第39話

―――――…




「征十郎様!」



ホールに向かう途中、慌てて声をかけてきたのは師団長のサイトウだった。




「まったく!


 目を離した隙にどちらに行かれてたの

 ですか…!


 探しましたよ!」




『ごめん、ちょっと用事があったから』



サイトウは征十郎の側近として行動する

頻度が高目なのだが、

子供ながらに、征十郎はサイトウの前でアリスの名前を出したく無いと思っていた。


夜に見た師団長のひとコマ。


野獣に自分だけのアリスを取られたくはない

という想いが去来したからである。




『サイトウはここに居ていいよ


 ボクはひとりで行きたいとこあるから』




アップデート後であっても、心なしかサイトウには気持ち半分、文字数が抑えられて

いるように思われる。




「なりません!


 ですから、私の任務は…」




『あっ、アカネ?』




「え!? そんな筈は…!」




征十郎が目で誘導した方向に首ごと視線を持っていかれるサイトウ。


再び正面に顔を戻した時には、征十郎の姿は何処にも居なくなっていた。




「しまった!


 天閃てんせんか!!」




天閃とは、黒鎌家に伝わる高速移動術のことであり 稲妻の如く目に視えぬ程の速さで

身体を移動させることができる。


征十郎が使ったのは、

えんごくらいそくこうと5段階あるうちの

3段階目、天閃・雷だった。



筋肉を極限まで脱力させ、そこから瞬時にフルスロットルで身体能力を開放させることで

肉眼で捉えられない程の速度を得る事ができるのだ。


サイトウと遭遇した庭は木々が茂っている為、天閃を連続で使い、木々に身を隠しながら移動する事で姿を消して見せた征十郎の技。これは彼の十八番オハコでもあった。




「それにしても何という才覚!



 だが…手がやける。


 また仕事が増えたな・・・」





少ししてからサイトウは、なぜそこでアカネの名がでたのだろう?と首を捻っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る