第15話スレイアの怒り

火山の活動がますます激しさを増し、熱気と硫黄の匂いが漂う中、ヴァイスはなおも強力な風の渦を纏い、力を解放し続けていた。その巨大な風の壁は、まるで要塞のように彼を守り、誰一人として接近できない状態だった。風は渦を巻き、岩や灰を巻き上げて空を切り裂くような音を立てていた。


「どうにかしてあの風を止めないと…」アエリオンとスレイアは焦りを滲ませながらも、具体的な打開策を見つけられずにいた。「どうしてもあの渦を潰す方法が見えない。威力が違いすぎる…」スレイアが剣を握りしめた。


一方、ルリは冷静に状況を見つめていた。「どこでもいい、何か壊せば…」彼女は攻撃のタイミングを狙っていた。ヴィスティーもまた、力を蓄えながら一撃を放つ準備を進めていた。ララとアイリスは、いつでも援護に入れるよう慎重に待機していた。


「攻めてみよう」とスレイアが決意し、一気にヴァイスに接近しようとした。だが、その瞬間、ヴァイスは上空に放っていた巨大な渦をガルムに向けて解き放った。「グランドエアロトーネード!」渦の轟音が響き渡り、ガルムは瞬時にその力に飲み込まれた。風の刃が体中を切り裂き、ガルムはマグマの縁まで吹き飛ばされる。


「くそっ、ダメージがでかすぎる…それに、接近することすらできないのか!」ガルムは苦しげに叫んだ。


「そろそろ終わりにするか…」ヴァイスは冷淡な声で告げた。


その時、スレイアが一歩前に出て、冷静に声をかけた。「ちょっといいか?ヴァルクアという星は知っているか?」


ヴァイスは一瞬、驚いた表情を見せると「知ってるとも。あの星の住民のほとんどが乗っ取られたことにも気づかず、バカ王子が戦争ごっこをしている場所だろ?まったくバカな王子だ。自分が星を守ってるつもりでいて、何も知らない。ゼフィロンの方がお前を守っていたというのにあの場にいたら、俺が教えてやったのにな」と嘲笑した。


スレイアはその言葉に冷静に返した。「戦いというのは、相手の動きと精神力を揺さぶることが大事だよな。でも、これじゃあただの道化だったな…ありがとう、お前を本気で仕留めたくなった」と言うと、スレイアは静かに剣を抜いた。


ヴァイスの嘲笑は消え、目つきが鋭く変わった。「ほぅ…来いよ、道化師」とヴァイスは風をさらに強め、渦の音が再び轟音を上げ始めた。「お前に言っても仕方ないが…」スレイアはゆっくりと口を開いた。「僕は色んなことを我慢して、周りに合わせてきた。本当は槍が得意でも、剣を使えと言われれば剣を使ったし、戦争に行けと言われれば、戦争にも行った。そうするのが王子の役目だと思ってたからだ。でも、ここは異世界だ。もう、誰に合わせることもない。自分らしく行かせてもらう!」


スレイアは強く決意を込めて、リヴァイアサルに向けて言った。「リヴァイアサル、僕のわがままでごめんな。本来の姿に戻ってくれ――デュアルスピアモード!」


スレイアの手に握られた剣がみるみるうちに光を放ち、両端に刃がついた双刃槍へと変化していく。スレイアはその槍を握り直し、鋭い目つきでヴァイスを睨んだ。「行くぞ、ヴァイス!」


スレイアが一気にヴァイスに斬りかかる瞬間、ヴィスティーは「ゴッドライトニングバースト!」と叫び、上空からヴァイスの周りに雷が次々と落ち、一気に爆発を巻き起こした。雷の閃光と轟音が辺りに響き渡る中、ルリは冷静に力を集中させ、ヴァイスの防御の一部を破壊した。内部の崩壊により、ヴァイスを守っていた大渦が次第に消えていく。


「今だ!」スレイアはデュアルスピアを回転させながらヴァイスに斬りかかる。ヴァイスは剣で防ごうとしたが、双刃の威力と回転の速さに圧倒され、防ぎきれずに吹き飛ばされた。スレイアは何度も何度も回転斬りを加え、「止めだ!」と叫ぶと同時に「アクアスピア!」と水の槍をヴァイスに突き刺した。


「ぐはっ…」ヴァイスは吐血し、仰向けに倒れ込んだ。「この…俺が…負ける…だと…?だが…仲間のおかげ…だな…」


スレイアは荒い息をつきながら槍を収めた。「別に、僕の手柄にするつもりはないさ。みんなの勝利だ。」


「そうか…おめでとう…めでたい奴だ…」ヴァイスは苦しげに笑みを浮かべると、最後の力を振り絞って叫んだ。「グランドエアロトーネード!」一瞬でガルムを吹き飛ばし、彼を火山の噴火口へと落とし込んだ。


