第4話風と水の協奏

リニアトレインが駅に近づいてきたとき、スレイアはある疑問を口にした。


「このままホームに着いたら、防犯カメラに映るんじゃないか?」


アエリオンは楽観的に返した。「途中下車しろってことか?それは危険だろ!それに、さっきの駅もそうだったが、リニアの上を撮ってるカメラはなかったし、途中でドローンも飛んでなかった。問題ないだろ?」


「駅に着いた途端、囲まれるかもしれないだろう?」スレイアは心配そうに続ける。


「心配ないって。駅に入る前に梯子で少し下に降りるんだ。それで、着いたと同時に飛び降り、他の乗客に混ざって移動するんだよ。そんで、あのビルの最上階まで行く、楽勝さ」とアエリオンはニヤッと笑った。


「本当にアエリオンは楽観的だな。僕は次の次まで考えていないと動けないのに……」


それを聞いて、アエリオンは軽く笑い、冗談交じりに言った。「だからお前は強いのに、いつまで経っても本陣の1番後ろで突っ立ってるだけなんだよ。」


スレイアは少しムッとして反論した。「お前こそ、一般兵と変わらない技量でよく最前線を走って行けるな。物事を理解できないからじゃないか?」


「もう口きかねぇ」と、アエリオンは心を閉ざした。


リニアトレインが駅に着く直前、二人はさっき決めた通り、梯子を少し降りてトレインが停まるのを待った。着いた瞬間に飛び降り、すぐに他の乗客に混ざってビルに向かう。


その時、たまたま見ていた男が声をかけてきた。「君、大丈夫だった?」


急いでいたアエリオンは、何のことかわからないまま「うん、大丈夫〜」と答え、先を急いだ。男も不思議そうに「そうか、大丈夫ならいいんだけど……」とつぶやいて去っていった。


「本当にこの駅、ビルに近いな。ここに行くための駅なのか?」アエリオンは独り言のように言ったが、返事はなく、心が閉ざされていることに気づいた。「まあ、当たり前か……」


ビルに入ると、アエリオンは受付に向かい、無邪気に質問した。「僕、6歳なんですけど、最上階まで行けますか〜?」


受付の女性は笑顔で答えた。「ごめんなさい。最上階はメインコンピューターがあるから誰でも立ち入りできる場所じゃないんです。でも、98階の展望ホールまでは行けますよ。そこから少し離れている最上階も見られますから、ぜひどうぞ!」


「ありがとう!」と言って、アエリオンは転送装置に向かい、一気に98階まで到達した。


「おい、スレイア!今の見たか?すげぇな、一瞬でこの高さだぞ!」と興奮するアエリオン。しかしスレイアは冷静だった。


「口をきかないんじゃなかったか?それに、閉ざされてたからあまり見えなかったよ。」


アエリオンは少し気まずそうに「悪かったよ……」と謝り、再び転送装置に乗って1階に戻った後、再度98階まで戻った。


「どうだ?今度は見えただろ?」


「本当にすごい技術だな。どういう原理なんだ?」


「さあな〜。でも、俺たちの心を読んでる人間から見たら、それこそ『どういう原理だ?』って思うんだろうぜ。」アエリオンが冗談っぽく言うと、スレイアは思わず笑い、それに釣られてアエリオンも笑った。


