眠るまで
冷蔵庫
1人で生きるためには
佐藤ケンタは都内にある私立大学に通う大学2年生であった。
大学受験に失敗し、浪人生活を送ったが、勉強に身が入らず、第4志望の大学に入った。
そんな大学での生活と言えば、聞きもしない授業に出席し、自分の席に座るなりスマートフォンで好きでもないゲームを時間つぶしの為にプレイし、90分間の暇ともいえる時間を過ごす。その後、数少ない友人と大学内の喫煙所に行き、人付き合いの為に吸っているハイライトメンソールをふかす。
「しかし、さみーなー」
友人の藤田があくびに声を重ねたように呟く。
「春が待ち遠しいな、そーいえばこの前彼女と、」
彼女というワードが佐藤の耳に入った時、佐藤は耳を塞ぐジェスチャーを見せ、自分より10cm身長の低い藤田を睨みつけた。
「あー、佐藤別れたんだったな」
佐藤は同じサークル内の1つ歳上の先輩と交際していたが、彼女の浮気が発覚し、佐藤から別れを告げた。
「もったいないよなー、美紀先輩。かわいいし、胸もでけーし、よ」
デリカシーの欠けらも無い奴だと心の中で思ったが、実際自分もそこに惹かれたわけで何も言い返せない。サークル内での高嶺の花だとされていた美紀先輩と付き合えたのは、佐藤の人生の中ではトップクラスの功績である。
しかし、関係が無くなった今、佐藤は元交際者の事など、それどころか恋愛のことですら考えたくはなかった。
藤田と話していたら、美紀先輩を思い出してしまうと考えた佐藤は、大学の喫煙所を後にしてアルバイトへ向かった。
佐藤は友人の坂上から紹介された居酒屋と家の近くのコンビニでアルバイトを掛け持ちしていた。
アルバイト先の居酒屋につくと、まだ18時だというのにちらほら顔を赤く染めたサラリーマン達で席が埋まっており、そうにも関わらず厨房でせかせかと作業する他のアルバイトを横目にスマートフォンを熱心にいじっている坂上が目に入った。
「今日も客多いなー、忙しくて目が回りそうだ」
堂々とサボりを決め込んでいる坂上がそう言うと、店長が
「仕事してくれよー」
と、義務的に言っているだけで怒る気のない声がやかましい居酒屋の中ですぐにかき消された。
あまりに坂上が熱心にスマートフォンを触るもので何をしているのか尋ねると、
「マッチングアプリ、今いい感じなんだよ」
どいつもこいつも彼女だのセックスだのの事しか脳みそにないのかと周りの人間の浅さを、自分のことを棚に上げて見下した。
結局締め作業まで坂上はマッチングアプリに没頭しており、女の子とお酒を飲みに行く約束をしたと佐藤に自慢してきた。あまりにベラベラと約束が出来たことを自慢してくるので、逃げるように家に帰った。
10畳1R家賃6万のアパートの1部屋は、佐藤にとって唯一他人からの情報を遮断できる避難所であった。
家に帰って、何かを食べる気にもなれないのでそのままベットに倒れ込む。
他人の恋愛沙汰に激しく怒りを覚えるのは、嫉妬と美紀先輩と別れてしまった後悔なのだろうか、そんなことを思ってるうちに瞼が重くなり眠った。
なんとなく目が覚めてサークルの同級生のさゆりからメッセージが届いていたことに気づいた。
「暇でしょ、電話しよ」
時計を見ると午前1時で、もう眠れそうにないので電話をかけた。
さゆりとは、大学1年生からの付き合いで気さくに話せるたった1人の女友達だった。
「そしたら、拓真がさー」
さゆりは基本的に自分の話ばかりするので、会話というより、さゆりが話し、それに佐藤が相槌を打つだけの時間が続いた。
しばらくさゆりが一方的に話した後、喋り疲れたのか、沈黙が続いた。
その沈黙を切り裂くかのように、すこし気だるい色気のある声でさゆりが一言
「佐藤、私の事どう思ってる?」
胸がドキリとした。ツンと痛みが走った心を落ち着かせて、冷静に考えようとした。
さゆりは絶世の美女という訳では無いが、男受けのよいメイクとロングヘアーでサークル内からの人気はわるくなかった。胸も小さくは無い。
しかし佐藤からすると、単に友人であるさゆりは恋愛の対象では無く、ましてや今恋愛なんてしたくない。
別に、友達だよと声に出す前に舌の奥の方で食い止めた。こう言ったらさゆりを傷つけると思ったからだ。ここでなんと言ったらさゆりを悲しませずに今の関係を続けられるだろう。
そんなことを考えてるうちに、かなり沈黙が続いたのか、さゆりからもう寝ようと電話を切った。
眠るまで 冷蔵庫 @reizouko0010
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