「くそっ…」ガルムは必死に自分の体勢を整えようとしたが、風の勢いに抗えず、火山のマグマへと落ちていった。「エアシューズ、最大出力…!風の翼…!」だが、ガルムの速度では出口に届かず、再び落下し始める。マグマが迫り、熱気が彼を包み込む。


「うわっ、熱くない…?」ガルムは不思議に思ったその時、声が聞こえてきた。「我はフェニックス。契約をすれば力を貸そう。」


「契約?なんでもするから助けてくれ!まだ…死ぬわけにはいかないんだ!」ガルムは必死に叫んだ。


「契約完了。」その声が響くと同時に、マグマと共にガルムの体がさっきの戦場へと戻された。


「…何が起きた?」ガルムは自分の手の中にフェニックスの羽を握っていることに気づいた。溶岩で焼かれたヴァイスの遺体を見下ろし、仲間の元へと歩み寄る。「えっ?無事だったの?」ルリが驚きの声を上げ、ララとヴィスティーも「良かった〜!」と安堵の声を漏らした。


アイリスは泣きながらガルムに抱きつき、「本当に良かった…」と声を震わせた。


「俺ももう駄目かと思ったけど、何とかなったみたいだな。しかも、フェニックスの羽もゲットだ!」ガルムは羽を見せ、みんなの視線を集めた。


ララとルリは集中して心を読んでいた。「フェニックスとの契約…」ルリがささやいたが、言わないでおこうと決めた。


「まあ、いずれわかることだよね」と笑い合う二人。


「じゃあ、冒険者ギルドに戻ろうか」とガルムが提案すると、みんなは頷き、ギルドへ向かい始めた。


帰り道は静かで、噴火による溶岩と火山弾で周囲の景色が荒れ果てていた。ルリはそれを見て、「逃げて行った人も多いだろうね。中には被害に遭った人もいるかも」と冷静に言った。冒険者ギルドに着くと、ガルムは受付にフェニックスの羽を見せ、「クエスト完了だ」と告げた。


「おめでとうございます!フェニックスの羽はそのまま持っていて構いませんよ」と受付嬢が笑顔で応じた。


「やった!フェニックスの羽をゲットだ!」ガルムは喜び、仲間たちと共にギルドの食堂へ向かい、クエスト達成の祝宴を開いた。肉や魚、各地の珍しい料理が並び、みんなで楽しく食事をしながら語り合った。


「世界ごとに味や見た目が違うんだよな〜」とガルムが言うと、ヴィスティーが笑って答えた。「そうね、自分の世界と違うものばかりで、新鮮だわ。」


ララとアイリスは隣同士で仲良く会話し、盛り上がっていた。


「今言うことじゃないかもしれないけど…これからどうする?」ガルムがみんなに聞いた。


ルリが微笑んで言った。「私は、ララと一緒に別の世界へ行こうと思ってる。居心地はいいけど、やっぱり旅を続けたい。」


「そっか、じゃあ三人旅になりそうだな。」ガルムがそう言うと、アエリオンは心の中で少し寂しそうに呟いた。「回復役がいなくなるのは痛いな…」


その心の声を感じ取ったスレイアが同じく心の中で答える。「仕方ないさ、また新しい仲間を見つければいい。」


すると、ララが微笑みながら「全部聞こえてますよ」と軽く指摘した。


ガルムは驚き、「えっ?」と戸惑うと、ルリとララはにっこりと笑った。スレイアも「やっぱり心の中まで読まれてるみたいだな」と苦笑いし、アエリオンは心の中で「お願いだから心を読まないでくれ!」と叫んだが、ルリとララは微笑んでいるだけだった。


食事が終わると、ガイドが待っていた。ララとヴィスティーが別の世界へ行くことを告げると、アイリスは少し涙ぐんで寂しそうにしていた。


「アイリス、一緒に来ますか?」ララが優しく声をかけると、ガルムも「女の子同士の方がいいんじゃないか?」とアイリスを気遣った。


しかし、アイリスは涙ぐみながら「ガルムくんがいない方がいいなら、そうします…」と小さな声で答えた。


その様子を見て、ルリが笑いながら「女の子泣かしちゃダメよ、アエリオン?それともスレイア?」と軽く揶揄うように言った。


ガルムは焦りながら「え?俺のせいなの?」と反論するが、ララも笑いながら「そうみたいね」と返した。

ガルムは苦笑いをした。ルリは「またどこかでねバイバイ」と光に包まれて行った。

その後、ララとヴィスティーも別れを告げ、手を振って消えていった。「またどこかで会えるよな」とガルムは言い、次の冒険へ思いを馳せた。


「ガイドさん、次の世界に向かおう。」ガルムは言い、アイリスと手を繋ぎながら転送装置に向かう。光に包まれ、二人は次の冒険へと旅立った。


「毎回思うけど、手を繋がなくてもいいんだけどな…まあ良いけど」とガイドは穏やかに見送った。


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