第30話

とはいえ、

幼いながらもアリスが言わんとしていた事は征十郎にも概ね察しがついていた。






『うん、いいよ』








「かしこまりました。


 征十郎様のお父様、


 黒鎌 舶藍ビャクラン様について


 お話させていただきます」








アリスは知る限りの事を話した。






…❆❆――――――――――――――――――


旦那様… 黒鎌 舶藍ビャクラン様は 自ら 

私を使用人として雇って下さいました



それが旦那様と私の出会いです




直接お話した事は数える程しかありません



それもそのはず、


旦那様は遥か雲の上の存在ですから




警護をしていても、話すことはおろか

面と向かう事すら叶いません





ですが、

そのお話をした貴重な数回のなかで



このような事を仰っていました






「命とは、時間軸の上に発生した点の

 ようなものだ


 生まれたときに、その点は 既に

 死に向って動き出している


 生まれた瞬間の、地面からの高さは

 その人の寿命だ


 生まれた命は、すぐにその高さから

 落下を始める

 


 その落下を止めることはできない



 時に、落下の最中に何かにぶつかって

 命が消えることもある


 しかし、

 人のゴールは、死 だ




 そこにたどり着くことが



 結局は、人の幸せなのだ



 

 人を殺す事は 

 幸せを手助けするのと同義…


 

 深い愛を以って 幸福をもたらすのも良し」


 




     と、 …そう仰っていました





その真意については、私のレベルでは

計りかねます








更に、こうも言ってらっしゃいました







「人も、動物も、植物も、虫も、


 同じ命だ


 

 点はみな等しく、大きさなど無い



 重みも無い



 なのに人は、

 人の命を過大にみすぎている




 これは バグのようなものかも

 しれない」


 


            …と。





 …――――――――――――――――――❆❆

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