第13話迷い猫
ガルムとアイリスが目を開けると、目の前にはのどかな草原が広がっていた。青空の下、緑の絨毯のような草が風に揺れている。遠くには小さな丘があり、そこに小さな村の屋根が見え隠れしている。少し歩けば、賑やかな街の気配が感じられる。
「いや〜さっきのは危なかった。なんだったんだろ?」と首を傾げながら、ガルムは不安そうに言った。「転送ミスですかね?」
「転送ミスで死ぬのは嫌だな〜」とガルムが言うと、アイリスは頷く「とりあえず街に行こうか?」と提案する。
「そうですね!」アイリスも同意し、二人は街に向かって歩き出した。道の両脇には、花が咲き乱れ、小鳥たちのさえずりが心地よく響いている。
「やっぱりこういうとこなら敵はモンスターかな?」とわくわくしながらガルムが聞くと、アイリスは「モンスターって見た事ないような?」と少し考え込む。
「そうなんだ、いそうだけどな〜」と言いながら、街の中に入ると、賑やかな市場の声が聞こえてきた。売り手の声、買い手の笑い声、子供たちのはしゃぎ声が混ざり合い、まるでお祭りのような雰囲気だ。
その時、ガイドが待っていた。「お二人とも、すみません!危険という信号を見逃して、あんな危険な所に…」と謝ってくるガイド。
「それはもういいけど、あの世界は何?」とガルムが尋ねる「今まではのどかな世界だったのですが、突如崩壊の危機に直面したみたいですね、次元の歪みも発生してたみたいだし、良かったですね。」と笑顔で言うと「ここの世界はガイドがいるし、問題はないって事ね?」とガルムが続ける。
「ええ、ここは安全です。ヴァルクアはいますし、フェニックス捕獲作戦を展開しているので、そっちに行かなければ平和な世界です」とガイドは説明する。
「うーん、危険な方に行かないと冒険感がないしな〜」とガルムは悩む。
「とりあえずクエスト見てきたらどうですか?」と言われ、ガルムは頷いた。
「あ、私はちょっと服屋があったので着替えて来ますね。クエスト決まったら教えてください」とアイリスは去っていった。
「着替えがいるか?」とガルムが聞くと、スレイアは「女性はいるだろ」とツッコむ。
「そうか」と思いつつ、ガルムはクエスト一覧を見ていた。色とりどりのクエストが掲示板に並んでいるが、フェニックス関係のクエストは見当たらない…。
「うーん、この迷い猫の捜索でもするか?なんか依頼人も同行みたいだし、色々と聞けるかもしれないし」と考える。
「ああ、アエリオンにしては珍しく情報収集するんだな」と冷やかすスレイア。
「いや、フェニックスは惹かれるよ。やっぱりカッコ良さそうだし!」とガルムが答えると、期待感が高まった。
その後、アイリスが戻ってくるのを待ちながら、ガルムは新たな冒険に胸を膨らませていた。アイリスが新しい服に着替えて戻ってきた。
「お待たせしました、ガルムくん。ところで、この世界って『アルヴェール』って言うみたいですね。さっき、店の人に聞きましたけど、前の空島とは雰囲気が全然違いますね。」
ガルムは首をかしげて、「アルヴェールか…まあ、名前なんて正直気にしてなかったけど、確かに違う世界って感じはするな」と呟く。
スレイアが少し笑いながら、「お前はいつも名前とか気にしないもんな。でも、この世界も何か特別な力がありそうな気がするよ」と付け加える。
アエリオンも同意しつつ、「まあ、世界の名前より、ここでのクエストが面白そうかどうかだろう」と言い、クエスト掲示板を見ながらにやりと笑った。依頼人との待ち合わせ場所に向かいながらアイリスが「今回からは、私ももっと戦闘に加わります!」
「えっ?今まではあんまり前線には出なかったのに、どうして?」
アイリスはにっこりと微笑み、スカートの裾を少し持ち上げて見せる。
「短パンに変えたから、大丈夫なんです!これなら戦闘中に動き回っても平気ですから!」
ガルムは少し驚きながらも笑みを浮かべる。
「そういうことか…いや、何も言わないほうがいいな。まあ、それなら安心だ。」ガルムは、依頼人との待ち合わせ場所で立ち止まった。「依頼人との待ち合わせ場所はここなんだけど…いないな。」と周囲を見渡すが、誰の姿も見当たらない。アイリスが「もう別の人が行ったんでしょうか?」と首を傾げる。
その時、背後から静かに「ギルドの方ですか?」という声が響いた。
驚いて振り向くと、黒髪の長い、少し背の高い女性が立っていた。彼女は静かで落ち着いた雰囲気をまといながらも、その瞳には何か深い感情が潜んでいるように見える。ガルムは思わず「うわっ!」と声を上げたが、すぐに冷静を取り戻して「そうです」と答えた。
