第46話 過酷だけど幸せな世界
ブラブラと散歩がてら、冒険者ギルドに来た。
毛利裕子
三上恵子
藤田明子
立嶋悟
またギルドの掲示板に異世界人の死亡情報が書かれていた。
4人も死んだ。
今回は離脱者は無し。
亡くなる人間は気のせいか女性が多い気がする。
人間同士の戦争ですら死人は出る。
まして此処は異種族相手の戦争だ。
命なんて簡単に失う……当たり前のことだ。
『傭兵』
前の世界で傭兵は協定で保護されないから、捕まったらこの世の地獄が待っていたと聞いた事がある。
魔族相手に負けると言う事は、きっとそれ以上の地獄が待っている。
魔族は人間を、人間は魔族を心底嫌っているのが解かる。
心底嫌っている相手に情けなど掛けない。
もし、ゴキブリや蠅が命乞いしても、きっと人間は殺す事をやめない。
だから、この戦争は『命乞い』が一切効かない戦争だと思った方が良い。
優れたジョブやスキルも数の暴力にはどうやら勝てないようだ。
物語りのヒーローが活躍できるのは相手も少数だからだ。
もし、前の世界の特撮ヒーローが居ても、最初から怪人100人も投入すれば恐らく殺される。
異世界の戦士相手に勝てるならきっとこの世界の魔族は躊躇なくそれをやる筈だ。
ギルドで聞いた話では、どういう原理か解らないがある程度、人数が減らないと次の異世界人は呼べないらしい。
つまりはデスゲームだ。
殆どの異世界人が死んで、生き残った僅かな人数が高待遇を受ける。
そしてそうなった時新たな異世界人を呼ぶ。
その繰り返し……
異世界人とこの世界の戦力が一緒になり犠牲を払いながら、魔族との均衡を保っている。
ライトノベルみたいな安易な世界じゃない。
殆どの異世界人が死んでしまう。
碌でもない世界だ。
そう言えば、俺がジョブを譲ってあげた子は大丈夫なのだろうか?
どう考えても戦いとは無縁な文学少女の様な雰囲気の子だった。
名前も知らない以上は幾ら心配してもどうしようもない。
まして俺には魔族と戦う力はない。
俺には何もしてあげられないな……
俺は善意でジョブを譲ってあげたけど……俺が譲らなければ彼女は戦争に行かないで済んだのかも知れない。
『やめよう』
俺がどうにか楽しく生活出来ているのは運が良かっただけだ。
事実、霊子と一緒に暮らしていた女の子はスラム暮らしだった。
戦争に行くか? スラムで娼婦の様に暮らすか?
どちらも地獄だ。
どちらがましな人生なのかは誰にもわからない。
考えても無駄だな……
考えれば考える程鬱になる。
帰ろう……
◆◆◆
家に帰ってきた。
宿じゃ無く家だ。
購入した家具が搬入され、必要な物がようやく揃った。
だから、今日から引っ越してきたんだ。
「あっお帰りなさい! リヒト様ぁ~」
「リヒト様おかえりなさいませ」
「リヒト様おかえりぃ~」
この世界は過酷だけど、前の世界で孤独に用務員として暮らすよりはよっぽど良い。
今の俺は孤独じゃない。
大切な恋人とも言える仲間も居る。
うん……今の俺は凄く幸せだ。
「ただいま」
家のなかをパタパタと走りながら掃除している3人を見て、俺は……凄く幸せだ。
本当にそう思う。
「どうかしたのですか? リヒト様ぁ~」
「いや、皆と一緒に暮らせて凄く幸せだ! そう思ってな」
なんで三人は驚いているんだろう?
「アリスは獣人です!」
「え~と、私、幽霊で憑りついているだけですわ」
「死人憑きですが、本当に一緒にいて幸せなんですか?」
確かにそうだけど……もう全然気にならないな。
「こんな美少女や美女と暮らせているんだ! 幸せに決まっているじゃないか?」
「「「リヒト様」」」
笑顔の三人に詰め寄られて……
これは前の世界じゃ決して味わえない……
他の人間にとっては地獄かも知れない。
だけど、俺は前の世界と今の世界、どちらかを選べるなら。
この三人が居るのなら、きっと俺はこの世界を選ぶ。
それは、今のこの生活こそが、俺が望んだ理想だからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます