5. 美才治 愛梨(ビサイジ アイリ)
第5話
11:35
「愛梨ちゃん、ごめんって」
「もう…
死ぬほど恥ずかしかったんだから」
月
「流石に黙ってたオレが悪かったよ
でも安心して、
誰にも見えてないから(オレ以外)
…お詫びにスイーツ
奢るから … ね?」
愛梨
「スイーツ!?
ホント?
それなら
・・・今回だけは特別に許してあげる」
月
「よかったぁー
愛梨ちゃん
心が広くて(スイーツ好きで)」
最上階のラウンジには情報番組でも
よく紹介される、
極上スイーツが並んでいる。
1番人気は
" ブラウニーストロベリーシフォン
~地中海の風をのせて~ "
らしい。
月「愛梨ちゃん 時間平気?」
愛梨
「このあとライブの予定だったけど
やっぱりやめた
なんか気まずいし・・・
ルナくんと一緒のほうが… (…ボソッ)」
月
「じゃぁ まだ一緒に居られるね」
愛梨
「うん…」
(えっ? 聞こえてないよね・・・?)
月
「やっば・・・
このスイーツ マジか!?」
愛梨
「んーーー~~~~
おいひぃ~~~っ!!」
口のなかに広がる特製生クリームの
甘美な香りと、
頬張った
ほどけてゆくシフォンケーキの触感に
甘酸っぱくも大人びいた主張をやめない
苺のムースが絡み合い…
つま先まで多幸感がつきぬけてゆき、
足をばたばたしながら喜ぶ愛梨。
月
「見て 愛梨ちゃん
もうあんなに行列できてる!」
愛梨
「うわぁ・・・
タイミング良かったんだぁ
ラッキーだったね!」
月
「へへっ オレの計算通りだ」
スイーツを堪能する二人に影が
テーブルの前には目つきの鋭い男が
立っていた。
「おっ アイリ!
こうして再開するなんて・・・
俺たちは運命とやらで繋がっている
ようだな」
愛梨の2回分あとのエレベーターで
70階に到着するや否や、
臆面もなく告白相手に駆け寄り、
唐突に本能のままに語りだす男。
月
「誰? この人」
愛梨
「あ、さっきの告ってきた人 " 1号 "
(…ボソッ) 」
輝羅理
「あん? 誰だお前?」
月
「ガラ悪いなこの人… いや
コホン・・・
・・・オレ、愛梨ちゃんの彼氏ですけど
ちょっと今 デート中なんで
邪魔しないでもらっていいですか?」
愛梨
「ちょっと ルナくん!」
輝羅理
「ルナってのか・・・
悪いがそれは認めん
アイリと俺は
結ばれる運命のようだからな」
月
「ヤっば・・・
イっちゃってるね この人・・・」
愛梨
「キラリさんって
こんな感じの人だったんだ
私てっきりキャラなのかと
思ってた・・・」
(今 ルナくん 私の ”彼氏”
って・・・!!!
キャーー キャー キャーーーー!!
でも かばって言ってくれてるの?
本気にしちゃっていいの?
どっちなのーーー???)
輝羅理
「アイリ その男に言ってやれ
馴れ馴れしく接するなと」
愛梨
(さっき ” ごめんなさい ”
って言ったこと・・・
無かったことになってる???)
月
「馴れ馴れしくってアンタ・・・
どの口が…
ホント面白い人種だね
さすがに引くわー・・・」
涼
「あのー・・・
隣空いてますか・・・?」
愛梨
「あ、 " 2号 " ・・・(…ボソッ)」
月
「イヤイヤイヤ・・・
どー見ても空いてないから・・・
もー次から次へと…
…オレのこと 見えてないのかな」
輝羅理
「なんだお前?
どう見ても俺が隣にいんだろが」
月
「だから アンタが言うなって…」
涼
「ひぃっ! さっきの人!!
睨まないで…ください…」
愛梨
「あーん
ゆっくり食べさせて
よぉーーー!!!」
さらなる来客により
カオスな雰囲気となってゆく…。
12 : 14
月
「あ、あれって
フライングヒューマノイド?」
窓を指さし
テキトーに意識を外に向けようとするルナ。
輝羅理
「話をそらすな
そんなモンはいない
いい加減にしろ」
涼
「いえ 何例も目撃情報はありますよ
僕も何度か見ていますし…」
月
「見えてないの?
アレだよアレ!! ホラ!!」
さらに空の彼方を指さすルナ。
古典的な方法だがこの手の人種には効くと
踏んだようだ。
輝羅理
「あん?
あの鳥のことを言っているのか?」
涼
「鳥?
