第301話

ジュエルに向けた顔を元に戻すと、

少し視線を落としながら言葉を返す。




「自分の血は何度も呪ったよ。


 親を選べないなんて、

 世の中のシステムはなんと理不尽で

 差別的なんだ…って。


 母親の顔も知らず、

 ただ一人の親は人の命と世界の秩序を

 じ曲げてもてあそぶ人外の悪魔。」



幼き頃の征十郎にとって、父親の所業は

日常の枠内に存在し、疑念を抱く事にすら

至らなかった。

親がやっていることが当たり前で、

それが全てだったから。


しかし、とある日を境に自身が思っていた

白は黒で、世の中には様々な色が存在する

ということを知ったのだと、彼は言う。



「屋敷に務める1人のひとがね、

 俺にありのままの世界を教えてくれた。


 俺の10コ上の女性でね、

 アイツの目を盗んでは部屋でたくさんの

 事を学んだよ。


 おかげで俺は目が覚めた。


 まるで、その日に生まれたみたいに

 世界が始まったように感じて、


 痛みさえもが愛おしく感じられる程に

 生きてることが尊く思えた」




「素敵な人だなぁ…


 その人が居てくれた事は、征十郎くん

 にとっては幸せなことだね」





「そうだね…


 ある日までは、本当にそうだった


 けれど、その人は その ある日を

 境に消息を断った…。


 俺と関わったせいで、…って

 何度も自分を責めたよ。」




「!!」




「アイツに対する殺意だけが膨らんで、

 俺はその殺意を原動力に、鍛錬に

 明け暮れた…


 気を失いながらも鍛錬を続けて

 

 気付いた頃には俺もまた、

 人外の存在になっていたよ」




「でも、征十郎くんの強さは人外かも

 しれないけど、


 征十郎くんは人の心を持った人外

 だから」

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