第17話火の鳥
ガルムさん、援護しましょうか?」と、アイリスが心配そうに声をかける。
「いや、大丈夫だ。向こうも仲間がいるのに一人で戦ってるだろ?」と、ガルムはアイリスに冷静に返した。アイリスは「そうですか…」と少し落ち込んだように呟いた。
アエリオンは風を纏いながら、心の中でスレイアに語りかける。
「もう俺は限界だ…スレイア、交代してくれ。お前なら水もデュアルスピアもあるだろう。」
スレイアは迷うことなく、「わかった、行くぞ」と心で応じる。
アエリオンは「ソニックブレイク!」と風の刃を放つが、相手は簡単にその一撃を防ぐ。次の瞬間、スレイアが自然に前に出て、デュアルスピアを素早く回転させ、斬撃を浴びせる。だが、その攻撃も無力だった。
「アクアスピア!」と叫び、水を纏った攻撃を放つも、またしても防がれてしまう。
「これじゃダメだ…」スレイアは心の中で呟きながら、再びアエリオンに意識を送る。
「僕でも無理だ…どうする?」とスレイアが戸惑いを見せると、アエリオンは無言で頷き、再び前に出る。
大男は余裕の笑みを浮かべ、「どうした?もう終わりか?」と挑発する。
スレイアは最後の力を振り絞り、「アクアヴォルテックス!」と水の渦を撃つが、それも剣で防がれる。
「水の力でももうダメか…」スレイアは心の中で呟きながら「アエリオン、交代してくれ。もう無理だ…」と伝える。
「わかった」とアエリオンは前に出るが、すでに打つ手がないことを感じ取っていた。「力の差がありすぎる…でも、何かをしなければ…」と、風の力を解放し、一気に素手で攻撃を繰り出す。
拳を素早く放ち、強烈な蹴りを浴びせるも、すべてが弾かれるように無効化される。そして、大男の「龍撃拳!」がアエリオンに炸裂。一撃で彼は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
アエリオンは口から血を吐き、全身の力が抜け、立ち上がれないほどのダメージを負っていた。アイリスが「ガルムさん!」と叫ぶが、アエリオンの意識はすでに朦朧としている。彼の目に映る景色はぼやけ、耳には大男の嘲笑がかすかに届くだけだった。
「今までの敵とは…全然違う…。」
大男はゆっくりとアエリオンに近づき、「どうした? オロチの者にしては弱すぎる。このままだとすぐに止めを刺されるぞ」と、冷たく言い放つ。
スレイアが「さすがに終わったか…」と呟くが、彼も策が思いつかず、何もできない。ただ、大男が近づいてくる様子を見守るしかなかった。
アエリオンは「このままじゃまずい…。一か八かだが、試してみるか…」と、心の中で自分に言い聞かせるように言った。目を閉じ、意識を集中させる。大男が迫ってくるのを感じながらも、彼は「力を貸してくれ…」と、自分自身に呼びかけた。次第に空気が渦を巻き始め、アエリオンの体に炎が纏わりつく。「え?炎?」とアイリスは驚き、スレイアも「なんだ、これ…?」と戸惑った表情で呟いた。アエリオンは炎を纏いながら立ち上がり、「フェニックスモード」と宣言。彼の体は炎の鳥のような姿となり、次第に激しい炎の鎧へと変化していった。
「フェニックスと契約したのに、力を貸してくれないから心配してた。でも、死ぬ時まで力を貸せないって言われたんだ。今はまだ死ぬわけにはいかない!一度だけでもいいから力を貸してくれって頼んだら、思いが通じたみたいだ。」アエリオンは自信に満ちた表情で言い、「力の使い方はよくわかんねぇけど…とりあえずやるか!」と叫び、「フェニックスドライブ!」で一気に空中に飛び上がり、猛然とダイブして大男を吹き飛ばした。
「なに?」大男は驚愕したが、体勢を整える暇もなく、アエリオンはさらに加速して「フェニックスラッシュ!」で拳の連撃を浴びせる。次々と繰り出される炎の拳が大男を貫いていき大男は吐血しながら地面にめり込んでいった。それでも攻撃は止まらず、アエリオンは炎を纏った手で大男の首を掴み、何度も爆発を伴った強烈な一撃を与える、その度に大男は苦痛の叫びを上げる。「さっきのお返しだ!」と叫んで空中に浮かび上がり、「龍圧殺!」と高らかに叫び地面に全力で叩きつけるその瞬間地面は大爆発を巻き起こし、巨大な火柱が立ち上がった。
