第6話ヴァルクアからの刺客
転送装置の先は、駅前広場に繋がっていた。夕暮れ時、広場はいつもと違い、静かな空気が漂っている。
「なんだ…家に帰りたかったな〜」と、アエリオンは残念そうに呟いた。しかし、スレイアはどこか得意げに言った。「まあ、ここだと思ってたよ。」
「そうかよ。じゃあ帰りもリニアトレインの上に乗るけど次はお前が頑張れよ。」アエリオンは皮肉っぽく返す。
「そんなの君以外には無理だ…」とスレイアは軽く首を横に振る。
しばらく広場を歩き回っていると、アエリオンはふと違和感を覚えた。「なあ、さっきから気になってたんだけど、いつものデバイスでやり取りしてる会社員たちがいない。代わりに、妙に変わった奴ばかりがいるんじゃないか?」
スレイアも周囲を見回すと、確かにいつもとは違う光景が広がっていた。今まで見たことのないような衣装を着た男女が、奇妙なことに二人をじっと見つめている。中には、こちらを睨んでいる者もいて、スレイアは少し背筋が寒くなるのを感じた。
「これって、何かのイベントかな…?」とスレイアが呟いた瞬間、噴水の前で謎の集団に囲まれてしまった。
「なんだお前たちは…!」とアエリオンは言いかけたが、6歳の少年の姿をしているため、少し言葉を変えた。「僕はただの子供ですけど、何ですか?」と、子供らしく言ってみる。
その時、奥から一人の男がゆっくりとこちらに歩いてきた。
「こら、お前たち。お子さんを怖がらせるんじゃない。」と、笑みを浮かべながら声をかける。
その姿を見たアエリオンは、彼が以前、駅で声をかけてきた人物だと気づいた。黒づくめの衣装に、青い長髪。威嚇してくるわけではないが、その雰囲気にはどこか圧倒的な存在感があり、二人は直感的に「強い…!」と感じた。
「怖がるな、こっちも正直、怖いんだよ。」男が冗談交じりに言う。
「何で?」と、二人は不思議に思ったが、男は続けた。「だって、お前ただの子供じゃないだろ?リニアの上で立ち続けて、しれっと降りたり、展望ホール付近じゃ洪水を起こしてただろ?正直、お前だけなんだよ、あの超高層ビルの最上階まで行ったのは。周りを見てみろ。あそこにいる変わった奴ら、あれは異世界を冒険してる連中だ。レベルで言うと中級者レベルってところかな。」
アエリオンは不思議そうに周囲を見回す。確かに変わった衣装の者たちがこちらをじっと見つめている。
「でも、お前はどう見ても初心者っぽいし、パーティも組んでないのに、なぜか突破してきた。興味があるよ、名前を聞かせてくれないか?」と、男は興味深そうに尋ねてきた。
「初心者とか意味がわからないけど、そっちから名乗ったらどうだ?」と、アエリオンは子供らしく少し反発するように答えた。「確かにそうだ。俺はヴァルクア第14部隊隊長、アッシュリーパーだ。よろしく、少年。」
「ヴァルクア?」アエリオンとスレイアは驚いて顔を見合わせた。
「ヴァルクアにそんな奴いたか?」
「いや、見たことも聞いたこともない。そもそも14部隊って何のことだ?」
二人が戸惑っていると、アッシュリーパーが苛立ちを見せながら口を開いた。「何をブツブツ言ってる?名前を名乗ったらどうだ。」
焦ったアエリオンは、「ア、エ…」と言いかけたが、瞬時に「ガルム・クリムスタイン」と名乗った。
アッシュリーパーは満足げに頷きながら、「ああ、ここの住人なのか…つまり転生者か。」と呟いた。
「ということは、少々話が見えてきたな。元々のレベルにプラス6と考えるのが妥当か。つまり、お前は子供ではないな。色々と調べる必要がある。だから、一緒に来てもらおう。拒否するなら…強制連行させてもらう。」そう言いながら、アッシュリーパーは剣に手をかけ、わずかに抜き始めた。
「さっきから訳のわかんねぇことばかり言いやがって!」アエリオンは苛立ちを隠せずに叫んだ。「転生者ってのはまあ認めるけど、そもそもヴァルクアって何なんだ?どうしてヴァルクアを名乗ってんだ!お前なんか知らないぞ!」
アッシュリーパーは冷静に、そして興味深げにアエリオンを見つめた。「ヴァルクアを知らない…?いや、もしかして別のヴァルクアを知っている?これは面白いな。やはり、君には興味が尽きない…拘束する!」
その瞬間、アッシュリーパーの目が光り、剣を素早く抜き放った。その鋭い動きに、アエリオンは一瞬ひるんだ。「こいつ…!」アエリオンはその強さを肌で感じ取った。相手は本気で捕らえるつもりだ。アッシュリーパーは剣を軽く抜き放ち、目を細めながら微笑んだ。「お前、どこまで持つかな?」彼の声には余裕が溢れていた。
次の瞬間、彼の剣が閃いた。風を切る音が響くと同時に、アエリオンは瞬時に身をひねり、ギリギリのところでその一撃を避けた。しかし、アッシュはさらに畳みかけるように次の斬撃を繰り出す。その動きは速く、的確で、まるで遊んでいるかのようだった。
「くっ…!」アエリオンは剣を振り上げ、かろうじて防御に入る。しかし、重さは感じないものの、その一撃一撃には圧倒的な力が込められていた。
