。
「ほんとエッチね」とアイリスがくすくす笑う。
一連の様子を見ていたオロチは、ふと龍妃のほうに目を向け、「龍妃って、嘘が下手よね。気を使わせないためにお古って言ったけど、あのローブ、急遽作らせたんじゃない?あんなの着てるところ見たことないし」と尋ねた。
龍妃は一瞬言葉に詰まるが、微笑んで「着たことないだけで、持ってましたよ」と答えた。
その時、ララやヴィスティーたちも部屋に戻ってきて、「私たちもお世話になりました〜」とお礼を言って去って行った。ルリだけがオロチのそばに立ち、「これからよろしくお願いします」と頭を下げた。
オロチは少し笑い、「結構厳しいよ?」と告げる。
「え、オロチさんが鍛えるの?もし辛かったらいつでも来なさいね」と龍妃も微笑んだ。
ルリはそれを聞いて、「まあ、いいや。またね、龍妃さん」と言ってオロチと共に去っていった。
龍妃は去っていく皆を見送りながら、ひとりぐちるように「なんだか寂しくなるわね…」と小さく呟き、静かに自分の部屋に戻っていった。
その頃、ガルムとアイリスは旅のガイドのもとを訪れていた。
「一度リムノスに帰りたいんだけど、無理かな?」とガルムが尋ねると、ガイドは少し考え込み、「ちょっと調べてみますね」と、素早く端末を操作し始めた。
「おかしいな…ヴァルクアがまた現れてる…メインクエストも変わってますけど、戻れますよ。普通なら許可されないですが、パーティメンバーは初のケースみたいなので、それに免じてどうぞ」と言って、転送装置を起動した。
「さっさと行こう」とガルムが装置に向かうと、アイリスが「手は…繋がないの?」と少し寂しそうに言った。
「ああ、そうだったな」とガルムは少し照れくさそうに手を握り、二人は転送されて行った。
目を開けると、そこには懐かしい未来都市の高層ビル群が広がっていた。
「相変わらずすごいな…高層ビルの数も、ここまで来ると圧倒されるよな」と呟きながら、ガルムはアイリスとともに冒険ギルドへと向かい、メインクエストの内容を確認した。
「今回のメインクエストは…『ヴァルクアの襲撃を切り抜けながら研究施設を守れ』か。よし、研究施設ならどっちにしろ用があるし、まずは行くぞ」とガルムは気合を入れた。
「じゃあ、私も一緒に?」とアイリスも同行に意気込む。
ガルムが前を駆け出すと、「場所は前に行った所の隣か。リニアに乗らなくても行けるから楽だな」と考えていると、柄の悪い冒険者の一団が立ちはだかった。
「おい、その子を置いてさっさと退けよ」と挑発的な態度で喧嘩を売ってくる。
「何だよ」とガルムが眉をしかめると、アイリスも不安そうに横目で様子を伺う。
「可愛い子じゃないか、遊ぼうぜ」とリーダーがニヤニヤとアイリスに視線を向けてくる。
その言葉を聞いたスレイアは「アエリオン、代わってくれ…」と心の中で頼むと、すぐにスレイアが前に出た。彼は龍刃槍を一閃し、リーダーの首を容赦なく斬り飛ばす。辺りは瞬く間に血の海と化した。
アエリオンが「何もそこまですることないだろ!」と驚きつつも叫んだが、スレイアは「うるさい」と一蹴し、戦意喪失したメンバーの首も次々に斬っていった。
「お前たちが悪いんだ。アイリスを怖がらせるから」と言い放ち、他の冒険者たちに冷たく睨みを利かせると、そのまま歩き去った。
周囲にいた冒険者たちも「ヤバい奴だ…」と囁き合い、アイリスも急いで後を追う。
「どうしてあんなことをしたんだ?さすがに異常だぞ」とアエリオンが責めるように問いかけた。
「異常?俺が?さっさと分離したいのに邪魔をする奴が悪いだろ。それにアイリスを汚い目で見てたし」とスレイアは苛立ちを込めて返した。
「だとしても、もう少しやりようがあるだろ?下手したら懸賞金をかけられるぞ!」
「うるさいな、僕に指図をするな。」スレイアは冷たい声で言い放つと、再び黙り込んでしまった。
その様子に、アイリスは思わず涙ぐみ、「ガルムくん…さっきのは酷いよ…私、ガルムくんが怖かった…」と震える声で告げた。
ガルムはアイリスの様子を見て、一瞬視線を逸らしながら申し訳なさそうに、「悪いな…スレイアはもう冷静さを失っているみたいだ」と呟いた。視線を前に戻し、「とりあえず研究所に着いたし、まずはヴァルクアを倒して分離の方法を探そう」と、冷静さを取り戻そうとするかのように深呼吸した。