その瞬間、スレイアは内心で「今、全く気配を感じなかった。もし敵ならやられていた…」と警戒した。しかし、女性はその様子を見透かしたように微笑んで言った。「私はルリ。安心して、私は敵じゃないから。」まるでガルムたちの心を読んでいるかのようなタイミングでの言葉だった。
ガルムは少し警戒しながらも「ガルムです」とシンプルに自己紹介をする。アイリスも「私はアイリスです。同年代ですね、よろしくお願いします。」と丁寧に挨拶をしたが、内心、ルリの不思議な雰囲気に気づいていた。
ルリは「依頼の内容は聞いてると思うけど、迷い猫を探してほしいの。元々は一緒にいたんだけど、少し目を離した隙に逸れちゃってね。ここから東の街に行ったんじゃないかと思うけど、一人じゃ心細くて…」と言う。その言葉は自然だが、彼女の微笑みの裏には何か他の意図が隠されているように見えた。
ガルムは「任せてくれ、ちゃんと見つけて合流させるから安心して」と頼もしく応じ、先頭を歩き始めた。アイリスとルリは少し距離を取り、草原を歩きながら会話を楽しんでいる。だが、アイリスは時折、ルリが微笑みながらもどこか遠くを見つめていることに気づき、何か胸騒ぎを覚えていた。しばらく歩いていると、街中で行き交う人々の中に、少し変わった走り方をしている二人組が目に入った。ガルムは思わずその二人を目で追いかけてしまう。
「なんだ、あの走り方…?」と、少し不思議そうに呟く。
するとルリが驚いたように声を上げた。「あ!あの子がララだよ!」その言葉にガルムも驚く。「え?ララって、猫じゃなかったのか?」とガルムは首を傾げるが、その直後、先頭を走っていた子がルリに気づいて、笑顔で駆け寄り、勢いよく抱きついた。
「やっと会えたね!寂しくなかった?」と、ルリが少し心配そうに聞くと、ララは明るく笑い、「大丈夫でしたよ!新しい仲間もできましたし!」と答えた。
ララは後ろに控えていたもう一人の少女を指差しながら、嬉しそうに紹介する。「この子はヴィスティー。記憶がないみたいだけど、一緒に旅しているの。よろしくね!」
ヴィスティーはふわりとした笑みを浮かべて、「初めまして、ヴィスティーです。初心者ですけど、よろしくお願いします〜」と挨拶をしたが、どこか軽い感じで頭を下げることもなかった。
ガルムは自分も自己紹介をし、「俺はガルム。」と短く言った。アイリスも続いて「私はアイリスです。よろしくお願いしますね」と礼儀正しく挨拶を返す。
「二人だけで旅してたのか?」とガルムが少し疑問を込めて尋ねると、ララが元気に答えた。「街からここまで旅をしてきたんですよ!」
ガルムは一瞬、彼女たちのパーティのバランスに疑問を感じたが、素直に尋ねる。「でも、なんかパーティのバランス悪くないか?二人とも魔法使いに見えるけど…?」
ララは少し照れたように笑って、「私はヒーラーで、ヴィスティーはシスターなんです」と答えた。
それを聞いたガルムは内心「回復と回復か…。戦闘でバランス悪いな…」と思ったが、すぐにスレイアが心の中で注意を促してきた。「ガルム、そんなこと言うなよ!とりあえず、適当に褒めておけ」
ガルムは急いでフォローしようと、「ああ…回復には困らなくて良いじゃないか」と、何とか誤魔化すように答えた。
だが、そのフォローは逆効果だったようで、ララは少し不満そうに眉を寄せて、「それがフォロー?なんか残念な子」ルリも「別に誤魔化さなくていいのよ。多分気にしてないし…」と言いつつも、笑顔だった。
ヴィスティーも同意するように、「そうそう、気にしなくて大丈夫ですよ〜」と軽い調子で加えた。ガルムは少し顔を赤くして、「そ、そうか…。じゃあ一旦、向こうの街のギルドで依頼達成の報告をしてくるよ」と言い残し、少し照れた様子で早足で街のギルドへ向かっていった。
アイリスとルリはその様子を見てクスッと笑い合う。ララも微笑みながら、「ガルムさん、照れちゃったのかな?」と小声で囁く。アイリスは頷きながら、「多分、少し恥ずかしかったんだと思います」と返し、さらに笑いが広がった。
ヴィスティーも肩をすくめながら、「彼、ちょっと可愛いところありますね〜」と軽い調子で言う。
ガルムはその後ろ姿を見られていることに気づいているが、振り返ることなく真っ直ぐギルドへ向かって進んでいった。
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