第9話新たな世界

眩い光が消えると、よくある南国の島っぽい所に着いた。

「今度は海で泳げそうだな、バカンス最高!」と、アエリオンは興奮気味に走り出す。

スレイアも「ああ、暖かいところで泳げるのもいいね」と便乗するが、すぐにそこの監視員に止められる。

「危ないぞ、そこ!」と声をかけられたアエリオンが「なんだ? ただの海じゃないか」と言いながら監視員の指差す方をじっと見た。

「よく見てみろ」と監視員が再度促す。アエリオンは疑問を持ちながらも、島の端の方に向かってゆっくりと近づいた。

「ただの…空じゃん?」アエリオンの声にスレイアも驚き、海と思っていた場所が実は巨大な空間の上に浮かんでいることに気づく。遠くに浮かんでいるのは船ではなく、空を漂う空船だったのだ。

「ここって…浮島なのか?」とアエリオンが目を丸くして聞くと、監視員はうなずいて答えた。

「その通りだ。足元には何もないぞ。もし足を踏み外せば、二度と戻れん」

「落ちたらどうなるんだ?」

「一説では地上に落ちるというが、確かめた者はいない」

そう言われて、アエリオンとスレイアは顔を見合わせた。

「助かったな。教えてくれなかったら、いきなり落ちてたかもしれない」とアエリオンは苦笑した。

「お前、本当に危ないところだったぞ。冒険を始める前に終わるところだったな」とスレイアも笑いながら肩をすくめた。


「でも、これじゃあ…空を飛べるか、船でもないとここから出るのは無理か」と少し落ち込むアエリオン。

スレイアは「とりあえず冒険者ギルドに行こう。クエストか何かが見つかるかもしれない」と言い、二人は内陸へと向かって歩き出した。


歩いていくうちに、周りはのどかな風景が広がっていた。

「何だか平和そうだな〜」と、アエリオンは口を開いた。

「まだわからないぞ。ここはまだ入り口だからな、気を引き締めていけ」とスレイアがやや警戒して言った。

「まあ、こういうところで敵が来るとしたら…盗賊か、ヴァルクアぐらいか?」と笑って言うアエリオン。

スレイアは少し不満げに「ヴァルクアを悪く言うな。彼らだって事情がある」と返す。


だが、しばらく進んだその時、突然黒い空船が二人の前方を塞いだ。

「何だ!? 伏せろ!」と叫んだ瞬間、黒い空船から砲撃が放たれ、激しい爆発音が響いた。砲撃が激しく続く中、アエリオンとスレイアは逃げ場を失い、隠れる場所も次第に無くなっていた。


「スレイア、このままだとヤバいぞ。ソニックブレイクで切り抜けるしかない!」とアエリオンが焦りながら叫び、すぐさま「ソニックブレイク!」と技を放つ。しかし、空船には全くダメージがない。砲撃の精度は増していき、ますます追い詰められていく。


「これはおかしい…全然効いてない!」アエリオンが戸惑いを隠せない。


「代わってくれ!」スレイアが鋭く叫び、アエリオンと交代すると「アクアヴォルテックス!」と渦巻く水を空船に向けて放つ。しかし、今度もダメージはほとんど見られない。


「ここまでダメージがないのはおかしい、どうなっているんだ!」スレイアが焦りの表情を浮かべる。


「とにかく、これ以上逃げ場がなくなる前に一旦砂浜に退避しよう!」とアエリオンが提案し、二人は何とか砲撃をかわしつつ砂浜へと逃げ込んだ。


砂浜に到着すると、アエリオンは「直接斬りかかるしかないな」と言い、スレイアは一瞬逡巡した後、「わかった」と同意して構え直す。


アエリオンが冷静に言う。「一度交代しろ。風を纏ってジャンプしたら少しは飛べる。その後、地面に向けてソニックブレイクを撃つ。その勢いでお前が斬れ」


スレイアは頷き、アエリオンと交代。アエリオンはストームブリンガーを地面に突き立てると、風を纏い一気に空へと舞い上がった。空船の操縦士が驚いた表情で照準を合わせるが、アエリオンは地面に向けて「ソニックブレイク!」と風の刃を放ち、勢いをつけて軌道を変更。その瞬間、再びスレイアに交代し、今度は「アクアスピア!」で鋭い水の槍を放つ。


スレイアは風の勢いに乗り、敵空船の操縦席を狙って突進。一瞬の隙を突いて操縦士ごと船体を貫いた。「終わりだ!」スレイアの叫びと共に、空船は操縦士が斬り倒されたことで爆発を起こし、炎と煙が砂浜を覆った。


黒い煙の中、空船の残骸が散らばる。そこにはヴァルクアの紋章が刻まれていた。アエリオンが空船を倒したあと、彼はため息をつきながら振り返り、「やっぱり物理に弱かったな」と自信満々に言う。


スレイアが「なぜわかったんだ?」と尋ねると、アエリオンはニヤリと笑い、「だってさ、遠距離から攻撃する奴って大体近接に弱いじゃん。来れないと思ってるから、なおさらね」と、自慢げに答えた。


スレイアは少し疑わしげに、「そんなものかな〜?もし装甲が頑丈だったらアウトじゃないか?」と反論するが、アエリオンは肩をすくめ、「その時はその時だよ」と笑ってみせる。


その無計画さに突っ込むこともせず、スレイアは話題を変え、「それより、ヴァルクアの紋章が付いてた。ってことは、やっぱりヴァルクアの勢力がこの空島にも及んでるんだな」と、険しい顔をして言う。


アエリオンは「俺たちをピンポイントで狙ったのか、それともただの冒険者だからか…まあ、どちらにせよ気をつけないとな」と冷静に言い返す。


そんな会話の最中、背後から控えめな声がかかった。「あの…冒険者ギルドの方ですよね?」と振り返ると、魔法使いの少女が立っていた。白いローブに包まれた彼女は、緊張した面持ちで一礼する。


「私も冒険者ギルドに登録しているんですが、空賊が攻めて来ても一人では対応できなくて…もし良かったら、一緒にパーティを組んでいただけませんか?」と彼女はお願いするように言った。


アエリオンは少し考え込んで、「僕はいいけど…見た目8歳なんだよ?逆にいいの?」と気になる点を確認する。


しかし、少女はすぐに答えた。「いえいえ、先程の戦闘を見て確信しました。あなた方は相当な実力をお持ちです。どうか、お力を貸していただけませんか?」と再度頭を下げた。


「女の子にそこまでお願いされるなんて悪くないな…」とアエリオンは笑い、肩をすくめて「ぜひ、よろしくお願いします!」と元気よく返し、自己紹介を始めた。


「俺はアエリオン、よろしくな!」と、少し格好つけながら手を差し出す。


少女は軽く微笑み、「私はアイリス。冒険者レベル25です。得意な魔法は中級魔法全般とエンチャントです。よろしくお願いします」と丁寧に挨拶を返す。


アエリオンはスレイアに小声で「エンチャントってゲームで言うと、武器に属性を付加してくれる能力だよな。雷とか炎とか付けてくれるのかな?」とワクワクした様子で聞いてきた。


スレイアは呆れたように、「直接聞けばいいだろ」と軽くツッコミを入れる。


「ねえ、炎とか付加してくれる?」と、アエリオンが期待に満ちた目でアイリスに尋ねると、彼女は頷き、「そのくらいお安い御用です」と言って、「フレイムエンチャント!」と唱えた。


すると、アエリオンの手の中に小さな炎が現れた。「おお、ついに炎属性ゲットだ!」と興奮するアエリオンだったが、すぐに炎は消え、「今は戦闘中じゃないので、このくらいで」とアイリスが言い、アエリオンは「あ、ありがとう…」と少し照れくさそうに感謝を述べた。アイリスのフレイムエンチャントで手に炎を纏った時の事をアエリオンは、興奮しつつもその感触を楽しむようにしばらく手を見つめていた。しかし、スレイアが軽く肩を叩いて「浮かれてる場合じゃないぞ。空賊がまだ近くにいるかもしれない。油断するな」と声をかける。


アエリオンは少し戸惑いながらも、「ああ、分かったよ。でも、この空島の冒険、少し楽しくなってきたな」と言い、気持ちを切り替えた。


「次はどこに行く?冒険者ギルドに行ってクエストを受けるんだったよな?」と、アエリオンが問いかけると、アイリスは頷いて、「はい、ギルドで空賊やヴァルクア関連の情報を確認できると思います。それに、私も次のクエストを受ける予定なので、ぜひ一緒に…」と提案した。


「よし、決まりだな。ギルドに行って情報を集めよう」とスレイアが言い、2人は冒険者ギルドへと向かうことになった。


ギルドに到着すると、室内は活気に満ち、多くの冒険者が集まっていた。クエストボードには様々な依頼が張り出され、ギルドマスターと見られる人物がカウンターで対応している。


「ここがギルドか…広いな」とアエリオンが呟くと、アイリスが案内役のように「私が受付をしてきますね」と言い、ギルドカウンターに向かっていく。


しばらくすると、アイリスが戻ってきて、「空賊の動きについての最新情報がありました。彼らはこの島の外れにある遺跡を狙っているようです。どうやら古代兵器が眠っているとか…」と、少し緊張した表情で報告した。


「古代兵器か…面白くなってきたな」とアエリオンが笑顔を浮かべる。


「でも、その遺跡は危険な場所です。私たちだけで向かうのは無謀かもしれません」とアイリスは警戒心を持ちつつ言うが、アエリオンは「そんなの、やってみなきゃ分からないだろ?行こうぜ!」とやる気満々だった。


スレイアも同意し、「とりあえず、遺跡に向かってみよう。アイリス、君も一緒に来るか?」と聞くと、アイリスは頷いて「もちろんです」と答えた。

2人は冒険者ギルドを出発し、クエストの内容に沿って目指すは「風の遺跡」。この遺跡には、古代の宝とされる「風の加護の石」が眠っているという噂があった。しかし、それを手に入れるためには、遺跡を守る古代兵器との戦闘が不可避だとされていた。


「この『風の加護の石』があれば、風を操る能力が強化されるらしいけど、古代兵器を相手にするなんて聞いてないぞ」とアエリオンは不安そうに言うが、スレイアは「クエストは危険がつきものだ。覚悟しろ」と冷静に返した。

ガルムはアイリスから借りた「エアシューズ」を装備し、小さな浮島をぴょんぴょんと渡りながら遺跡に向かう。「これがエアシューズか…面白いな! 空中を跳ねながら進むなんて、ちょっとした夢みたいだ」と、アエリオンは軽快に飛びながら笑う。足元からは小さな風の力で浮き上がり、軽々と次の島へ跳ぶ。


「まあ、これがなければこの浮島を越えるのは不可能だろうな」とスレイアも真剣な表情で次の浮島へと飛び移る。アイリスも二人を追いながら「風の遺跡は強い風が常に吹いていて、普通の移動では辿り着けないんです。だからこのエアシューズがあるんですよ。ですが、風が強いので気をつけてくださいね」と警告する。


風が徐々に強くなり、浮島の間隔も少しずつ広がっていく。スレイアは「慎重に進もう。風に流されて落ちたら終わりだ」と冷静に状況を確認し、アエリオンも「エアシューズがあるから大丈夫だって! 俺に任せろ」と笑顔で返す。


やがて、風の遺跡が見えてきた。巨大な石造りの建物が広がり、長い年月を経て、蔦や植物が絡みつく廃墟と化していたが、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。


「ここか…まさに遺跡って感じだな」とアエリオンが感嘆しつつ周囲を見回す。


「でも油断はできないわ。この遺跡には古代兵器が眠っているはずよ。敵もいるかもしれないから慎重に進みましょう」とアイリスが声を掛ける。


2人は遺跡の入り口に近づくと、そこには大きな門があった。しかし、門の前には何やら魔法の結界のようなものが張り巡らされている。「これじゃ入れないな…どうする?」とアエリオンが言うと、アイリスは一歩前に出て「この結界は古代の防御魔法です。少し時間がかかるかもしれませんが、解除できると思います」と呪文を唱え始めた。


その時、上空から再びヴァルクアの黒い空船が現れた。大砲が構えられ、こちらに向けて狙いを定めている。「奴ら、また来やがったか…」とスレイアが警戒し、「防御を固めて、アイリスが結界を解除するまで耐えるぞ」と指示を出す。


アエリオンは武器を構え、「任せろ! 俺が奴らを引きつける!」と言い、エアシューズで空中を飛び跳ね、ヴァルクアの攻撃を避けつつ反撃を開始した。スレイアも加勢し、近接戦闘で空船に近づき、機体を斬りつける。しかし、ヴァルクアの空船は魔法には強く、なかなかダメージが入らない。


「物理で攻めるしかないな!」とスレイアが判断し、近接攻撃に集中する。アエリオンは風の力を使って浮島間を飛び移り、敵の攻撃をかわしつつ、空船のコア部分に狙いを定めた。

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