「ほう、なかなかやるな。でも、いつまで持つかな?」アッシュは余裕たっぷりに言いながら、剣を何度も素早く振るい続けた。その度に、アエリオンは何とか防いだり、回避したりしながら後退を余儀なくされていった。「くそ…反撃もできないなんて。早くて重い…!」アエリオンは必死に防戦しながら、アッシュの圧倒的な剣技に追い詰められていた。
その時、スレイアの声が響いた。「代わってくれ!」
瞬時にスレイアと交代すると、状況は少し変わった。アッシュの剣を受け流しながら、スレイアは防御と同時に剣を弾き、その隙をついて「アクアスピア!」と水の槍を放った。
しかし、咄嗟に放った攻撃も、アッシュは剣で容易に防ぎ、さらに反撃の構えを取った。
「くっ…あの距離でも通せないのか…!」スレイアは悔しさをにじませながらも、次の一手を考えようとする。
その瞬間、アッシュの剣が炎を纏い、彼は技を放つ準備に入った。アッシュリーパーは軽く呟いた。「バーニングエッジ…」
炎の刃が閃き、スレイアに命中した。スレイアは苦痛に顔を歪めたが、事前に水で守りを固めていたため、なんとか大きなダメージは避けることができた。
「このままじゃ終わらせない…!」スレイアは気合を入れ直し、ありったけの技をぶつける覚悟を決めた。「アクアヴォルテックス!」
水の渦が勢いよくアッシュに向かって放たれたが、彼はあっさりとそれを防ぐ。だが、スレイアはさらに力を振り絞り、再び叫んだ。「アクアデュリューズ!」
その場に大洪水を巻き起こした。水が広場を埋め尽くし、周囲の冒険者たちが後退する。しかし、アッシュは素早くジャンプして洪水を回避し、空中から再び炎を纏った刃を振りかざす。
「バーニングエアエッジ…」軽く振られた剣が空中を切り裂き、炎の軌跡を描きながらスレイアの体を切り裂いた。「うわぁ!」スレイアは勢いよく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。血がにじみ、力を失った彼はそのままダウンした。
「スレイア!」アエリオンは叫んだが、自分も大ダメージを受けており、動きが鈍い。しかし、アエリオンの目に決意が宿る。「代われ、スレイア!」その言葉で二人は瞬時に交代し、アエリオンが立ち上がると、迷いなくアッシュに突進した。
アエリオンは無骨な斬撃を何度も振り下ろし、さらに素早く蹴りを入れると、即座に後方へ飛び退き、叫んだ。「ソニックブレイク!」
風を纏ったビームが放たれ、アッシュは今まで防ぎ続けていたが、この一撃には防ぎ切れず、ダメージを受けた。
それを見ていた周囲の冒険者たちがざわめき始める。「あのヴァルクア相手に…子供が粘ってる…?」
「いや、ただ粘ってるだけじゃない。すごい技を使ってるぞ…!」
彼らはガルムの実力に驚きを隠せなかった。「ほぅ、まさかここまでとは…」と、少し驚いた様子で立っていたアッシュ。彼の目は、かすかに鋭さを増していた。
それに対してアエリオンは剣を構え直し、「防げるもんなら、防いでみろ!」と挑発するように叫んだ。「ストームクレスト!」。風を纏い、一気に加速してアッシュに斬りかかった。
だが、アッシュは冷静にその一撃を受け止めた。彼の剣とアエリオンの剣が交錯し、火花が散る。しかし、その瞬間──。
「何っ!?」アッシュの剣が勢いよく折れた。
「俺の剣が…こんなガキのめちゃくちゃな剣術で…!」アッシュは明らかにイライラしていた。折れた剣を見つめ、顔をしかめながら呟く。
少しの間、彼は考え込むようにしてから、低く呟いた。「お前、やはり面白いな…まさか、二人いるのか?」
アッシュの目は、アエリオンをじっと見据えていた。「一人はいい太刀筋で技量も優れている。水の魔法も相当なレベルだ。しかしもう一人は…荒削りな剣術で、ぶっきらぼう過ぎる。風の力も中途半端というか初心者レベルだが、センスはあるし、動きも悪くない。ここまで楽しませてくれるとは思わなかった。」
アエリオンは内心、苛立ちを隠せずに思った。「うるせぇ…!」。だが、彼は冷静を装い、剣をしまうと構えを変えた。
「剣が荒削りだって言うなら…」アエリオンは静かに言った。「今度は、武術で勝負してやる。」
アッシュは皮肉げに口元を歪めた。「ほぅ、まさか三人目か?」
「いや、俺はさっきのままだ。」アエリオンは毅然と言い放つ。「ただ、荒削りって言われたのが腹立って、今度は剣を使わずに武術で戦おうと思っただけだ。」
アッシュはニヤリと笑い、「剣は折れたが、俺には背中にもう一振り大剣がある。そのまま剣で戦ってもいいぞ?」と余裕たっぷりに言った。
しかし、アエリオンは拳を強く握りしめながら一歩前に踏み出した。「いや…俺もちょっと試してみたくなったんだ。」
その言葉と同時に、アエリオンは拳を振りかざし、アッシュに向かって突進した。空気を切り裂く音が広場に響く中、二人の間に再び緊張感が走った。
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