火柱を背にアエリオンは静かに立ち燃え盛る炎が次第に消えていく、元の姿に戻っていきアイリスの元に向かって行ったが力尽きてフェニックスの力が消えた時その場に倒れ込んだ。「ガルムくん!」アイリスが駆け寄ると、そこに龍族の女性が近づいてきた。アイリスは警戒したが、女性は穏やかに、「すみません、回復をしたいので龍族の里にお越しいただけますか?」と頭を下げた。
アイリスは少し躊躇いながらも「わかりました、ガルムくんをお願いします。」と答え、女性についていくことにした。大男も意識を戻したが、動くことができず、「オロチじゃなかったのか…悪いことをした…」と呟きながら再び気を失った。「アエリオン、本来なら、お前が死ぬ時に一度だけ寿命を削り、生き返らせると共にこの力を授けるつもりだった。しかし、仲間を思う気持ちと自分自身の無力さに極限まで追い詰められ、私に力を貸して欲しいと心から願った。それを感じ取り、特別に一度だけ力を貸したのだ。」
フェニックスの声は静かだが、その響きには深い力が宿っていた。
「だが、今後も寿命を削って私の力を借りたいと思うなら、貸してやろう。だが真の力を解放したければ、一度死なねばならぬ。その時こそ、私はお前に本来の力を授けることになるだろう。次にお前が死ぬ時を楽しみにしている。」
そう言って、フェニックスの姿は燃え上がりながら消え去っていった。アエリオンは目を見開き、その言葉の重さを噛み締めた。
「つまり、死ぬか寿命を削らなければ力を借りられないってことか…」
思い悩む彼の意識が徐々に現実に引き戻されると、目を覚ました。体はまだ動かせないが、痛みは治まっており、治療が施されたらしい。横を見ると、アイリスが彼の手を握りながら、眠っているのが見えた。彼女がずっと傍にいたことが伝わり、アエリオンは少し安堵する。
「ここは…龍の里なんだろうな…」と心の中でつぶやきながら、彼は再び静かに目を閉じ、深い眠りに落ちていった。意識を失っている間も、龍族の女性はガルムの様子を何度も見に来ていた。その一方で、夜が更ける中、大男は両脇を仲間に支えられながら里に戻る途中だった。彼の心には深い後悔があった。「あの少年には悪いことをした。もし倒されていなければ、私は彼を殺していただろう」と、冷や汗をかきながら考えていた。仲間たちも「今、里で治療を受けているから大丈夫だ」と励ましていたが、その瞬間、何かの気配を感じた、そして2人の仲間は死んでいた。
「まさか、オロチか?」と大男が振り向いた時、そこには長いベージュの髪を持つ、美しくも気高い女性が立っていた。彼の体は震え、オロチの圧倒的な気迫の前で立っているのがやっとだった。オロチは無言で一瞬のうちに大男の心臓を貫き、その手で握り潰した。
「あなたほどの実力者がこんなにやられるなんて…誰がやったのかしら?まあ、誰だろうと私にとっては関係ないわね」と冷たく言い放ち、オロチはその場を立ち去った。彼女の残酷さに大男は何もできず、倒れたままだった。
気配を感じた龍族の女性は、里を出て大男たちの死を確認し、この死を無駄にしないため一大決断を下す。
「この者たちはオロチによって命を奪われました。原因を作ったのはあの少年ですが、彼には生き残る力が必要です。よって、禁忌ではありますが、私は龍妃として命じます。この者たちの血と肉をガルムに与え、継承の儀式を行います」と宣言した。
ガルムには血が注入され、目を覚ました時には「栄養を摂ってください」と言われ、肉が与えられた。こうして継承の儀式は完了したが、ガルムはその後も地獄のような苦痛と戦い、体が動かなくなるほどの痛みに一週間以上も苦しんだ。
その間、継続して肉と血を摂取させられ、最後には龍妃の血も飲まされた。ガルムの体は変化していたが、アイリスはその異変に気づき、不安を抱えながら手をずっと握りガルムの回復を待っていた。彼の意識が戻らないこと、そしてその痛みの理由を知ることができず、無力さに涙を浮かべた。
そして、アイリスはこの経験を通じて、ある決断を下すのだった。
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