鳥にしては大きいような・・・」
意外にも、古典的な作戦で
1号と2号の意識を外に追いやることに
成功した。
月
「愛梨ちゃん、逃げよう!
こんなヤツら相手にしても
無駄だよ(…ボソッ)」
愛梨
「あーん ケーキぃ…」
12:15
ルナと愛理は音を殺しながら席を立ったが、
1号と2号は窓を見たままだった。
月
「愛梨ちゃん・・・
なんか周りざわついてない?」
愛梨
「うん なんか変・・・」
窓の外に見える ”何か” は
徐々に赤みを帯びて、
やがて白い光を放ちながら
その姿を巨大に膨らませた。
輝羅理
「お、おい!
こっちに向かってるぞ!!!!!」
10秒前まで和やかだった場は次第に
悲鳴に変わっていった。
「うわああああ!!!」
「ぶつかる!!!!
ぶるかるよ!!!!!」
「きゃああああああ!!!!!!!!!」
涼
「なんだこれは??
まずいですよ???
逃げ・・・」
”何か” は 悪魔のように
怒りに燃えながら 閃光を放った。
その瞬間だった。
ズガアァァァアァン!!!
30mほどあるラウンジの壁は、
けたたましい轟音とともに
70階に居合わせた120名に噴煙のような
爆風が襲い掛かってきた。
月
「愛梨ちゃん!!つかまって!!!」
愛梨
「!!!
息・・・ できない・・・」
ルナは愛梨と自分の口を
愛理に覆いかぶさるように 床に伏せた。
ビュオオォォォーーーー!!!
室内にも関わらず 強風が吹きこんでゆく。
しばらくして
黒色だった壁は空色と入れ替わっていた。
ゴゴゴゴゴ・・・
床がせりあがってゆく…。
このまま崩落する?
いや、正しくは 床が傾いているようだ。
"何か" が衝突した衝撃で 70階部分の構造は
大きく変化している。
角度にしておよそ60°はあるだろう。
愛理とルナを始め、ラウンジにいた人々は
壁際にある手すりにしがみついていた。
一方で 窓際だったエリアにいた人たちは
青空が見える空間に吸い込まれてしまった。
愛梨もルナも ほとんどの人は
断末魔というものを耳にするのは初めてだった。
叫び声は一瞬で小さくなってゆき、
ここが地上70階であることを
明確に認識させた。
クラウンスカイタワー70階は
天国に最も近い場所へと変わり果てた。
死に際の恐怖が天空を支配していた。
愛梨
「ルナくん… 怖いよ・・・
みんな
外に落っこちちゃう・・・!!
死んじゃうよ!!!」
月
「手すりに腕を巻き付けるように
しがみついて!!
すぐに救助の人がくる
はずだから・・・!!」
愛梨とルナは1メートルほど離れた場所で
お互い 手すりにつかまっている状態だ。
愛梨の表情は恐怖で引きつり、
死神の手招きに屈するのは時間の問題だった。
愛梨だけではない。
すべての人が同じ表情をしていたはずだ。
輝羅理
「ゲホッ ゲホッ・・・!!
ちっ
ずいぶん煙を吸っちまったぜ・・」
涼
「死ぬ・・・
死ぬ・・・ こんなの無理だ・・・」
待っているのは確実な死。
ひたり ひたりと すり寄ってくる感覚が
生々しかった。
希望が存在しない世界で、
笑っているのは 悪魔のみ。
愛梨が手すりをつかむ力が徐々に
弱くなっていく。
ズ・・・ ズ・・・ ズ・・・
愛梨に何かがすり寄ってくる音がした。
輝羅理
「しかし まぁ・・・
面白れぇことになってやがるな
アイリ… 安心しろ
俺が護ってやる」
壁伝いに愛梨に向かってきた男は
愛梨の腕を強く握りしめ、 そして…
たった一人だけ 笑みがこぼれていた。
愛梨
「え・・・?
キラリ ・・・さん??」
輝羅理
「おい ルナっていったか?
テメー 死ぬんじゃねえぞ
アイリと俺の未届け人には
元彼のテメーがお似合いだからな」
月
「・・・っ・・・
勝手に元カレにすんじゃねーし・・・!
でも今だけは 愛梨ちゃんに触れるの
許してやるよ・・・!
その手、離すなよ・・・っ!」
涼
「死ぬ・・・ 死ぬ・・・っ
死ぬ・・・?
いや待て、
愛梨さんを残しては・・・
死んでも死にきれない・・・!!」
目つきの悪い男のせいだろうか?
死神の歩みが少しだけ遅くなったように
感じた。
12:29―――――…
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