第36話 謎の彼女R


「すみません……奴隷紋を刻んだのですが、そのショックで亡くなってしまいました……流石にこれではお金を頂く訳にいかないので……キャンセルで構いません」


「嘘だろう……そんな……」


本当はすぐにポーションを掛けてあげたかった。


すぐに背負って教会に駆け込むつもりだった。


だけど、奴隷は奴隷紋を刻む迄は所有者は奴隷商。


だから、何もしてあげられなかった。


「申し訳ない」


口ではそう言っているが、目は明らかに笑っていない。


『損した』


そういう不満げな顔をしている。


正直言えば殴ってやりたい。


だが、これはこの世界では合法なのだ……


そんな事したら俺が捕まり罰さられるだけだ。


「それで、この6人なんですが、俺と同郷の人なんで……弔ってやりたいんでこの遺体を貰えませんか」


「そうですか……それなら全員で銀貨1枚頂きます!」


「なっ……」


「理不尽に思うかも知れませんが、私は奴隷商、商人でございます! よく恋人や家族が奴隷のまま亡くなった場合、お金を払っても引き取りたい、そう言う事があるので遺体でもお金を貰う事になっております……本来はそれでも1人銀貨1枚なのですが……身内でも無く同郷と言う事でしたので……おまけさせて頂きました」


多分、これは嘘だと思う。


いや、身内にならそうかも知れない。


だが、俺がこれを蹴ったら……自分で埋葬しなくちゃならないから0じゃなくお金の持ち出しになる。


俺は結構世知辛い中で生きて来たから解る。


だが、こんな檻で死んでしまった彼女達の死を値切りたくはない。


「解ったそれで良い……その代りあと銅貨5枚払うから外にあった大八車も貸してくれないか」


「そう言う事でしたらどうぞ……それではこの6人の譲渡書を作成しますので今暫くお待ちください」


「ああっ」


簡単な紙の書類に名前を書いてお互いに記名して俺は6人の女性の遺体を引き取った。


これは俺の逆恨みかも知れないが……書類の内容は、もう6人は譲った物だから……今後の面倒事は全部そちらで行う事。


そんな内容だった。


どう考えても、この奴隷商が碌な人間に思えなかった、俺は挨拶だけをし、無言で大八車に6人の女性の遺体を乗せ奴隷商を出た。


◆◆◆


『リヒト様、もうお話しても良いですか?』


「ああっ、構わないよ……」


『リヒト様は、さっきから何を話していたのですか?』


「さっきって……一体何のこと?」


『6つの死体についてリヒト様と奴隷商の方がお話をしていましたが一体どうされたのですか?』


「ちょっと待って! 1人生きていて、5人が死んでいたんじゃないか? 1人は虫の息だけど生きていた。だから、その一人を迎える為の話をしていたんじゃないか?」


『おかしな事を言いますわね! リヒト様、私を揶揄っているのですか? 最初から6人とも亡くなっていたじゃないですか?』


6人とも亡くなっていた?


俺は彼女の肌が暖かい事と息をしていた事は確認した。


確かに死に掛けていたけど、間違い無く生きていた筈だ。


「いや、一人だけ生きていたじゃないか? 確かに死に掛けていたけど、ちゃんと息をしたし、体も温かかったよ」


『確かにリヒト様は触られたり息の確認をしていましたが……死んでいましたわ』


「本当に?」


いや、おかしい……確かに会話もしていないけど、息と体温は確認したはずだ……確かにあの時は生きていた。


『間違い無く死んでいましたわ……全員。幽霊の私が間違える訳ないですわ』


嘘だろう……俺だけなら兎も角、奴隷商の人も生きているのを確認していた。


メリッサの言う事が本当なら……一体俺は誰と話していたんだろう?


メリッサが俺に嘘を言う訳はない。


だったら……


「私……綺麗……」


死体が……起き上がり俺に声を掛けてきた。


「なぁ、メリッサ、やっぱり生きているじゃないか?」


『それ……リヒト様、その人、人じゃ無いですよ!』


「私……綺麗……」


「うん、凄く綺麗だよ!」


「え~と……そう?」


顏に傷があって片目もないけど、それを差し引けば、女子大生位の綺麗な女の子だ。


長い黒髪も良く似合っているし……


そのまま大八車を引っ張っていると……


「ちょっと止めてくれる?」


『リヒト様、不味いです!』


可笑しな事になっているが不思議と怖いと思わない。


大八車を引っ張るのを止めると彼女は荷台から降りて、手を合わせ始めた。


「ごめんなさい……」


そう言いながら、彼女は右腕と左足を死体から引き千切り自分の体につなげた。


「うんうん……あとは左目を貰って……あっ見えた……これで完成っと」


「え~と」


『リヒト様……だから言ったでしょう? その人、人じゃないですわ』


「確かに……普通じゃないな」


「うふふっ……確かに普通の人じゃありませんね」


一体彼女は何者なんだ……


だけど、今は人通りが無いとはいえ、この辺りは何時人が通るか解らない。


「詳しい事は後で聞くから、取り敢えず教会に行くから、取り敢えず。そのまま休んでいて」


「あれぇ~それだけ?」


此処は異世界なんだから、常識は通じなくて当たり前だよな。


「まずは、この5人を教会に連れて行って埋葬して貰う方が先だよ」


そのまま俺は大八車を押しながら、教会へ急いだ。





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