第9話

このとき、後ろの席から2人のやりとりを気にいならい様子で見ていた男子が1人。




「チッ… 」




授業が終わると、席に座る征十郎の前にずいっと立って声を掛けてきた。

その男子の名はタカヤ。


征十郎に次ぐ背の高さだが、幅は明らかに太く力強そうだ。





ザリ…ッ






「おい、前から思ってたけどよ


 お前 チョーシこいてんじゃねぇぞ


 こっち来いよ  …なぁ?」



タカヤは威圧的な態度と不満たっぷりな

顔で征十郎の服をむんずと引っ張ると、

男子トイレの中まで連れ出し、

ドンッ!と征十郎を突き飛ばした。





とととっ!と、ニ、三歩後退しながらも

征十郎の表情は何一つ変わっていない。





『別にトイレに用はないんだけど。


 何も無いなら帰るよ』





「だから その態度が気に入らねぇって

 言ってんだよ


 言っとくけどなぁ


 ウチの親、怖えぞ〜?


       “ヤ“ がつく職業…」




『や?


 うーん、


 やりもくだんし?


 (意味はわかんないけど…) 』





「はァ〜?

 てめえ…

 死にてぇのか!? 


      あぁ!!?」






ピクっ… と、言葉のどれかに反応するように、一瞬だけ征十郎の眉が動いた。











『ねぇ、


 "死"  …って言ったけど、


 もしかして興味あるの?』






突き飛ばされて開いた距離をゆっくりと詰めながら、征十郎の周りに何か冷たいものが纏わりついてゆく。


その冷たいものは揺らめきながらタカヤの身体を飲み込み、とてつもなく大きなおもりがのし掛かるように雰囲気を暗く重く変えていった。



「なに…!?

 なんなんだよ…??


 お前、 何なんだよ!??」



征十郎の目を見ているだけでタカヤはすくみ上がり、同程度の水準だった目の位置はどんどんと下がってゆき…



ドサッ!



トイレで尻もちをついて、遂に震えながら

動けなくなってしまった。




「あっ… あっぁっぁっ…


  あああっ… あっあっ… 」




喉から出るのは "あ"という音だけ。


タカヤは涙を流し震え上がる以外の行動を取ることしか出来ない。






ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク…






「ぁっ… ぁぁっ…

  

   あっ  あっ ぁっ  ぁ…っ」








『だったら いいよ。


 

 のぞいてごらん。



 行き方だけなら知ってるから。

 死の世界。




 

 さようなら、タカヤくん。』

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