第19話それぞれの道

アイリスが泣きながら走り去るのを見送ったアエリオンとスレイアは、心の中で静かにその瞬間を見つめていた。


「やっぱり、彼女も辛いんだな…」アエリオンは内心でつぶやくが、表には出さなかった。


「そうだな。だが、これで俺たちも集中できる。彼女の決意も尊重すべきだし、今は俺たちも成長するための時期だ。」スレイアは冷静に言い聞かせた。


「確かに…でも、どれだけ強くなれるか…今の俺たちにはこの龍の力に馴染むしかないんだよな。」アエリオンは自身の体を見下ろし、龍族の力がゆっくりと自分たちの肉体に浸透していく感覚を感じていた。


「龍の力を手にしたが、まだ変化がわからない…でも、俺たちならやれる。」スレイアが力強く言った。彼らは龍族の里で本格的な修行をする決意を新たにし、心の中でこれからの戦いに備えて精神を集中させた。


アイリスはガイドの転送装置を使い、新たな異世界に到着した。まったく見たことのない幻想的な風景が広がっていた。空気が少し重たく、魔法の力が漂っているのが感じられる世界だ。青い空に浮かぶいくつもの島々、宙に舞う光の粒が神秘的に輝いていた。


「ここが…魔法の世界?」


足元には淡い光を放つ石畳が続いており、その先には巨大な塔が天に向かってそびえていた。塔の周囲には、多くの魔法使いたちが行き交い、彼らが使う魔法が光の軌跡を描いていた。


「なんて美しい世界…」

アイリスはその美しい光景に感嘆しつつも、心に決めていたことを思い出し、気持ちを引き締めた。


「ここで私も成長しなきゃ…ガルムくんにふさわしい存在になるために。」彼女は自分を奮い立たせ、足を踏み出した。


ガイドの言葉通り、この世界では魔法の力が重要で、アイリスはその魔法の学びを深めるための道を探し始める。ララやヴィスティーの存在も心のどこかで期待しつつ、彼女は自分の旅路を進んでいく。                  ガルムは里の入口に戻って来た。目の前には龍族の統治者である龍妃が静かに彼を見つめている。彼女の眼差しには、すべてを見透かすような力強さと温かさが混じり合っていた。


「ガルム、あなたは2人分の魂を宿してるね?。今、あなた達は龍の肉体自体は継承しているけど、それを制御するには並々ならぬ修行が必要だ。」龍妃はゆっくりと話し始めた。


ガルムの体にはまだ、龍の力が完全に馴染んでいない違和感があり、力が内部からじわじわと湧き出している感覚があった。


「お前たちの中には、まだ混乱が残っている。二つの魂と新たに受け継いだ龍の力。それらが完全に調和するには時間がかかるだろう。しかし、まずは精神を安定させることが重要だ。」


龍妃は龍族が精神を鍛える時に使う部屋に案内し、静かに座るよう指示し、ガルムは指示に従って座禅を組んだ。彼女はその前に立ち、見守りながら続けた。「お前たち二人の魂が一つの体を共有している以上、共に歩むしかない。まずは、龍の力を受け入れ、その上で制御する術を学びなさい。」


ガルムの意識が静かに内側に集中していくと、アエリオンの声が頭の中に響いた。「まだ慣れてないな、この感覚は…。」


「だが、今は受け入れるしかない。力が溢れ出してくる感じだが、それを抑える方法を学ばねば。」スレイアが冷静に応じた。


その瞬間、ガルムの中で徐々に力が体中を駆け巡る感覚が広がった。彼の体は少しずつ龍の力と一体化しつつあったが、まだ完全には馴染んでいない。


龍妃はその様子を見つめ、静かに頷いた。「少しは進展が見えたようだね。だけど、これからが本当の試練よ。この力を完全に自分のものにするには、さらなる修行が必要だから。焦らず、一歩ずつ進んで行ってね。」ガルムは深い呼吸を続けながら、精神を集中していた。彼の体は静かに力と一体化していく感覚が広がっていた。龍の力が自分の中で静かに目覚めていくのを感じ、体全体に力が満ちていくのがわかった。


