第43話 新しい家


「地下室つきの家に住みたいのですか? 悪いことは言いません、やめた方が良いですよっ!」


お金の心配が全く無くなったので俺達は帝都の冒険者ギルドに部屋の斡旋をお願いしに来た。


その部屋探しの条件の一つが、可能なら地下室がある部屋だった。


これは霊子とメリッサの希望だ。


霊子は死霊憑きだからか、暗いジメジメした場所の方が好ましいそうだ。


メリッサは霊子程の拘りはないが、そういう場所があるなら嬉しい。


そういう話しだった。


2人が好ましいと言うのなら、出来るだけ要望は叶えてあげたい。


「何故ですか?」


「地下室付きの部屋は、凄く寒いですし、湿気が多くカビやすいんですよ……あるか無いかと言えばありますが、お勧めできません」


「ちなみに、その部屋は獣人と一緒でも借りれますか?」


「お貸しできると思いますよ! 何しろ2年以上借り手がつかなくて大家さんも困っていましたから」


「それで、その部屋にはお風呂とかついていますか?」


「ええっついていますが、それも失敗みたいで、お風呂や台所、洗濯場を室内につけた事で湿気が凄いと聞いています。前に住んでいた人を『体を壊すまえに引っ越す』といって引っ越してしまいました。その後は何人もこの家を見たのですが、誰も住む人間はいませんでした」


確かに……前の世界の地下室が快適なのは技術が進んでいるからだ。


昔の地下室はジメジメしていて場合によっては水たまりすらある。


確か、そんな話を聞いた事がある。


だが、その部屋こそが、霊子やメリッサの理想の家なのだろう。


「それじゃ、借りるかどうか別にして、見させて貰って良いですか?」


「それは構いませんよ……地図とカギを渡しますから見て来て下さい」


前のギルドでは案内をしてくれたが、どうやら違うらしい。


「案内とかはしてくれないのですか?」


一瞬、受付嬢は嫌な顔になった。


「その物件の家賃は一か月銀貨1枚と銅貨5枚なんです! それでも決めてくれるなら良いのですが、沢山の方をお世話して決まらなかったので……多分リヒト様も見たらすぐに帰ってくると思いますよ」


相当ひどい物件のようだな。


◆◆◆


ついてみたら、言っていた意味が解った。


思ったよりも家は大きい。


部屋では無く一軒家。


それもかなり大きい。


豪邸と言ってもおかしくはないレベルだ。


だが、この見た目……


「リヒト様、アリスにはお化け屋敷に見えます」


だよな……廃墟に見える。


「確かに……」


「リヒト様、此処凄く良さそうですわ。早速入って見ましょう」


「これはそそられますね」


メリッサと霊子は気にったのか嬉しそうだ。


幽霊に死霊憑き……お化け屋敷が良く似合う。


まぁこの二人が住んだ時点で、今は違っていても、もうお化け屋敷だ。


2人はドアを開けて先に入っていってしまった。


「リヒト様ぁ~」


「アリス、入ろうか? 今現在でも俺達の仲間には幽霊みたいな存在が2人もいるんだ。ここが本物の幽霊屋敷でも問題無いだろう?」


「アリス、すっかり忘れていました! あはははっそうでしたね」


アリスが汗をかいているのは気のせいだろうか?


アリスと一緒に中に入ると……カビ臭く、埃だらけだが、思ったよりは綺麗だ。


だが、何故か謎の霧の様な白いもやがたっていて、入った瞬間からひんやりとする。


日当たりは悪く、床下からも冷気が漂ってくる。


受付嬢が言っていた事が何となく解る気がした。


確かに、何故か此処を借りたいという気が削げる。


だが、それでも俺にはこの家が当たりの様に思えた。


「思ったよりは良いじゃないか? 部屋数も多そうだしな」


「確かに大きいですが、日当たりも良くありませんよ!」


その点に関しては確かに前に住んでいた家の方が良いな。


「此処は1階だから2階に行ってみよう」


アリスと一緒に2階に上がってみたら……特に日当たりが悪いと言うことは無さそうだ。


別に床が抜ける様な事も無い。


「アリス、2人はジメジメした部屋が好みみたいだから、2階の好きな部屋をアリスが選んで良いよ? どうかな?」


「アリスは屋根があって雨がしのげれば何処でも構いませんよ?」


なんだか凄く不憫だ。


今日の夜は良い肉を奮発してやろう。


「いや、沢山部屋があるんだから、好きな部屋を選んで良いんだ」


「本当ですか?」


「ああっ、好きな部屋を選んでくれ……俺は下の方を見て来る」


正直、俺は部屋に拘りがないから余りもので良い。


アリスは尻尾を振りながら部屋のドアを開けて入っていった。


俺も多分2階だな。


「はい」


アリスから返事が来たのでそのまま1階に降りていった。


1階に降りていくと……


『ウォォォォォォォ―――ン』


大きな恨み深い男の声が下から聞こえてきた。


「どうした?」


「地下に行ったら、変な奴がいましたので霊子と一緒に退治したのですわ」


「なんか青白い親父が人生を儚んで文句を言ってきたから問答無用で消滅させました」


「消滅?」


祓ったとかじゃなくて消滅?


跡形も無く消し去った……そう言う事か?


「大した恨みがあるわけでないのに『世の中全部が恨めしい』とか『俺のテリトリーに入ってくるな!』とか偉そうに言ってきましたわ。だから、私が取り押さえて、霊子が魂を消滅させてしまいましたわ」


「私、死人憑きですから、ただの幽霊なんて相手になりませんから……」


メリッサが少し震えたように見えたのは気のせいか?


「あの、霊子さん……」


「メリッサさんは仲間ですから何もしませんよ?」


「そ……そうですわよね」


気のせいか白いもやのような靄が晴れた気がする。


多分、これで住みやすい家になった筈だが、ギルドには黙っておこう。


「リヒト様ぁ、今声が聞こえた気がするのですが」


「アリス、ああっ、なんでもないよ……ちょっと出たみたいだけど、メリッサと霊子がやっつけちゃったから」


「そうですか? アリスは2階の一番奥の部屋が良いのでそこを選んでも良いですか?」


「別に構わないよ! 二人は何処が良いか決まった?」


「私はも霊子も地下が気に入ったので地下の部屋が希望ですわ」


「地下に2つ部屋があったから、メリッサと私で分けて良いかな?」


地下は無い。


「勿論、良いよ。 それじゃ俺はアリスが奥なら俺は2階の手前を選ぼうかな! それじゃ、この家を冒険者ギルドに頼んで借りるから、明日は買い出しに行こう」


「はい!」


アリスが返事すると二人も横で頷いた。


すぐに冒険者ギルドに顔を出し、この家を借りる契約をした。


流石に前の家と違い、この家は買い揃える物が多いな。


買い揃えられるまで暫くは宿屋だな。



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