第16話危険な世界

次の世界に足を踏み入れたガルムたちは、見渡す限り広がる平原に立っていた。ガルムは腕を軽く回しながら「見た感じ、普通だな…肉体レベルは11か。あと少しで元の肉体になるか」と、心の中で自問自答する。


隣にいたアイリスが、少し不安げに周囲を見渡しながら「この世界、何もなさそうじゃない?」と問いかけた。確かに、どこを見ても街や建物は見当たらず、ただ広大な草原が広がっているだけだ。


「見た目には何もないが…」とガルムが考え込んだ後、「そういえば、アイリスって見た目が変わらないな。どうして?」と、つい尋ねてしまう。


アイリスは少し驚いた様子で「それを言うなら、ガルム君の方が不思議だよ。毎回少しずつ成長してない?」と返す。


「まあ、冒険者レベルと肉体レベルが上がってるからね…」と答えたガルムに、アイリスが首をかしげて「肉体レベルって何ですか?」と不思議そうに尋ねた。


ガルムは少し戸惑いながら「その辺はまたガイドに聞こう」と、話題を逸らした。


しばらく歩いても街の影すら見えず、冒険者ギルドもない。途方に暮れていると、突然ガイドが現れた。


「ガイドさん、どういうこと?ここには何もないけど」とガルムが不満げに問いかけると、ガイドは穏やかに頷いた。


「確かに、この世界には冒険者ギルドはありませんよ。」


スレイアが不安そうに眉を寄せながら「冒険者ギルドがなかったら、ここでは何をすればいいんだ?」と尋ねると、アエリオンが少し苛立ったように「今からそれを聞こうってんだよ」と応じる。


「じゃあ、クエストはあるのか?」ガルムが再び質問を投げかけると、ガイドは淡々と説明を始めた。


「あ〜、ここは特殊な世界です。この世界には人間が存在せず、二大勢力である『オロチ』と『龍族』だけがいます。もともとは『ギーガ』という存在もいたけど、今は姿を見せていません。長い戦争が続いており、何千年も前に、この地に住んでいた人々はすべて戦争で消えました。」


ガイドはさらに続けた。「オロチと龍族は、この世界で長い年月争いを続けています。もともと、この世界は神々が戦争をしていた場所で、それぞれが創り出した『オロチ』『ギーガ』『龍妃』と呼ばれる究極の存在が、神々の意志を背負って戦った結果、力を使い果たして封印されました。しかし、何かの拍子に封印が解け、この地で再び戦争が起きたのです。」


ガルムはじっと聞いていたが、アエリオンが軽く肩をすくめながら、「ふむ…強いなら会ってみたいな」と軽い口調で言うと、スレイアも「俺も興味がある」と同調した。


ガイドは微笑みながら「まずは穏やかな龍妃に会ってみると良いでしょう。ここを東に進むと山があり、そこに龍族の里があります。ただし、西にはオロチの居住地があるので、そちらには絶対に近づかないように」と警告を発した。


アイリスが少し不安げに「どうする?次の世界に行く?それとも龍族とかに会ってみる?」と提案すると、ガルムは少し考え込んだ後、「とりあえず龍族に会ってみるか」と答え、東に向かって歩き始めた。


途中でガルムが振り返りながら「ガイドさん、結局クエストはないのか?」と聞くと、ガイドは手を振りながら「クエストはないので、十分堪能したら戻って来てくださいね」とだけ言い残し、姿を消した。しばらく東に向かって歩いていると、山への入り口が見えてきた。「あったな…ここを登るのか」とアエリオンがつぶやき、隣のアイリスに「大丈夫か?登れそうか?」と尋ねる。


アイリスは軽く頷いて「私は大丈夫です」と、ガルムの前を歩き始めた。その姿を見て、ガルムは「後衛が前を歩くのもどうかと思うけど…」とつぶやくが、アイリスは少し不機嫌そうに「私だって前衛でいけますから!」とプリプリした様子で前を急いだ。


ガルムは「本当に大丈夫かな…?」と心配しながらも、アイリスが何か別のことを考えている様子に気づく。アイリスは、ガルムが自分に対して心を開いてくれないことに不安を感じていた。「ガルム君って、私には何も話してくれない。肉体レベルのことも、ルリさんからのことも、アエリオンとスレイアって呼ばれた理由も…私、仲間だと思われてないのかな…」と、胸の内で悩んでいた。


しばらく山を登っていくと、ようやく村のような場所が見えてきた。入り口には「龍の里」と書かれている看板が掛かっていた。


「よかった、着いたな。さて、龍妃に会うか」とガルムが言い、村に入ろうとした瞬間、鋭い声が響いた。


「待て!」


入り口から背の高い大男が現れ、厳しい目でガルムたちを見つめた。「見慣れない顔だな…まさか、オロチの手先か?」と疑わしげに問いかけてきた。


「違う。俺たちは龍妃に会いに来たんだ。オロチを倒すためにな」とガルムが応じると、大男は嘲笑を浮かべて「オロチを倒す?精鋭部隊で挑んでも倒せない相手を、そんな弱そうな体で?ハッハッハ!」と笑い声を上げた。


その態度にアイリスはイライラし、ついに声を荒げた。「見た目はこれでも、ガルム君は強いんですよ!」と大声で叫んだ。


大男はその様子に興味を示したかのように、腕を組んで「ほう、じゃあ俺を倒してみろ。そうすれば信用してやろう」と、独特な構えを見せた。


「相手は素手か…俺がやる」とアエリオンが構える。


「じゃあ行くぞ!」その瞬間、ガルムは風を纏い、一気に加速して大男に向かって突進した。ガルムの拳が大男に命中し、衝撃が大男の体を包み込んだが、大男はまったく動じる様子がなかった。


「効いてない…?」ガルムはその手ごたえのなさに驚きながら、さらに追撃を繰り出した。無数のパンチを打ち、ローキックで動きを封じようとするが、相手はびくともしない。


「その程度か?」大男が冷たく言い放つと、次の瞬間、一撃を放った。鋭いパンチがガルムの腹に深々と命中し、ガルムは思わず前のめりに倒れそうになる。その隙を逃さず、大男はガルムの首を掴み上げた。「龍圧殺!」と叫び、ガルムを力強く締め付けながら、地面に叩きつけた。地面が一気に凹み、衝撃でガルムの意識が遠のきそうになる。


「ガルム君、大丈夫?!」アイリスが心配して叫ぶ中、アエリオンが唸り声を上げた。「今のは効いたな…。とんでもない威力だ。握力も化け物じみてるし、肉体も異常に頑丈だ。これが龍族の力ってわけか…」


しかし、ガルムは地面に倒れたまま、苦痛をこらえつつ立ち上がった。「…まだ立てるのか、大したもんだな」大男は感心した様子で目を細めた。「悪かった、俺もちょっと本気を出すからさ、許してくれよ!」と笑いながら挑発する。


「こちらも本気だ!」ガルムは一気にエアシューズを使って加速し、「ストームラッシュ!」と連続攻撃を繰り出した。ガルムの拳が何度も大男に命中し、あらゆる部位を殴りつけた。しかし、それでも大男は倒れない。ガルムはまた捕まれそうになり、アッパーを放って空中に飛び上がり、「トルネードキック!」と回し蹴りを一撃、さらにもう一度回し蹴りを加えた。ようやく大男が吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「ようやくダメージが入ったか…」ガルムは驚きを隠せず、疲労を感じ始めた体を支えながら大男を見つめた。その姿を、アイリスは心配そうにじっと見つめていた。

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