研究所に足を踏み入れると、そこにはヴァルクアの手下らしき者たちが立ちはだかっていた。ガルムはさっと前に出て、相手を軽く殴っては気絶させていく。その行動は正確で容赦がないが、必要以上の暴力は控えている様子が見て取れた。
その戦いぶりを見つめるスレイアは、内心で不満を抱えつつ、小さく「甘いな…」と呟いたが、ガルムはその言葉を聞いても振り返ることなく、黙々と進んでいった。
内部を進みながら敵を次々に気絶させていくと、スレイアが声を荒げて叫んだ。「おい、複製装置があったぞ!あれを使えば分離できる!」
「いや、複製しても魂はどうするんだ?」アエリオンが疑問を口にするが、スレイアは苛立ちを抑えきれず、「いいから複製しよう!」と強引に押し切る。
「…ちっ、わかったよ。」アエリオンが渋々と準備を始めたところで、研究員が駆け寄り、「何をするつもりです?」と不安そうに尋ねてきた。
アエリオンは冷静に「肉体を複製するんです」と答えるも、研究員は「そんな許可は出せません!」と制止しようとする。
スレイアはそれに反応して表に出ると、研究員に冷ややかな視線を向け、武器を突きつけて脅した。「死にたくなければ、さっさと複製の準備をしろ。」
研究員は怯えながらも「はい…」と指示に従い、複製の準備を進めた。「左のカプセルに入ってください」とスレイアに指示を出すと、スレイアはアイリスに向き直り、「アイリス、こいつが変な真似をしないか見張っておけ」と命令する。
アイリスは怯えつつも「はい…」と答え、カプセルに入るスレイアを見守った。
装置が起動すると、右側のカプセルに新たな肉体が複製され、もう一体のガルムが現れた。その様子を見て、スレイアは研究員に向かって鋭く尋ねる。「おい、魂はどうやって移すんだ?」
研究員は震えながらも、「設定すれば、このカプセルで魂の転送が可能です」と説明し、操作を進めた。カプセルが再び起動し、スレイアの魂がガルムの体から分離されていく感覚が伝わる。
「スレイア…本当にそれで良いのか?」とアエリオンは心の中で問いかけたが、複雑な思いはすぐに打ち消された。
スレイアが新たな体で自由を得ると、満足げに腕を伸ばして「ようやく自分で動ける…長かった。アエリオンのせいで無駄な時を過ごした」と冷たく言い放ち、雷を纏った手を振るうと、現れたヴァルクアの手下たちを瞬く間に消し去った。
「どうやら雷の力は僕に受け継がれたみたいだね」と、スレイアは満足げに微笑み、アイリスに手を差し出して「アイリス、一緒に来るか?」と誘いかける。
しかし、アイリスは怯えながら一歩後ずさり、「嫌です…あなたはなんか怖いです」と震える声で答えた。
「僕が怖い?さっきは君を助けただけなのに」とスレイアはアイリスに近づき、強引に唇を奪った。「ずっと、こうしたかったんだ。」そう囁くスレイアに対し、アイリスは「いや、やめて!」と叫んで彼の頬にビンタを喰らわせた。
スレイアは冷たい表情を浮かべ、「そうか、君も僕を拒むんだな…」と呟くと、奥へと駆け出していった。
「ガルムくん…」アイリスは涙を浮かべ、ガルムに抱きつく。ガルムは彼女の頭を撫でて「悪いけど、スレイアを追わなきゃ」と告げてアイリスを残し、スレイアを追って駆け出した。
ガルムが追いついたときには、スレイアはヴァルクアの隊長と思しき者を槍で貫き、クエストは達成されていた。しかしスレイアの怒りは収まらず、満足できないかのように研究員たちにも刃を向け始めた。
「スレイア、やめろ!」とガルムが叫ぶと、スレイアは冷ややかに振り返って言った。「前から言ってるだろ?僕に指図するな」と言い放ち、ガルムに斬りかかる。
ガルムは素早く身をかわし、スレイアを外に誘導する。後ろから不安そうにアイリスの声が聞こえ、「ガルムくん…?」と囁かれたが、ガルムは振り向かず「ちょっと倒してくるから待ってて」とだけ返した。
二人が対峙すると、ガルムは低く言った。「スレイア、もういい…お前はここで止める。」
スレイアは冷笑を浮かべて槍を構え、「何を言ってる?僕は君よりも強い。ずっと勘違いしてたみたいだけどな。」
「わかった。どっちが強いか決めよう…」ガルムも構えを取り、視線がぶつかり合う。
「もう手加減はしないぞ、雑魚王子!」スレイアが叫びながら斬りかかってくるのを、ガルムは風を纏った拳で弾き返た。
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