6. 少年

第6話

「うっ・・・ うう・・・」



「いやっ…!!

 助けて・・・!!!」



「救助早く来いよ!!!

 もう限界だよ!!!」



「俺がなにしたってんだよ

 ちくしょう・・・!!

 こんな目にあうなんて!!!」




傾いたフロアからは

すすり泣く声や 悲鳴… 怒号…

…様々な声が聞こえてくる。




愛梨

「ねぇ あれ・・・!!」




愛梨が見たのは、

穴から2メートル程度のところで

必死に壁の突起に捕まって耐える

7~8歳の少年の姿だった。



少年

「イヤだ・・・

   落っこちたくないよ・・・


   誰か・・・」




少年の足元から ガラスの破片が

入り混じった瓦礫ガレキが、

ガラガラと音を立てて 空の方へと

吸い込まれていく。




愛梨

「きゃあああ・・・


   もう見てられない!!!」




輝羅理

「くそっ・・・


    ここからあそこまでは

    30メートルはある


    アイリを抱えたままじゃ


    行くにいけねぇぞ・・・!!」




「・・・死にたくない・・・


  ・・・やっぱり怖い・・・」




「・・・ここは オレが・・・!!」





愛梨

「ルナくん!


   ・・・でも ルナくんが・・・



   どうしたらいいの・・・!?」





皆、自分の身を守ることに

精いっぱいの状況で、


他人の身を案じる余裕などどこにもない。


そんな中で 行動に移しかけたルナは

賞賛に値する。   ・・・が…





輝羅理

「アイリ、

    悪いが ここにいてくれるか?」




キラリは ネックレスを首からとると、

愛梨の腕に巻いて 手すりにくくり付けた。




輝羅理

「これで少しはマシになる

    だろう・・・」





愛梨

「キラリさん・・・!

   あっ あの・・・

   死なないでくださいね・・・?」




輝羅理

「あぁ


    ・・・すぐに戻るさ」




キラリは手すりを伝い、

少年がいる壁のほうへと向かった。



あとは傾斜を降りるだけだが、

ゆうに60°は傾いているであろう床を

下るのは まさに命がけだった。






輝羅理

「ボーズ!

    今そっちに行くから 

    ちょっとだけ待ってられるか?」





少年

「もう 限界だよ・・・

   

   手が・・・ 

   力がだんだん入らなくなって・・・」




輝羅理

「今行く! 待ってろ!!!


    ・・・くっ しかし こっからは

    手すりなしで突起を見つけながら

    行くしかねぇのか・・・!!!」




意を決して手すりから手を放し、

床の摩擦だけを頼りに徐々に

穴の開いた空に向かって滑り降りるキラリ。



しかし ガラスの破片に足がかかったときに

足の踏ん張りが利かなくなる。





輝羅理

「うおっ!?」





「危ないっ!!!」




愛梨

「きゃああああっ!!!」






一気に10メートルほど下ったところで、

間一髪、斜面の突起に指がかかる。





輝羅理

「ふう・・・

    こんなモン 

    地獄でも

    味わえねぇだろうな…」




少年まで あと5メートル程まで迫ったが…

ここから仮に少年を抱えることが

できたとしても、

この床の傾斜を上って、

愛梨のいる最上部の手すりまで

戻らなければならない。




輝羅理

「フン・・・

   

    だから何だ・・・


    やってやろうじゃねぇか…!!」




少年がいる位置から

1メートルほどのところに

指をかけられそうな突起があるのが見えた。



輝羅理

「よし ボーズ!

    今からそっちに飛ぶ!!

   

    だから手を伸ばして

    待ってろ!!!」




少年に合図をすると、

一気にジャンプして少年の手を

つかむことに成功した。




「よし! やったぞ!!!」



だがしかし、

不運にも 突起は全体重を預けるには

あまりにもろく、


指をかけた瞬間 突起は崩れてしまった。





輝羅理

「しまった!!!!」



少年

「うわぁ!!!

   落ちる!!!!!!」



愛梨

「キラリさん!!!!!!」





その刹那、

キラリは走馬灯を見ていた。



21年の生涯が脳内を駆け巡り、




短い人生を振り返っていた。






輝羅理

「これが走馬灯ってやつか・・・

    なかなか洒落しゃれてやがるぜ




    …すまねえ ボーズ・・・



    謝罪はあの世でだ・・・」







ダダダダダダダダダダダッ!!!!!



ガシイッ!!!




そのとき、

何者かが猛スピードで床を駆け下り、

落下寸前のキラリと少年の腕を捉えて

強烈な脚力をもって

坂の中腹付近まで駆け上がった。





愛梨

「・・・・・うそっ・・・」




「え・・・マジ・・・??」





輝羅理

「ア・・・

    アンタは・・・!?」



一瞬の出来事だった。




そんな離れ業をやってのける人物が

ここに居合わせていたなど、

誰が考えただろうか。








「危なかったな・・・


  大丈夫だった?」





輝羅理

「驚いたな・・・


    アンタ・・・ 


    なんて脚力だ

        ・・・!!!」



「あれ? あの人」




輝羅理

「すまねぇ、助かったぜ・・・


    そういや

    名前を聞いてなかったな・・・」




「僕は リョウ・・・

  小林 涼


  ・・・しがない学者さ・・・」





「あの人 やけに顔 赤くない?」





「ヒック・・・

  もうないのかな・・・お酒・・・


  さっきラウンジから転がってきたのが

  最後の1本だったのかな・・・??」




輝羅理

「おいおい、祝杯上げるには

    早すぎねーか??」




「祝杯?

  

  イヤイヤ、これは ” 酔拳 ” ってヤツさ


  僕は多趣味だからね・・・ヒック・・・



  映画でハマったものはたいてい

  やってる・・・


  酔えば酔うほど 強くなれるんだ・・・


  ・・・僕は・・・ヒック・・・」




「多趣味にもほどがあるだろ・・・


  あと豹変しすぎでしょ」





愛梨

「でも よかった・・・

   あの子も 

   キラリさんも無事で・・・」




「・・・ん・・・??」





酔って半開きだったリョウの目が徐々に

元に戻っていく。





「うわあああああああああ!!!!!


  なんで僕はこんなところに???


  うわあっ!! 

  アナタは目つきの悪いかた!!


  何するんですか!!?」




輝羅理

「はは・・・ 

    

    ぜんっぜん つかめねーな

    アンタ・・・」




キラリは壁に手をつきながら、

涼と少年を抱え、なんとか愛梨がいる

場所へと無事に生還した。






輝羅理

「ハアッ・・・ハアッ・・・!!!


    さすがに2人抱えては

    キツイぜ・・・!!!」




少年

「・・・おにいちゃん・・・


     ありがとう・・・」




輝羅理「・・・礼なら 

    こっちに言いな」



あごでリョウを示すキラリ。




「えっ・・・僕??


  僕は何も・・・」




愛梨

「リョウさん、

   ありがとうございます・・・


   キラリさんも・・・」




涼「あっ 愛梨さんが 

  僕の名前を・・・!?


  とっ とと とんでもない!!


  当然のことをしたまでですよ!!


  (僕は一体、何を・・・??) 」





輝羅理

「こりゃ 

    恋敵ライバル

    増えちまったな・・・


    へっ・・・」








13:05―――――…


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