第3話クエスト開始

灰色の空から、わずかな光が差し込む中、アエリオンはふと足を止めて思った。


「クエストって普通、こっちから掲示板とかで見て受けるものじゃないのか?勝手に送られてくるものなのか?」


彼の問いに、冷静なスレイアが心の中で答えた。


「いや、急に何の話をしてるんだ?これはおそらく僕たちの願いを叶えるためのクエストだろうから、送られてきても別におかしくないだろ?」


それを聞いて、アエリオンの心は躍った。


「じゃあ何か?俺たちの剣が戻るってことか?それとも肉体を分離してもらえるのか?」 彼の声は興奮に満ちていた。「どっちにしろラッキーだな!今すぐ行こうぜ!」 彼はルンルンな気分で体を動かそうとするが、スレイアがブレーキをかけた。


「いや、待て。『一年後に』って書いてあるんだから、どんなクエストかはわからない。とりあえず鍛えておいた方がいいかもしれない。」


「鍛える?他の住人たちはそんなことしなくても願いが叶ってるじゃないか。」 アエリオンは周囲を見回す。そこには、平和な世界を象徴するかのように、無機質で光沢のある高層ビルが並び、住人たちはAIと情報を交わしながら静かに過ごしている。太陽の光が高層ビルの隙間から差し込み、未来的な街並みを照らしていた。透明なガラスに反射する光は、無機質なビルの表面を輝かせ、まるで街全体が目覚めるように静かに動き出す。空気は静かで、機械の音だけが微かに響き渡っていた。

スレイアは少し間を置いて答える。「こういう、前もって知らせるパターンっていうのは、注意しておいた方がいいんだ。何か大きな試練が待っているかもしれない。」


アエリオンは渋々納得し、*「わかった、わかったよ!とりあえず、鍛えて待つってことだな?」*と返した。


「そうだ、頑張ろう…」


それからの日々、アエリオンとスレイアはこの街の片隅で静かに過ごしていた。周囲の住人はみな、ガルム(アエリオン)が持つ「剣」に対して奇妙な目を向けた。剣を振るう姿は、この技術が支配する世界では無意味に映るかもしれない。だが、彼らにとっては重要な「鍛錬」だった。


毎日が修行の日々となり、アエリオンはひたすら素振りを繰り返した。鍛える意味があるのか疑問を抱きながらも、スレイアの言葉が心の中に残っていた。


一年が過ぎた。


広がる風景は変わらない。無機質なビル群が空高くそびえ、地上には誰もいないかのように静かだった。風が街を通り過ぎ、遠くのコンピューターが静かに動き続ける音がわずかに聞こえる。街全体が無感情な静寂に包まれている。


アエリオンがベッドで余韻に浸ってると「結局、アエリオンの風の力は一般兵程度だな」とスレイアが冷やかす声が響く。


「ほっとけよ!」 アエリオンは少しイラついたように返す。彼の訓練は、理想と現実のギャップに苦しんでいた。風を操る力は、彼の思っていたほど強くはならなかったのだ。


それでも、心のどこかで期待を抱いていた。いよいよクエストが始まり、何かが変わるかもしれないという希望が、彼らの心に少しずつ灯り始めていた。太陽の光が高層ビルの隙間から差し込み、未来的な街並みを照らしていた。透明なガラスに反射する光は、無機質なビルの表面を輝かせ、まるで街全体が目覚めるように静かに動き出す。空気は静かで、機械の音だけが微かに響き渡っていた。


家の中では、すっかり着替えたガルムが、テーブルに座っていた。目の前には、テクノロジーの恩恵を受けた完璧な朝食が並んでいる。温かいパンに、クリーミーなスープ、そしてバランスよく調整された栄養満点の食事だ。すでに食べ終わり、彼は少しのんびりとした時間を過ごしていた。


「ふぅ、朝食完了。」 アエリオンは心の中で呟いた。体は幼いが、心の中には大人びた思考が渦巻いている。


朝の静かな空気を感じながら、彼は一息ついた。空は澄み渡り、朝の穏やかな静けさが彼を包み込む。だが、その平和な日常の裏に、彼が常に感じている違和感があった。


「すっかり6歳になって、大人だな!」 彼はふと、独り言のように呟いた。


すぐに、心の中のスレイアが冷静にツッコミを入れる。


「いや、普通に幼いだろ。5歳と6歳じゃそんなに変わらない。」


アエリオンはいつものように、スレイアとの掛け合いを楽しんでいる。


「でも、この家族って本当にいいよな。なんせ、こういう高性能なコンピューターをくれるんだから。」 彼は腕に取り付けられた高性能デバイスを見つめながら言った。


この街では、技術があまりにも発展しており、子供ですら最新のテクノロジーに触れるのが当たり前となっていた。未来都市の住人たちは、AIや情報交換を日常的に行い、全てがデジタルで管理されている。


「本当に技術が発展しすぎてるよな。子供でもこういう機械を持たせるなんて。」 スレイアが冷静に返す。


「まあ、いいじゃねぇか。クエストが届いたら現場に行けばいいしな。」 アエリオンは軽い調子で応じる。


スレイアはすぐに指摘する。「そんな兵士の派遣みたいな言い方するなよ。」


「臨時の兵みたいなもんだろ!」 アエリオンが冗談を言うと、腕に装着されたデバイスが振動した。


「お!連絡が来たぞ。クエスト内容を確認するか!」


デバイスには、次のようなメッセージが表示されていた。


「クエスト内容:この世界で最も高いハイテクな超高層ビルの最上階に来られたし。期限:本日限定。報酬:あなたが欲しい物を差し上げます。」


「なんだ、最上階に行くだけか?じゃあさっさと行こうぜ!」 アエリオンは元気よく走り出しそうになるが、スレイアがその勢いを抑えた。


「本当にそれだけだと思うか?このビル、ハイテクな上に100階くらいあるんだぞ。もし、途中で敵が現れたら…一日で行けるかどうか…」


アエリオンはその可能性に一瞬考え込む。


「そんなこと言っても仕方ねぇだろ。見た目も子供だし、もしかしたら最上階まで行けるかもよ?」


確かに、一部の階は一般公開されているが、スムーズに進むとは限らない。


「スレイアは考えすぎだって!まずはそこまでどうやって行くかを考えようぜ。」


「どうやって行くかって、走るしかないだろ!」 アエリオンは、軽快な調子で言って走り出す。


「待て!距離が長すぎる。最も早い手段はリニアトレインだけど、どうする?」


アエリオンは少し考えた後、「じゃあとりあえず駅に向かって走るか。すぐそこだったよな〜?」 と笑顔で答えた。


「まあ、見た目は子供だからタダで乗れるってこと、ないか?」 アエリオンは冗談を交えながらも、どこか本気だ。


「それは無理だって!子供料金でも結構高いんだから。」 スレイアは少し呆れたように答える。


アエリオンは笑いながら頷く。「わかった、じゃあとりあえず駅に行こう。」


彼らはビル群を抜け、駅前広場に向かって一直線に走り出した。未来的なビルがそびえ立つ街並みを駆け抜け、広場に辿り着く。そこには、リニアトレインの線路が空中に設置され、まるで空を滑るように走っているのが見えた。未来的な駅の中に入ると、無機質なデジタル表示が目の前に広がり、料金表が一目で確認できるようになっていた。アエリオンは一瞥して思わず声を漏らした。


「うわ〜高ぇ〜!やっぱり無理か…」


子供料金と言えど、リニアトレインの利用料金は安くない。アエリオンは困惑し、デバイスを見つめながらため息をついた。


「いくら願いを叶えてくれるって言ったって、これは頼めないな。」


一年間、彼らには準備の時間があったが、アエリオンもスレイアもその時間を鍛錬に費やし、こうした実生活での準備はほとんどしていなかった。


「一年もあったんだから、何とでもなったよな〜。僕も人のことは言えないけど、鍛えることしか考えてなかった…」


アエリオンはしばらく黙り込み、リニアトレインを見つめる。その無人の自動運転車両は静かに駅に停まり、次の目的地へと向かう準備をしていた。


彼は考えた末、何かを思いついたように、リニアトレインの動きをじっと観察する。


「最悪、ここでクエスト失敗よりはいいか…確か、無人で自動運転だったよな?監視カメラはあくまでも車内だけで、外にはないよな?」


その言葉を聞いて、スレイアは彼の意図を察した。


「確かに外にはカメラはないが、車両が到着するまでにドローンとすれ違うだろう。もし見つかれば、その場で強制停止され、おまけに捕まるだろうな。」


「つまり、ドローンにさえ見つからなければいいんだな?」 アエリオンはニヤリと笑いながら言うと、リニアトレインが発車のベルを鳴らす瞬間、思い切って車両の上に飛び乗った。


金属製の車体が、彼の手にひんやりとした感触を伝える。車両の屋根は滑らかで、風が吹き抜ける中、アエリオンはバランスを取りながら着地に成功した。


「ふぅ〜…これで大丈夫だ。」


何かを成し遂げたかのように満足げな顔をするアエリオンに、スレイアは冷静にツッコむ。


「アエリオン、一つ言っておくが、リニアトレインの時速は300キロだぞ。普通は途中で吹き飛ばされて終わりだな。なぜそこには一切触れないんだ?」 少し呆れたような口調だった。


アエリオンはリニアトレインの梯子に手を掛けながら、ニヤリと笑って答えた。


「え?風圧のことか?こんなの、俺の星の突風や、親父の風に比べたら大したことないよ!」


彼はその言葉を笑いながら放ち、リニアトレインのスピードがどんどん加速していく中、悠々と状況を楽しんでいる。


「風属性の扱いには向いていないけど、風に対する耐性は凄いんだな…」 スレイアはアエリオンの態度に少し感心しつつも、車両がスピードを上げるのを感じていた。


リニアトレインは時速300キロまで達し、風が容赦なく彼の体に吹き付ける。しかし、アエリオンは平然と、車両の上でバランスを保ち、笑顔を浮かべながら目的地だけを見つめていた。


「もし誰かがこの現状を見たら、子供が必死にリニアトレインの屋根にしがみついて吹き飛ばされないようにしているようにしか見えないだろうな…」


だが、そんな状況でさえ、アエリオンの心には不安の影はない。彼の目は目的地――あの巨大な超高層ビルの最上階だけを捉えていた。

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