第44話 最初の犠牲者といつもの日常



家の契約をしに俺1人で冒険者ギルドに来ていた。


あの家を契約すると言うと受付嬢は随分と驚いていたが、あれこそが俺達の理想の家だから、そのまま契約をした。


3人?にはお金を渡し買い物の方を頼んだ。


アリスは兎も角、霊子とメリッサはしっかりしてそうだから任せて問題は無い。


1人で来た理由は……


アリスは獣人だから周りから嫌われているし、霊子も色々と身バレするとまずい。


メリッサは、まぁ幽霊だから見えないけど、今日は此方に来ないで3人と一緒に行動するようだ。


メリッサは俺に憑りついている筈なのだが、まぁ少し位は離れていても大丈夫なのだろう。


『この世界、絶対に冒険者の方が気楽で良い。』


本当にそう思う気持ちが強くなってきた。


城に残り能力を認められた異世界人は、待遇が良いが風の噂で聞いた限りだと、毎日前の世界でいう、自衛隊や機動隊並の訓練をしているようだ。


俺には耐えられそうもないな。


だが、当たり前だ。


魔族と部分的といえ戦争しているんだ。


その位の訓練はどう考えても必要だ。


今現在は、訓練を終えて戦闘に参加しているようだ。


詳しくは解らない。


だが、この貼り紙は……そういう事なんだろう。


今日帝国の冒険者ギルドに死亡者、離脱者のリストが張り出された。


死亡者


松戸美津子 田部井恵子


離脱者


久保田哲也


とうとう一緒に召喚された者に犠牲者が出た。


2名が死んで1名が離脱。


俺は用務員だから、生徒の名前は余り覚えていない。


だが、恐らく挨拶位はした事がある筈だし、もし顔をみたらきっと解かる相手の様な気がする。


毎朝、挨拶をした人間が死んだり再起不能の重傷を負った……それには、相手が解らなく、深く付き合って無くても、一緒に転移してきた人間として悲しさを覚えた。


それと同時に、異世界人であってもあっさりと死んでしまう。


その事実を思い知った。


『7割が死ぬ』


前にそう聞いたが、どこか頭の中で他人事のように思っていた。


だが、俺と一緒にこの世界に来た人間からも犠牲者が出た。


その事でこの世界の怖さがやっと本当の意味で理解出来た気がする。


だが、解った所でどうする事も出来ない。


俺にはチートみたいな能力は無い。


気にしても仕方が無い、精々が挨拶するだけの関係。


未成年の顔見知りの子供が亡くなっていくのは悲しいとは思うが俺にはどうする事も出来ない。


気にしても仕方が無い……そう頭の中で割り切る事にした。


そう、自分に言い聞かせ、掲示板の前から去った。


◆◆◆


宿屋に戻ってきた。


アリスから話を聞いた。


この世界は家具や寝具はオーダーメイドだ。


その為、注文して完成まで2週間程度かかるそうだ。


これじゃ、完成して運びこまれるまであの家には住めないな。


そんな事を考えていたのだが.......


「リヒト様ぁ~随分と暗い顔していますね!」


どうやら一緒に転移してきた者の死を引きずっていたようだ。


アリスは相変わらず元気な笑顔で俺に話掛けてくる。


癒されるなぁ~


アリスの人生は俺が思っていたより過酷だった筈だ。


それでも今のアリスは良く笑っている。


強いな。


「相変わらず元気だなぁ」


「はい、今のアリスは幸せですから!」


最初のうちアリスがメリッサや霊子を少し怖がっていたのを俺は知っている。


だけど、今では全然怖がっていない。


いつも楽しそうに二人と話している。


「そう言えば、アリスは二人が怖く無いのか?」


「メリッサさんと霊子さんの事ですか? 見た目は少し怖いですけど……アリスに優しくしてくれる人なんで怖くないですよ? アリスに優しくしてくれる人なんてリヒト様以外じゃ二人だけです! ご主人様の次に好きな人達です!」


『人』ね……今迄、誰からも優しくされていなかったアリス。


だからこそだな。


「それじゃ、そろそろご飯にするか?」


「そうですね、メリッサさぁ~ん、霊子さぁ~んご飯ですよぉ~」


此処に戻る時に、宿屋の店主に夕飯を頼んで来たから、そろそろ届く。


メリッサは食事を食べられないが、それでもこう言う団欒が好きみたいで食卓の席にはつく。


食事が届き、ワインを飲み、楽しい時間が進んでいく。


よく考えたら前の世界で俺は孤独だった。


それが今は4人で暮らしている。


まぁ二人は幽霊と死人憑きだけど……


「そう言えば、リヒト様は夜の生活はどうしているのですか? メリッサさんは幽霊だし、アリスさんはそういう相手をしている様に思えないのですが……良かったらお相手しましょうか? まぁ、ヒンヤリしますが、他は普通に出来ますよ?」


確かに死人なんだから、体温は無い……当たり前だ。


「いや……それがそのしっかり相手して貰っています」


「はい、アリスがしっかり相手していますよ! アリスこれでも大人ですから!」


どや顔だな、アリス。


「そうね、私も偶に相手して頂いていますわ……幽体離脱してだから長くは出来ませんが、その分濃厚な時間を過ごしていますわ」



「あはははっ、流石はリヒト様ですね……幽体離脱して幽霊とまでするなんて……ぷっ、凄いですね! もうお二人といたしているなら、私ともして下さいよ! 精神的にはそれなりに経験がありますが、この体は処女ですから楽しめると思いますよ? 如何ですか?」


「え~と……」


女性三人に囲まれながらこの話はなかなか恥ずかしい。


「体は処女、経験は豊富、それが霊子です」


「そんなどこぞの子供探偵みたいな事言われても……」


「それに私とするなら今が一番楽しいと思います! まだまだ暑い日が続きますし、こういう時はこの冷たい体は便利ですよ? 涼しく過ごせると思います……寒くなったら。流石に風邪ひきそうですが……」


「霊子はそんな簡単に……良いのか?」


「私、何百年も生きています。生前は遊女として生きていた時期もありますから、経験は豊富です……ただ、経験があるのは死人憑きになる前の話です……死人憑きになってからは、体温が無いのでそういう事をしようにもばれてしまうので、なかなかできません。 長く生きていると肌寂しく思う事もあるのです……メリッサさんもアリスさんももう経験済みなら今夜位リヒト様を貸してくれませんか?」


「これから、長く暮すのですから構いませんわ」


「アリスも構いません!」


「それじゃ、リヒト様今晩は私のお相手をお願い致しますね」


「ああっ」


俺の意見は関係なく今夜霊子の相手をする事が決まってしまった。


俺にとっては嫌な事じゃ……いや俺にとっては嬉しい事だから構わないけどな。 





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