第20話試練開始

坐禅をしてから3日が経ち、ガルムの体はすっかり龍の力が馴染んでいた。「そろそろ良さそうですね」と龍妃が声を掛けた。


「ふぅ〜、やっと終わった〜」とガルムはほっとした様子で言った。アエリオン達も「やっと退屈な坐禅も終わった」と嬉しそうに言うと、スレイアが「そういう事言ってるとまた心が読まれるぞ」と笑った。


「まだ最初のステップが終わっただけですよ。今からが本番です」と龍妃が続ける。「今からの修行は力比べです。実はここの里以外のところを守護している龍族が5体います。その龍達を戦い倒して血を飲む事が、修行であり試練です。」


「それをすればもっと強くなれるって事?」とガルムが期待に満ちた表情で聞いた。


「そうですよ。でも、くれぐれもオロチには見つからないように注意して下さいね。」と龍妃は真剣な表情で答えた。


「どういう姿かもわからないのに、警戒しようがないよ。」ガルムは不満そうに言ったが、龍妃は「大丈夫です。見た瞬間にわかりますから。気迫だけで…あの門番が殺された時、救助に向かった二人の龍族は気迫だけで死にました…」と語った。


「そうなのか?なんで里に攻撃してこないんだ?普通、そんだけ強かったら一気に攻めたらいいじゃん。別にオロチの見方ではないけどさ。」ガルムが疑問を投げかけると、龍妃は微笑みながら「それなら答えはありますよ。私がいるから攻めて来れないんです。」と静かに答えた。


「え?そんなに強いの?全然わからなかった。」ガルムは驚きの表情を浮かべた。


「そうですか?では試しに攻撃して来て下さい。本気でいいですよ。体がどのぐらい馴染んでいるかも知りたいですし。」龍妃は優雅に微笑みながら挑発するように言った。


「わかった。本当にいいのか?」とガルムが確認すると、龍妃は「ええ、試練の前の腕試しですよ。」と力強く頷いた。


ガルムは力を込め、今までとは違う力が一気に開放された。「なんか、みなぎってる。強くなってる気がする。」そう言いながら、一気に速度を上げて龍妃に突撃し、「ストームラッシュ」を仕掛けた。今まで以上の速度と手数、そして風の力が増した攻撃が迫りくる。しかし、龍妃はそれを片手で軽々と受け止め、冷静な表情のままだった。


「そんな…」と驚いたガルムは、そこから「トルネードキック」に繋げ、三撃目までしっかりと繰り出したが、龍妃は全ての攻撃を防ぎ、片足を持ち上げるとガルムを軽く投げ飛ばした。その瞬間、ガルムは「ソニックブレイク」を放ったが、それも弾かれてしまう。


「スレイア、どういうことだ!何しても返される。というか、ソニックブレイクって弾けるもんなのか?!」とガルムが焦ると、スレイアが「自信はないけど、力を試したい。代わってくれ」と言ってアエリオンに変わる。


着地すると同時にアエリオンは「アクアヴォルテックス」と叫び、これまで以上に大渦になった水を一気に放出したが、これも龍妃に弾かれる。しかし、大渦と共にダッシュし、デュアルスピアで素早く回転斬りを何度も繰り出すアエリオン。それでも、全ての攻撃がかわされ、アエリオンが「アクアスピア!」と突撃するも、龍妃は余裕で受け流し、隙を突いて「龍撃拳」で左手で腹部を殴りつけ、ガルムを吹き飛ばす。さらに、右手から「龍撃砲」を放ち、ビームがガルムを直撃し、地面に叩きつけた。


「俺らってワンパターンかもしれない」とアエリオンが言うと、スレイアが笑って「新技は今から作っていけばいいさ。威力が高くなったのはわかったし。」と答えた。


「手を抜いてくれてたのかな?そこまでダメージなかった。」とガルムが言うと、スレイアが「じゃないの。あれで何事もなく立てるんなら、問題ないよ。」と立ち上がった。


「それなら問題ありませんね。」と龍妃は内心、ガルムが無事であることを喜んでいた。アイリスは、一人で初級コースの教室に来ていた。「ガルムくんも頑張ってるかな?」と思いながら教室の中に入ると、まばらに座る生徒たちの前に、年配の先生が立っていた。先生は、にこやかに話し始める。


「皆さん、大丈夫ですよ。魔法はちゃんと手順さえわかれば、誰でも使うことができます。あとは魔力によって威力や効果が変わってきますので、基礎だけはしっかりと覚えて下さいね。」


アイリスは内心で「そんなことはわかってる」と思いながらも、真剣なふりをして話を聞いていた。先生から回復魔法の魔術書を手渡され、早速試してみると、あっさりと使うことができた。


「なんだ、思ったより簡単だったな〜」とアイリスは心の中で喜んでいたが、その様子を見た先生が、少し眉をひそめて言った。


「あなたはどうしてここの教室に?おそらく、魔力の感じからしても上級以上なはずですが。もしかして、冷やかしですか?」


アイリスは慌てて首を振り、「私は回復魔法だけは使えなかったので、ここに来ました」とあたふたしながら答えた。


「そうですか。でも、その魔力があれば自力で覚えられそうなものですが…?」と先生は疑うように言った。


アイリスは少し困りながらも、「基礎からちゃんと学び直して、より魔法を強化したくて」と答えると、先生は何とか納得したように頷いた。


アイリスはその後も、他の能力をきっちりと学び、初級コースはあっさりとクリア。いよいよ上級コースに向かうことになった。


その道中、アイリスは高くそびえる塔の前にたどり着いた。塔の入り口には「魔術の試練場」と書かれた看板がかかっており、周囲には風がそよいで、神聖な雰囲気が漂っている。


塔の入り口に向かうと、ララとヴィスティーが待っており、ヴィスティーが手を振りながら「結構早かったですね〜」と声をかけた。ララも「良かった〜!」と言いながら、アイリスに駆け寄ってくる。


「ここを頂上まで行けば合格みたいですよ〜。頑張ろうね!」とララが元気よく言うと、アイリスも「私も頑張る!」と気合いを入れる。


「ただ、ここは魔法でしかダメージを与えられないので注意して下さいね」とヴィスティーが説明する。


「分かりました。でも、どうしてそんなことを知ってるんですか?」とアイリスが尋ねると、ヴィスティーは少し照れたように笑って答えた。


「何度も失敗してるんですよ〜。回復と雷の魔法しか使えなくて、雷が効かない相手だともう何もできなくて…」


ララも申し訳なさそうに「すみません、私も回復魔法しか使えなくて…」と俯く。


その空気を感じたアイリスは、明るい声で「大丈夫!私も頑張るから、一緒に行きましょう!」と励まし、3人は気合いを入れ直して塔の中に足を踏み入れた。

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