第5話この世界の真実

「なんとか99階に着いたな…あと少しだが、何もないと思うか?」

「いや、何かあるだろ?ロボ軍団を倒したとはいえ、油断するな。」


その時、奥の方から無機質な声が響き渡った。


「ターゲット発見。ターゲット発見。」


それと同時に、巨大なロボットの頭からガトリング砲がせり出し、両手がトゲ付きの鉄球に変形していく。

「いかにもボスって感じだな…」

「侵入者じゃなければ戦わずに済んだかもしれないが、それじゃつまらない。ここは一気に行くぞ!」


「スレイア、やってくれ!」

「分かった。アクアデュリューズ!」

スレイアは両手を広げ、大量の水を作り出し、一気にロボットに向けて大洪水を放った。しかし、ロボットは微動だにせず、ガトリング砲が炸裂する。

「うわっ!危ねぇ!」

「なんとか避けたが、近づけないな…あのガトリングをどうにかしないと、手も足も出ない。」


「水は効いていないな…俺に代われ!」

スレイアからアエリオンに交代し、両手に力を溜め、前に突き出す。

「ソニックブレイク!」

強力な風のビームがロボットの胸に直撃するが、まるで効果がない。逆に、ロボットはこちらへ迫ってきた。

「くっ…駄目か…!」悔しそうにガトリング砲に狙いを定め、風を当て続ける。


すると、鋼鉄がきしむ音と共に、「メキッ」という音が響き渡り、ガトリング砲が崩れ落ちた。

「よし!ガトリング砲は壊せた…これで、あとは倒すだけだ!」


「待て、アエリオン、疲れてる。僕に代われ。剣でなんとかする!」


アエリオンからスレイアに交代し、次の攻撃に備えた。スレイアはロボットに向かって素早く接近し、あらゆる場所を斬りつけた。しかし、ロボットは守りを取る素振りもなく、ただ攻撃を受け続けている。

「くそ、効いてないのか…?」スレイアは焦りを感じつつ、一旦距離を取る。ロボットはダメージを受けているようには見えない。

「なんだこいつ、何かがおかしい…」スレイアは背後に回り込もうと動き出したが、急にロボットが反応し、トゲ付きの鉄球が鋭い音を立てて振り下ろされた。

「しまった…!」防御が間に合わず、スレイアは激しい衝撃と共に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「ぐっ…!」全身に痛みが走る。それでもスレイアは歯を食いしばり、なんとか立ち上がる。「かなりのダメージだが…まだ動ける…!」


スレイアは心の中でアエリオンに問いかけた。

「アエリオン、もしかしたらあのロボットは、僕たちを仕留めたいというより、ただ最上階に行かせたくないだけなのかもしれない…」

アエリオンが苛立ちを感じさせる声で答える。「だとしても、倒さないと上に行けないんだから戦うしかねぇだろ!」

「それもそうだけど…倒すというより、あのロボの背後に何か弱点があるのかもしれない。」


「弱点?例えば緊急停止ボタンとかか?」

スレイアは少し考え込み、そして頷いた。「そう、そんな感じだ。壊さなくてもいいってことだな。」

「じゃあ作戦を立てよう。僕が水でセンサー部分に水を当て続けるから、その後に交代して、君が風の力で素早く背後に回ってボタンを押してくれないか?」

「やってみるよ。」アエリオンが即答し、スレイアは静かに起き上がった。


「確かに、あのロボット…悪いやつじゃなさそうだ。さっきも寝てる時に攻撃してこなかったし、ガトリングも威嚇だったのかもしれない。」

アエリオンが少し不満そうに返す。「ロボットに情が移るのは悪くねぇけど、今はそれどころじゃねぇだろ。とにかく、やろうぜ!」

スレイアは微笑んで答えた。「ああ、そうだな。とりあえず、終わらせよう。」「アクアヴォルテックス!」

スレイアが叫ぶと、両手から巨大な水の渦が発生し、ロボットのセンサー部分に向けて強烈に当て続ける。

「やっぱり、ダメージは入らないか…」そう呟きながらも、スレイアは確信した。「でも、これならいける!」


さらに気を入れて渦を一段と大きくしながら叫ぶ。

「アエリオン、交代だ!」

即座にアエリオンが応じる。「ああ、任せろ!」

風の力を纏い、高速移動で一気にロボットの背後へと回り込む。その瞬間、頭の少し下にある緊急停止ボタンが目に入る。アエリオンはそのままの勢いで右手を振り下ろし、ボタンを強烈に殴りつけた。