「そろそろ最上階に行こうか?」とアエリオンが尋ねる。


「景色は見ないのか?」とスレイアが返すと、アエリオンは「最上階からでいいよ」と言って、外を見渡す。


「さて、最上階はあそこだな。入り口は……うーん、出口も見当たらないか。隠し通路とかあるのかな?」


スレイアはしばらく考えた。「おそらくだけど、あの転送装置で関係者は好きな階に行けるんだろうな。97階から向こうの建物に通じる通路があるはずだ。」


「じゃあ、俺たちも97階に行こう!」とアエリオンが提案するが、スレイアは首を横に振る。


「いや、特殊な許可がないと行けない仕組みだろう。ここから何か道を見つけるか……」


アエリオンがガラス越しに通路のある壁を見つめ、「ここを壊して、通路の天井を通って向こうの建物に行こう!」と提案する。


「簡単に言うけど、ここは最も硬いガラスだ。壊すのは無理だろう。」


「やってみなきゃわかんねぇだろ!」と言って、アエリオンは右手に力を込め、スカイ・クリーヴァーで勢いよく風の衝撃波を放った。しかしガラスは微動だにしない。


「うーん、切り裂くのはダメか……」と照れ笑いを浮かべた。


「やはり無理か……じゃあ、俺が最近形にしたあの技を使うか?」


スレイアは警告する。「あれはお前にも負荷がかかるんじゃなかったか?」


「両手で撃てば大丈夫だ!」とアエリオンは自信満々に言う。


スレイアは少し考えて、「なあ、片手では出せないのか?」と尋ねる。


「いや、片手じゃ無理だ。けど……」と言うとスレイアは少し考えた後、アエリオンに尋ねた。「威力を抑えたら、長く撃ち続けることはできないか?」


アエリオンは一瞬考え込んだ。「やったことはないけど……何か作戦でもあるのか?」


「大丈夫だ、任せてくれ。」スレイアは自信を持って言った。


「お前が自信あるなら、言う通りにするよ。で、どうしたらいい?」


スレイアは冷静に説明を続ける。「その技を、できるだけ長く撃ち続けてくれ。ガラスが少しでも震えたら、すぐに僕と交代してほしい。僕の水の力で一気に割る。」


アエリオンは「うーん……」と悩んだが、考えすぎても仕方ないと腹を決めた。「やるしかないか……」


片手に風の力を集中させ、アエリオンは心の中で「いけるか?」と自問しながら、手を勢いよく前に突き出した。そして技名を叫ぶ。「ソニックブレイク〜!」アエリオンの左手からビームが一気に放たれる。最初は強烈な力でガラスに当たっていたが、徐々にその威力を抑えていく。ガラスに当て続けるうちに、微細な振動が伝わり始めた。


「よし、今だ!」スレイアが叫ぶと同時に、二人は素早く交代。スレイアは右手に木刀を持ち、「アクアスピア〜!」と声を上げると、水の力を集中させ、一撃でガラスを貫いた。ガラスは勢いよく砕け散り、外から猛烈な風が一気に吹き込んできた。


強風に圧倒され、一瞬後ずさりするスレイア。しかし、その時アエリオンの「変われ!」という声が響き、再び二人は交代。アエリオンはその瞬間、外に飛び出し、天井の上を駆け抜けていった。


辺り一帯に警報がけたたましく鳴り響く。「警告、警告」と機械的な声が響き渡り、ガードロボットが展望ホールからこちらに向かってくるのが見える。さらに前方にも、ガードロボットが行く手を塞いでいる。


「くそっ!」アエリオンは木刀を振りかざし、勢いよく叩きつけた。しかし、ロボットたちはよろけることもなく、その場で少し動きを止めただけで、すぐに捕まえようと再び動き出す。


「焦るな……とりあえず建物に入ったら交代してくれ」とスレイアが冷静にアドバイスをする。


「建物に入れって言っても、こいつらに捕まっちまう……」アエリオンは少し焦りながらも、チャンスを伺う。ロボットとの距離が少し空いた瞬間、彼は両手に力を込め、「ソニックブレイク〜!」と叫んだ。


今度は両手から放たれたビームが、より強烈にロボットたちを打ち倒し、ダメージを与える。ロボットたちは次々に倒れ込み、小さく爆発していった。


「よしっ!」アエリオンは喜びの声を上げつつ、最上階がある建物の98階部分に突入する。そこでは新たなガードロボットが、展望ホールから続々と現れていた。迫り来るロボットたちに対し、スレイアが冷静に言った。「交代してくれ。」


アエリオンは少し心配そうに尋ねた。「大丈夫か?」


「建物の中なら問題ない。ここは僕が適任だ。」とスレイアが自信を持って答える。


「なら、交代だ!」と、二人は素早く交代した。


「今度は僕が相手だ!」とスレイアが叫び、展望ホールから迫ってくるロボットたちに向けて両手に力を込め、「アクアデュリューズ!」と技名を叫ぶと、前方に大洪水が発生した。水が勢いよくロボットたちを飲み込み、次々と爆発していく。


その様子を外から見ていた。先ほどガルムに声をかけてきた男が驚いた様子で呟いた。「ほう……いきなり水が流れてきたな……虹が綺麗だ。」


「よし、これで一掃だな。次は99階だ。」とスレイアが言い、扉に向かって進もうとした瞬間、アエリオンが彼女を止めた。「ちょっと待ってくれ!」


「どうした?交代か?」とスレイアは振り返る。


「いや、そうじゃなくて……そこの箱に何か入ってないか?できたら真剣とかがいいんだが……」と冗談めかしながら言うアエリオン。


「そんなゲームじゃあるまいし」とスレイアは笑いながら箱を開ける。しかし、中にはガラクタや道具ばかりで、武器のようなものは見当たらない。


「ほら、現実はこんなもんだ。」


アエリオンは肩をすくめたが、スレイアが指を差して言った。「いや、そこにあるガントレッドはどうだ?取ってくれ。」


「え?これのことか?」とアエリオンは驚いて尋ねる。


「ああ、今後役に立つかもしれないから、着けておいて欲しい。」スレイアが冷静に指示する。


「分かったよ」と言い、アエリオンはガントレッドを装着した。


「じゃあ、もう行こうか。」とスレイアが促すと、二人は99階への扉に向かった。


「ゲートの先に転送装置があるみたいだな。ただ、こんな状況だし、階段で行こう。」スレイアは警戒しながら提案した。


「罠かもしれないし、それで正解だな。本当、お前が冷静で良かったよ。」アエリオンは少し安堵した様子で階段を上り、二人は98階を後にした。

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