「力をただ使うのではなく、共に生きるのです…」龍妃の静かな声が、頭の中に響く。


アエリオンが心の中で呟く。「少しずつだ。急ぐな。焦らず、自分の中にある力を見極めろ。」


スレイアも続ける。「今の状態は悪くない。このまま、力を制御できるようにしていこう。」


ガルムは静かに頷きながら、瞑想を続けた。すでに痛みはなく、彼の体は龍の力と完全に一体化し始めているようだった。呼吸を整え、心を無にして瞑想を深めていく中で、彼の体は次第に軽く、そして力強くなっていくのを感じた。アイリスは冒険者ギルドに向かい、魔法都市の美しい街並みをキョロキョロと眺めながら歩いていた。空には浮かぶ小さな魔法灯が光を放ち、街全体が幻想的な雰囲気に包まれていた。街の建物も奇抜なデザインが多く、魔法の力で浮遊するものや、光る植物が生い茂る庭園など、どこを見ても目を奪われる光景が広がっている。


そんなアイリスをじっと観察している人物がいた。その人物は、軽く笑いながら声をかけてきた。「なんか、田舎から出てきたばかりって感じね。ここは初めて?」


アイリスが声の方に振り向くと、そこにはルリが立っていた。「え? ルリさん!? お久しぶりです!」


「そうそう、アイリスだったよね? 久しぶり。1人でどうしたの?」ルリは笑いながら、一気に質問を投げかけてきた。


アイリスは少し戸惑いながらも、「ガルムくんも今、修行してるんです。私ももっと強くなりたくて、ここに来ました。ララさんのような回復魔法や、ヴィスティーさんみたいな強力な魔法を覚えたいんです」と、少しずつ落ち着きを取り戻して答えた。


「そうなんだ。ララもヴィスティーもここにいるよ。あんたと一緒にもっと強くなりたいって言って、魔法ギルドの訓練所に通ってるの。でも私は魔法使えないから、冒険者ギルドでクエストをこなしてるのよ」と、ルリは自分の状況を話し始めたが、少ししょんぼりとした表情を見せた。「一応、訓練所にも行ったんだけど、ナイフに魔法をかけるとか、そういうのは向いてなかったみたいでさ…今じゃお留守番よ。」


「私もガルムくんと一緒にいたかったんですけど…ここじゃ何もできないと思ったんです。回復もしてあげられないし、体術は苦手だし、無力感が漂ってきて、悲しくなってしまって。だから強くなるために、ここに来たんです」と、アイリスは自分の思いを正直に話した。


ルリは興味深そうに頷きながら、「へぇ〜、ガルムが何か言ったの? 邪魔とか、いなくていいとか?」


「そんなこと言われてません!」アイリスは慌てて否定した。「ただ手を握ったり抱きしめたりするだけじゃ仲間じゃないと思って…もっと一緒に戦いたいって思ったんです。」


ルリは笑って、「そばにいるだけでも良かったかもしれないけどね、ガルムなら。まぁ、でも強い方が一緒に戦場に行けるし、いいんじゃない?」


アイリスはうなずき、「そうですね、家で帰りを待つだけじゃ嫌なんです」と答えた。


「ララも同じことを言ってたよ。回復だけじゃなくて、攻撃魔法も覚えなきゃってね。私はどっちでもいいけど…」とルリは少し照れくさそうに話した。


「じゃあ、冒険者ギルドじゃなくて、魔法ギルドに行かないとね?」とルリが提案した。


アイリスは驚きながら、「そうなんですか? 魔法ギルド…」


「うん、一緒に行こうか?」とルリが言い、二人は魔法ギルドに向かって歩き出した。アイリスは再び綺麗な光景に心を奪われ、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。


「回復魔法、覚えたかったんだよね?」ルリがふと尋ねた。


「はい、そうなんです」とアイリスが答えると、ルリは軽く肩をすくめて自販機を指さした。「あそこで回復魔法が売ってるよ、基礎だけならね」


「えっ…そういうことじゃないんですけど」と戸惑うアイリス。


「でも、基礎を覚えておかないと上級魔法も意味がないよ」とルリが説得すると、アイリスは悩み始めた。「確かにそうですね…どうしよう?」


その時、ヴィスティーの声が後ろから聞こえてきた。「あら〜、騙されちゃダメよ〜。あの自販機、使えばなくなるだけよ?」


アイリスは振り向き、「ヴィスティーさん!?」


ルリも驚き、「え!? あれって一度使えば取得できるわけじゃないの?!」


ヴィスティーは微笑んで、「ルリさんはそう思ってたのね? 魔法使わないから知らなかったのね〜」


「うるさいな…」と照れて言った。それよりアイリスさんは、ここに一人で来たの?」とヴィスティーが聞いたので。


アイリスはため息をつきながら、「また説明しなきゃいけないのか…」と思ったが、ルリが笑って「同じこと言わなくていいよ」とフォローした。


「強くなりたくて来ました」とアイリスが簡潔に答えると、ヴィスティーは笑って「随分と省略したわね」と笑顔を見せた。


アイリスはふと思い、「ルリさん、嘘つき…」と心の中で思ってみた。するとルリは即座に「嘘つくつもりはなかったよ!」と声を上げたので、アイリスは驚き、「やっぱり心が読めるんですね」と微笑んだ。


「気付いてたの?」とルリが尋ねると、アイリスは笑顔で「さっき気付きました。思ったことをすぐに返されたので」と答えた。


「今では、集中しなくても読めるようになったんだ。でも、なぜかヴィスティーのは読めないんだよね」とルリが不思議そうに言うと、ヴィスティーは微笑んで「私は心を閉ざしていますから」と穏やかに答えた。ヴィスティーが道案内をしながら、軽やかに言った。「もう少しで魔法ギルドだし、行きましょうか?」

彼女は元気よく歩を進め、アイリスもその後を追う。しかし、突然ルリは足を止め、「あたしはクエスト中だからもう行くね」と言って、軽く手を振りながら去っていった。アイリスはお礼も言えないまま見送ったが、ヴィスティーは手を振りながらアイリスに「泊まってるところは一緒だから、また会えるよ〜」と声をかけた。


アイリスは少し戸惑いながらも、魔法ギルドへと向かう。中に入ると、いかにもな魔法使いや魔法少女が集まっており、色鮮やかなローブや不思議な杖を手にした者たちで賑わっていた。アイリスは目を輝かせ、「仲間がいっぱいですね〜!」と嬉しそうに呟いた。


その時、ララが現れた。彼女はヴィスティーを待っていた様子で、「あ〜ヴィスティーさん、待ちましたよ!早く訓練所に行きましょうよ!」と急かす。

「ごめんね、ララちゃん。この子と会っちゃって〜」と、ヴィスティーはアイリスを紹介する。

「あ!アイリスさんだ!元気でしたか?」とララは微笑み、二人は再会を喜び合った。「私も魔法を覚えたくて来ちゃいました」とアイリスは話し、ララも「じゃあ、一緒に訓練所に行くんだね!」と喜んだ。


しかし、ララは少し心配そうに言った。「手続きがまだなら早くした方がいいよ。結構人気があるから」

「はい、すぐに行きます!」とアイリスは受付に向かった。ヴィスティーは後ろで呑気に、「手続きできたらいいですね〜」と笑っていた。


受付で、アイリスはどのコースにするか悩んでいた。回復魔法か、上位魔法か。ふと、彼女は思いついて質問する。「上位魔法に回復魔法ってありますか?」

受付の人は少し考え、「ある程度回復魔法が使えれば大丈夫ですけど、まったくできないなら初級からがいいですね」と答えた。

アイリスは決心し、「じゃあ、両方とも学べませんか?」とお願いしたところ、受付は少し驚きながらも了承。「回復魔法を覚えるまでは初級、それができたら上級に進む形で手続きを進めましょう」と言われ、無事に手続きを済ませた。


ララ達の元に戻ると、アイリスは「私はしばらく初級です」と告げ、初級コースに向かった。「頑張って!」とララが声をかけ、ヴィスティーと共に上級コースへと進んでいった。


アイリスはこれから修行に入る。ガルムもまた別の場所で強さを求め、二人が再び再会できる日を願って――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る