「ウオォォォォーン…!」

けたたましい警報音が響き渡ったのち、ロボットの全体がゆっくりと静止した。重々しい動きが止まり、ついにロボットは完全に沈黙した。

「はぁ、はぁ…さすがにまともに相手してたら、きつかったぞ!」アエリオンは息を整えながら笑った。

スレイアが頷く。「そうだね。ロボット相手の戦闘訓練なんてなかったし…お前には悪いけど、上に行かせてもらうよ。」

「大丈夫さ、リヴァイアサルさえ手に入ればそれで満足だ。」


スレイアはふと疑問に思い、少し笑いながら尋ねた。「でもさ、なんで剣って限定してるんだ?姫とか肉体的な報酬の方が、もっと現実味があると思うんだけど?」

アエリオンが少し考えたあと、軽く肩をすくめる。「そういうのじゃないんだ。俺はストームブリンガーがいいんだよ。」


二人はゲートを開け、階段を上へと進む。そして、ついに最上階にたどり着いた。

「なんか、あっという間に着いたな…」スレイアが言うと、アエリオンは首を傾げた。「そうか?俺はなんか納得できない感じがするが。」

「まぁ、それはそうだけど…。でも、ゲートがちゃんと開いてたのはよかったよ。閉じ込められてたらどうしようかと思ってたから。」

アエリオンが少し考え込みながら答える。「おそらく、あのロボットに絶対的な信頼を置いてたんだろうな。」

「だろうな。さて、宝箱の中身でも確認しようか…。」


二人は部屋に入ると、アエリオンが目の前の光景に少しがっかりした顔を見せた。

「なんだよこれ、宝箱があると思ったら…部屋のど真ん中に剣がポツンと置いてあるだけじゃねぇか!普通、もっと特別な演出とかあるだろ?」

スレイアが苦笑いしながら答える。「まぁ、これはゲームじゃないし、現実的ってことでしょ。それでも、剣を手に入れるのが目的だったんだから、いいだろ?」

「そうだな…。ストームブリンガー、やっと戻ってきたな。」アエリオンが剣を手に取り、感慨深げに言った。「そしてリヴァイアサルも…おかえり。」


剣を取り戻した二人は、満足げに頷き合う。

「これでやっと帰れるな。」アエリオンが笑みを浮かべて言った。

「そうだな。」スレイアも応じた。


その時、突然デバイスが振動し始める。スレイアは画面を確認すると、そこにはメールが届いていた。


クエストクリアおめでとう!さあ、この世界の真実を知るがいい。


「真実…?」スレイアは不思議そうに眉をひそめた。

「ロボットがいました、とか?」アエリオンが冗談っぽく言う。

「いや、そんな簡単な話じゃないだろ。何が隠されてるのか、確かめよう。」スレイアは慎重にメインコンピューターに近づいた。アエリオンとスレイアは、メインコンピューターに近づくと、無数のデータが並ぶスクリーンに目を奪われた。

「なんだこれ?」スレイアが眉をひそめてつぶやいた。二人はスクリーンに映し出された詳細な住民リストをじっくりと見つめる。そこには住民の情報、願いが叶えられた記録、そしてその予定がこと細かく記されていた。


「…これって、つまりそういうことだよな?」アエリオンが慎重に言葉を選ぶ。

スレイアが深く息をつきながら頷く。「ああ、間違いない。この世界の住民たちは完全に支配されている。ずっとここに住んでいても、トラブルがないのはそのためか。」


スクリーンを見つめるスレイアの目が鋭くなる。「悪い住民は徹底的に排除されて、残った人々は情報を基に管理されてる。そして、その願いを叶える形で、争いも野心も奪い取っているんだ…。」


アエリオンはその言葉にじっと耳を傾けながら、考え込むように視線を落とす。「つまり、争いが起きない完璧な管理社会か…。でも、なんで俺たちは影響を受けてないんだ?」


スレイアは少し考えた後、軽く肩をすくめた。「俺たちは外部の存在だから、この世界の管理には組み込まれてないんだろう。だけど、それが逆にチャンスかもしれないな。」スレイアはメインコンピューターを見つめ、眉をひそめた。「本当に壊すのか?壊せば、この世界は自由になるだろう。でも…その代償は大きいぞ。今まで管理されてたものが全部崩れて、1から始めることになる。争いは必ず起きるし、ロボットたちも無差別に殺し回るだろう。」


スレイアの言葉にアエリオンは黙り込んだが、やがて肩をすくめて、「じゃあ、お前が決めてくれ」と言う。


その瞬間、背後から機械的な音が響いてきた。二人が振り返ると、99階で対峙したあのロボットが、無言で近づいてきた。無機質な声が響く。

「メビウス様守る。今、助ける。」


アエリオンはすぐに状況を理解し、落ち着いた声でロボットに言い返した。「心配すんな、壊しに来たんじゃない。俺たちはただ、この剣を取り戻しに来ただけだ。」そう言いながら、出口へと向かう。


その言葉を聞くと、ロボットは少しの間沈黙したが、すぐに転送装置を出してくれた。アエリオンは微笑みながら、何度も手を振り「ありがとう、ありがとう」とロボットに声をかけた。


スレイアは少し心配そうに尋ねた。「本当にこれで良かったのか?」

アエリオンは軽く笑って答えた。「ああ、いいんじゃないか?」

そう言って、二人はその場を立ち去った。


転送装置が起動すると、光が一瞬で彼らを駅の前に送り出した。そして、二人が外に出た瞬間、転送装置の光は静かに消えていった。

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