第35話 放っておけない
アリスを置いて帝都のスラム街に来た。
『凄く嫌な気が漂っていますわ』
メリッサは幽霊だし、俺に憑りついているから……移動すればついてくる。
幽霊だから仕方ないよな。
「嫌な気ってどんな?」
『スラムじたい、場所としては嫌な場所なのですが……王都のスラムより恨みが籠ったなにかが漂っています』
「そうか……」
俺が見た感じ、同じスラムだからか王都と変わらない気がする。
此処もなんだか臭いし、家もボロボロで今にも壊れそうな家が多い。
今回も王都の時と同じように薄汚いコートを着て来た。
お金は銅貨に崩し、安酒も前以上に沢山買って来た。
『ええっ、私以上の怨念みたいな物を感じますわ』
「此処はスラムだから、皆んなそれぞれ恨みの一つ位あるだろう……気にしなくて良いんじゃないか?」
『そうですか……言われてみればそうですわね』
それはそうと、簡単に見つかると思ったが、探してみたが居ない。
日本人らしい人間が何処にも居ない。
それと、何か違和感がある。
王都のスラムと何かが違う気がする。
「あのスイマセン……この辺りに異世界人って居ませんか?」
三人で焚火しながらお酒を飲んでいる親父に声を掛けた。
「なんだ、お前……余り見ない顔だな? それより、黒髪、黒目、異世界の戦士か?」
「異世界人ですが、能力が貰えなかったので……戦士じゃ無くて只の人ですよ」
「って事は兄ちゃんは横柄な態度や人を馬鹿にしたりしないんだよな?」
「出来ないししないですね……俺自身Eランク冒険者でカツカツの生活していますから……」
「それなら良いんだ…….それで見た感じ兄ちゃんはカツカツの生活と言うがどうにか生活は出来ているんだろう? それがなんでスラムに来たんだ?」
俺はさりげなく持ってきた安酒を差し出した。
「人探しみたいなもんです……これ差し上げますんで一杯やりながらで良いんで色々教えて貰えませんか?」
「おっ気が利くね……」
「そうそう、何事も無料はいけねー。そう来るなら此方も話位は聞いてやるよ」
「兄ちゃんは他の異世界人とは違うみたいだな」
普通の異世界人は結構嫌われているのか?
今迄、余り感じたことは無かったが……まぁ、能力が高いと人を小馬鹿にし、傲慢な性格になる奴が多い。
そういう感じなのか?
「率直に言うと異世界人を探しに来たんです……何処に居るかご存じないですか?」
「また、あんちゃんなんで、異世界人を探しているんだい?」
「カントリーシックとでもいうのかな? 最近、無性に同郷の人に会って話したくなった……聖教国のスラムか、帝国のスラムに行けば会えるって聞いて来てみたんだ。何か情報を貰えないか? 俺も貧乏だけど、少しは謝礼をさせてもらう……何か知っていたら教えて貰えないかな?」
「居る場所は知っているが……会わない方が良いんじゃねーかな?」
「かなり悲惨な状態だし……行っても死んでいるかも知れねー」
「うんだな……」
一体どう言う事なんだ……
「どう言う事ですか?」
「兄ちゃん、スラムの人間は大きく分けて2通り居るんだ! 市民権がある奴と無い奴とな……俺らは貧乏だが一応はちゃんと市民権を持っている。だが、本当のスラムの民って奴は市民権を持ってない奴を言うんだぜ」
「市民権が無いとどうなるんですか?」
「人として扱われなくなる……法律の適応外だから、何をされても守って貰えない……そういう扱いになるんだ」
「それって奴隷みたいな扱いになるって事ですか?」
「奴隷の方がまだ命の保証があるからマシだぜ」
そうか……アリスは獣人だから恐らく市民権なんて持ってなかった。
だから、あれ程奴隷になりたがったんだ。
「それでな、兄ちゃん……ここに居た異世界人はな、散々大口叩いて前金で沢山の褒賞を貰っていたにも関わらず、活躍できずに大怪我をして流れてきた女達でな……あちこち怒らせて市民権をはく奪された奴らだったんだ」
「怒らせた……」
「ああっ、真相は解らねーが、散々わがまま放題だったのに、戦いで、いざ危なくなったら上官の貴族を放り出して逃げたらしい……そこ迄したのに大怪我を負って、あとで敵前逃亡がバレて処罰を受け市民権がはく奪された……まぁ真相は解らないが、そんな噂を聞いた」
「それで……」
市民権が無く、怪我を負っているのは解る。
だが……なんでこの場に居ないで、死んでるかも知れないってなるんだ。
「それでなぁ……少し前にスラムで奴隷狩りがあってな、市民権が無い奴は全員連れていかれた……その時にそいつ等も連れて行かれたんだが……怪我か病気か解らないがかなり状態が悪かったから……そのまま……」
「まだ死んだと決まっちゃいねーだろう? 兄ちゃん、会いたいなら奴隷商ダスター商会に行ってみな……生きていたら恐らく相当安く売られている筈だ」
「そうですか……情報ありがとう」
俺は安酒3本と銅貨を9枚置いてその場を後にした。
◆◆◆
此処がダスター商会か……
探す途中で聞いた話だと、帝都にある奴隷商の中でも一番質の悪い奴隷を扱うらしい。
俺はドアを開け中に入った。
その瞬間、糞尿の臭いと卵が腐ったような異臭が匂ってきた。
前の世界の家畜小屋の方がまだマシかも知れない。
「いらっしゃい……どんな奴隷が欲しいのかな……まぁ碌なのはいませんし……鉱山で働かせるか使い潰すような奴隷ばかりですが……」
気味の悪い白髪の老人が挨拶してきた。
「異世界人の奴隷が居ると聞いたのですが……」
「それなら、まだ生き残りが居るはずですよ……その奥です。 どうぞ見て下さい……」
言われるまま奥に進むと思わず吐き気がする程の異臭が匂ってきた。
檻があるが……嘘だろう……どう見ても一定数の檻の奴隷が死んでいる。
言われた通り奥の檻を見ると黒髪、黒目の女性が6人ほど入っていた檻があったが……全員横たわっている。
「おい! 全員死んでいるじゃないか! これはどう言う事だ!」
「それは残念でしたね……此処に連れて来た時から衰弱していましたからね……おや、いま動きましたよ……見られますか?」
「……そうだな」
奴隷商が檻のカギを開けてくれたので中に入る。
触ってみると5人は完全に冷たくなっていたが1人は暖かい。
手を口の前に持って行くと息があるのが解った。
だが……状態を見て俺は愕然とした。
左目を瞑っていてその上下に傷がある。
この分だと恐らく左目は恐らく失われている筈だ。
また、右腕は肘から先が無く左足は膝から下が無くなっている。
多分、此処までの状態にならなければ戦場から離れられないのかも知れない。
「どうですかな……それ買いますか? 買うのならサービスしますが……」
見た感じは生徒より4歳から5歳位上の年齢に見える。
黒髪のロングでなかなか整った顔立ちだ。
美人女子大生って感じだ。
『リヒト様......』
『今は忙しいからあとで』
そうメリッサに伝える。
買わなければ確実にこの人死ぬよな。
「買おうと思うのですが幾らでしょうか?」
怒りを抑えながらそう伝えた。
「奴隷契約込みで銀貨3枚で如何でしょうか?」
約3万円か……
「買います」
死に掛けの日本人は放っておけないから、そう答えるしかない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます