第7話アエリオンVSアッシュ

アエリオンは勢いを増し、アッシュに向かって連続攻撃を繰り出した。彼の手は次々と交互に動き、上段、中段、時折蹴りで下段を狙って的確に攻め立てる。右の拳を鋭く振り下ろすと同時に、左足を振り上げ蹴りを繰り出す。攻撃の連携は流れるようにスムーズだったが、アッシュは全ての動きを正確に見極め、かすり傷さえ負わせられない。


アッシュは軽やかにアエリオンの拳をいなし、まるで遊んでいるかのようにその場を優雅に舞っていた。時折、アエリオンの拳がかすってはいるものの、その分厚い筋肉はまったく揺るがず、ダメージはゼロに近かった。


アエリオンは苛立ちながらも一瞬の隙を見逃さない。踏み込みの速さで距離を詰め、右足を一気に回し上げ、トルネードキックの勢いでアッシュに襲いかかる。しかし、アッシュは足元を冷静に見極め、軽く後ろに下がっただけでその攻撃を無効化した。


「これだけの攻撃が効かないなんて…!」と、アエリオンの表情に焦りが浮かぶ。


息を切らしながらも、アエリオンは更なる攻撃を続けた。上段の連打からすぐに中段へ、そして下段を狙い、今度は急に方向を変え空中に飛び上がり、ダイナミックな蹴りを放つ。だが、そのすべてをアッシュは冷静に見切り、いとも簡単にかわしていった。


アッシュは少しも乱れた様子を見せず、にやりと笑っていた。その余裕ある表情の中で、アッシュは、アエリオンの連続攻撃をすべて受け流していた。反撃の意志はまったく見えず、まるで遊んでいるかのように笑みを浮かべながら、アエリオンを見下ろしていた。


「どうした?もう終わりか?」と、余裕たっぷりの声で挑発するアッシュ。

アエリオンは焦りを感じながらも、次の一手をどうするか悩んでいた。


その時、今まで気を失っていたスレイアが目を覚ました。「今どういう状態だ?アエリオン、何で素手なんだ?」と疑問をぶつける。

「いや、俺の剣術じゃ勝てないと思って、武術に切り替えたんだ。」

「武術って自己流だろ?」とスレイアが半ば呆れた声を出す。


「いや、基本はそうだけど、ちゃんと技もあるんだよ!子供の時にトルネードに教えてもらったんだ!」とアエリオンが自信を持って答える。

「トルネードって…犬だったよな?犬が武術を教えるなんて聞いたことないぞ?」スレイアはさらに困惑する。


「まあ、あいつはただの犬じゃなかったんだ。すごい強かったんだよ…」と、アエリオンは昔を思い浮かべながら言った。

そして、再び気を引き締め、力を溜め始める。


「アッシュ、今度はこっちだ!」と叫ぶと、アエリオンは風を纏い、スカイクリーヴァ〜と風の衝撃波を放った。

アッシュはわずかに仰け反り、初めて防御に回った。


アエリオンはここぞとばかりに一気に距離を詰め、拳と足に風の力を纏わせて猛攻を仕掛ける。「ストームラッシュ!」と咄嗟にデタラメな技名を叫び、腹部や顔面に次々と拳を叩き込み、何十発も連続でパンチを繰り出す。アッシュの身体は徐々にふらつき始め、バランスを崩していた。


アエリオンは、追撃のアッパーを右手で繰り出し、そのままアッシュの顎に直撃させると、アッシュの体は一瞬宙に浮かび上がった。アエリオンは後退し着地すると、風の力を纏った足で一気にダッシュ。「これで終わりだ!」と叫びながら、アッシュの目の前で高く跳び上がり、渾身のトルネードキックを放つ。


「トルネードキック!」と叫びながら、アエリオンは顔面に一発、二発、そして止めに強力な三発目の回転蹴りを炸裂させた。

「ぐぁっ…!」と叫ぶアッシュ。勢いよく回転しながら、アッシュは大きく吹き飛び、地面に叩きつけられた。


その瞬間、ギャラリーから「うわっ、すげえ!」と歓声が上がり、アッシュの部隊からも「隊長!」と驚きの声が響いた。


だが、アエリオンも無理をしたのか、その場に座り込み、息を荒げながら「はぁ、はぁ…」と息を整えていた。アエリオンは荒い息をつきながら、勝利への余韻に浸ろうとしたが、横でスレイアがなぜか笑っていた。「ははは、ストームラッシュってなんだ?確かに凄いけど、今思い付いただろ?」スレイアは肩をすくめながら言う。


「いや、まあ…そうだけど、名前くらいあった方がカッコいいじゃん?」アエリオンは苦笑いしながらも、なんとか息を整えようとしていた。


「それにしても、トルネードキックってどうやって3回も回し蹴りができるんだ?普通は2回までだろ、威力を保ちながら蹴れるのは。」スレイアが不思議そうに聞くと、アエリオンは笑いながら「だって、トルネードのトルネードキックは3発目が一番痛いんだよ」と言った。


「犬が3回も回し蹴りをするってことか!?」スレイアはさらに驚く。


「いや、3回目は長い尻尾がムチみたいにしなって痛いんだよ。あれを再現したくて、3発目を主に威力高めにしてるんだ。厳しい修行だったぜ…」アエリオンは少し得意げに振り返る。


「そりゃあ、トルネードも呆れるだろうな。『3発目はいらない、お前は犬じゃないだろ!』って感じで。」スレイアも思わず笑った。


その時、ギャラリーから「マジか、もう無茶だよ!」とか「信じられない…」という声が聞こえてきた。アエリオンは反射的に身構える。


「ガルムよ、大したもんだな。」アッシュがゆっくりとこちらに歩み寄りながら、静かに口を開いた。「剣術は荒削りだが、武術はセンスがある。そのまま鍛えれば、とんでもない脅威になるかもしれん。」


アッシュの様子は、先程までと違っていた。重そうなコートを脱ぎ捨て、その目には本気の色が宿っていた。アエリオンは内心「もう終わった…」と思わずにはいられなかった。彼の体力はすでに限界を超えていたからだ。


「ふむ…特にトルネードキックは良かったぞ。空中で3回も回し蹴りを繰り出すなんて驚きだ。」アッシュは笑みを浮かべ、ゆっくりと背中の大剣に手を伸ばす。「いいものを見せてもらったお礼に、俺もこの大剣で相手をしてやろう。」


その言葉と共に、アッシュはついにその巨大な大剣を抜いた。刃がきらめき、重厚な音を立てて地面に垂れる。「隊長が大剣を抜いたぞ!」と、隊員たちは驚き、ざわめき始めた。「滅多に抜かないあの大剣を…!」


スレイアは冷静にその様子を見つめていた。「アエリオン、代わってくれ。それとストームブリンガーも貸してくれ。」スレイアは静かに言い、二人は交代した。スレイアは両手にストームブリンガーとリヴァイアサルを構え、水の力で守りを固めた。スレイアの周囲には水のシールドが形成され、さらに防御を強化していた。炎を使う相手にはこれで十分だろうと考えていたが、アッシュの力はその予想を遥かに超えていた。


アッシュは、巨大な大剣を頭上で回転させ、地面にひび割れを走らせるような地震のような揺れを引き起こした。その動きに合わせて、彼の体からはマグマのような炎が溢れ出し、周囲の空気が焼けるように熱くなっていく。そして、アッシュは天高く剣を突き出すと、勢いよく振り落としながら「ヘルマグマカイザー!」と軽く口にした。その瞬間、炎が津波のようにスレイアに向かって押し寄せた。


「なんだ、この威力…!」スレイアは驚きつつも防御を固めたが、炎の速さに追いつけず、直撃を受けた。炎の壁がスレイアを飲み込み、その衝撃で周囲が火の海と化していく。ギャラリーからは「あれはやりすぎだ…」「終わったな…」と呆然とした声が漏れた。


火の海の中、女魔法使いがスレイアを助けようと水魔法を放ったが、炎の勢いは止まらず、水は蒸発してしまうほどだった。誰もがスレイアの敗北を確信していたその時、火の中からほとんど無傷でスレイアが姿を現した。彼女はしゃがみ込んでいたが、明らかに健在だった。


「どういうつもりだ?」スレイアがアッシュを睨みながら尋ねると、アッシュは笑みを浮かべて言った。「お前はさっきの奴(アエリオン)とは違うな。子供を焼き殺したなんて噂が広まったら、俺の名が廃るってもんだ…ただ、やろうと思えばやれたということだけは覚えておけ。」


アッシュはその場を離れ、背後に炎の痕跡を残しながらゆっくりと立ち去ろうとした。そして、振り返ってこう言った。「今日はこれで失礼する。またどこかでな。お前たちの名前は?」


「僕はスレイア。交代して…俺はアエリオンだ。」スレイアが冷静に答えた後、アエリオンが続けた。


「覚えておこう。またどこかでな。」アッシュは、楽しかったぞ、と笑いながら姿を消した。


アエリオンとスレイアは呆然と立ち尽くしていたが、スレイアは小さく呟いた。「本気でやられてたら、一瞬だったんじゃないか?まだまだ弱いってことだな…」


その時、ギャラリーから一人の魔法使いが声を掛けてきた。「何言ってるの?あのアッシュ様はレベル50を超えているのよ。本気じゃないにしても、やり合えたあなたたちがすごいのよ!」


周りでも「すげえ!」「やったな!」と歓声が上がり、拍手をする者たちが続々と集まってきた。謎の草を差し出して「これを飲めば回復できるぞ」とすすめる者もいたが、ガルムは疲れた表情を浮かべて「ありがとう」とだけ言い、駅の方へ向かった。


その時、駅前でこちらに笑顔で手を振るフードを被った女性が近づいてきた。「やっと終わったのね。私は異世界のガイドをしている者です。クエスト達成、おめでとう!」彼女は笑顔で拍手をしながら言った。


アエリオンは興奮気味に「もしかして、ギルド的な感じ?」と尋ねたが、女性は苦笑いしながら「いや、そうじゃなくて。一応ギルドはあるけど、私はそっちじゃないのよ。」と何故か濁すように答えた。

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